5. 頑張りました!
視界を塞がれると同時に何か柔らかい物に包まれる、嗅ぎなれた、良い香り・・・。
「もういいぞ、セイ。」
大好きな声が耳に入り毒気が抜けるように、昂っていた気持ちが収束していく。
「・・・アスタ?」
「もう、大丈夫だ、それにしても、酷い顔になってるな。」
ニコニコと話しかけるアスタが目の前に居る。
「でもアスタ、アイツに・・・。」
さっきの事を思い出し、俯き唇を噛む。
「大丈夫だって言ってるでしょ。ほら見ときな。」
アスタが顔パックでも取る様に、髪の毛の生え際からぺリぺリと皮を捲る。
首の辺りまで、綺麗に、皮が剥がれ、剥いだ皮をポイッっと捨てる。
「ほら、これでバッチイ所は無くなって、綺麗になっただろ?」
それが、幻術だろうと、魔法で造り出したものだろうと、本当の皮だろうと、その時はアスタから汚れが消えた気がして満足だった。
アスタが俺の頬を両手で挟み僕の唇を奪う。アスタの長くて柔らかい舌が卑猥な音を立て、僕の舌に絡みつく。
「ほら、セイ、私の為に頑張ってくれたご褒美だよ。」
再び唇を重ねるとアスタの長い舌を伝い、いつもの甘い蜜が口の中に流し込まれる。
ゴクッ、ゴクッ、と喉を鳴らし、アスタの甘い蜜をを受け入れる。
「おい、俺の事忘れてるんじゃないか?」
立っているのがやっとという感じで、ナキアがフラフラしながらこちらに言葉を投げる。
「そんなもんかよ。俺はまだ立ってるぜ。」
僕は一つ深呼吸し、ナキアに手を翳し、口を開く。
「其は閃光、敵を貫き、打ち倒す、一矢の雷、ライトニング。」
「そんな、中級魔法の矢で俺が・・・。」
俺が唱えたのは雷の矢、だが、ナキアの眼前に迫るのは、巨木程あろうかという矢。
貫くと言うより、全身を巨大な雷が駆け抜け、後方へ吹き飛ばされる。
「こ、こんな矢があってたまるか・・・。」
そう言い残し、地面に突っ伏したナキアは意識を手放す。
アスタが俺を抱き締め、クルクルとその場で回る。
アスタが嬉しそうにしているのが、とても嬉しかった。
「セイ、綺麗になったけど、感覚が、まだ残ってるんだ。セイが上書きしてくれ。」
アスタが、少し屈み、髪を束ね、自分の半身をこちらに向ける。
僕はアスタの頬に近づき、ナキアが行った行為を上書きする。出来るだけ強く、自分の感覚が残る様に。
もう一度アスタと唇を重ねると、アスタは借り物だからアレを返品して来ると、ピクリとも動かないナキアを指差す。
ナキアの襟元を乱暴に掴むと、綺麗な羽を広げ飛び立った。
「また、お留守番かぁ・・・。」
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「どうだった、ナキア。」
掴んだ襟を左右に振る。
「はいアスタ様、分身とはいえ、羨ましかったです。」
力無く、項垂れるナキアから声がする。
「何を言っている、そんな事を聞いているんじゃない。獄炎に放り込んでやろうか?」
「冗談ですよ。しかし、分身とはいえ私の力の三分の一位は出せる調整をしておいたんですが・・・。これ程ダメージを受けるとは。いや、古式魔法を喰らっておいて、これで済んだと言うべきか。古式はアスタ様がお教えに?」
「いや、私では無い、セイが城の書庫から持ち出した書物から、読み解いたらしい。」
「では、不完全な古式なのですか?」
「いや、セイの古式魔法は完璧だ、ただ。」
「ただ?」
「うん、セイの身体には8封と、2封、今日解除した2封の合わせて12の封印をしてある。その為、魔力の循環と放出が、上手くいって無かったんだろう。自分で掛けておいてなんだが、あの2つだけは、自我を手放す程の、怒りが無いと解けないからな。今日はそれを見ておきたかった。」
「んなっ、それでは、残り10の封印をされた状態で、あの魔力量なのですか?」
「そうだ、可愛いだろ? 本当に可愛いんだセイは。」
「しかし、全てを解放した状態を、アスタ様は止められるのですか?」
「ん~どうだろうな? 後、5年、いや、3年したら、厳しいかもな。だが、セイは私を傷つけないし、私もセイを傷つけない。だから、大丈夫。」
「本当ですか? 一応、魔王様に報告しないといけないんですけど・・・。」
「大丈夫だって、セイは人間だが、魔族側の人間だ。」
「分かりました、それでは、魔王様には、そのように報告しておきます。あれ程の戦力を人間側のギルドに入れるのですから、細心の注意をお願い致します。」
「分かっている。セイは魔族だ人間だという垣根は無い代わりに、世界中を敵に回しても、私に牙を剥く事は無い。って、自分で言ってて、何だか、気恥ずかしいな・・・。あと、この半身はいつもの屋敷に放り込んでおくぞ。」
「アスタ様っ! もっと大事に扱って下さいっ!」
「だって、早く帰って、セイとイチャイチャしたいんだもんっ!」
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その日の夜。
コンコン、コン。
「はい、誰ですか?」
「リリンです。」
「あぁ、そうか、今日は・・・。」
窓の外を眺める。
パチンッと指を鳴らし、部屋の扉の解錠をする。
「失礼します。」
アスタに負けず劣らずの、美女が部屋に入ってくる。
俺は机に向かったまま、会話を続ける。
「リリン、今日は、アスタは帰ってこないの?」
「そうですね。ナキア様の屋敷に向かっているとなると、2、3日は、お戻りになられないかと。」
「リリン、あいつの事は様なんて付けなくて良いよ。出来れば、僕の前だけでも、あいつを敬うような言葉は、使わないでほしい。」
「そうですね・・・、もしそれで私が誰かに殺されたら、悲しんで頂けますか?」
酷く極端な話がリリンの口から切り出される。
「悲しむ? 何を言ってるんだ? リリン。そんな事僕がさせる訳ないだろう? アスタだって、自分の家族に、そんな事はさせないよ。」
リリンが後ろから手を回し、僕の頬に頬を付ける。
「セイ様は、お優しいです。」
「様は要らないと、いつも言ってるだろ?」
机に突っ伏していた僕を起こし、俺の膝に大股を開き座るリリン。
「様は、自分への戒めだと、私もずっと言ってますけど?」
ニッコリと微笑む、金髪白肌の美女。
リリンは、アスタの城に来てから、女性についてのイロハを教えてくれる教育係の一人だ。
来た当初から、友好的に接してくれている、アスタ城の使用人でもある。
「僕をアスタから奪いたくなるっていうやつ?」
「はいっ。」
「ちゃんと、リリンの事好きだよ?」
リリンが頬を膨らまし、僕の顔を覗き込む。
「もう、・・・人間よりも我々魔族は、姦淫に対して敏感ではありません。セイ様がアスタ様と毎晩の様に肌を重ねようと、他の誰かと交わろうと、私も同じ様に抱いて欲しいと思う事はあっても、嫉妬に狂うような事はありません。でも、一番に思っていて欲しい位は思うんですよ。」
「リリンは、可愛いな。」
リリンの頬を撫で、耳を弄る。
瞳を閉じ、俺の手に自分の手を重ねる。
「リリン、いつもの。」
ピンクの唇から、舌先がちょろっと顔を出す。
少しだけ出た舌先を口に含む。
徐々に唇が開きもっとして欲しいと、口内に入ったリリンの舌が自己主張してくる。
舌の表面に舌を這わせ、側面、裏側と丁寧に愛撫し、ジュルジュルと音を立て、舌を吸う。
膝に乗ったリリンの一部が、熱を帯びて来るのが分かる。
瞳を潤ませ、トロンとした表情になるリリンを見てもう物の欲しそうにしているのかと思うと、自分の体温も上っていくのが分かった。