9話 女の嫉妬は怖いです
続きになります
少しいつもより長めです
「どこから話そうかな……」
暫く考え込んだお兄ちゃんに、ローゼンブルクさんが「最初から話した方がいいんじゃないかい?」と助け船をだしました。
「最初から……、長い話になるけど付き合ってほしい」
いつになく真剣なその表情に思わず息を呑みながら頷きます。
「俺がまだこの世界に住んでいた頃から始まるかな。俺が6歳の頃、母さんのお腹の中に心寧がいた。そのころ、厄介なことが起きてね」
厄介な事という言葉に何やら含みを感じます。あんまりいい予感がしません。
「というのも、父上の正妻が暴走してね。嫉妬に狂って母さんと俺を殺そうとしたんだ」
「せっ、正妻……?」
何だかとてつもなく不穏な言葉聞こえました。それに正妻って、奥さんお母さんだけじゃなかったってことですよね?
蔑んだ目でローゼンブルクさんを見ると、彼は焦ったように言います。
「正妻とは政略結婚で仕方なく結婚したんだ! そこには愛はなかったし、私が愛したのはホリーとその子どもである君達だけだよ!」
例えお母さんだけ愛していたとしても、正妻の人が可愛そうです。妻である自分よりも他の女を愛して子どもを二人もできていれば、プライドもずたずたになりますし嫉妬にも狂いますよね。例え愛のない結婚だとしても、こんなに美形な人と結婚できたなら、女としては嬉しいでしょうし恋心を抱いていてもおかしくはありません。
人を殺そうとするのは良くないことですが、少し同情してしまいます。なので更にローゼンブルクさんを蔑んだ目でみると嗚咽を零しながら涙をぼろぼろとこぼしました。
「心寧が私の事をごみ虫を見るような目で見てくるよー!」と泣きながらお兄ちゃんに縋りつくもあしらわれ、次にシーザーさんに助けを求めようとするも無言の笑みを浮かべられて、しゅんと落ち込んでしまいました。
自業自得です。
「まぁ、そんなわけで正妻の刺客から逃げるために異世界に行ったんだ。そこで出会ったのが、心寧がお父さんと呼んでいる順次さん。俺とお腹に心寧がいる母さんを拾ってくれてね、大分お世話になったよ。そして、心寧が生まれてすぐ母さんが亡くなってしまってね、身寄りのない俺と心寧を引き取ってくれたんだよ」
お父さん……もう会えないのでしょうか。高校に上がった頃から仕事が忙しくて中々会う事も出来ませんでしたが、優しくて頼りになる自慢のお父さんです。
目を潤ませ始めた私にお兄ちゃんが頭を撫でてくれます。
「本当は結構早めに戻れたはずなんだけど、その後正妻が病で亡くなって色々落ち着くまで数年かかってね。それから俺がここに戻って貴族が通う学園に通って今は王太子直属の魔導騎士団の隊長をやっているよ。シーザーは俺の副官だね。かれこれ8年の付き合いだよ」
「ん? ちょっとまってくださいお兄ちゃん。なんだか年齢とかが色々合わないんですけど」
8年って言ったお兄ちゃんは今何歳なんでしょうか?
4年前では27歳だったから34歳? でも以前よりも若く見えますし、一体どういう事でしょう。
「それはね、俺が戻ったこの世界とあっちの世界とは時間の流れが違ってね、俺がここに戻った時にこの世界の時間に合わされて12歳になっていてね。今は20歳かなぁ。心寧もそうだったはずだよ」
「そういえば、こちらに来たときは12歳くらいになってました。今は16歳だと思います」
「それで、話は戻すけど本当は俺たちが心寧を呼び戻すはずだったんだけど、いくら術を展開しても失敗してね。もしやと思って心寧の気を探っていけば、この世界にいるのは分かったんだけど、何かに妨害されて詳しく居場所が分からなくて。それから4年経って、隣国のウィンドゥノットが神子を召喚したかもしれないことを聞きつけて調べてみれば、シーザーが心寧を連れてきて吃驚したよ」
「俺も驚きましたよ、トーヤ。まさかこんなに可憐な女性が君の妹とは思わなかった」
でもよく見たら結構似ていますねと、シーザーさんは私に微笑みます。
美形の笑みはまぶしいですね。
「俺の妹なんだから美しいのは当然だよ。それとシーザー、心寧に手を出さないでよ」
「そうだよ、シーザー君! いくら息子の様に可愛がってきた君でもコロネは駄目だよ! このパパが許さないから! コロネはずーっとパパと一緒に暮らすんだからね!」
「違うよ、父上。そこは俺とずーっと一緒と間違ってるよ」
何故だかヒートアップして蒟蒻問答をする二人に、私とシーザーさんは苦笑を浮かべました。
説明の話しとなりました。
女の嫉妬って怖いですよね
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