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 43. 楽しみました!

「見えてきたな。」


校舎を通り過ぎ、木々に囲まれた緩やかな坂道を下っていくと、開けた場所に出た。中央に大きな噴水があり、それを半周囲むように寮が建ち並ぶ。もう半周は校舎側からの目隠しと言わんばかりに、木が植えられている。


「流石に寮が多い分圧倒されるな。ん? 奥の寮に行くほど建物が大きくなってるな。多分一番奥の建物が5年生の寮だろう、5年間もここに居るんだ荷物も増えるだろうし仕方ないってところかな? さて、ここからどうやってレプト先輩の所に行くかだが・・・。」


辺りを見渡すと、食堂からの帰りであろう生徒が多い。流石にここまで来ると3コ―の制服は目立つ様で、先程からチラチラと見られている。


まだ消灯時間では無い為、寮の外で談笑する生徒たちも見受けられるし、学年が多いからか、先輩と後輩で話しているっぽい組も居る。


「正面突破は・・・無いよな。さて、場所は分かったし周囲の確認をするかな。」


その場で2・3度屈伸をする。来た道へ向け踵を返すと、周囲を気にしつつ一歩、二歩、三歩目、前方に生徒は居ない事を確認し、両足に魔力を流すと一気にその場から木が植えられている方へ身を隠す。間をおかずに木の先端近くの枝まで移動して一息付く。


こちら側を向いている生徒は・・・居ない。寮のこちら側を向いている窓は一階の談話室とニ階、三階の廊下側。チラホラと人通りはあるものの、足を止め窓の外を見る様な生徒は居ない。


「このままここを突っ切れば5年生の寮にいけるな。」


木の枝が揺れない様に足に風の魔法を纏わせ、フワリフワリと慎重に枝から枝へ飛び移る。噴水を越えたあたりで風を切る音。


――――ヒュッ。

――――ヒュッ。

――――ヒュッ。


一瞬何かが光ったと思った次の瞬間、数本の矢がこちらへ・・・いや、足目掛けて襲いかかる。咄嗟に避けるが、すぐに避けたのが悪手だと気付かされた。


「コン―――。コン―――。」


「やばっ。」


放たれた矢が木に刺さった音が予想以上に響く。チラリと林の外を確認したが、幸いな事に林側の噴水に腰掛けている生徒は居ない。近くいる生徒も気付いていない様だ。


すぐに避ける事から矢を捉える事へシフトチェンジしたが、足を狙って矢が放たれている様で暗がりの中では思ったより捕まえ難い。


「くそっ、魔力なら捉えやすいのにっ。」


愚痴を言っても仕方が無いと、目と耳そして風が揺れる感覚を頼りに矢を捉えていく。


「ってか、どんだけ弓を引くの上手いんだよっ!」


いや、おかしい。人が弓を引いているのであれば、何故「不審者だ!」等と声を上げない? それに、矢はさっきから途切れる事なく俺の足を目掛け放たれている。これ程の弓の使い手が数名も本当に居るのか?

だとしたらトラップしか考えられない。しかも、執拗に足を狙って来るって事は魔力に反応しているのか。


試しにまず、足に纏わせている風魔法を解除してみる。


――――ヒュッ。

――――ヒュッ。

――――。


やはり魔力に反応して矢が放たれていた様だ。


「やっと止まったか。」


体に流している魔力には反応せず、行使している魔法だけに反応していたのはラッキーだった。ただ風魔法を解いた為、乗っていた枝が折れたり、木が揺れて見つかる可能性が出たので仕方なく木から降りる事にした。


「ってか、何考えてんだよこの学院は。本物の矢を使うとか下手したら死ぬぞ? 貴族の子供も居るんだし、こんな事で殺してしまったら大問題だろ。」


気を取り直して、足音を立てない様に細心の注意を払って歩を進め―――。


―――プツン。


「ん?」


今度は先程より体積の大きな物が風を切り、こちらに向かって来る感じがする。


「上かっ!?」


次の瞬間自分の目を疑った。先端を尖らせた杭の様な物が多方向に突き出た塊がすぐ目の前に迫っていた。


[主っ!]

[[主様っ!]]


咄嗟にクロとワカが俺の中から飛び出してきたが、それよりも早く魔力を腕に流し杭の一本を掴み塊を止める。


「「ごめんなさいっ・・・勝手に出て来て・・・。」」


クロとワカが俯きしょんぼりと項垂れる。

そう、今回の潜入作戦にあたり、隠密八雷の子達には出て来ない様に言っておいたのだ。


「いや、出て来てくれてありがとう。不甲斐ない所見せて悪かったな・・・。それに一番最初に飛びだそうとしたナルもありがとう。もちろん俺を信じてナルを止めたサクもありがとうな。」


四柱の中で最速のナルを止めたサクは流石と言うべきか・・・。

サクからの返事が無い。ナルの話によると出ていけない悔しさで、どうやら歯を食いしばっている様だ。


四柱には悪い事をしたけど・・・。


「あっ、主・・・笑って・・・。」


「ほら、クロ戻るよ。主様はもう大丈夫みたいですし。ですよね?」


ワカが微笑みかけて来る。


「あぁ、二人共悪かったな。って言うより不謹慎かもしれないけど、俺楽しいかもしれない。」


「じゃあ主様、戻りますね!」


「主っ! 頑張って!」


〈・・・ご主人のカッコイイ所見せて下さい。〉


「まかせとけっ!」


今までアスタの城でも対人戦・・・いや、相手は魔族だけど。相手のいる戦いばかりだったから、こういった罠を掻い潜る様な事はやった事が無い。寧ろ駆け引きが無く単純で楽しい。もう一度丹念に体をほぐし目を凝らす。


よくよく見ると、足元や木と木の間に無数のトラップと思われる透明の紐が張り巡らされている。


「こりゃあ、骨が折れそうだ。」


言葉とは裏腹に自分の口角が上がっているのが分かる。学院に入ってから戦闘は別として、訓練らしい訓練をしていなかった為、思いっきり体を動かせるのが嬉しい。


大きく息を吸い、長めにゆっくりと息を吐くと魔力を体に流す。血液に乗って魔力が全身に行き渡るのが感じ取れる。


「・・・行くか。」


少しだけ片足を引き、勢い良く無数の罠の中へ飛び込む。


両腕を前へ突き出し紐と紐の僅かな隙間に身を通す。着地と同時に一回転すると、今度はすぐに体を地面と水平になる様にして紐を飛び越える――――。


前、右、右、左、時には少し後ろに下がりながらと、トラップに掛からない様に進んでいる為、思ったほど前に進めてはいないが徐々にそれにも慣れ、まるで踊っているかの様な感覚で先を目指す。途中落とし穴等もあったが、徐々に研ぎ澄まされていく感覚と勢いに乗った身体には全く意味をなさなかった。


「あれ?」


ある所を境にトラップが無くなる。


「体も温まったし、もうちょっと遊びたかったけど・・・。いや、まだまだ遊んでくれるみたいだな。」


今度は完全に魔力の感覚がする・・・。魔力の感知はお手の物だ。

三方向から襲い掛かる水刃をこちらから向かい打ち、刃たらしめている魔法を解除する。一つでも解除し損ねると先程のトラップとは比べ物にならない爆音が鳴り響くだろう。


体も温まっている事も相まって、トラップを避けている時よりも先に進める。

魔法も単調では無く、水、風、火、土と手を変え品を変え向って来るが、こちらは楽しくてしょうがない。


気付くと5年生の寮はもう目の前、と思った刹那辺りを一瞬のうちに闇が包む。薄暗かったが、今度は完全な闇。自分の姿も見えなければ音も無い。


「こんな珍しい魔法ものまで用意してるのか。」


嬉しさのあまり声が弾む。


「人生何が役に立つか分からないな。」


両腕を広げゆっくりとその距離を縮める。


「祓え給い、清め給え、深淵照らし、御照覧ましませ。」


合わさった掌と掌の隙間から光が零れ、溢れ出しあっという間に闇を払ってしまった。


「あらら、光を力に変える前に終わっちゃった。まぁ、魔族の闇魔法じゃないしこんな物と言えばこんなものか・・・。」


一度だけアスタの闇魔法を体験し、心の臓が活動を停止仕掛けたのをちょっと思い出したが、恐怖は無い。むしろ今となっては良い思い出だ。


「さて、とうとう寮に着いたけど・・・。」

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