35. 聞きました!
「しっかし、良く間に合ったわね~? 最初の2、3歩までは見えたけどその後消えた様に見えたわよ? まぁそれは良いとして、セイ君も無茶するわね~、アレを素手で止めようとか騎士の最高位やギルドで上位クラスの盾役でも怪しいよ~?」
キョウコ先生が苦笑いにも似た乾いた笑いを投げかける。
「無我夢中で・・・、最初は先輩を守る為、魔法で吹き飛ばそうかと思ったけど、つい欲が出ちゃってイケるかなって思って。」
「いやいや、アレを正面から受け止めてみようって考えは欲とは言わないよ~」
ため息交じりにキョウコ先生が呟く。
「いや~、よくレプト様止めれましたね? 流石にアレは止めるの無理かと思いましたよ。」
いつの間にか隣にエル先輩が立っていた。
「エル先輩、こんな時こそエル先輩が止めないといけないんじゃないですか?」
俺の言葉に、ムリムリと顔の前で手の平をパタパタと振る。
「セイ君、無理言ったらダメだよ、怒ってる位なら何とか止めますけど、キレてるレプト様止めるのは自殺行為ですよ? 実際さっきもここいら一帯がクレーターになるのを覚悟したよ。しかし先生、あのレプト様をどうやって正気に戻したんですか?」
キョウコ先生は笑顔を崩すことなく答える。
「ん~? 無茶したらセイ君と遊べなくなるよ~、って言ったら分かってくれたよ。」
その話を聞き、俺を見たまま少し固まったエル先輩がいつもの様に後ろから絡みついて来る。
「いや~、セイ君は凄い凄いと思ってたけど、レプト様の怒りを押さえる程の人材だったとは私もまだまだ見る目が甘いわね~。」
楽しそうにキャッキャとはしゃいでいるエル先輩をレプト先輩が一睨みすると、よっぽどキレたレプト先輩が恐ろしいのか、すんなりとエル先輩が離れる。
「そろそろ敵さん来そうよ~。セイ君ちゃんと見とかないとね。」
「でも、キョウコ先生。あの拳結構硬かったですよ? 先輩あれに魔法じゃ無くて本当に拳で挑むんですか?」
「まぁ、見てれば分かるわよ。レプトちゃんなら大丈夫でしょ。」
フワリフワリと様子を伺っていたゴーレムの腕が狙いを定め、先程と同じ様に不自然な急加速でレプト先輩目掛け拳を打ち込んで来る。
レプト先輩がふぅ、っと息を一つ吐き拳を腰の辺りで溜める。目を凝らすと拳に妙な魔力が集まっているのが分かった。
「キョウコ先生、あれは?」
「すぐ済むよ~。よく見てなさい。」
迫り来るゴーレムの拳に合わせ、レプト先輩も拳を振り抜く。
物凄い音がすると思ったが、全くの無音、しかもゴーレムの拳もレプト先輩も動かない。未だ何が起こったのか分からずレプト先輩に駆け寄る。
レプト先輩の腕が肘の辺りまでズッポリとゴーレムの拳に突き刺さっている。
「え? これ、どういう状況?」
「弟を思うおねぇちゃんは最強って事よ。」
バチンッと音が鳴りそうなウインクを俺に向け、ゴーレムの拳にトドメをさす。
「私の可愛い弟を傷つけた罪、どこのどいつかは知らないが決して許さぬからな、今はこの泥人形に当たるしか出来ないが、首を洗って待ってるが良い堕武怒っ。」
内部に魔法を受け、ゴーレムの腕がボコボコと歪に膨らみ爆散する。
見事に木端微塵となったのを確認し、レプト先輩がこちらに振り返る。
無言のまま俺の前まで歩を進めると、力任せに抱き締め頬ずりをする。
「本当にごめんね、おねぇちゃんがセイ君を守るって言ったのに、セイ君に無理させちゃって・・・。」
「だ、大丈夫だよ。それよりおねぇちゃんが無事で良かった。」
喜びを噛み締め、火が付くのではないかと思う様な頬ずりを再開する。
「お疲れ様、流石セイ君ね。益々君が欲しくなったわ。」
襟元を掴まれ、強引にレプト先輩から引き剥がされると、再び柔らかい何かに埋められる。
「またお前か、私の可愛い弟を貴様になぞ渡すものか。それにセイ君も嫌がってるだろ? さっさとその無駄肉から開放するんだ。」
どうやら今俺の自由を奪っているのはナキアの様だ。どうして毎回毎回こいつは俺にチョッカイを掛けてくるんだ。親と一緒で嫌がる相手にチョッカイ出すのが好きなのか?
「あらあら、なにを言ってるのかしらね、術者本人でもない泥人形相手にあんな魔法使おうとした、この大おバカさんは。って言うか無駄肉ってなによっ! あんたのガチガチの体より私のスベスベのやわ肌に埋もれた方が幸せに決まってるでしょ!」
「あ゛ぁ?」
「やりますか?」
ジャリッ、誰かが傍まで近寄って来て咳払いを一つする。
「ごほんっ、一応教師が付いて来ていると言う事を忘れないで貰えるかな?」
『先生は黙ってって!』
見事なシンクロ攻撃に男性教員がガックリと肩を落とす。
「はいはい、そこまでよ~。そういう事は帰ってから先生の居ない所でやってね~。後、私闘はちゃんと正規の方法でね~。」
とりあえず、今回のゴーレム襲撃事件は一応の終結を迎えた。気になる事は山の様にあるが、俺達は一路学院へ戻る事になった。
「セイ様、凄かったですっ! シュバッ! っと急に隣から消えたと思ったらレプト先輩の盾になってガ―ンッ! って受け止めて、超カッコ良かったですっ!」
帰りながらミーナが同じ様な事をずっと繰り返している。誉めてくれるのは嬉しいが、お前も早く強くなってくれと思うが、俺と同じ事を求めるのは酷だと思い口を閉じる。
「キョウコ先生、聞いて良いですか?」
「良いけど、答えられる事しか答えないよ~?」
今日の事で答えられない事があると言う事か? まぁ、良い言える範囲で答えて貰おう。
「わかりました。じゃあまず、レプト先輩が後ろから襲われた時どうして先生達は誰も動かなかったんですか?」
「ん~そうね~、レプトちゃんを逃すもしくは庇う方法が無かったか? と言えばあったわよ~。ただセイ君みたいに直接何か出来るスピードを出せる人は居ないわね。これが一つ目の理由。二つ目は・・・。」
「レプトさんがガッチガチの硬い女だからよ。どれだけ強くて魔力をが高くても所詮ゴーレム、泥人形風情の攻撃ならガチガチ女には効かないと思ったからでしょ?」
横からナキアがヒョッコリ顔と口を出す。
「ナ~キ~ア~っ! 貴様という奴はっ、もう少し言い方ってもんがあるだろうっ! セイ君に抱きついて貰えなくなったらどうしてくれるんだっ!」
レプト先輩が怒りにプルプルと震え、また2人の小競り合いが始る。
ははっ、っと俺は苦笑いを返し、キョウコ先生への質問を続ける。
「俺が助けなくても、レプト先輩なら大丈夫だったって事は分かりました。じゃあ、こういった襲撃紛いの事は頻繁にあるんですか? 後、ウチの学院がどこからか狙われるって事はあるんですか?」
キョウコ先生が、「ん~」っと人差し指を顎に当て少し考え口を開く。
「今回の様に誰かが意図的に学院及び隣接の町に向けモンスターを差し向ける事は稀ね~、ただ、町の近くにモンスターが大量発生したり、町に向けて来たりする事はあるよ~。でもそれはあくまで自然発生のモンスターだからグレーゾーン、人為的かどうかは分からないわね~。」
「じゃあ、狙われている心当たりは?」
「先生わかんな~い。」
「可愛く言ってもダメです。」
自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、俺が発した言葉に反応したかは分からないが、キョウコ先生が頬を赤く染めていた。
「ほっ、ほら、もう学院よ。警戒態勢は解除されている筈だし、今日は遅いから早く寮に帰って寝る事。明日の授業居眠りしたら怒るからねっ!」
モヤモヤとした感じは残るが、今日の所は大人しく寮に戻る事にした。




