18. 初めての謹慎しました!
ジンがご愁傷様と言わんばかりに、語りかけて来る。
「ウチの学年にも二年生にも、目ぼしい奴が居たら、ああやるんだよ。」
魔族はそういう事に関して緩い節があるが、そんな事を知らないであろう先輩に向け、敢えて口悪く返事を返す。
「それって、ただのビッチじゃないですか?」
「それがな、最終的な行為にまで至った者はまだ誰も居ないんだ。」
男子全員が俺達を取り囲み、聞き耳を立てる。
「まぁ、多少乳を揉んだとか位なら聞くんだが、たぶんさっきの君みたいな感じでナキアに触らされたって所だろう。少しの間は積極的に絡まれるんだけどな、何かを境に全く相手をしなくなるんだ。何が彼女のお眼鏡に適わなかったのか分からないが、・・・俺達はそれをナキア難民と呼んでいる。」
「何ですかそれ?」
どうでも良過ぎてそれ以上の言葉が見つからなかった。
「あれだけスタイルも見た目も良い奴に毎日言い寄られて、それが急に全く無くなるんだぞ? 正常な男子なら心にポカンと穴が空いた様な気分になって、生活に支障が出る事だよ。」
「しかしまぁ、よくそれで襲われたりしないですね。」
「まぁ、戦闘においては、学年トップクラスだからな。」
「トップでは無いんですか?」
ふと疑問に思った。目立たない様にするのであれば、わざわざトップクラスなんて言われる位置に居なくて良いし、逆に本気でやっているのなら仮にも魔族で、しかも魔王さんの部屋で仕事を行い、アスタが戦争中なら時間を裂く事すらままならないと言わせる親を持っているんだ。トップを取れない方がおかしい。それほど人間側に強い奴が居るのか?
「あぁ、上位3人とは戦わないらしいからな、本気は出したくないんだと。」
「へぇ~、本気ねぇ・・・。」
「ナキアの戦いは、本当に子供と遊ぶように戦うからな。真面目に戦闘をやっている所を見た事ある奴は居ないよ。」
その後、ジンを取り囲み、3年コース、5年コースの美女ランキングや、女子寮に忍び込んだ奴、女子風呂を覗いた奴の末路を面白おかしく話し、オリエンテーションは終了した。
自室に戻ると着替え等の荷物が届いていたので、一通り片付けていると、夕食の時間だと部屋をノックする音がする。
ゾロゾロと一年生全員で巨大なガラス張りの建物に向かう。
寮が建ち並ぶこのエリアの中心にある食堂は、門限までの時間ならいつでも利用可能らしく、5年コースの生徒もここを利用する様だ。
今日は新入生歓迎会と言う事で、いつもと違うテーブルの配置で立食形式になっていると先輩が言っていた。
食堂に集まり、3年コースの代表が挨拶を行い、立食会が始まった。
教員も数人顔を出している様だが、卒業すればギルドに入る事を考えてか、こういった行事は教員たちの手をほとんど借りず、自分たちで立案し、学校から予算を提示され、予算内で計画・実行するのが学院の方針らしい。
立食の途中で、5年コースの5年生、4年生、2年生の先輩に声を掛けられた。全員魔族の先輩で、話しは魔王から通知が来ていたらしく割ともみくちゃにされる歓迎を受けた。
同級生の男子から年上キラーの称号を貰ったが、止めてくれと丁重にお返ししておく。
「セイ君、セイ君。」
キョウコ先生が手招きしているので傍に行く事にした。
「先輩達に可愛がられてる様ね。」
「まぁ、話しが行ってるから、挨拶に来ただけでしょ?」
「それはどうかな? 学年では堅物で通っている子まで、混ざってたから、案外狙われてるかもね。」
魔族と言う種族の性質を知ってか知らずか、キョウコ先生がニコニコと楽しそうに話す。
「あー、明日だけど、寮のロビーで教本配るから、ちゃんと登校時間に起きてロビーに来てね~。」
「分かりました。」
それを聞き会場に戻ると、魔力測定後に話しかけて来た同級生に、さっき挨拶に来た上級生を紹介しろとせがまれ、仕方なく今度はこちらから頭を下げに上級生の所を回った。
あれだけ連れて行けとやかましかった同級生も、いざ上級生の輪の中に入ると借りて来た猫の様に縮こまってしまい、結局俺が挨拶回りしている所に、ただ着いて来ているだけ状態だ。
「お前ら、連れて行けと言ったのに、結局俺しか話して無いじゃねーか。」
「悪い、セイ、お前が折角連れて行ってくれたのにっ、あんな美人に囲まれたら、上手く話せなくなってしまった・・・。それにっ、何だかいい匂いもするし、俺、今日興奮して寝れないかもしれないっ!」
どうやら、全員同じ様な状態だったらしい。
まぁ、かく言う俺も、アスタ城での教育が無ければこいつらと同じ様な状態だったのかと思うと、あまり強くも言ってられない。
こいつらだけでも、相手が魔族だと分かっても今と同じ様に偏見無く、接して欲しいなと思った。
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翌朝、昨日歓迎会が行われた食堂で朝食をすませた後、寮のロビーで教本が配られた。
同級生達は教本を受け取り「謹慎頑張れよ」等、冷やかしを言いながらながら、教室へ向かう。
結局入学早々やらかした上に謹慎を喰らったが、上級生に可愛がられていた事もあり、同学年の同性からは壁なく声を掛けられる位の状態は維持している様だ。
アスタの城でも一人で勉強する事が多かったし、一人静かに勉強するのは特に苦では無い。自室に戻り教本を開いた瞬間に、驚愕し絶叫した。
「なんじゃこりゃー!!!」
どんな勉強をするのかと若干楽しみにしていたにも拘らず、開いた教本に書かれていた内容は、お子様用の本かと思うレベルの、問題と言って良いのか疑う内容が羅列している。
はっきり言って、考えるとかそういうレベルじゃ無い。
確かに身分に関係無く生徒は集められているから、ミーナみたいに教育らしい教育を受けていない者も居るとは聞いていたが、流石にこれは酷い・・・。
基礎の基礎だから、3年コースも、5年コースも1年生のカリキュラムは同じ、5年コースの1年も同じ内容をやると言う事か。
確か2年からコースにより授業内容が変わったよな・・・。
3年コースの2年生のカリキュラムが、5年コースの2、3年。
3年コースの3年生のカリキュラムが、5年コースの4、5年。
と説明を受けた事を記憶の片隅から引っ張りだす。
全ての教本に目を通したが、案の定内容は全滅と言って良いレベルだった為かなり暇になってしまった。
仕方なくアスタ城から持って来た魔術書の解読を進める事にし、授業の終わる時間まで時間を潰す。
今日の授業が終了した事を告げる鐘が鳴ると同時に、俺は職員室に駆けだす。
「キョウコ先生居ますか!!」
「はいはーい、ってセイ君? ダメだよ~、ちゃんと謹慎してなきゃ~。」
「ちょっと、お話がありますっ!」
生徒指導室を使わせてもらい、教本を先生の前に叩きつける。
「何ですかこれっ!」
「あらら~、やっぱり簡単だった?」
「簡単とか言うレベルじゃないでしょ? バカにしてるんですか?」
「その内容でも、ギリギリついて来れるか、怪しい子も居るんだけどね~。」
「冗談はやめて下さい。まぁそれは置いといて、もうちょっとマシな教本は無いんですか? 謹慎にしても、流石にやる事が無さ過ぎる。」
仕方ないなぁと、キョウコ先生が2年と3年の教本を持って来たが、はっきり言ってお世辞にも興味を引かれる内容とは言えない代物だった。そう、どうしようもなく簡単なレベルだった・・・。
「アスタちゃんには聞いてたけど、ここまでとはね~。いやぁ~、先生参っちゃった。てへっ。」
舌をペロッと出して、おどけるキョウコ先生にちょっとイラッとする。
「何かこれ以外の暇つぶしは無いんですか?」
机に手を突き、キョウコ先生に迫る。
「分かった、分かったから、セイ君、顔近いっ、ドキドキしちゃうからダメっ! もう・・・、教員宛てに来ているギルドからの依頼に、セイ君の暇を潰せそうな物を見繕って来るから、待ってて。」
キョウコ先生が、赤くした顔の頬を両手で押さえながら、職員室に戻る。
数分後、書類の束を持ったキョウコ先生が帰って来た。
「はい、私にはチンプンカンプンだけど、部屋で出来る解読系のクエストよ。AクラスとSクラスのだから、出来ないって泣いても知らないからねっ。」
パラパラっと書類を捲ると、ふぅと一息着く。
新しいおもちゃを貰った様な気分を押し殺し、キョウコ先生に用意して欲しいと言って、辞書を5つ借り寮に戻った。
「はぁ、全く、セイ君にドキドキさせられるなんて、思わなかったわ。・・・アスタちゃんは貸してやるから、慰めて貰えとか言ってたけど・・・。あーっ、もう、何考えてんのよっ! 私はっ!」
一人生徒指導室に残ったキョウコは独り言を言った後に、ブンブンと頭を振る。
寮に戻ると俺の部屋の前に見知った顔の女の子が、見るからに黒いオーラを纏い立っていた。




