8. 知らなかった!
魔王との面会日が刻一刻と迫る中、どうしても結論が出なかったあの事について、アスタに聞いてみた。
「アスタ、ちょっと良い?」
「ん? どうした?」
「古式魔法の事なんだけどさ・・・、色々考えたんだけど、やっぱり、分からなくて。」
「ん? 分からない? 古式魔法ならセイの方が、ちゃんと読み解いてるんじゃないか?」
「うん、そう思うんだけど、この前ナキアと戦った時、間違いなく最初の煉獄で決めるつもりだったんだけど、思った以上に威力が出なかったんだ。もう一回、一から文献や関係する書籍も読み返したけど、火力がって言うか、ちゃんと魔法の威力が出なかった理由が分からないんだ。アスタには分かる?」
腕組みしうーんと悩むアスタが、よしっ、と何か決めた様に椅子から立ち上がる。
「いいか、セイ、心して聞くんだ。」
「う、うん、何? 改まって・・・。」
「お前は生まれつき類まれな高魔力を保有していた、ここに来たばかりの時、泣き散らかしてこの城を傾けそうになる位だ。そして、私はお前の成長と共に、魔力も更に大きくなっている事に気付いた。」
「うん、・・・それで?」
「私は心身が育つまでは、高い魔力は逆に身を滅ぼすと思い、セイの身体に魔力封印の術式を掛けた。」
「天地の封印でしょ? この前、解いちゃったけど・・・。」
「セイ、お前の身体には後、8封と2封がしてある・・・。」
「え? えぇ? 初耳だよ? 後、10個封印を解かないと本来の魔力に戻らないって事?」
急なアスタの告白に、混乱する。
「魔力の事だけを言えばそうだ、とりあえず、最初の2封である天と地を解いておけば、後は自ずと解けていくからな。現にこの前のレティと戦った時に、8封の一つが解けた・・・と思う。」
全く自覚が無かった・・・。なんて言えない、って言うか思うってなんですか?
「そんな胡散臭そうな顔をするな、最後に見せたあの動きは、魔力量不足、魔力の流れが悪い状態、どちらが欠けても出来ないからな。全身の細胞に魔力を流し込むなんて、ちょっとやそっとの魔力量じゃ無理だし、魔力の流れが悪い状態なら尚更な。間違いなく解除された・・・はずっ!」
「そ、そっかぁ・・・、それで、その封印が原因で古式魔法の威力が出ないって事・・・で良いのかな?」
自信ありげにアスタが頷く。
「あぁ、そうだ、セイの封印は単純に魔力が出ない様に栓をしてる訳じゃない、先に解けるだろう8封は、お前の魔力を食う封印だからな。魔力を循環させようとしても、所々でスムーズに行かない所が出る。」
確かに思い当たる節がある。魔法の勉強をやり始めた頃、魔力操作でつまづいて、出来ない事が悔しくて、泣きながら夜遅くまで一人でやっていたのを思い出す。
あの時、教育係の魔族も特に怒る事無く、上手くなるまで一緒に頑張ってくれた。
おかげで魔力操作はアスタの言う様に、人より循環が上手くいかなくても、得意分野の一つになった。
「封印の場所だが、一応教えておく。解除のトリガーはそれぞれ違うから、どの場面で解除されるか私も良く分からない。」
「え? でも、アスタが封印術式をしてくれたんだよね?」
「あぁ、そうだ、最優先項目に効力重視で決めたからな、使い勝手や解除方法等は一先ず度外視した。」
僕の事を思ってやってくれた事はとっても嬉しいけど、流石にちょっと苦笑いが出る。
「それとな、セイが古式魔法を読み説き、使えるようになったと聞いた時は、何かの縁みたいなのを感じたんだ。」
「ん? どういう事?」
「セイの身体に残っている8封と2封は古式魔法なんだよ。残ってるとは言っても8封の一つは開封したけどね、天地はまぁ、そこそこメジャーな封印術式だから、解除方法も知っていたんだけどな。」
「じゃぁ、この間のレティとの戦いは・・・。」
封印の解除方法を知らないと言う割には、レティを使って自信満々に、僕をギリギリまで追い詰める様に戦わせていたから、ふと疑問に思った。
「勘だっ! 魔力は生命力、肉体、精神と深く繋がっているからな、追い込めばどれか一つは解除されると思ったんだ!」
「でも、勘なんだよね・・・?」
「ま、まぁ、打たれ強さの強化にもなったし、それにっ! 怪我したらちゃんと責任を持って介抱するつもりだったぞっ!」
珍しく慌てるアスタがとても可愛かった。
仮にレティとの戦いで開封の条件が合わず、大怪我になったとしても、アスタを責める様な事はしなかったと思う。逆に開封出来なかった時の方が、アスタの期待に沿えなかった事に自分を責めたかもしれない。
改めて一つでも開封出来た事に安堵し、アスタに近寄り、ギュッと抱き締める。
「どうした? セイ。」
「何となく。」
「全く、甘え癖が抜けない奴だな。魔術学院に入ったら、年に3回ある長期休暇しかウチに帰って来れないんだぞ?」
「・・・え゛?」
アスタの言葉に固まる。奈落に落とされた様な気分だ・・・。
抱きついたまま、ズルズルと崩れ落ちる。
「まぁ、そんなに落ち込むな。セイが帰って来るまでちゃんと待ってるし、絶対男も作らないし、浮気しないから、ねっ、ねっ。」
言って無かった事に気付き、必死に俺を宥める。
「・・・あ゛ぃ」
「ゴホンっ、話しが逸れてしまったが、8封の場所だが。」
アスタが頭、胸、腹、陰部、左手、右手、左足、右足を指差す。
「そこが、封印の場所だ。レティの時は、どこの封印が解除されたか分かるか?」
「多分・・・腹だと思う。」
アスタは自机の引き出しから、封筒を取り出し、フムフムと言いながら、封筒に入っていた古惚けた紙に目を通す。
「黒雷か・・。セイ、セイの8封には、名前が付いていてな、大雷 、火雷 、黒雷、折雷 、若雷 、土雷 、鳴雷 、伏雷 、で八雷神の封と言うらしい。」
「アスタ、それ、本当に魔力封印?」
「大丈夫だ、ちゃんと調べて貰った。この封をされたものは、封が解除されるまで魔力を食われ続けるって書いてあるからなっ!」
どうしよう、不安しかないんだけど・・・。まぁ、一個解除された訳だし、残りも何とかなるか。
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その日の夜、下腹部に違和感を感じ、目を覚ます。
夢じゃないと気付き、ガバッと布団を捲る。・・・女の子? 自分より少し年下だろうか、幼い顔をした娘が布団の中に潜り込んでいる。
「起こしてしまったか? 主。」
「どちら様? ですか?」
足元から潜り込んだのか、必死に上って気ながら何かを口走っている為良く聞こえない。
「君が誰なのか、どうしてここに居るのか、気になる事が山積みだが、とりあえず、そうしてるって事は、こうして良いって事だよね?」
両脇を抱え、一気に引っ張り上げる。
「~~~~っ!!!」
引き上げられた女の子が笑みを浮かべしがみついて来る。
「主ぃ、やっと会えました・・・。」
褐色の美少女が瞳を潤ませ、唇に吸い付いて来る。
咄嗟の事にびっくりしたが、一旦落ち着いて少女を引き離す。
「抱きつかれた上に唇まで奪われといて今更なんだけど、君はだれ?」
「えぇ? 私が誰かも分からずに、あんな激しくするなんて、流石主っ、鬼畜ですぅ~。」
全く激しくした覚えが無いんだけど・・・。
「それで? 結局誰なの?」
小さな膨らみの胸に手を当て、少女が名乗る。
「私ですよ主っ、流石に気付いて下さいよ。・・・ニブチンですねぇ、八雷神が一柱、黒雷ですよっ!」
「・・・え?・・・えぇ!?」