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魔族に拾われたので魔族の為に生きてみようと思います。  作者: トリ天
 1章 魔族に拾われて~幼少期~
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  7. 泣いて無い!

 何が起こった? 全弾一斉掃射!? レティが気合い入れろって言うから身構えて居たけど、目の前が真っ白になって、次の瞬間には、全身に痛みが走り、倒された。今分かる事は、これくらいか・・・。


 まともに躱そうとしてもまず無理だよな・・・・。


「正面突破がダメならっ!」


 前に突っ込むフェイントを入れ、レティの横に回り込む・・・が、攻撃のタイミングをズラされ、敢え無く、さっきの二の舞。


 横が駄目ならと次は後ろまで全力で駆け抜ける、その次は一周してと思考錯誤するが、あれだけある弾数が尽きる事は無く、ダメージが蓄積する一方で全く攻略の糸口が見えない。


「アスタ、ヒント位あげたら?」


 レティが少し不安げにアスタに問いかける。


「いや、このままでいい。言った所で結局は自分で慣れるしかないからな。」


「もう、・・・知らないわよ? どうなっても。」


 じっと、セイを黙って見守るアスタの姿を見て、口を挟む事を諦めたレティがため息交じりに攻撃を続ける。



 一時間後――――


 あぁーまずい、流石にフラフラして来た・・・。全身青アザだらけで少し動かすのも億劫だ。

 

 だが、攻撃の手は休まる事無く、僕にに襲いかかる。


 足に力を入れようにも、痛みで上手く力が入らない。

 避けなきゃ・・・、アスタが見てる・・・、無様に直撃を喰らって、ノビるなんて嫌だ。


「動け・・・っ。」


 目の前に、白い氷の粒で出来た壁が迫り、見事に僕の全身を打ち抜く。


「やばっ! アスタ、直撃したよ。」


 駆け寄ろうとするレティの腕を掴むアスタ。


「まだだ、レティ。」


「流石に、これ以上は、もたないよ、セイ君人間なんだよ?」


 前を見据えるアスタにつられて、前を見て驚きを隠せないレティ。


「ウソでしょ? もうかれこれ2時間よ? しかも、さっきのは直撃したのになんで立ってるの?」


「私のセイだからなっ、そろそろ頃合いだレティ、次の攻撃、威力とスピード上げろ。」


「あんな状態で、そんな事して、下手をしたら・・・。」


「上げろ・・・。」


 アスタの静かな威圧感に押し黙り、レティは攻撃態勢に入る。


 僕に向け手を翳し、呟く。


「敵を貫け、氷壁万槍。」


 先程までの粒とは違い、鋭利な氷で構成された壁がレティの周りに展開された。

 略式詠唱とは言え、レティ程の術者が使えば致命傷は免れない。

 レティが目を瞑り、俺に向け一斉に放つ。


 ▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼


 既に自分がどうやって立っているのかすら分からない程、朦朧とする意識、四肢の感覚は既にない。

 どうやれば、手足が動く? 全身の隅々にまで意識を届かせ、自分の中に問いかける。


 返事なんて返って来る訳がない・・・と思っていた。


 ”トクンッ”と何かが反応する。


 感覚が麻痺している為、心臓の鼓動が大きく聞こえたのかと思ったが違う。

 腹の辺りに微かな熱を感じ、意識を移すと何かが反応している。

 使えと言っているのか? しかし、どうやって使えば良い?

 うっすらと見える視界には、レティが攻撃態勢に入っている。


 どうにかその力を使おうと、意識を集中してみたり、語りかけてみたりするが反応が無い。

 自分の中にある物だ・・・使えない訳が無い。しかも、今僕の身体がそれを使えと言っている。


 俺の中にある物・・・なんだ? 何がある? ボロボロで満足に動く事も出来ない僕に何が残ってる?

 命か? 魂か?・・・違う、何だ? 何が残ってる・・・もしかして魔力か?


 でも、魔法・・は使うなって・・・、ん? 待てよ、魔法・・は?

 魔力は使うなと、言われていないんじゃないか? 合ってるかどうかは、分からないけど・・・。


「これしか、もう、残って無いもんな・・・。」


 魔力操作なら、魔法の構築練習で嫌という程やった。精神さえ集中出来れば、身体を動かさなくて良い。

 魔力で手足が動く確証は無い、でも、他に出来る事は無い・・・やるだけやってみるかっ!


 流せ、・・・全身に、・・・血液と同じ様に、・・・。

 細胞の一つ一つに、魔力が籠り、無くなっていた感覚が戻って来る。


 アスタと話していたレティが魔法を変えた。

 何だか良く分からないが、とりあえず、避けないと、マズイ攻撃が来てのは分かる。


 放射状に広がる、レティの攻撃を避けるには、範囲外まで逃げるか、根元でかわすかのニ択しか現状思いつかない。

 既に魔法が展開されている、後者は無理だし、逃げてもジリ貧なのは分かっている・・・


 まわりこめるか!? 感覚の戻った右脚で踏ん張り、左に向け踏み込む。ダッシュで、魔法の端まで行くつもりだったのだが、一歩で展開された魔法の側面まで、辿り着てしまった。


 動体視力が追いつかず、景色が線状に流れて見える。初めて見る高速の世界・・・。

 何だ? これ? 流石に今までの体の感覚と違いすぎて戸惑うが、そんな暇は無い今はレティにタッチして、一先ずこれを終わらせないと・・・。


 アスタが目を瞑り口を開く。


「終わったな・・・。」


 アスタの口元が緩んでいる事に気付かないレティ。


「そうね、・・・私を怨まないでよ? アスタがやれって言ったんだからね。早く手当てに行きましょう、生きてる保証は無いけど・・・。」


 ポヨンと自分の胸に何かが当たる。


「クリア―かな?」


「クリア―だ。良くやったな、セイ。」


「え? セイ君? なになに? どういう事?」


 力が抜け、膝から崩れそうになる、僕をレティが手を回し、抱き締める。


「おっとっと。大丈夫? セイ君。」


「レティさん。冷たくて気持ちいい・・・。」


 とっさにアスタが僕の襟元を掴みレティから引き剥がすと、自分の胸に押しつける。


「良くやったなセイ、偉いぞ。こんなにボロボロにされて、酷い奴もいたもんだ・・・。」


「え~!? アスタ、自分で言っておいて酷いですよ~。」


「身体の冷たい奴は、心まで冷たいのかね~、可哀そうなセイ・・・。」


 レティがプクーっと頬を膨らませ、アスタ腕から僕を引っこ抜き、自分の胸に押し当てる。


「セイ君、身体痛いでしょ? レティおねーさんが冷やしてあげるからね~。千尋の谷に落とす様な、獅子に育てられたら、命がいくつあっても足りないよね~、可哀そうなセイ君・・・。」


 レティに顔を近付け、睨みを利かせるアスタ。


「レティ、誰に。口利いてるんだ? あぁん!」


 レティは近付けられた顔に、額を擦り付け、笑顔で返す。


「あらあら~、先に言ったのは、どこの誰ですかね~。」


「もご、もごもごっ!」


 おっぱいに挟まれ、とても幸せな状況なんだが、身体は動かず息が出来ない程圧迫されると、途端に地獄に切り替わる。最後の力を振り絞り声を出すが、徐々に意識が遠くなる。


「セイっ!」


「セイ君っ!」


 気付くと、自分の部屋に戻っていた。外はもう暗くなっている。

 ベッドに寝かされている様で、恐る恐る、身体を起こす。


「思ったほど痛くないな・・・。良かった。」


 ガチャっと部屋の扉が開き、廊下の光が差し込む。


「セイ、起きたか?」


「アスタ、ごめんなさい・・・だらしない戦いしてしまって。」


「いや、良くやったよ。」


 そう言うと、僕の隣に腰掛け自分の肩に僕の頭を乗せる様に、僕を引き寄せる。


「正直、2・3日は掛かる予定を組んでいたからな・・・。ん!?」


 何かに気付いたアスタが布団をガバッとめくり、クンクンと、身体中に顔を這わせ僕の匂いを嗅ぐ。


「ちょ、ちょっと、アスタどうしたの?」


 アスタが鼻を近付け、ペロッと舐める。


「・・・!?」


「ア、アスタ? どうしたの?」


「ってか、あのクソ○ッチ! 治療を頼んだのに、誰が、下の世話までして帰ってんだ~! おら~っ!」


 フゥ~! フゥ~! と鼻息荒く怒るアスタ。


「ご、ごめんね、アスタ、僕、全然気付かなくて・・・。」


 俺の頭をポンポンと叩き、軽く、唇を重ねる。


「こう言う言い方をすると、セイは、嫌がるかもしれないが、今日の戦闘と、治療の報酬と思えば、仕方ないかな。セイが誰と寝ようと、セイは私のモノだからな。」


 心に靄が掛かり、俯いてしう・・・。聞きたくない、聞きたくないけど・・・知っておきたい。

 心臓の音が煩い、命がけの訓練なんて比にならない程、心臓が血液を送り出すスピードを上げる。


「ア、・・・アスタも、誰かと寝るの?」


「?・・・プッ、あははははっ。」


 何故か爆笑された。僕にとっては、胸が張り裂ける程辛い事だ。

 不快感が、モロに顔に出てしまった。


「あ~、悪い悪い。」


 僕をギュッと抱きしめ、言葉を紡ぐ。


「なぁ、セイ。」


「うん。」


「私はな、魔族の中でも結構地位が高いんだ。」


「うん。」


「しかも、かなり強いんだ。」


「うん。」


「レティもそうだが、私達の様な上位の存在に言い寄って来る男は、ほとんど居ない。」


「うん。」


「よっぽど性欲を持て余していればあれだが、今はセイが居てくれるから、他の男は要らないよ。分かったか?」


「・・・うん。」


「セイが私を満たしてくれるんだろ? 他の男に攫われそうになったら助けてくれるんだろ?」


「・・・うん。」


 ほっとして、力が抜ける、アスタの言葉が嬉しかった。自然と身体が、震えた。


「何だ、セイ、泣いてるのか?」


「・・・泣いて無い。」


「そっか・・・。」


 アスタが、少し困った様に、言葉を返し、優しく抱きしめてくれた。


 人間の感情が恨めしかった。

 自分も魔族だったなら、こんな気持ちにならなかったのに、アスタを困らせる事も無かったのにと、苦しかった。


 僕は少しの間、アスタの胸に顔を埋め、顔を上げる事が出来なかった。

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