第1話 謎の人物
いきなりで何だが俺は今、訳の分からない状況に巻き込まれている。
真っ黒な球体みたいなものの中にいる。周りを見渡しても黒色以外は何も見えない。
何でこんなことになったんだ?
だが、パニックになっては駄目だ。こういう時こそ落ち着かないと。
まずは状況を整理しよう。
確か俺は夜に小腹が空いたのでコンビニに行ったんだ。そこで少し立ち読みしてから適当にスナック菓子を買って家に帰ろうとした。
そして帰り道の途中で急に目の前が真っ黒になったと思ったら今の状況だ。
やべぇ。全く意味が分からない。夢でも見ているのか?
「……とりあえず菓子でも食べるか」
『何でそうなるの!?』
俺がレジ袋からポテチを出した瞬間に男か女かも分からない機械的な声にツッコまれた。
恐らくボイスチェンジャーを使って声を変えているのだろう。
しかも空間全体から響くように聞こえたので声の主がどこにいるのかも分からない。
「腹が減ってるから。それに他にすることもないし」
『いや、確かにそうだけど! おかしいでしょ!? 何でこんな異常事態で冷静なの!?』
異常事態すぎて逆に冷静になっただけだ。こんな状況じゃあ、どういう風に驚いたらいいかも分からないし。
俺はポテチの袋を開けて中身を取り出して食べる。
『普通、この状況で食べる!?』
「うるさいな。俺は腹が減ってるんだよ」
よし、つかみはOK。敵と会話する時は確実に主導権を握るように親に教わった。まぁ、こいつが本当に敵かどうかは分からないけど。
にしても、やっぱりポテチは喉が渇くな。お茶も一緒に買っておけばよかった。
「で、あんたは誰? 後、目的は何?」
『やっと本題に入れる……。コホン」
一旦、咳払いをして落ち着く不審者。
そして落ち着いた調子で話だした。
『最初の質問にはまだ答えられないわ。で、二つ目の質問の目的だけど、それは君よ。殺し屋、四条高貴くん』
「……は?俺は殺し屋じゃないけど」
『……え?いやいや、嘘つかないでよ!? 』
「嘘じゃねぇよ。俺は殺し屋じゃなくて殺人鬼だ」
俺の両親が殺し屋だからって勘違いする奴がいるんだよな。まぁ、何回か両親の仕事を手伝ったこともあるし今は金のために殺し屋の真似事もしているから間違いじゃないと言えば間違いじゃないのか。
『……殺人鬼? それって殺し屋とはどう違うの?』
「殺し屋にとっての殺人は仕事だけど、殺人鬼にとっての殺人はただの習性だ。殺人鬼なんかと比べたら真面目に働いている殺し屋に失礼だ」
まぁ、殺人なんて犯罪を犯している時点で表の世界で真面目に働いてる人間に失礼だけど。
『ふぅん……。まぁ、私からしたら、どっちでもいいけど』
よくねぇよ。この区別は結構大事だぞ。
「で、あんたは俺に会ってどうするつもりなんだ? もしかして昔、俺に殺された人の家族か何かで復讐しにきたとかか?」
恨みだとしたら最近ではないはずだ。
俺は両親が数ヵ月前に仕事中に死んでから無差別殺人はやめている。自分の行為を隠蔽してくれる人のいない状態で殺人をして警察に目をつけられたり不要な恨みを買ったりしたら妹に迷惑がかかるからな。
今、している殺人は死んだ両親の代わりに受けている依頼と殺しても問題のない人間だけだ。
依頼の場合は業者の人が後始末してるはず。まぁ、業者の人間が適当な仕事をしてバレた場合は知らないけど。
だが、謎の人物は俺のそんな考えを軽い調子で即座に否定した。
『違う違う。私の家族で君に殺された人はいないよ。それに仮に家族が殺されていたとしても恨んだりしないから安心して』
「……じゃあ、俺に何の用だ?」
恨み辛み以外で殺人鬼に望んで接触する理由があると思えないが。
いや、こいつは俺のことを殺し屋と勘違いしていたし仕事か?
『それも秘密。もし君が私のことを見付けられたら教えてあげるよ』
「はぁ?」
ますます意味が分からない。
「俺はお前の名前も知らないんだ。何のヒントもなしで、どうやって見付けろって言うんだ?」
『ヒントはあげるよ。私は君と同じ高校の生徒だよ』
「俺と同じ高校?」
『そう。中々、分かりそうになかったら、またヒントを教えに来るよ。後、私を探さなかった場合は今回と同じ方法で嫌がらせするからね』
謎の人物がそう言うと黒い球体みたいなものは消えて周りの景色が街灯の光しかない暗い元の道のものに戻った。
う~ん、どうしたものか。
正直、興味ないし適当に逃げる予定だったけど無理そうだし。
とりあえず明日は土曜日だし学校が始まるまでに考えればいいだろ。