作戦名、ぬるぽ
勇者グラップ中
「ぬるぽ」
「がっ!!」
騎士の眼前に、不意にミユキは飛び上がり顔にタックルをし。
【スキルグラップ!!】
同時に俺はミユキを通じてスキルグラップを発動し、剣士のスキルを掌握する。
ミユキが言っていたこと。 同期をしている限り、俺とミユキはスキルを共有する。
それはつまり、ミユキを介せばミユキが触れたもののスキルをグラップできるということだ。
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【マカロフ・ アークナイト】 LV4
保有スキル 剣技C 組み伏せD 一喝D 筋力増加D 抜刀E
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「貴様っ!?」
突然の攻撃に剣を抜こうとするアークナイト。
【グラップ!】
奪ったスキルのうち、俺は【組み伏せ】を奪い取り
ミユキへと手を伸ばした騎士の腕を掴み捻り揚げて組み伏せる。
「グッ!?」
自らをはるかに超える大男を投げ飛ばす感覚は新鮮であり、まるで他人事のように勝手に動く体となすすべもなく倒れていく人間の姿を呆然と見つめ。
「すげえなこれ」
そんな他人事な感想をついつい漏らしてしまう。
「あらあらぁ……」
「き、きさま!?」
突然の反撃に驚愕したのか、呆れたような声を漏らすサヤとは対照的に、ハンマーを持った男が慌てるようにハンマーを振り上げるが。
「しっ!」
今度はスキル、【剣技C】により、俺はハンマーの持ち手を組み伏せている男から引き抜いた剣で両断する。
「なっ……」
小さく漏れる言葉と同時に、鉄ごしらえのハンマーはただでさえボロボロな石畳を更に悲惨な状況にさせ、俺は呆けている男の首元に刃を突きつける。
「さて、丸腰のナイトに何ができる……だったか?」
組み伏せた相手は踏み続けることで、スキルグラップを持続させ、剣を突きつけて二人の動きを静止する。
正直はったりとアンブッシュでここまでできるとは思ってはおらず、かっこつけてはみたものの内心では心臓が張り裂けそうなほど高鳴っている。
酒場を出るときにトイレに行っておいてよかった。
「……あらあら、お兄さんつよいのねぇ……レベル1なんて言葉、信じるんじゃなかったわぁ」
嘘ではないんだけどね……。
「ふっふーん! 転生者をなめるなよ、です!」
ひらりと、今回の功労者は舞い降りてどや顔を披露し、俺の頭の上で胸を張る。
「あぁ、なるほど転生者……すっかり騙されたわぁ……丸腰やし素人さんの匂いがするし楽勝思たけど……お兄さん、狐化かすなんて相当悪者やよ?」
「はっ自分のご認識による失態を騙されたとは、狐が聞いてあきれるぜ?」
「お耳さん痛いわぁ……お兄さん同業者の匂いがするわぁ」
「そうかい……俺の職業を気にするよりも、隣に気にした方がいいんじゃねーの?」
「はて、となり?」
俺の言葉に、サヤは首を九十度傾け、隣を見やると。
「サーヤー?」
顔面に青筋を浮かべ、同時にぽきりと拳を鳴らすエリシアがそこにいた。
正直、殺気だけなら剣を突きつけている俺よりもはるかにすごい。
「リューキ様大変です! ヒロインがしてはいけない顔をしています」
「言ってやるなミユキ」
「どう落とし前つけてやろうかしら? 骨じゃ足りないわよね? 【自主規制】を【自主規制】して……【自主規制】する?」
拳を振り上げるエリシア。
恐らく何か魔法を付与されているのだろう、その腕の先からはつむじ風の様なものが舞い上がっている。
最初からそれで戦えばよかったのではないだろうか。
「あらぁ……怖い怖い」
振り下ろせばサヤは死亡確定……しかし、サヤはクスリと笑うと。
「余裕じゃない? 覚悟し……」
「うち、逃げ足だけははやいんよ……ほな、ばいなら」
エリシアの拳をさらりとサヤはよけると、そのまま弓矢の如き速度で
カラコロと下駄の音を響かせながらサヤは身軽に跳ねるように逃走をする。
「!? はやっ!」
「あっ!? こら逃げんじゃないわよ!?」
脱兎のごとくという言葉があるが、まさに脱狐である。
気が付けばあれだけ目立つ和装の装いでありながら、気が付けばサヤの姿は人混みに消えて見えなくなってしまった。
「ご、ごめんなさいでしたー!?」
主人を無くし、戦う理由がなくなったためか、剣を突きつけられたハンマー使いの騎士もその場から走って逃げ去ってしまう。
当然、踏みつけている騎士から離れれば、五秒後に俺は剣すらまともに振るうことのできないポンコツニートに戻ってしまうため、追うことはせず。
そっと足を退けると、足元で組み伏せられていた騎士も立ち上がるとわき目もふらず走り出して逃げ出していく。
逃げるときによほど慌てていたのだろう、からからと剣の鞘も転がっていく音が響く。
「お見事ですリューキ様! 災難でしたね!」
「本当だよ……あぁ~怖かった……」
剣を置いていってしまった彼等であったが……恐らくもう返す機会はないのでせっかくだからもらっておくことにする。
武器にはステータスはうつらないようで、俺は試しに持ってみるとずっしりと重い感触が腕に伝わる……鋼の剣といったところか。
正直、棍棒から始めようとしていた自分からしてみれば、かなり優秀な装備と言えるだろう。
剣を鞘にしまい、腰に下げると、腰の左側に重量感が生まれる。
腰痛になりそう。
「しかし、難易度調整おかしくないか? この世界」
ドラゴンに襲われてからまだ二時間くらいしかたっていないというのに、先ほどから自分よりもレベルの高いものに襲われすぎじゃないだろうか。
何が危険も即死もないだ神様……さっきからそれにしかぶち当たってないんですけど。
そんな不平不満を心の中の中二病神様に対して漏らしていると。
「……はぁ……ありがとうリューキ……また、助けられちゃったわね」
深いため息をついたのち、エリシアが一人そうつぶやく。
その表情は先ほどの怒りは消えている反面……。
どこか落ち込んでいるようだ。
「無理もないですよ……ダンジョンに挑もうとした矢先の裏切りですから」
ミユキの言葉はもっともだ……国を抜け出して決死の想いでここまで来たというのにこの裏切りだ……当然その落胆がないわけがない。
「大丈夫か?」
「まぁね……」
「本当に?」
「……ごめん、嘘ついた。 正直辛いわ……この程度で落ち込んでる場合じゃないのは分かってるけど、やっぱ出鼻くじかれるときっついわ」
ボロボロのベンチに腰を下ろし、エリシアはもう一度ため息を漏らす。
「……まぁ、その気持ちはわかるな。 ゲームのチュートリアル中にバグで裏世界飛ばされて、またオープニングムービー見なきゃいけなくなった時と感覚が似てる。 なぁミユキ」
「そうですね! 足滑らせてチュートリアルで落下死しちゃった時とかも同じですよ!」
「そうそう、しかもさりげなくクイックセーブとか用意されてると、なんか製作者に憐れまれてるみたいで助かるんだけど余計に悲しくなるよな」
「……チュートリアル? オープニング? なぁにそれ?」
「なに、違う世界を救った時の話さ」
「転生者は忙しいのね」
なにせ一月に一回は世界を救ってたからな……ものによっては滅ぼしてたけど。
「あぁ、何回も死んで、即死トラップに理不尽な配置の強敵、孔明の罠にいしのなか。挙げ連ねればきりがないし、出鼻をくじかれることなんて何度もあったよ」
「リューキ様ゲーム好きですが苦手そうですもんね」
「ほっとけ」
「ふふふ、よくわからないけど、なんだか楽しそうね」
「あぁ、世界を救うってのは形は違えど楽しいもんさ。前にさえ進んでいればいいからな」
「……前だけ?」
「救世主ってのは前にしか進まない。真っ直ぐにな。 つらい過去があっても後悔をしていても、結局最後は前に進んで、そしてゴールにたどり着く」
「そのゴールが東京タワーだったりはしますけど」
「おいやめろ」
「ちょっと何言ってるのかさっぱりわからないけれども……とりあえずは前に進み続ければ何とかなるって言いたいのね?」
「まぁそういう事だ」
「つまりは、もしかして励ましてくれてたってこと?」
「……さあな」
「そんなわけないじゃないですかエリシアさん! 落ち込んでいる女性にゲームのたとえ話する時点で色々と片腹大激痛だというのに、話の分からない相手にノリと勢いだけで一方的に趣味の話を押し付けるなんてコミュ障を絵にかいたようなもんじゃないですか! これで励ましになると思っているなら救いようがないですよ! これはあくまで体験を語っているだけ! そうですよね! リューキ様」
「そうだな……涙出てきた」
「そう、それなら気にしなくてもいいわね。 実際何言ってるかぜんっぜんわかんないし……でも不思議ね、もっと聞いてたくなるわ。その不思議な話を理解して一緒にお話しできるようになれたらきっと楽しいんだろうなって……思えてくるの」
その発言に、俺とミユキは凍り付く。
今この少女は、俺のゲームの話に対し、呆れるでも嫌悪するでもなく……もっと話を聞いてみたい、知りたいといったのだ……。
その言葉を……俺はどれだけ夢見たのだろうか……。
ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、バブみ……。
色々な女性を愛し、指先一つで心を奪ってきた。
だが……どんな女性を落としても……どんなゲームをしていたとしても、埋まらない空虚感がそこにはあった……。
その理由が分からないまま、毎日を過ごし……ほぼワンクールごとに……まるでファッションのように嫁を作りだしては……忘れていった。
だが、今俺が感じたものは、その答えなのだろう。
この空虚感の答え……そして、今の言葉に感じた高揚こそ、俺が求めていたもの。
俺はきっと……俺の話を聞いてくれる女の子が欲しかったのだ……。
「大変ですリューキ様! この人天使です!」
「え? エルフだけど」
「勝ったぞミユキ! 俺たちのゴールだ!」
「まだダンジョン探索始まってもいないんですけど!」
慰めようとした彼女に、人生のゴールへと導かれてしまった件。
それにこの、全く話についていけてないのに頑張ってついて来ようとする感じがたまらない……。
「これは素晴らしいですよ……私たちはとんでもないものをエリシアさんに奪われてしまったようです!」
「そうだな」
「ちょ、ちょっと何よ!? 私、人の物盗ったりなんてしてないわよ! ど、ドラゴンの鱗だってちょろまかしたりなんかしないからね!」
「そんなものじゃない、もっととんでもないものを奪われたよ」
「な、なによそれ!」
「「私の心です!」」
「あれ? もしかして私からかわれてる?」
いかん、嬉しさのあまり調子に乗りすぎたようだ。
「いや、そんなことはない……ただまぁなんだ……こんな話ぐらいだったらいくらでも聞かせてやるよって意味だ」
「それならそうと素直に言ってよ……」
「ごめんなさい……ついついうれしくて」
ミユキはしょぼんとした顔でエリシアの頭の上にとまると、懐くように頬ずりをする。
「まぁいいわ……それで、さっそくだけどこういう最悪な状況の時どうすればいいかとか知恵はないかしら? リューキ」
「何、最悪とは言えまだまだ仲間がいるだけましだぞエリシア。世には魔王退治に棍棒一本分のお金だけ支給されて放り出される世界もあるからな」
「え、何それ怖すぎなんですけど……魔王が物資の補給ルートを潰したせいでよほど枯渇していたのね……確かに、魔王は多くの叡智を収めた存在であるとも言われている……力にばかり目が行きがちだけど、考えてみれば力に加えて魔物を軍として束ねて戦術的に操れることの方がよっぽど脅威だわ」
「あ、そういう設定なのかあれ。じゃなくて……まだこの世界の魔王は復活していないし、物資も潤沢だ」
「というと?」
「まだ慌てる様な時間じゃないということだ」
そう言うと、ミユキは少しだけ元気を取り戻したような表情をする。
少しだけ、希望を見出した……そんな表情だ。
「……あんたの言葉って魔法みたいね」
「あいにく口ばっかりは達者なもんで。 詐欺師って呼んでくれ」
「そうするわ……それで、詐欺師さんは一体私をたぶらかして何をさせるつもりかしら?」
「そうだな……まぁ結局、救世主は前にしか進めないんもんだからさ」
「だから?」
「悩んでてもしょうがないし、とりあえずはダンジョンに行ってみようぜ?」
通常であれば反対をされるであろう無謀な回答。
しかし、その言葉をエリシアは否定することもなく、どこか嬉しそうに微笑んで首を縦に振ったのであった。
【ぬるぽ】 ネットスラング、 ぬるぽ ➡ がっ。
NullPointerExceptionはJavaによるプログラミングでのバグにより実行時にエラーとして見かけることが多いため、「良くないこと」「あってはいけないこと」の揶揄として使われることも多い。




