12. 聞かれました!
「どう思うと言われましても、僕にとってはかけがえの無い存在で、家族です。アスタが危害を加えられらなければ・・・。」
未だ不信感を拭えない、ナキアを睨む。
「ナキアの一件は聞いている、これに関しては、君の封印を解く為とはいえ、人間という存在に対して配慮が足りなかったと私も思っている。君と言う存在は私達にとっても貴重だ。戦力的にも、人材的にも。どうだろう、君の気持も十分理解しているつもりだが、ナキアの件、私の顔を立てて治めて貰えないだろうか?」
魔族の長たっての願いだ、アスタの手前もあるし、駄々をこねてばかりも居られない・・・。
僕は奥歯を噛み締め、承諾した。
「ありがとうセイ君。習慣や根本的に違う所もあるが、私、いや、私達は君に歩み寄りたいと思っている。」
「勿体ない・・・お言葉です。」
魔王の言葉は本当だろう。
人と言う存在を子供の頃に無くして以来、魔族が居る事、魔族と暮らす事が普通になって、僕の常識も魔族の常識とさほど変わらないと思っている。
ただ、頭で分かっているだけで、気持ちの上では無理をしている所が無いかと言えば、嘘になる。
ナキアの一件は良い例だ。
それが自分の我儘で無いのなら、嫌な事は嫌だとしっかり伝えないと、きっと分からないと思う。それほど気持ちと言うモノはと言うのは複雑で、種族間でかなり相違のある面倒な物だと、身を持って分かっている。
「魔王様、僕もこの先魔族と一緒に、アスタと一緒に生きていくつもりです。魔族の不利益になる事はしません。」
「うんうん。」
ニコニコと頷く魔王。
「ですが、人の感情と言う物、その他にも気付いていないだけで、僕自身魔族の方と違う思いを抱く事もあるかもしれません、あつかましいお願いかもしれませんが、その時は、進言してもよろしいでしょうか?」
少し考え、しっかりと僕を見据えて魔王は口を開く。
「了解した。こちらも歩み寄ると言った以上、しっかりと話は聞く事にしよう、ただ、私も魔族の長だ、魔族全体に関わる事は、おいそれと改革は出来ない、そこは理解してくれるね?」
「承知しております。僕も全ての魔族の方と会った訳ではありませんが、先程言った様に、魔族は家族ですから。」
「まったく、その年でよくここまで自分の意見をしっかりと言えるものだ。アスタの・・・・所の教育係が優秀なのかね。」
くつくつと笑う魔王を見て、アスタが自分の教育が良いのだと反論している。
「まぁ、前置きはこの辺で、本題に入ろうか。セイ君、人間ギルドの学院に入る事だが。」
「はい、アスタに聞いております。」
「うむ、報告を受ける限り、君が学院に入ると同じ人間でも他の生徒と比べ、ずば抜けて優秀になると思うが、出来るだけ中の中で居てくれ。まぁ、仕方ない時は、力を振るって貰って構わないが、それ以外はそこまで目立たなくて良い。魔族領からの入学と言うのは、伏せての入学になるからな。あくまで君には、人間側がこちらに危害を加えないかの監視と報告が任務だ。」
「分かりました。」
「無茶を言うつもりはないが、アスタの所で育ったんだ、イレギュラーが発生する事が多いとは思うが・・・。」
そこまで言うと魔王様は「うーん」と何やら考え込む。
「すまない、先に言っておこう、目立つなと言ったが、君は間違いなく面倒事に巻き込まれるだろう、これは君が意図していようと、いまいと、関係無く降りかかるだろう。」
魔王様の言葉に僕は困惑を隠せない。目立つなと言ってみたり、面倒事に巻き込まれると言ってみたり。
「え、えっと、どうしてそんな事が分かるんですか?」
「残念だが、君はアスタに育てられた。それがまず第一、後、学院にもな・・・自分でも言ってる事が無茶苦茶だと言う事は分かっている。君からすれば尚更だろう。まぁ、行けば分かるだろう。」
魔王様がそこまで言うと横からアスタが口を挟む。
「ちょっと、ルシっ、聞き捨てならないね、どうして私が育てたら厄介事に巻き込まれるんだよっ!」
「自分の胸に手を当ててみろっ! 1で済む被害を2も3にもなって報告していた事を忘れたとは言わせんぞっ! どれだけ小さな仕事を頼んでも、大きな仕事になって終わって来るじゃないかっ!」
色々と思い出し、頭を抱える魔王様。
「何だよ、結果的に魔族にプラスになる事だって多かっただろ? そんなに目くじら立てるなよぉ、白髪が増えるぞ?」
「喧しいっ! そう言う事を言ってるんじゃない! 言われた事をだな・・・って言うか私の髪は銀髪だっ! はぁ・・・、もう良い、不毛過ぎる論議だ。セイ君、見苦しい所を見せたね。っとまぁ、こういう事だ。」
物凄く頷きにくい所で僕に振られた。とりあえず愛想笑いをしておく。
「まぁ、何かあった時は責任を持って、魔族側の者として、キッチリとカタを付けてくれれば、ある程度は目を瞑るし、君が窮地の時は必ず助ける。とは言っても、君が窮地に陥る事は想像できないし、ここが動かなくても、アスタ軍が動けば、ほぼ解決してしまうだろうけどね。」
「はいっ!」
「良い返事だ。ところで、君の中のは連れて行くのかい?」
[主、バレてますね。]
[[出来るだけ気配は消していたのですが、申し訳無いです。]]
「連れて行きたいと思っています。ダメ・・・でしょうか?」
「いや、聞いただけだ。中の者、聞えているんだろ? セイ君を頼むよ。」
初めて見せた魔王の威厳と言うか、威圧感に押され未だ解けて無い封印も含め、八雷神が反応し八撃の閃光が僕の前に走り、魔王様を笑顔にする。
「他に、意見のある者は居るか?」
魔王様の言葉に意見を申し出る者は居なかった。
「それではセイ君、入学式は、来月だ。色々と言ってしまったが、良い学院生活を祈っているよ。」
僕は一礼しアスタと玉座? の間を後にした。
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「どうでしたか? ルシ。」
「好印象だったぞ? 魔族側の者だという自覚もあるし、自分の意見もしっかりと言える、正門を力で抉じ開けるあの戦力だ、色々とストレスを貯め込んで爆発されたら敵わないな。」
レティの質問に対し、楽しそうに返す魔王。
「ただ、気になる事があるとすれば、人間と関わってどちらに転ぶかだな。自分と同じような容姿に、倫理感も近い存在に対して入れ込み過ぎないか、何か身に降りかかる面倒事があった時に、魔族側の者として人間に接する事が出来るか、・・・いや、非情になれるかだな。」
その言葉にナキアが言葉を返す。
「アスタ様が居る限り大丈夫でしょう、セイ君の中で、アスタ様以上の存在は出来難いかと思われます。私の半身も一回消し炭にされかけましたからねっ、ははっ。」
ルシが、ナキアの言葉に期待も込め頷く。
長机に向かい、今まで言葉を発しなかった一名が急に立ち上がる。
「ルシ様、やっぱりセイ君に言っておきたい事があるので、ちょっと行って来るね。」
「あまり変な事は吹きこむなよ・・・。セイ君はまだ発展途上なんだからな。」
「はーい。」
露出部分の多い女の子が、元気良く手を上げ返事をし、追いかける。
「ん~、良いんですか? ルシ?」
レティが心配そうに声を掛ける。




