34. 止めました!
既に全力だった、幾度となく繰り返した全力の魔纏状態、細胞が破裂寸前まで魔力を纏わせたトップスピードは自分が一番よく知っている。スピードなら誰にも負ける気がしないと過信してしまう程の速度が出せる。
だが、それでも間に合わないレプト先輩に・・・、ゴーレムの拳が先輩を打ち抜く方が早い。
目を閉じたい、今から起こる現実を見たくない。弟と言ってくれた先輩が泥人形の拳に蹂躙される姿を。
〈〈諦めないで下さい! 必ず間に合わせます! 主君はその後に集中して下さい!〉〉
知らない声、頭に響く声、新しい八雷神である事は分かるが確認している暇が無い。
頼むっ! いや、命令だっ! 必ず間に合わせろっ!
〈〈鳴雷 主君の命承りましたっ! 駆けよ雷鳴っ、千里万里を響き轟かせよ、彼の地如何に遼遠にあろうとも、我に追えぬ影は無しっ! 三鳴。〉〉
足にチリチリと痛みが走り、足元が光っているのが分かる。
何が起こっているのか気にならないと言えば嘘になるが、今は目の前の惨劇から目を離す訳には行かない。その惨劇を打ち砕く為に。
鳴雷の詠唱が終わった次の一歩目を駆けた瞬間、景色が変わる。
目の前に壁の様な物が現れ、それをブチ破る。一瞬だが眼球が飛びだし、全身の皮膚が剥ぎ取られたのではないかという感覚が全身を襲う。
歯を食いしばり更に前へ進む。地面を蹴る感覚が無い音の無い世界を通り、次に見た景色は巨大な拳。
「色々痛かったけど、しっかり間に合った・・・。」
もうゴーレムの拳は目と鼻の先、これを吹き飛ばす程度の古式魔法ならいくつもある。
あれ程絶望的な気分だったのに、間に合ったと分かると欲が出る。全く人間の気持ちは本当に面倒臭い・・・。
こんな事したらきっと皆怒るだろうなと思いつつ、両手を前に出し構える。
でも、きっとこれを止めれたらアスタは誉めてくれるっ!
「八雷神、気合い入れろよっ!」
[主には困ったものですねぇ。]
[[ほんと、主様は私達が付いていないとダメなんですから。]]
〈ご主人の覇道の第一歩、私が裂き開きます。〉
〈〈全く、楽しませてくれる君主ですねっ!〉〉
巨大な拳が俺に触れた瞬間、轟音が鳴り響き、暴風が巻き起こる。
単純な質量とスピードによる破壊力と思ったが、ゴーレムの拳は予想以上の魔力を帯びていた。
人工的に創られた物が動いているのだから、多少の魔力が流れているのは分かるが、そういった物じゃ無い。明らかに不自然な程大量の魔力が流れている。
まぁ、そうでないとさっきまでゆるりと動いていたゴーレムがこんな超スピードで拳なんて揮えない訳なんだが・・・。
初めてこんな巨大な物を受け止めた。
実際に自分の手に触れ止めているかと言えば否である。厳密に言えば数層に及ぶ魔力の層が触れている。
しかし、体に衝撃が無い訳ではない。全身の骨が軋むのを魔力で無理矢理砕けない様に補強し、それを魔力を含んだ細胞で更に補強し耐える。
足が地面に深く埋まって行くのが分かる。このままいけばゴーレムの拳は止めれるだろう、だが俺も地面に埋まるんじゃないのか?
鳴雷 、さっきの地面を蹴らずに進む奴もう一回出来ないか?
〈〈出来ない事はありませんが、この状況でやるんですか? 強化は足のみですよ? 腕がへし折れても知りませんよ? それでもやりますか?〉〉
あぁ! やるったらやるっ! 俺はお前の君主だろ? じゃあ君主を信じてくれ。
〈〈言われ無くても信じてますよっ! でなきゃ、三鳴なんて使いませんでしたから。じゃあ、君主っ今回もしっかり耐えて下さいね! これを弾く位ならっ、行きますっ! 一鳴っ!〉〉
先程と同じ様な痛みと供に、足元に魔法陣が展開される。
さっき足元が光っていたのはこれのせいか、今度は足元を見る余裕がある。
どうやら、足に纏った雷と魔法陣が反発しあって先程の神速が出せたのだろう。さっきとは違う魔法の一鳴は三鳴程反発する力は無い様だが、それでもかなりの力が足元を押し上げているのが分かる。下手をすればゴーレムの拳と一鳴に挟まれ潰れてしまうだろう。
こりゃ、信じて無いと使え無いわな・・・。
「おぉぉりゃぁぁっ!」
全身に魔力と力を込め、一気にゴーレムの拳を押し戻す。
ゴーレムの拳は完全に勢いを失い、逆に弾かれた。
「はぁ、はぁ・・・止めてやったぜ。」
弾かれたゴーレムの拳だけが魔力を纏ってフワフワと空中に浮いている。
本体は沈黙したままの様だ。
ゴーレムの拳を止めた事に満足し、一気に破壊しようと攻撃態勢に入ろうとした時、背後から並々ならない殺気に気付く。
「・・・貴様、・・・私の可愛い可愛いセイ君にっ・・・。」
殺気の主はレプト先輩だった。
振り返る俺を自分の胸に埋め、言葉を漏らす。
「ごめんね、セイ君、体大丈夫? 不甲斐ないおねぇちゃんを許してね。そして、ありがとうセイ君。始末はおねぇちゃんがつけるから、そこで見ててね。」
レプト先輩の魔力がグングン上がるのが肌を通して伝わって来る。
目の前で起こる不測の事態に誰も動かない中、エル先輩が駆け寄り声を掛ける。
「レプト様、セイ君大丈夫!? 一旦離れて・・・、ん~、私達が離れた方が・・・良さそうかな?」
クルリと踵を返すと皆に離れる様に、エル先輩が伝えている。
「皆~っ、レプト様がブチキレたから、もうちょっと下がって~。」
その言葉を聞き、ここに居る俺は大丈夫なのか? と思った。
「おねぇちゃん、大丈夫? あまり無茶したら怒られない?」
レプト先輩の胸から顔を出し、声を掛ける。
「それをセイ君が言うかな~。そうね、もしかしたら怒られちゃうかもしれないね、でもねっ、おねぇちゃんもう怒っちゃったから・・・。」
他人事のようにそう呟き、二コリと微笑む先輩にゾクリとした。
レプト先輩がゴーレムの腕に向き直り手を翳す。
「大地に眠し大いなる力、脈々と流れ耐える事無きもの、全てを喰らい全てを飲み込むその姿・・・。」
「はいっ、ストップ。」
いつの間にか傍に来たキョウコ先生がレプト先輩の肩をポンと叩く。
「もう、レプトちゃん、セイ君傷付けられて怒るのは分かるけど、それはダメ。言ってる意味分かるよね? セイ君も体張って助けたんだし、レプトちゃんもおねぇちゃんなら、同じ様に見せてあげれば良いじゃない。貴女なら出来るでしょ。」
何をやろうとしたのか俺には分からなかったが、かなり殺気立ったレプト先輩に笑顔で声を掛けるキョウコ先生。普通なら近寄りたく無い程の殺気の筈なのに、一体キョウコ先生って何者なんだ?
キョウコ先生のあっけらかんとした態度に多少冷静になったのか、レプト先輩の詠唱が止まる。
「はぁっ、それもそうね。ここで強制送還とかなったら、セイ君と離れ離れになっちゃうもんね。じゃあ、おねぇちゃんの怒りの鉄拳受けてもうかなっ。」
レプト先輩が腕を一回転させ、ゴーレムの腕に向い直る。




