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 20. 貴方しかいませんでした!

「今度はなんだ? また勉強が分からないのか?」


 ため息交じりに吐き捨てると、唐突にミーナに抱きつかれ静かに部屋の扉が閉まる。


「おっ、おい、どうした? ・・・ん? 泣いてるのか?」


 しがみついたまま何も喋ろうとしないミーナ。

 仕方なく落ち着く様にミーナの頭を撫でてやる。


「セイ君・・・引かない?」


 蚊の鳴くような声を絞り出す。

 やっと喋ったかと思ったら、良く分からない事を口走るミーナ。


「何の事だ?」


「お願い、引かないでっ。」


「だから、何だよ?」


 「怒らないか?」と聞いて話す内容は大抵怒る内容である、「引かないか?」と先に聞くと言う事はつまり、そういう事だ。


「セイ君・・・お金持ち?」


「はぁ?」


「わ、・・・私を・・・買ってもらえませんか?」


 震えるミーナの口から、予想だにしていなかった言葉が吐き出された。


「ミーナ、お前何言ってるか分かってるのか?」


「・・・分かってる。」


 俯き今にも消えそうな声で返事を返して来る。


「ミーナ、一晩金を払って抱けって事か?」


「・・・。」


 この期に及んでミーナは何を悩んでいるのか、また黙ってしまう。


「度々ミーナの言動には貧乏臭がしていたが、流石にここまでとは思わなかったぞ? いつもこんな事してるのか?」


 顔を上げ激しく首を横に振るミーナの目に、まだ流し足りないと涙が溜まっているのが分かる


「ちが・・う。」


「じゃあ、とりあえず理由を言え。話はそれからだ。」


 理由を話さない内は取り合ってもらえないと観念したのか、ポツリポツリとミーナが語り出した。


「ウチの孤児院ね、院長はお金いっぱい持ってるけど、院にはあんまりお金無くって、私も拾われてから、ずっと働かされていたの・・・。あるのは冷めた食事と寝床、生きていく最低限の生活だった。」


「それで。」


「たまたまギルドの学院生徒募集の旅団が来て、孤児院の魔力測定が行われて、私に魔力が多い事が分かったの。それで、私はここへ来る手続きをさせられて・・・、入学金は院長が出してくれて、学費は奨学金でまかなってて・・・。」


「それで。」


 徐々にミーナの声が震えていくのがわかる。


「それで・・・入学金は・・・学校に・・・学校に・・・ひっく、ひっく・・・学校に入ったら、金持ちが居るから、体で・・・うっ、うぅ・・・稼いで送れって。」


「・・・。」


「それで、・・・色々と調べて、・・・でも、・・・やっぱり、怖くなって・・・・でも、少しでも、お金送らないと、学校に、・・・居られなくなる・・・、もっと、ここに居たい。セイ君と一緒に居たいっ。」


 手で顔を覆い、嗚咽を漏らす。


「もし、・・・セイ君が・・・買ってくれるなら・・・。」


「おい、ミーナ、俺に懐いてるのは分かる。それに確かにお前はスタイルも良いし、可愛らしい顔してるよ、買ってくれと言えば金を払う奴は五万と居るだろう。ただ、お前は俺が金で人を買う様な奴と思ったのか?」


 人を金で買う様な人間と思われていたのかと思うと流石に腹が立つ。

 俺がそういう人間に見られていたとしたら、俺を育ててくれた魔族が同じ様な目で見られている気がしてならなかった。


「ち、違うっ。・・・でも、・・・どうして良いか分からなくて、・・・買われるならっ、買われる事しか私に道が無いならっ! セイ君に買って貰いたいっ!! 一晩だけじゃ無くて、私の人生買って貰いたい!! セイ君じゃなきゃ・・・やだ・・・やだよぅ。」


 慎重に考えるとすれば、泣き落としで金を巻き上げる手段として、作り話をしていると考えれなくもない。ただ、学院に入ってからのミーナの言動を見る限り、そういう事をする娘であるとは思いたくない。


 目の前で泣き崩れるミーナを見つめ、キョウコ先生の報酬の話を思い出す。

 アスタに育てて貰っておいて、簡単にお金くれなんて流石に言えない。

 しかも、俺は魔族側の人間として生きると決めた身だ。非情と思われるかもしれないが、報酬の話しが無ければこの話は断っていたかもしれない。もしくは友人として別の手段を一緒に考えていたかもしれない。


 ただ、今は金に関してはアテがある・・・。キョウコ先生の話を鵜呑みにすれば、まず足りないと言う事は無いだろう・・・。


「・・・運命・・・か。」


 深いため息を吐く。


「え?」


「必要なのは、入学金だけなのか?」


「・・・利息が付けられてる。」


「チッ、ゲスイ孤児院長様だな。」


 ぞんざいな扱いで育て、売り飛ばす・・・家畜以下の扱いか、反吐がでるな。


「ミーナ、俺がお前の人生を買うって事は、お前は物と一緒だぞ?」


「・・・うん。」


「お前がどれだけ俺を慕っても、所有物以上にはなれないぞ?」


「・・・う゛ん。」


「俺以外が一晩だけの付き合いで買えば、返済後は自由の身なんだぞ? それでもか?」


「・・・う゛ん゛。」


「ミーナの人生を買うんだ、俺の為に死ぬ事もあるかも知れないぞ?」


「それまでっ、・・・それまで、傍に置いて貰えるならっ。」


 多少揺さぶりを掛けてみたが、ミーナの覚悟は本物の様だ。


 目を瞑り思考を巡らせる、ミーナの事、魔族の事、アスタの事・・・。

 魔王さんに言われ俺が学院に入った理由、その為に女性が居た方が都合が良い事もある?

 こじつけにも似た理由を考え、もう一度深く深く呼吸をし、目を開く。


「・・・分かった。買おう。」

 

 この判断が正解なのか不正解なのか分からない・・・。

 本来なら独断で決めて良い事ではないはずだ。ならば、不正解とならない様に最善の努力はしないといけない・・・。


 俺の言葉にホッとしたのか一瞬顔が綻ぶが、再び顔色を曇らせ、ミーナがそっと箱を挿し出す。


「なんだ?」


「ど、奴隷の首輪・・・。」


「ったく、こんな物まで持たせてるのか・・・。学院に居る間ずっとこれを着けさせる気だったのかよ。」


 ミーナの箱を持つ手が震えている。俺は大きく深呼吸し、覚悟を決める。


「ミーナ、服を脱げ。」


「え?」


「服を脱げ。」


「・・・はい。」


 今から何をさせるか脳裏を過ぎったのか、ここに来た時の恐怖が収まっていないのか、足が震えているのが分かる。


 ワンピースの背中のジッパーを下ろし、服を足元に落とす。

 顔を背け、胸元と下半身を手で隠す。


「手をのけろ。」


「・・・はい。」


 可愛らしい顔にほっそりとした体、胸は大きくも無く小さくも無いと言った所か・・・。

 下着は見るからに安物といった物を付けているが、薄暗い部屋の中では妙に艶めかしく見える。


「下着も邪魔だ。」


「・・・はい。」


 まだ誰にも汚されていないであろう裸体が露わになる。

 あくまで冷静にミーナの体を上から下まで観察する。


「ミーナ、スタイルは良いがもう少しだけ肉を付けろ。」


 見た目だけを求めるのならこれはこれで美しいのかもしれないが、俺の所有物としてこれから先、簡単に壊れて貰っては困るし、ある程度の実戦を考えればもう少し戦いに耐えられる体を作らせないと・・・。


「・・・うん。」


「ミーナ、最後にもう一度だけ聞くぞ? 死をも恐れず俺の為だけに生きるか?」


「はい。」


「わかった・・・。じゃあ、両手を出せ。」


 そっと出された震えるミーナの手に触れ、魔力で拘束し縛った端を天井に突き刺す。

 両腕を上げ、吊るされた状態になる。


「セ、・・・セイ君?」


 思っていた事と違う展開に戸惑うミーナが声を漏らす。


「俺も覚悟を決めた。もう後戻りは出来ないからな、俺にも外部に決して漏らせない事情がある。ミーナを信じていない訳じゃないが、これもケジメだ、今から首輪よりも酷い事をお前にする。かなりの苦痛を伴うが耐えてくれ。」


 覚悟を決め、短かった友達という関係に終止符を打つ様に力強く頷くミーナ。


「クロ、ワカ出ろ。」


「はいっ、主っ。」


「ここに、主様っ。」


 誰も居なかった筈の部屋に、突如現れる可愛らしい2人の従者に目を剥くミーナ。


「え? 誰? セイ君、この子達は?」


「黙ってろミーナ、後でちゃんと話してやるから。」


 今から行う事に不安ない、ただ初めての事に緊張しているのか、言葉尻がどうしてもキツくなってしまう。何とも情けない話だ。


「クロ、ミーナの口を塞げ誤って舌を噛まない様にな、ワカは魔力が部屋から漏れない様に結界だ。」


『はいっ!』


 ミーナは今まで見た事が無い程真剣な面持ちで、強い言葉を使う俺をただ見る事しか出来ない。


 一体今から何が行われるのかハッキリとした事は伝えておらず、俺の言った苦痛とはミーナが考えている事では無い。


 今から自分の身に降りかかるであろう未知の体験に恐怖しているのだろうだろう、ミーナの体が震える。

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