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魔族に拾われたので魔族の為に生きてみようと思います。  作者: トリ天
 1章 魔族に拾われて~幼少期~
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  4. 怒りました!


「・・・めろ。」


「なんだ? ガキ、何か言ったか? 全然聞えねーぞ?」


「・・・止めろ。」


「大人の事情に、口を出してんじゃねーぞ、ガキ。」


 こちらを見下し、ナキアがアスタの首にしゃぶり付き、大きな手がアスタの綺麗な太ももを撫でる。


 その光景に怒りと悲しみで目の前がグラグラと大きく揺れ、脳が揺さぶられた様に、フラフラする。

 視点が上手く定まらない、アスタに拾われてからすっかり忘れていた怒り、いや、怒りでは収まらない憤怒、それ以上の激憤、抑えられない感情が溢れ出す。


「アスタから、離れろ―っ!」


 ありったけの声で叫ぶ。


「うっせーな、ガキ、黙ってろよ。」


 ナキアがこちらに向け、指をピンッと弾く。

 強い衝撃が僕の頭を打ち抜き、一瞬頭が後ろに弾き飛ばされるが、倒れない様に一歩足を後ろに引き、仰け反った身体を起こす。


 攻撃された・・・、アスタは嫌がっている・・・、もう、目の前の男は敵としか認識できなくなり、ボソッと呟く。


「・・・殺してやる。」


 全力で目の前の敵を倒す、その為の方法は知っている・・・。

 両手に魔力を込め、右手で左手の、左手で右手の手首を掴む。


「天の封印、地の封印、・・・。」


「何ブツブツ言ってんだ、気色の悪い、ガキだな。」


 アスタの絡んでいたナキアの姿がフッと消え、僕の前に姿を現す。

 ナキアの蹴りが、僕の顔面を捉える。

 口の中が切れ、血の味がする。痛みはあるが、怒りに身を委ねている為かダメージは感じない。


「我、憤怒を以て天の封を解き、滅殺が為地の封を解かん・・・。」


 アスタに掛けられた、この封印を解くのは初めてだった。

 

「セイ、お前の魔力量は高いから、もう少し力の制御を覚えるまで封印をするからな・・・。どれだけ良いモノを持っていても、使い方を知らなければ毒にもなる。大丈夫、セイならきっと使えるようになる。」


 昔アスタに言われた言葉が脳内で再生される。


 開封の詠唱を言霊に乗せ言い放つ。魔力と言う目に見えない力の根源それが今、目視出来る程僕を中心に渦を巻いている。


「おいアスタ、これはなんだっ! この魔力は!」


 ナキアの顔に焦りが出る。

 人との戦争において百戦錬磨の大将軍が、気押さる。


 アスタの口元が緩む。


「くっ、くくくっ。」


 顔を下に向け、歓喜の感情を押し殺すアスタ。


 膨大な魔力は、さまざまな物に干渉する。


「・・・離れろ。」


 魔法で無くとも魔力を込めた言葉は力を持ち、ナキアの体が弾かれる。


「痛っ・・・。」


 ナキアが弾かれた感想を言うが早いか、僕の拳により視界が回転するのが早いか、言魂によって弾かれた次の瞬間には、鈍い音と共にナキア頬に激痛が走り、自分が回りながら殴り飛ばされた事に気付く。


「普通の奴なら、今ので5回は死んでるぞ。」


 仰向けに倒れたナキアが膝を付く事無く、上半身からヌルリと気持ちの悪い起き上がる。

 首が変な方向に、捻じれているのを、ゴキゴキと音を立て、頭を廻し元の位置に戻す。


 ナキアと僕は向かい合いゆっくりと歩を進める。ガンッっと鈍い音と共に拳と拳がぶつかり、ナキアの拳が押し負け、右手が後方に弾かれる。


 ナキアの動きが酷く遅く感じる。相手の動きを見てからの反応でも全く問題にならない程。

 鋭い手刀による貫手ぬきて、当たれば巨木ですら簡単に薙倒すであろう蹴りも、受けるまでも無く最小の動きで躱し捌き、間合いを詰めていく。


「このままだと押し負けるか・・・。」


 ジリジリと後退していたナキアが後退を止め構え直す。


「・・・魔化。」


 言葉を発するとナキアの身体がボコボコと異常な膨らみをみせ2回り程大きくなる。肌は褐色からドス黒くなり角が伸びる、歪な4枚の羽を背から生やしこちらを睨む。


「ここまでやったんだ、冗談じゃ済まされねーぞ、ガキが。」


 タダで済まさないのは僕も同じだ。掛ける情も既に頭には無い。


「・・・殺す。」


 羽の羽ばたきで少し浮いた状態から、低空飛行でナキアが突っ込んで来る。

 ナキアの拳が、高速で俺に襲いかかる。


 構えた僕のガードを弾いたのを皮切りに、乱打に次ぐ乱打を打ち込むナキア。僕は腕を前に交差させ防御の態勢で受ける。ナキアの勢いに、地面にめり込んだ足が、土をめくり上げながら、後退させられる。


「どうしたクソガキ! さっきの勢いはどこへ行ったんだ!? あぁっ!」


 傍から見れば、防戦一方のピンチな状態だろうが、残念ながら僕は全くダメージを受けていない。


 ナキアが連打を打ち込んでいるが、俺の周りに漂う魔力層に受け止められている、一撃、一撃にしっかりと魔力を込めた燃費の悪い攻撃ならば、多少ダメージが入るだろうが、あれほどやられたにも関わらず、未だ俺を見下しているナキアには無理な注文だろう。


 大きく拳を振りかぶり、俺の防御を抉じ開けに来るナキア。だが、ナキアの拳は防御を抉じ開けるに至らない。いや、防御にすら当たらない。


 僕は防御していた腕を解除し、ナキアが力を込めた大振りの腕を取りに行く。大振りが故、多少スピードが上がった所で軌道が分かり易い事には変わりない。ナキアの腕を掴むと勢いを殺さず、地面に叩きつける。


 地面にクレーターを作り、その中心に横たわるナキアに向け、手を翳し口を開く。

 アスタが誉めてくれたこの魔法でこいつを消し去ろう・・・。


煉獄れんごく火之夜藝ひのやぎ


「・・・詠唱無し!? 古式だと!?」


 言葉を聞いたナキアが、土中で防御障壁を全力で展開する。ナキアを中心に魔力の層が2重、3重と重ね掛けされる。


 俺の目の前に、巨大という言葉もおこがましい、美麗な紅蓮の火柱が天を突く様に立ち上る。


 どれ位の時間が経っただろう、火柱が収まり辺りを包んでいた高熱が徐々に引いてゆく。

 火柱が上がっていた場所はプスプスと大地から煙を上げている。中心部は熱が冷めきらずまだ地面が赤い。


ボコッと地面が盛り上がり、ナキアが地面から這い出る。


「一瞬、いや、コンマ一秒遅かったら、危なかった・・・。古式魔法とは恐れ入る、あれを使える程の、魔力保持者が、まだ居るとはな。」


 古式魔法・煉獄れんごくの一つ火之夜藝ひのやぎ―――。派手な見た目からすれば、対象物を高温で焼き尽くすというイメージが湧きそうだが、実際はもっとエグイ。この魔法を受けた対象は内側から、正確には対象物を自ら燃える物にする魔法、燃える部分が全て無くなるまで、燃焼し続ける。


 全力の防御障壁を連続で展開し続けたと言えど、完全には防ぎきれず身体から煙を出すナキア。


 消滅させたと思った、いや、消滅させるつもりで撃ったのだが、俺の目の前に忌むべき敵がまだ立っている。奥歯をギリギリと噛み締め、次の魔法を発動させる準備に入る。


「アレを使って尚、魔力が上がるのか・・・。バケモノめ。」


「アスタを汚したお前を、僕は絶対に許さない・・・、次は無い、影も残さず、消し去ってやる。」


 怒りが抑えられず、ブチブチと至る所で毛細血管が切れるのが分かる。眼球が徐々に赤く染まり、魔力の質が変わる。


「滅・・・・。」


魔法を発動させようとしたその刹那、視界が暗闇に包まれた。


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