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次の瞬間、少女の左膝が青年の股に衝突した。
「う……お、おおお……」
急所への一点攻撃。
それは男子にとって地球上でもっとも恐ろしい不幸の一つ。
当然、青年は悶絶し少女の横に倒れる。
「何よその姿。カッコ悪。くすくすっ……」
クの字になって苦痛に耐える青年を鏡越しに眺めながら、少女が笑いをこらえる。
「お、女のお前には分かるまい。この地獄がっ……」
「言っとくけど、あんたが悪いんだからね。バーカ」
そう言って背中にパンチを食らわす少女。
しかし、その顔には不思議と先ほどの強張った表情が消えていた。
「……ごめん、もう大丈夫」
「ったく。世話を焼かせるなよ」
「だってしょうがないじゃん! 緊張してんだから――ってうわっ!」
「紅井レティナ」
青年は馬乗りになった相手の名前をフルネームで呼んだ。
「お前、まさか本当に……」
「は、初めてよ……その――何とかックスって言うんでしょ。だから優しくしてよね! 宮村ジノ」
「……このっ」
自分のしていることが分かっているのか――
職業柄、怒りを禁じえないレティナの暴言に。
一発殴って目を覚まさせてやりたい――そう思ったが。
しかし、一刻も早く家に帰らなければならないという焦りがそれを押し止めた。
「な、何よ……ちょっ、怖い顔しないでよ」
「……はじめるぞ」
「うん――――って、えええっ!」
勇気を出して頷いたレティナだったが。
次の瞬間、頭より上の位置で両手首を紐で縛られてしまう。
「ちょっ、は、離して!」
足を必死にジタバタさせ。
腹部に乗る男に抵抗を見せるレティナ。
しかし、ジノはそんなことお構いなしというように。
「舐めろ」
と自分の人差し指を差し出し。
馬乗りになっている少女の唇に当てた。
「……い、嫌よ」
「……じゃあ勝手に取るぞ」
「ひあっ」
ぎゅっと結んだ唇を強引にこじ開け。
異性の太くてごつごつした指が口の中に侵入した。
「ウウ……ッ」
「ほら、唾を出せ」
ジノの指が歯の表面を磨く様に前後に動く。
すると自分の意志とは無関係に、喉の奥から唾液が昇ってきた。
「よし」
充分に濡れたのを感じ、ジノは指を抜く。
すると指先から釣竿のように糸が伸びた。
「ケホケホッ……あんた、最低……」
「悪いな」
涙目で睨みつけてくるレティナに対し。
悪気があるのかないのかさらりと謝罪の言葉を告げるジノ。
その表情には何の感情の色も見られない。
「文句があるなら一度だけ選ばせてやるよ。臍と耳、どちらがいい? 五秒以内に答えろ」
「そ、そんな五秒って、もうちょっと待ってよ」