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「普通は即答だぞ。穴を一つ選ばなければならないことぐらい、事前に分かっているんだからな」
「そんなこと言われたって……」
「魔法使いなら本来即答だぞ。もういい、臍な」
「え、な、何で臍!?」
「特に意味はない。手入れは?」
「い、一応……」
「ならいい」
身体の向きを百八十度変えるジノ。
レティナの上着のボタンを下から外していく。
恥ずかしさの余り、魔法を使い、この男を吹き飛ばしてやりたい衝動にかられるが。
この男にとってこんなのはいつものこと、いつものこと――と頭で唱えて耐える。
自分だって魔法使いだ。
浄化未経験とはいえ、それがどんな行為であるのか大体の知識はある。
こんなに恥ずかしい行為だったなんて予想はしていなかったけど……
「……ねえ、」
「何だよ」
男の方は、今どんな感情を抱いているんだろう。
ふと知りたくなって自分の腹部に乗っている男の背中に声を掛けた。
「わ、私の中に入るって、どんな気分?」
「ああ? 何でそんなことを訊く」
「いや少し気になったっていうか。自分を全部曝け出そうとする女性を前にあなたはどう感じるのかな、とか……」
背中越しにレティナを一瞥するジノ。
素人はこれだから……
「お前……馬鹿だろ」
「なっ!? ば、馬鹿ァッ?」
「手術前の患者に医者が抱く感情は一つしかないだろうが」
「……ごめんなさい」
「……フン」
つい個人的興味にそそられて質問をしてしまった過ちを素直に謝罪するレティナ。
他人の言葉を鵜呑みにするとは、騙されやすい性格だなこいつは。
……なら、ここは一つ心を開かせておくか。
このままでも恐らく成功するが、失敗の可能性は一%でも少ない方がいい。
ジノはそう考え、「まあしかし」と少女の顔の真横の位置を殴る勢いで手を降ろす。
ギシッとベッドが揺れた。
「やっ……何?」
「お前、こうして見ると……」
熱でもあるかのように顔を赤く染めた少女の耳元へ。
素の自分なら口が裂けても言わないセリフをささやく。
「すげえ可愛いな」
えっ?
「今、何て――――」
男の口から吐露された感情。
それは医者が患者に対して抱くものとは異なるものだ。
しかし、レティナにとってはそれこそが――職業とは無関係な個人としての気持ちが――自分の知りたかったものだった。
「あ、あの……」
容姿について褒められ、心が無防備になったせいだろうか。
そんな欲求を自分が持っているという自覚と、それを否定する感情が交差し、その場から逃げ出したい衝動にかられる。
なぜならそれは、初めて会ったばかりのこの男を自分が異性として意識しはじめている証左――
「何て……言ったの?」
それが聞き間違いではないと再確認しようとするレティナ。
しかし、ジノは全く別のことを考えていた。
よし、計算通り警戒心が和らいだ。
ならこれ以上無駄なお喋りは必要ない。
始めよう。
「……浄化――――」
開始の呪文と共に指先を少女の臍にあてるジノ。自分の唾液で濡れた男性の指先に十六歳の柔肌は敏感に反応し、少女の口から小さな声が漏れる。
二人を包み込む円環によりピンク色の空間が一瞬で青く染まり直され。
密室内のベッドのシーツが音を立てて波立ちはじめた。
「入るぞ、紅井レティナ。お前の中に」