27. 壊しました!
朝から濃いスタートだったが、やっと教室に着き、一日が始まった。
「セイ様ぁ、流石に女の子にアレは酷すぎます。恥ずかし過ぎて死んじゃうかと思いましたよ。」
「そんなしょうも無い事で死ぬな。次から言われない様に気を付ければ良いだろ?」
「セイ様が気に病まない様に気を付けますけど、私まだお金を稼ぐ術が無いので・・・お金の掛かる事は少し甘めにお願いしますぅ。」
手を組み人差し指をクルクルと回しながら言い難そうに言葉にする。
「金は俺が稼ぐ、必要な事があれば言え。実験に付き合って貰ったり、体でしっかり払って貰うから気にするな。」
ミーナが「そんなぁ」とプルプル震えていたが、嬉しくて震えている事にして先生が来るのを待った。
今日から本格的な魔法の実技授業が始まる。
座学を聞く限り実技に関してもあまり為になるとは思えないが、とりあえず将来のギルド要員がこの学校に集められているんだ、現時点での実力を測るには丁度いいだろう。
魔力測定の時は魔族の脅威に成りそうな奴は居なかったが、能力が特殊もしくは、俺の知らない強力な魔法を使える、俺より強い奴が隠れている可能性が無いとも言いきれないからな。
ガラガラッと教室のドアが空き、キョウコ先生が入って来る。
「みんな集まってる? 昨日言った様に今日から実技が行われる訳だけど、学院の実技は3年コース・5年コースで合同実習になります。3年コースの1年生は、基本5年コースの1年生との合同になりますが、5年コースの2年生も少人数ですが参加するので皆仲よくする様にね。喧嘩とかはあまりしないでねぇ、怪我しちゃうから。」
とても緩い注意事項の後、着替え演習場に集まる。
5コ―の2年生がどうして参加しているのか、キョウコ先生に聞くと、座学は得意だが実技はまだまだ力不足で出来るだけ実技の方を受けさせたい生徒って言うのが出るらしい。またその逆も居るらしいが、そういう生徒が一学年下の実技に参加するそうだ。
実技の授業内容は特に興味を引かれる事は無い、使う魔法の制限は無いただの的当てだった。
3コ―の生徒に魔法を飛ばせない生徒は居なかったが、5コ―の生徒にはチラホラ魔法は出せるが狙いが定まらない、長い距離飛ばせない生徒も居る様だ・・・。レプト先輩が5コ―に入れられ一年間愚痴を溜め続けたと言うのも頷ける。
模範として俺に喧嘩を吹っかけて来たナオという女が、先生に呼ばれ前に出て実演する事になった。
ここで俺が出て行っても仕方が無いので、普通の生徒の中からそこそこ使える奴を選んだって所だろう。
模範で呼ばれたナオが何系の魔法を使うのかと思いあまり期待せずに見ていた。「信仰信仰」と喧しいだけあって最初の動かない的に当てたのは信徒が好む属性、そこそこ高難易度とされている光属性の閃光を放って見せた。真っ直ぐに飛ばすだけならば、さして難しくない魔法を自信満々に使う辺り実力が知れる。
次に動く的になった時は自身が無いのか、選んだのは初歩で使われやすい火の魔法だった。そこは格好付けて多少扱いの難しい水か風を使って欲しかったが、とんだ期待外れだ。
まぁ、他の同学年と比べればそこそこのスピードの出る的に当てるだけでも優秀なだろうが、残念ながら俺に喧嘩を売るにはかなり実力不足の様だ。
座学で見事に一歩目から躓いていたミーナは実技に関してはなかなか筋が良く、初級の魔法で躓く事は無い様だが、見る限り少々動く的に当てるというのに慣れるまで時間が掛かりそうだ。
座学に引き続きやる事の無い授業だ。他の本を読んだり、ボーっと考え事を出来ない分屋外での実技の方がタチが悪い、仕方なく演習場をプラプラと歩く。
ふと昨日の事を思い出し、故意か偶然かまだ分からないが攻撃魔法が俺に向け放たれた場所に向ってみた。
「昨日俺が居た位置があそこ、角度的に撃って来たはこの辺か・・・。」
どういった授業をしていたのかは分からないが、俺に向けられた魔法が一発なら、まだ弾かれてたまたま俺の方に飛んで来た可能性があるんだが、炎の魔法に被せての風の刃、殺傷能力としてはイマイチだが明らかに俺を狙った攻撃だよな・・・。
殺傷能力という点で気になる事があったので、俺はキョウコ先生の所に戻り、3コ―の3年生のレベルについて聞いてみた。
俺を探していたのか、キョウコ先生の視界に入るなり声を抱えられた。
「もう、セイ君、どこに行ってたの~、探したよ~。」
「キョウコ先生、ちょっと聞きたい事が・・・。」
「もう、聞きたい事も良いけど、ちゃんと授業受けて貰わないと先生困るよ~。」
困ると言われても、俺も目立つのは困る。かと言ってワザと的を外しながらやるのも、変な癖が付きそうで嫌だ。
辺りを見渡すと俺を嫌っているであろう奴らは、模範として扱われ気持ち良くなったナオを中心に、5コ―の生徒にも色々と教えている。俺がここで真面目にやってまた絡まれても面倒だ。
しかし、実習も受けないと質問に答えてくれそうにない。妥協案を考え、キョウコ先生に進言する。
「先生、一回だけやれば良いですか?」
「そうね~、出来るのは分かってるけど、ちゃんと見せて貰わないと評価出来ないのよね~。」
ミーナはどこに居るか辺りを見回す。低速の的当てには慣れた様で、丁度高速で動く的に魔法を当てる練習をしていた。良い具合にミーナ以外はその的を使っていない様だったのでアレを使わせてもらう。
「先生、ミーナの的を使います。」
「あの隅っこでやってる的ね、じゃあ行きましょうか。高速仕様みたいですし、ちょっと距離があるからちゃんと当たったか・・・。」
パンッ! 的が木端微塵に弾け全員がミーナに注目する。
これだけ離れていれば、まさか俺が撃ったとは誰も気付かないだろう。
「これでいいです?」
キョウコ先生がため息交じりに肩を落とす。
「セイ君・・・あの的、上級生でも壊せるような魔法を使える人は、ほんの一握りよ。一年生の授業で壊したら皆ビックリしちゃうよ? ん~でも、良く当てたわね~。結構速いよ? あれ。」
「そうなんですか? でもアレに魔法を当てる練習じゃないんですか?」
「普通はアレに魔法を当てると、反応してピカ―ンって光るの。ちゃんと説明聞いて無かったの~。まぁ、いいわ。それで何を聞きたいって?」
先生の言った通り、ミーナの周りに人だかりが出来ミーナがオタオタとしてるが、まぁ何とか誤魔化してくれるだろう。
「はい、聞きたいのは3コ―の3年生が使う魔法のレベルについてなんですが、火属性の爆炎、風属性の堅風刃を連続で撃てて、スピードはそうだな・・・、今の授業で言えば、低速の的なら正確に当てれるレベルってどの位ですか?」
キョウコ先生が腕を組み、少し考える。
「そうね~、上位の5人なら確実に出来るんじゃないかな~。」
「・・・上位5人か。多少は絞られたか。先生、学校で正式な手続きを踏まずに戦闘を行った場合のペナルティは?」
「また物騒な質問をするのね~、特に大きな怪我、学校の備品破壊が無ければ謹慎ね。その逆なら退学もあり得るわね。それに、正規のギルドに入りたいなら、そういった行為は内申点にかなり響くからギルドの面接時大幅にマイナスポイントになるわ。」
学校のペナルティは俺達魔族側なら魔王さんに怒られるかもしれないが、人間よりは今後の進路に影響は少ないか・・・。
ん? 今先生の言い方少し妙だったな。
「先生、ギルドって正規以外にあるんですか?」
「え? あっ、いや、そんな事より、どうして3年生のレベルなんて聞くの? しかも、罰則まで聞いて闇撃ちでもやるつもり?」
何だかはぐらかされた様な気がしなくもないが、一応キョウコ先生はこちら側に着いてくれている。
報告ぐらいはしておいた方が、何かあった時に潰しが利くかな?
俺は昨日寮へ帰る途中に演習で起こった事を話した。
「あらあら、それはまた災難だったわね~、まぁ先生の見立てだと、さっきのセイ君が言った魔法を喰らったとしてもセイ君は無傷だったでしょうね~。故意に狙う位なら面と向かって勝負しに来ればいいのにね~どうせその内バレるんだろうし。あっ、そうだ! なんならセイ君、3年の教室に喧嘩でも売りに行ったら? 勝負したい奴は来いって。そっちの方が手っ取り早くない?」
キョウコ先生がニコニコと物騒な事を言ってる、そう言えばこの人実戦向きって言ってたしな、裏でチョコチョコと画策するのは苦手なんだろう。まぁそれが早いと言えば早いんだが、目立つなって言われてるしなぁ・・・。
「あっ、そうだセイ君、放課後渡す物があるから職員室来てね。」
キョウコ先生と少し雑談の後、なかなか的に魔法を当てれないミーナをひたすらしごいた位で、特に取り上げる事は無く、初めての屋外実戦授業は終了した。
「まさか教室に帰る前にシャワーを浴びれる施設があるなんて、知らなかったな。」
〈ご主人酷いです、私の楽しみを奪うなんて・・・。シクシク・・・。〉
サクが俺の中でメソメソしている。実際股間から声が聞こえている訳ではないが、股間の辺りから魔力が漏れサクの声として伝わって来るので、つい意識してしまう。
仕方ないだろ? 俺だけシャワー浴びずに教室に戻ると変な目で見られるじゃないか。
〈だって、だって、楽しみにしてたのにぃぃ~!〉
分かった分かった、今日いっぱいシテやるから泣くな、なっ。
〈ホントですか? いっぱいですか? 気を失う様な素敵な経験出来ます?〉
・・・善処する。
シャワーを浴び終わり教室に戻ると、ミーナが泣きそうな顔で待っていた。
初めての一日演習で疲れたのか、続々とクラスメートは寮に帰っている。
「セ、セイ様~今日私の的壊したの、セイ様でしょ? あの後皆が質問攻めに来て大変だったんですよぉ。」




