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銀の弾丸  作者:
4/22

さあ、遊戯開始で御座います。

章と申します。


銀の弾丸、第4話です。

本作を読んで下さっている方、ありがとうございます。


処女作『銀の弾丸』

楽しんで頂けたら幸いです。

「いいえ、本日で終了するのは貴君らの人生に御座います。」


 ん?


「なんや今の? 」


 ……どうやら俺の幻聴という訳ではないようだ。


「失礼。(わたくし)はとある方に仕える者。名は明かせませんが……そうですね、仮にVとでもお呼びください。まあ俗にいう吸血鬼で御座います。私達の(おさ)(めい)で、貴方方への言伝を預かり参上した次第です。」


 吸血鬼だと? というか、いまコイツどこから?


 俺たちの目の前に突如現れた1人の男性。闇を彷彿させる漆黒のローブを身に纏い、その素顔をフードを深く被ることで隠している。紳士的な態度とは裏腹に、口元には歪んだ笑みが浮かぶ。上がった口角の隙間からは、鋭く光る八重歯……否、牙が覗いていた。


 生まれて初めて見る吸血鬼というものにただ戦慄した。怯えた態度をみせれば一瞬で殺される、そう思った。


「それはご苦労な事だな。だ、だが、その言伝とやらを俺たちは必ず聞かなければいけないのか。」

「おっと、随分気の強い殿方もいらっしゃるようで。普通なら此処はまず怯む場面ですよ。怖いのでさっさと要件を済ませて退散する事に致しましょう。……そんなに警戒しないでくださいよ。なに、実に簡単な遊戯(ゲェム)ですよ。」


ゲームだと?


「先程も申し上げた通り、私共は吸血鬼です故、生存には血液の摂取が必要不可欠なのですよ。ですが人里へ降りるのはなかなかの危険が伴います。然し乍ら(しかしながら)このような場所、人間はなかなか立ち寄りませぬ。そこで、本日一晩という期限付きで貴方方から血液を戴き、食事、ならびに保存させて頂く許可をいただきたいのですよ。」


「つまり……あー?どういうことだよ鏡夜! 」


 なぜ俺に聞く……。

 だが、Vの発する長々とした言葉に何とか付いていこうと必死になった結果、多少思考が冴えた。

 食事とか保存とか遠回しな言い方をしているが、要するに……


「殺されたくなければ今日1日、お前たちから逃げ回れ、と? 」

「御理解が早くて助かります。幹貫勇己(ゆうき)様、貴方にも御理解頂けたでしょうか? 」

「お? あー、何となくは……な? 」


 駄目だ。これは、分かってないヤツの反応だ。まあ、コイツなら命が危険に晒されたら本能で察知しそうだからそこまで心配はしていないが。


「それは良かったです。勿論時間の制限はきちんと御守り致します。時間になりましたら皆様の処へ知らせに伺います故、規則に関する心配は無用です。」


「しかし吸血鬼。ゲームにしてはあまりにフェアでないんじゃないか? 」


「そうですね。深海くんの言う通りです。例えば、そちらが僕たちの人数を把握しているのなら、僕たちにもそちらの数を知る権利があると思います。」

「うんうん、グルの言う通りっすねー。ゲームはどっちが勝つか分かんないから燃えるっす。びょーどーじゃないとつまんないっすよ‼︎ 」


「おや、これは失敬。そうですね。我々としたことが。いいでしょう。此方の戦力は合計五体に御座います。……どうでしょう。これで公平の上に成り立った遊戯であると認めて頂けたでしょうか? 」

「おお、確かに5対5でおんなじだな‼︎ 」

「おい、幹貫‼︎ 自分はホンマに……。もうちょい考えてから発言してぇや。」


 皆川の言う通りだ。

 この男がゲームの話を持ちかけて来た時から、俺にはずっと気になっていた事があった。ルール上の公平さとかそういうことではなく、もっと根本的な話だ。


「なあ吸血鬼。そもそも俺たちにこのゲームに参加するメリットはあるのか? 」


 そう、俺たちには逃げ切ることで得るものが何もない。なぜかこの島にいて、たまたま雨に降られた。だからこの屋敷で雨宿りをしたい、それだけだ。本当に、ただそれだけなのだ。

 このゲームに参加しても利益がない。それだけで十分アンフェアなように思えるが。


「そうですねぇ。貴方方にこの遊戯を受諾することで発生する利益は御座いません。……故に、強制的に参加せざるを得ない状況を作らせて頂きます。」

「……どういうことですか? 」


 そんな神山の言葉を待っていたとでもいう様に、吸血鬼は嫌味な口元を更に歪ませて嘲笑った。


 次の瞬間、彼の口から放たれた簡素な言葉。


「ふふっ。人質、ですよ。」


 俺はその言葉の意味が一瞬、理解出来なかった。簡単な単語だった。だが、それを言うにはVの声色は余りに楽しそうだった。

 日常生活では聞き慣れないその言葉に、俺は何の反応も出来なかった。ただ、得体の知れぬ感覚に唇を震わせるだけだった。



パチン



 男は張り詰めた空気の中、場違いな程に軽快な音をその指で奏でた。すると新たにどこからか、2体の吸血鬼が現れた。どちらもV同様に黒のローブを羽織っている。2体がこちらに目を向けた、その瞬間。


「⁉︎ ……き、消えた? 」



「ひ、や、やめろ! 離せって言ってるんっすよ‼︎ この! 」


 本上の息をのむような悲鳴に目をやる。そこで見たのは、先の2体に本上が捕まり、血を、吸われている姿だった。


「い、嫌だ、助けて……グル、ユッキ、み、みと、きょん………………。」


 本上の顔が青白くなり、俺たちへ伸ばされていた腕がだらりと落ちる。ロクに抵抗が出来なくなった本上を2体の吸血鬼が連れ去って行く。


 俺は、動けなかった。まるで脳が考えることをやめたかの様に。或いは世界が時を刻むのを止めたかの様に。

 待て、本上を離せ。そう叫びたいのに、口の中が乾いて声が出ない。人間、非日常に巻き込まれると悲鳴すら上げられないらしい。


 沈黙の中、愉快そうに話すVの声が響いた。



「さあ、遊戯開始(ゲェムスタート)で御座います。先ずは1人、捕獲成功ですね。」




長い夜は、こうして始まった………………

第4話閲覧ありがとうございます。

次話もよろしくお願い致します。



Vのセリフは

死ぬ程恥ずかしい思いをしながら考えています。

いかにも『患ってます』って話し方をするので…

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