40. コミュニケーションとりました!
意志が固まった所で、明日にしようと思っていたキョウコ先生に会いに行こうとした。
予選の件もあるが、とりあえず自室のドアが直るまで使用出来る空き部屋が無いか聞いておかないと、流石にドアの無い丸見えの部屋で過ごす訳にはいかない。それでなくとも秘密にしておかないといけない事が多いし、元気な娘が多いからな。
「セイ君・・・どこ行くの?」
「セイ様、今度はどちらに行かれるんですか?」
同時に2人から声が掛かる。
「どこって、キョウコ先生に空き部屋が無いか聞きに・・・。」
俺が言い終える前にレプト先輩が眼光鋭く口を開く。
「セイく~ん、おねぇちゃんの言う事聞いてたかな? ちゃ~んとおねぇちゃんのお話は聞かないとダメだよ?」
音も無くレプト先輩の手が俺の腕を掴んでいる。少しでも敵意があれば対応も出来るのだろうが、好意しかない様なレプト先輩にこんな動きをされては、対応する間もなく掴まってしまう。
「あっ、うっ、えっと・・・。」
咄嗟の事に俺は必死に言い訳を探す。
「お、おねぇちゃん。いや、ほら、女子の階には行ったらダメッていうか、後々大変じゃない? それに、おねぇちゃんは5コ―の学生会長なんだし・・・。っていうか、おねぇちゃん目が真剣過ぎだって。」
グイッと引き寄せられ、文字通り目と鼻の先にレプト先輩の綺麗な顔がある。
「おねぇちゃんの言う事は聞かないとメッ! だよ? それにおねぇちゃんの可愛い可愛い弟が誰にも気付かれず、こっそりと部屋に忍び込む事も出来ない様なポンコツじゃないって、おねぇちゃん知ってるから大丈夫よ? やろうと思えばいくらでも方法は思いつくでしょ?」
レプト先輩のあまりの真剣さ? に気圧され、今日は先輩の部屋に泊る事を了承する。
信じてくれるのは嬉しいけど、もっと違う場面で信じてくれると嬉しいんだけどな・・・などと思いつつ俺が首を縦に振った途端に、レプト先輩の表情にパッと花が咲いた。
「あっ、そうだ。おねぇちゃんお部屋に帰ってお片付けしないとっ!」
フフン、フフン。と、もはや部屋とプライバシーを守るという役目を果たせない、自分が壊したドアの上を通り鼻歌交じりに部屋から出ていくレプト先輩を見送った。
「セイ様、大丈夫なんですか?」
「ん? 何がだ?」
レプト先輩が出て行ったドアの方から目を離さずに、ミーナが話しかけて来る。
「だって、5コ―とは言え一応最上級生の部屋ですよ? そう簡単に忍び込めるのかなぁ~って。」
俺としては、無理なら無理でも良いんだが、そうすると明日レプト先輩が悲しむだろうなぁ・・・いや、悲しむだけなら良いけど、ご機嫌が斜めになり過ぎて暴走したら大変だしな・・・。
「まぁ、何とかなるだろ。レプト先輩が言った様に思いつく方法はいくつかあるしな。」
とは言ったものの、情報が足りない事は否めない。まず、3コ―と5コ―の寮の違いそして、上級生と下級生の寮の違いを知らない。情報という点で付け加えるなら、学年が上がる=年齢も上がる。5コ―は3コ―よりも2年長いと言う事は年齢も3コ―と比べて上になり易い。つまり、あやまちを犯しやすい。そういった事情も含めて冒険者を目指す上での寮生活なのだが・・・。
自分の身は自分で守ると言う意味でこの学園の最上級生が何の対策もしないだろうか?
そして、ある程度の自由が許されているこの学園の敷地内は至る所に人の目がある。
単純にスピードで視線を振り切るだけでもダメ。何かしらの対策に慎重になり過ぎて時間を掛けるのもダメ。
魔王さんからはもう目立っても良いとお達しが来たが、女子寮に忍び込もうとしたという不名誉な目立ち方はアスタから貰ったロテの名に傷が付いてしまう。
「はぁ~っ、それなりに気合い入れないとかな・・・。」
「ん? セイ様何か言いました?」
「いや、何でもないよ。」
手を前に組み、上方に引き上げる様にぐっと背伸びをする。
思ったより時間が経っていた様で外は日が落ち暗くなり始めている。
「ミーナ。」
「どうしました? セイ様。」
「食堂行くか。」
「はいっ! セイ様から誘ってくれるなんてミーナ感動ですっ!」
荷物を抱えミーナが足早に自室に駆け出して行った。
レプト先輩とミーナに踏まれた可哀そうなドアを引き起こし、何となく元の位置にはめ込んでみる。
「ガタッ」という音と共にドアが傾く。
「ワカ、ちょっと良いか?」
ため息交じりに誰も居ない部屋に語りかける。
「はっ、主様。」
俺の隣に片膝を付き、音も無くワカが顕現する。
「悪いが、ドアを固定して人が入らない様に結界を張ってくれるか。」
「ほんっと、主様は年上に甘いですね・・・。」
ポツリと呟くワカに苦笑いで返す。
「まぁ、そう言うなよ。」
ワカの頭を撫でると、他の八雷神が居ないせいかそれじゃ足りないと、すっくと立ち上がり顔をこちらへ向け、プルプルとつま先立ちしてみせる。
やれやれと思いつつも、甘えて来る八雷神はやはり可愛い。
チュッと音を立てワカの柔らかい唇に短く口付けする。
脳内に「あ゛ーっ!!」っという絶叫が鳴り響く。
きっとワカにも聞こえているのだろうがそこは態度を変えず、仕方ないですねという素振りでドアに向きあ作業に移る。
仕方なくという態度を取っているが、鼻歌交じりに作業を進めるサクをベッドに腰掛け見守る。
[ところで主ぃ、いつレプトの所に行くつもりなんですか? ワカにドアを修理させるなら別に行かなくても良いんじゃないですか?]
「こらクロ、ちゃんと先輩を付けないとダメだろ?」
[え~っ、主は別として、私の方が年上だし、私の方が強いしっ。]
レプト先輩の事を年上、年上と言ってたかと思うと、今度は自分の方が年上と言ってみたり、女心は難しいなと思うが嫉妬心の表れかと思うと特に怒る気もしない。
「クロ、ミーナの時も言ったが・・・。」
[分かってますっ。仲良くでしょ!]
俺の言葉を遮る様にクロが言い放つ。レプト先輩の部屋で一夜を共にする上に、さっきのワカへの口付けがクロの導火線に火を付けてしまった様だ。
クロのご機嫌取りをしようとした結果、結局飛び出して来た八雷神全員と口付けする羽目なり、それを見たワカが怒るという堂々巡りが起こってしまった。
毎日っていうか、ずっと一緒に居るんだからそう怒るなよという言葉が喉元まで来たが、4柱にまとわりつかれ、やっと落ち着いた状況を壊す訳にはいかないので言葉を飲み込む。
コンコン、コン。
ノックの後、勢い良くドアが開け放たれる。
「セイ様っ! お待たせしましたっ! 折角セイ様との食事ですから髪型とかおかしくないかチェックしてたらつい遅くなっちゃって・・・、ってセイ様何してるんですか?」
ベッドに腰掛けた状態で両腕両足に八雷神が絡みつく状況に小首を傾げる。
「んー、あれだ。コミュニケーションだ。」
俺の言葉に何かを思い付いたのか口角を引き上げると、俺に向け飛びかかるミーナ。
「私もコミュニケーションしますー。」
「ちょ、バカ、ミーナ・・・。」
両腕両足には八雷神がしがみついている為ミーナのダイブが直撃しベッドに倒れ込む。
首にしがみ付き、満面の笑みで頬ずりするミーナ。
「ちょっと、ミーナ! あなたバカなの? この状況で飛び着いたら危ないでしょ! 引き裂くわよ。」
太もも辺りで和んでいたサクが声を荒げる。
「だって、八雷神様ばっかりズルイです。私だってセイ様のモノなんですから、コミュニケーション取りたいですっ。それに八雷神様はずっとセイ様と一緒じゃないですかー、私なんて夜になったら自分の部屋に帰らないといけないんですよ。」
一応仲間、いや、家族と認めているのだろう、サクが言葉を詰まらせる。
「ほらほら、喧嘩するな。」
八雷神を2柱ずつ両頬にくっ付ける様に抱きしめ、最後にミーナをギュッと抱きしめ軽くキスをする。
「皆平等にな。」
言った端から自分の体がもつのか不安を覚えるが、ご機嫌な4柱と一人の笑顔を目の当たりにすると、まぁどうにかなるかと思い直す。
「さて、飯に行くかな。」
ワカの魔法で壁に固定されたドアを開け、食堂に向った。




