9. 生まれました!
「黒雷?」
「はいっ、主っ! って事で、続きやりましょう。」
黒髪褐色の少女はニッコリと微笑む。
「待て待て、聞きたい事が山盛りなんだけど。」
「そうなのですか? 私は準備万端ですよ?」
僕の目の前に仁王立ちし、準備万端である事をアピールする。
しかし、俺が言うのもなんだが、こんな幼い子と・・・。
思い返してみると、アスタも、リリンも他の教育係も、綺麗な御姉さんばかりだった。
「だいたい、黒雷はいくつなんだ?」
「主ぃ、女性に年齢を聞くとは、よっぽど私を辱めたいんですね、本当に鬼畜ですね。え~っと・・・確か・・・に・・。」
「2歳!?」
「ニ千・・・五百・・・歳位ですかね? 恥ずかしいっ!」
両手で顔を覆い背を向け、小さなお尻を振る。
「ここまで言わせたんです、責任取って、しっかり抱いて貰いますからっ。」
そう言うと、黒雷は飛びつき、俺の胸に顔を埋める。
「はぁ~っ、何百年振りでしょうか、封印の主の匂いを嗅ぐのは・・・。」
「なぁ、黒雷・・・どうして、そんなに拘るんだ?」
僕の体を弄りながら、黒雷が答える。
「そんなの、決まってるじゃないですか、主の僕である印が、欲しいからですよっ。」
アスタ以上に丁寧に責められる。
「こ、こら、黒雷っ・・・。」
「あぁ、・・・主っ、・・・私の主っ・・・。」
俺に乗っかり、首や胸に顔を押し当て、スンスンと鼻を鳴らす。
自分が、アスタに依存してしまうのに似ているなと思うと、愛おしく思えて来る。
アスタや、リリン達の柔らかさをフワフワとするなら、黒雷はプニプニとした柔らかさだ。
黒雷の身体に腕を回すと、クルッと態勢を入れ替え、俺が上になる。
「あっ、主?」
「最初は、主らしく、ちゃんと僕からしてあげないとな。」
「はいっ! 主のっ、主のいっぱいちょうだいっ!」
黒雷の小さな体には少し辛いのか、時折顔を歪める。
「大丈夫か? 黒雷?」
「クロって呼んで・・・いっぱい私の名前呼んでっ。」
お互い果てるまで沢山名前を呼び合った。
主の印をたっぷりと着け終わり布団に潜り込と、唇を重ね舌を絡める、自分より小さな体を抱き寄せ、お互いを確認しながら眠りに着いた。
翌朝――――――――
「セ~~~イ~~~! おっはよ~~~~!」
ガバッと布団を勢い良く剥ぎ取られる。
「なんじゃ! こりゃ!!!」
布団を汚し中で丸くなる裸の僕とクロを発見し、雄叫びをあげるアスタ。
「セイッ!!!! おきろーーーー!!!!」
アスタの雄叫びにビクッとして飛び起きる。
「・・・アスタ?」
「アスタ? じゃ無い! どういう事か説明して貰おうか? 別に誰とシテも良いが、勝手に連れ込んで良いとは言って無いぞっ! しかも、こんな幼い子をっ!」
怒ったアスタも可愛いなと思いつつ、布団に視線を落とし、更にビクッとする。
「クロ・・・、夢じゃ無かったんだ・・・。」
「夢? セイ、何を言ってるんだ? 私はちょっと怒ってるんだぞっ! ちゃんと説明しなさいっ!」
アスタが腰に手を当て、顔を近付ける。
「アスタ、信じられないかも知れないけど、この子クロなんだっ!」
アスタが、何を言ってるんだ? という顔をする。
「クロ? クロとはなんだ?」
「だからっ! 黒雷なんだって!」
「・・・はぁ? セイっ! 吐くならもっとマシな嘘を吐きなさいっ! 別に他の娘とエッチしてる事を、怒ってるんじゃないって言ってるでしょ! この子はどっから連れて来たのっ?」
参った、全く信じて貰えない・・・。
っとその時、クロが瞼を擦りながら、ムクリと起き上がる。
「あるじぃ~、おはよう~。」
「セイっ! お前と言う奴は魔族に育てられたからと言って、こんな小さな子に主と呼ばせてるのか!? 成長したと言えば成長なのかもしれないが、とっても複雑な気分だぞっ!」
瞼を擦っていたクロがアスタに気付き、布団から飛び出ると、ボンッとアスタと同じ、いや、アスタよりは小さいが、色々な所が大人の姿に変わり、身構える。
「主っ! 敵かっ!」
クロの一言でとっても面倒な事になった気がする・・・。
アスタがクロの言葉に、ピクリと眉間にシワを寄せ、身構えるクロの頭を鷲掴みにする。
「敵だとぉ~!?・・・おい、小娘が舐めた口を利くじゃないか、セイの事を主と呼んでいたな? 私はセイの主だっ!」
アスタが物凄い形相で、クロを睨む。
クロの顔色がみるみる青くなる。
シュ~ッっと煙を上げ体が縮み、元の小さな女の子に戻り、そのまま土下座の態勢になる。
「こちらから挨拶に行かねばならぬ所、出向いて頂いた上に寝惚けていたとは言え、主の主に大変無礼をはたらいてしまい、申し開きのしようもありません・・・。」
「それで・・・お前は、何だ?」
依然、アスタの険しい表情は変わらない。
「はっ、私はセイ様の魔力を頂き顕現致しました、八雷神が一柱、黒雷にございます。」
アスタの顔が、怒りから、驚きの表情に変わる。
「お前、本当に黒雷なのか・・・?」
「はっ。おっしゃる通りにございます。」
カツン、カツン、とヒールを鳴らし、クロに近付く。
クロは小さな体をプルプルと震わせている。
アスタが、クロの両脇を抱え、ヒョイと抱きかかえる。
「そうか、そうか~、いやー、すまなかった。」
「へ?」
先程までとは一変し、満面の笑みを浮かべるアスタ。
「と言う事は~、セイに封を施した私が父親で、セイが母親になるのか? 私もその内セイの子を孕むつもりだったが、その前に子供が出来るとはな~、あはははっ。」
クロに頬ずりするアスタ、クロは依然困惑している様だが、とりあえず危機は去ったのか? って言うか、今さらっと孕むって言わなかった? 震えるほど嬉しいが、今はツッコムのはやめておこう。
「待って、アスタその言い方だと、僕は自分の娘を犯したみたいじゃないか。」
「セイ、頭が固いぞ~、授乳したと思えは良いじゃないか~。」
うわぁ~、デレデレじゃないか・・・。
「しかし、古式魔法とは本当に知らない事ばかりだな、単なる魔力喰いの封と思ったら、子供が出来るなんて・・・。」
クロを膝に乗せ頭を撫で、アスタが感心したように口を開く。
「珍しい事例ですね、私達は力を欲する者が、自分の魔力と引き換えに、私達を顕現させるのですが、アスタ様の話しを聞く限り、私達の存在を知らずに、封を施したんですよね?」
「そうだぞクロ~、セイの魔力が強すぎるから抑える為にな。」
「そうなんですね~、八雷神全ての印を刻むなんて、私の記憶でも居たか居なかったか、覚えていない位ですよ。一つの封でも、弱い魔術師でしたら魔力を吸われ過ぎて、私達が顕現前に宿主が死んじゃうんですよ~。」
アスタの背中を、冷たい物が流れる。
「ねぇ、アスタ、知ってたんだよね?」
「あっ、当たり前じゃないか、それほどセイの魔力が高かったからなっ! そっ、そんな事よりこのままいけば、後7人セイから生まれるって事だろ? 楽しみだな!」
上手く話を変えられた気がするが、確かに気になる話なので、クロに振ってみる。
「どうなんだ? クロ。」
「そうですね、顕現するタイミングは様々ですが、全員顕現すると思います。供給する魔力は十分に足りているみたいですし、私は主の生命の危険を感じ、少し早めに顕現したので、このような小さい体ですが、昨晩の様に、直接魔力を与えて頂ければ、徐々に、成長しますから。」
「そうかそうか、じゃあ、セイにしっかり魔力補充して貰うんだぞ~。」
「はいっ、アスタ様。」
アスタが嬉しそうにクロの頭を撫でているが、会話の内容と見た目のギャップが酷い。
少し気になった事があったので、クロに直接聞いてみた。
「そう言えば力を求めてって言ってたけど、クロは戦闘が得意なのか? それとも何か特殊な力があるとかなのか?」
「何が得意かと聞かれれば、私は戦闘が得意かな? あっ、夜伽も好きですよ? 私達自身が強いのもありますけど、八柱全員が揃った時の力が欲しいんじゃないですかね? 魔術師が八人集まり、一人一柱を受け持ち、私達を揃えようとした人達も居ましたからね~。」
ニコニコと話すクロにアスタが興味津津に、何が起こるのか聞く。
「そうですよね、私達の存在を知らないって事はそこも知らないんですよね? いつ位から伝承されなくなったんでしょうね? 私達八柱を揃えると、黄泉比良坂への道を開かせたり、黄泉軍 を使える様になります。まぁ、必要無ければ、別に良いんですけどね。」
クロがニコニコと話す内容、古式魔法を読み解いている時に、見た事がある。この世では無い死者の世界・・・そして、そこに住まう軍勢・・・。ゾクリとするが、使わなければ良いかと、記憶に蓋をする。