……頑張れよ。
章と申します。
銀の弾丸、第9話です。
本作を読んで下さっている方、ありがとうございます。
処女作『銀の弾丸』
楽しんで頂けたら幸いです。
「って事はよぉ……Kって奴は、」
「恐らくお前らが察している通りだろう。吸血鬼に成り果てた息子を殺せなかったんだろうな。
ここに住まわせればユウが誰かに危害を加えることもなく、逆に人間に見つかって消されることもない。吸血鬼は不老らしいから自然死することもないしな。」
そこで俺は更にページをめくった。そこには、初期の日記とまるで変わらぬ、中学生か高校生位の筆跡でこう書かれていた。
『こんな化け物になってまで生きていたくはない。
初めのうちは食べ物を運んでくれていた父さんも最近は顔を見ない。何日こうしているのか忘れてしまったけれど、日記のページ数から考えると、父さんはきっと、もう………。
だけど僕は臆病者だ。生きる事が辛いのに、自分で自分を消せないでいる。だから今夜、書斎の金庫に対吸血鬼用の武器を隠す。それらを見つけた誰かが、僕を殺してくれるように。
【明日、金庫のナンバーの確認 父さんの部屋】』
「金庫の中身は、武器だと思って良いんですよね……。」
日記の内容については、誰も何も述べようとはしなかった。恐らく触れてはいけない、触れるべきではない。だって、この日記はあまりにも辛すぎた。俺たちの日常とはあまりにもかけ離れていた。
だが、一人、幹貫が全員の疑問であろう一点を口にした。
「けどよ、金庫は開いてねーのに何でユウはここにいねーんだ? 」
「あぁ、それならこの穴から出たんだろう。」
恐らく武器を手に入れるために開けたのであろうあの穴。もう塞がれてしまっていたが、あそこから出入りは可能だ。
「やけど、この日記によればユウは殺されたがっとったんやろ? それが何で…………。」
確かに、もっともな疑問だな。殺されたいならこの部屋から逃げる必要なんてなかった筈なのに。
「空腹が限界を迎えた。人に紛れて暮らす事にした、死ぬ決心がついた。……今咄嗟に思いつくだけでも理由は様々です。正解は本人にしか分かりません。」
それもそうだ。
俺たちが知りたいのは本上の居場所。それなのに他人の心理まで探ろうだなんて、おこがましいにも程がある。それに世の中、知らなくても良いことなんて星の数程ある。これだってその1つに過ぎない。知る必要の無い事だ。
「とにかく、その『父さんの部屋』を探そう。」
「しっかし二階建てとはいえ結構広そうやで。どないする? 」
「……? そんなの皆で手分けすればいいだけだろ? 」
やれやれ。流石幹貫。考えが浅過ぎる。恐らく吸血鬼共の監視下であるこの建物。そんな中で1人になるのはあまりにも危険過ぎる。
「では、2人ずつに分かれるというのはどうですか? 1人よりは危険も減りますし、全員で探すよりは効率も良いと思います。」
俺としては、正直全員で固まって動かないのは不安だが…………。まあ、仕方あるまい。
たまたま2人ずつで向かい合うような位置関係だったので、そのまま神山と幹貫、皆川と俺というように2組に分かれる。
「そんじゃ、オレたちは1階を探すかー‼︎ 」
………………取られた。
「ほんならおれらは2階探そかー。」
2階へと続く道の正面に立ち、顔を顰める。
この無駄に長い階段を登るのだと思うと、登る前から足が悲鳴をあげている様な気がするが…………決まった事だ、仕方がない。あー面倒だ。
まあ、とにかくそういうわけで神山、幹貫とは一旦別行動をする。よく考えたら、神山はこれから暫くの時間、1人で馬鹿といなければならないのだから俺よりも面倒だろう。……頑張れよ。
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次話もよろしくお願い致します。
章
階段って登るの辛いですよね。
膝への負担が……。
登る前から息が切れる様な気がします。