19. 相談されました!
「ん? ミーナ? どうした?」
こちらを向いたミーナの目には、今にも零れそうな涙が溜まっていた。
「・・・セイ君、・・・どうぢよう。」
流石に自室の前で泣かれても困る、しかし、簡単に自室に入れて良いものか悩む、ひとまず書類を置く為に部屋に入る。
「って、何でミーナも入ってるんだ?」
「うぅ・・・。だって、部屋の前にずっといるのも変でしょ?」
全くミーナは神経が細いのか図太いのか、本当に分からなくなる行動をとる娘だ。
「ここ、男の部屋だぞ? 大丈夫なのか?」
やっと状況を把握したのか顔を真っ赤にし、酸っぱい物でも食べた様な顔で、オロオロとしている。
これが演技だったらマジで許さないからな・・・。
とりあえずミーナを座らせ、湯を沸かし魔族領から持って来たコーヒーを入れる。
「良い香り・・・。」
「ほら、口に合うか知らんが。」
ミーナがコーヒーに口を付ける。
「・・・美味しい、・・・初めてこんな美味しいコーヒー飲んだ。・・・でも、・・・お砂糖無い?」
一体なんだっていうんだ、泣きそうになっているかと思ったら、慌ててみたり挙句の果てに図々しくも砂糖は無いかだと? 大きくため息を吐き、角砂糖の瓶を渡す。
なんだかんだ思っても、魔族領で獲れたコーヒーが旨いと言う一言で気を良くする俺も大概だけどな・・・。
ポチャン。 ポチャン。 ポチャン。
「いやいや、入れ過ぎだろ!? 味分かんなくなるぞ?」
「えへへ、こんなに砂糖使える事無かったから、つい。」
孤児院でも砂糖位はあるだろうに・・・。
「それで、どうしたんだ?」
少しの沈黙が流れる、ミーナが口を開くまで俺も黙ってコーヒーを啜っていた。
「あっ、あのね・・・。」
やっと話す気になったかと、もう一口コーヒー啜りカップから口を離す。
「授業に着いていけないの・・・。」
ブーッ! ついコーヒーを吹いてしまった・・・。
目の前に居たミーナの顔はコーヒーまみれになっている。
「もう、セイ君、汚ないよぉ・・・まぁ、セイ君だから良いけど・・・。」
口を押さえ、また顔を真っ赤にする。忙しい奴だ・・・。
「悪い、火傷はして無いか? これを使ってくれ。」
タオルを取り出しミーナに渡す。
「しかし授業に着いていけないって、どこが分からないんだ?」
「・・・全部。」
あの教本のどこをどうやったら、分からないと言う結果に結びつくのか分からない。
逆に興味を持ってしまい、教本を開かせ分からない所を聞くと、どうやら読み書きから怪しい部分がある様だ。
おもむろに立ち上がり、俺は鞄から新品のノ―トを一冊取り出し、ミーナの前にポンと落とす。
ミーナはどうしたら良いのか分からず小首を傾げる。
「書け。」
「え?」
「ひたすら書け。・・・教本の複写だ。この教本の内容に意味なんてほぼ無い。」
「え? え?」
「分からない単語は聞け。ひたすらペンを走らせろ。」
「セ、セイ君、顔怖いよ・・・。」
「この子供の絵本より意味の無いタチの悪い教本すら分からない、という奇跡を見せて貰ったからな。読み書き位出来るようにしてやる。・・・2日間だ。寝る間も惜しんで複写しろ。」
「ひぃぃぃ・・・。」
ミーナが本当に、読み書きが出来なかったとは思わなかった。
本当に良く学院に入れたな・・・。って言うか、これが普通なのか?
「ミーナ。」
「はいっ!」
「皆はどんな感じなんだ? お前と同じ位なのか?」
「いや、多分私が一番出来ないと思うけど、所々分からない箇所がある人も居たみたいだったけど・・・。」
マジか・・・。眩暈がするレベルだな・・・。
その日から、俺が謹慎中の残り2日間授業が終わった後にミーナを教える? 事になった。
ハッキリ言って、これを教えると言って良いのか分からないが・・・。
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次の日、俺は朝からキョウコ先生に貰ったクエストに取り組んだ。
どこぞの遺跡に描かれていた壁画の解読が一つと、これまた古い魔術書の解読だった。
要はミーナと同じ、どの文字が何を表しているのか、何を伝えたいのかを考える。
まぁ違うとすれば、分かっている事が一つも無い所から仮定を立て、当てはめて意味が通じる様になるか、パズル要素が追加されるが、アスタの城で膨大な量の知識を詰め込んだから、どこか一つカチリと嵌まれば、後は雪崩式に解けていく。
キョウコ先生に用意して貰った、風土記と辞書と書類の睨めっこが始まり、ありがたい事にあっと言う間に謹慎の3日は過ぎる。
目の下にクマを作ったミーナが謹慎が解ける朝、ノートを持って来た。
「お、終わりました・・・。」
複写の最後の方は眠さのせいか、ミミズが這った様な字になっているが、流石に2日間は酷かな? と思い始めていたので完成度はどうであれ、やり遂げたミーナを褒めてやった。
「え、えへへっ。」
俺がクエストを解き終わったのは、その日から、更に一週間後だった。
ミーナも何と書いてあるか分からない所を俺に聞きつつ、文字の練習も兼ねた複写をやったおかげか、何とか授業に着いていけてる様だし、まぁとりあえずめでたし、めでたしかな?
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その日授業が終わった後、俺は終わったクエストを持って職員室に向かった。
「キョウコ先生居ますか?」
「はいは~い。ここに居ますよ~。」
いつも通りの返事を聞き、職員室の中に入る。
キョウコ先生の机に向い、書類と辞書を返す。
「ふふ~ん、流石に無理だったでしょ~っ。もうちょっと粘るかと思ったけど、まぁしょうが無いよAクラスとSクラスの依頼だからね。社会勉強も兼ねた良い暇つぶしにはなったでしょ?」
「ん? 何か勘違いしてないですか先生。終わったから持って来たんだけど。」
何を言いてるか良く分からないと言った顔をし、呆けるキョウコ先生が動き出すまで5秒掛かった。
戦場ならば5回は死ねる時間だ。
「・・・はぁ!?」
キョウコ先生の大きな声に、職員の注目が集まる。
しまったという顔で、小声で俺に語りかける。
「セイ君、良い? Aクラスのクエストとか、Sクラスのクエストは、1つ取っても、10日やそこらで終わるものじゃないの。分かる? Aクラスの底辺クエストで一か月・・・Sクラスになると、下手したら数年掛りでやる物なの! 分かる? 分かる?」
終わった=出来たと言う俺の言葉が信じられないのか、キョウコ先生が捲し立てる様に言葉を吐き出す。小声だった声が徐々に大きくなり、だんだんと顔が近く詰め寄られる。
クラスと言う物は良く分からないが、元ギルドメンバーだった先生には思う所があるのだろう。
これは早々に切り上げた方が良いと踏み、先生に言葉を返す。
「分かった、分かった。じゃあ先生正解だったら教えてくれよな。」
ポカンとするキョウコ先生を残し、職員室を後にした。
その更に一週間後、学院の3年コースの校舎に異変が起こった。
何か垂れ幕が掛かっている・・・。
『祝 キョウコ先生 S級解読師受賞!』
向こうから何かが猛スピードで、走って来る。
「セイくーん! どうしよう、どうしよう、セイ君の解読文提出したら、こんな事になっちゃった!」
「そっか、良かったね、授業始るよ?」
両肩を掴まれ、ブンブンと大きく揺さぶられる。
「良く無いわよっ、私実戦向きって言ったよね? 言ったよね? 解読系とか素人以下なのにぃ~っ! 朝一でアスタちゃんにも相談したの!」
アスタの名前が出て来たので、嬉しくなり声が大きくなる。
「何て言ってた?」
「「帰ったらご褒美やらないとな」って言ってたかな、後、「セイには称号とか要らないから、報酬の半分やってくれたら良い」って言われた・・・。」
どうしてあまり似ていないアスタの真似を織り交ぜるのか分からない。
「じゃあ、そう言う事で。」
更にキョウコ先生が俺を揺さぶる。
「報酬って私の給料の数年分・・・下手したら、数十年分出るのよ! Sクラスクエスト、Aクラスクエストはそう言う物なのっ!! 受賞が決まって校長にも呼ばれて、給料大幅アップするからこれからも頑張ってって言われるし・・・。どうしようセイ君~。」
涙目で訴えるキョウコ先生が、何だか可哀そうに見えてきた。
「分かった分かった、どうせこの学校の座学で教わる事は無いし、たまに、クエスト手伝ってやるから、泣くなよ。」
「・・・本当?」
「あぁ。」
「ホントに本当?」
「あぁ。」
「約束だよ?」
「くどいっ。授業いきますよっ。」
「ちょっと、セイ君、待ってよ~。」
全く、どっちが先生だよ・・・。
その日の夜、シャワーを浴び一息付いた時、部屋の扉をノックする音がする。
ドアを開けるとミーナが立っていた。
何も言わず、また勝手に部屋に入られる。
もう、嫌な予感しかしない・・・。




