まずこの館の探索や。
章と申します。
銀の弾丸、第5話です。
本作を読んで下さっている方、ありがとうございます。
処女作『銀の弾丸』
楽しんで頂けたら幸いです。
俺たちはしばらく無言で立ち尽くしていた。どれ位その状態でいただろうか。沈黙を破ったのは皆川だった。
「ゲームに参加するんやったら本上を殺さないでやる、ちゅうところか。」
恐らく間違い無いだろう。Vは本上の事を『人質』と呼んだ。人質は死んでしまえばその役割を果たせなくなる。
「なんなんだよ今の。オレ、お化けとかっていねーと思ってた。」
「すまない、全く動くことが出来なかった。」
「そんな、僕たちだって同じです。深海くん1人が気に病むことでは……。」
「そう言って貰えると、何だ。……助かるよ。」
しかし困ったのはここからだ。
現在の時刻は20時手前というところ。一晩との事だから、夜明けを6時程度と仮定して、今から約7時間前後、あの神出鬼没な吸血鬼どもから逃げなければならない。それに加えて本上も見つけて連れ戻さなければならないのだ。
……出来るのか?こんな範囲の限られた所、しかも初めて来た館の中で。
いや、やらないといけないのだ。
「じゃあ、さっさと蒼見つけて帰ろうぜ‼︎ 」
こういう時、幹貫の底なしの明るさは本当に助かる。……明るさだけだぞ?
「せやな。ほんなら、まずこの館の探索や。あと吸血鬼について書かれとる文献も探した方がええな。」
「俺もそれが賢明な判断だと思う。一応吸血鬼といえば十字架やニンニクなんかが弱点としては有名だが、正しい情報かどうか……。それに、正しかったとしても、生憎ここにいる誰もそれを持っていない。別の弱点を探す方が効率的だろう。」
「どっかに武器が残っとったらラッキー、位でおった方がええかもしらへんな。」
「それではまず、一階から順に部屋を覗いていきましょう。」
「おっしゃ! いっくぜ⁉︎ 待ってろ蒼ぃぃぃぃいいいい‼︎ 」
最初に手を付けるのはどの部屋がいいか見渡したところでふと気付く。窓の外では雨が既に上がっていた。つまり本当なら既にこんな館から出られるのだ。……こんな事に巻き込まれてさえいなければ。
頭を振って考えを無理矢理変える。今、そんなもしもの話を考えたところで現状は変わらないのだ。
取り敢えず、一番手近な部屋から調べて行く事にする。玄関ホールのすぐ左手。
そこはどうやら書斎のようだった。
「お? いきなりええ資料がありそうな部屋なんと違うか?」
「そうだな。取り敢えず、この本棚を片っ端から調べていこう。」
「ええ、そうですね。……! 見て下さい。この本棚の下段だけ、板がはめられています。」
「ホンマや。せやけど……んー、ロックがかかっとって開きそうもあらへんわ。」
ロックか。さて、どうしたものか。やっぱりまずは、この本から情報を探るべきか?
「え? 何言ってんだよお前ら! おもしれーな‼︎板くらい壊せばいいだけじゃねーか? 」
え。
ドカッ…………バキッ‼︎
ああ、そうだ。コイツはこういうヤツだったな。
「ほいっ、いっちょあがりだぜ! 中はー? 何だ、箱しかねーぞ? 」
「箱……? って金庫やん! 鍵が掛かってて開けられへんけど、取り敢えず一歩前進や。情報を隠すんにこんなうってつけの場所はないわ。」
「それでは改めて書斎内の探索にしましょう。」
「ほんならおれと神山で本棚探すか。深海はそこのデスク頼んでもええ? 」
皆川の素早い指示によって探索場所が割り振られていく。その的確な状況判断に感嘆しつつ、肯定の意を示すために首を縦に振る。
「では、幹貫くんにはそこのドアを開けておいて貰いましょうか。」
神山が指を指した方にあるのは壁だった。え……ドア?
「ほら、そこに隠し扉があるでしょう? そこの壁紙だけ少し色が違っています。それに隙間もありますね。他は綺麗に貼られているのに……。」
唖然。もしかしたら神山は将来、とんでもない名探偵になるのではないだろうか。
「お、ホントだ! けど優ーお前よく気づいたな。マジでスゲェよ‼︎」
「え? あ、ありがとうございます。僕、昔から目が良いんです。」
いや、そういう問題じゃないと思うんだが。
「度を越した観察力を持つと出来るんかもしらへんなあ…………。」
果たして、そういうものなのだろうか?
まあ何でもいいか、と頭の中でケリをつけ、デスクを調べる。特に変わったところのない普通のデスクだ。……高そうではあるが。そんな事を考えながらデスクの上に乱雑に置かれた2冊の本を手に取った。
見ても問題無いよな?
他人の物を勝手に見る事に若干躊躇いながらも、脱出のためだと割り切り1冊目の本を開く。手書きのそれは、どうやらこの本の持ち主によって綴られた日記のようだった。
これを見るに、どうやらこの館に住んでいたのは日本人のよう。昔、森の奥深くのこんな洋館に日本人が住んでいたのかと思うと些か驚きだ。何にせよ、外国語の日記だったら読み解くだけで夜が明けてしまっていただろう。
元住人と同じ言語が使えることに感謝しつつ、2冊目も読み進めていく。こちらは日記ではなかった。何かの研究資料だろうか。
続いて引き出しの中を調べていく。しかし、ここでは大した手掛かりは見つけられなかった。見つけたのはこの館内の鍵束のみ。
この状況になったのが別の人たちだったら鍵束の有無は大きいだろうが、生憎俺たちには幹貫がいるためそこまで鍵の需要がないのだ。まあ、一つ一つ扉を壊して入る必要が無くなっただけでもいい収穫か。
そんな事を考えながら引き出しを閉めた。
「ん? 」
引き出しの奥に何かがつっかえて完全に閉まらない。そういえば俺が調べる前も中途半端に開いていた、ような気がする。自信はないが。
引き出しを外して奥を覗き見る。そこには箱があった。
「何だ……? 」
手を伸ばし、箱を開く。これは…………
「おーい! ドアとっくに開いたぜ。お前ら終わった? もーオレ暇‼︎ 」
幹貫が声をあげた事で全員の視線が上がる。俺はなぜだか箱に入っていた『それ』を慌ててズボンのポケットに滑り込ませた。
なぜ隠す必要があったのか、それは俺にもよく分からなかった。
第5話閲覧ありがとうございます。
次話もよろしくお願い致します。
章
よく周りが見えていないと言われる自分としては
優の視野の広さを少し分けて欲しいところです。