夏旅のすゝめ
僕はね、夏って言葉が大好きなんだよ。夏ってだけでワクワクしないかい?
「そうだね」
君はいまいちわかってないようだね。
そうだな、夏から連想していくつか言葉を出してみよう。
「夏休み、夏祭り。海、花火大会にプール?」
君らしいね。やっぱり友達と行ったりしたのかな?
僕は誰かと行ったことなんてないんだよね。プールだってこの歳になれば行くことはないんだよ。夏休みだってもらえないし、他も一人で行くのはちょっとね。
でもね、君と同じくらいの歳の頃、一度だけ旅に出たことがあるんだ。
「どこ行ったの?」
山口県まで。ロードバイクで数週間かけて行ったね。
「何しに行ったの」
特に理由はなかったな。目標を定めようとしたら、そこがよかっただけだよ。山口県に着いてからした観光よりも、道中で見た景色の方が印象的だったしね。
「わたしも行きたいな」
止めたりはしないけど、けっこう辛かったよ。僕の場合、山口県に着くまでは毎日野宿してたし。
なぜ友達もいなくてイベントに参加すらしたことのない僕が旅なんかできたと思う?
「わかんないよ」
夏だからだよ。夏には不思議な力があるんだ。僕にもその力が働いたんだと思うよ。そうだ、もう少し旅の話をしようか。
「それでね、僕は──」
彼は語りだす。昔の、夏の出来事を。わたしは関心のないふりをしてはいるが、手遅れらしい。夏の魅力にとりつかれてしまっていた。




