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恐怖のキチガイ

作者: 雲・弧・麺

 会社員の育男は、東京方面の上り電車に乗っていた。会社へ通勤する途中である。通勤ラッシュからずれたこの時間帯は、電車内にも多少の余裕があり、ほとんどの人が席に座っている。片田舎に住み、通勤に時間のかかる育男は読書を趣味にしていた。今日はとある文豪の短編集を静かに読んでいる。いつもなら、このままゆっくりと時間が流れる筈であった。


 とある駅に着いた時、その異変は起こった。ウーウーと呻きながら電車に乗り込んでくる、一人の大柄な男。鼻水とよだれをダラダラと垂れ流し、しきりに両手の指を動かしている。電車内に走る緊張。既にショーは始まっていた。


 大男は鳥のように手をバタバタさせながら、電車内を走り回っている。呪文を唱えているその口から、床によだれがボタボタと垂れる。育男にもすごい緊張感が走る。だが、気にしてどうなるというんだ。本に集中しよう。上品な世界へ現実逃避を行う育男。だが、時折聞こえる呻き声が、育男を強制的に現実へと引き戻す。次第に大きくなっていくその声。いや、こちらに迫って来ている?伏せていた目線をゆっくりあげていく育男。その真正面に、奇声の主は立っていた。

 

 「つぎはーじんじゅくう~~~、つぎはーじんじゅくう~~~~」


 車掌の真似をし出す大男。狂ったように同じ台詞を繰り返しながらその場をグルグルと回り始める。下を向き笑いを堪える乗客たち。時々うわずった声になるのがツボに入るのか、大男が台詞を繰り返す度に乗客たちはプルプルと肩を震わせる。回るスピードを上げていく大男。毎秒3回転のハイペースでスピンを繰り返す。

 いきなり、大男の動きが止まった。直立不動になり、台詞も全く口にしていない。遠くを見つめるような目つきになる大男。次の瞬間、電車内にその声は響いた!!


 ウオエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!ベチャベチャベチャベチャベチャベチャベチャアアアアアアア!!!!!!

 ドブの色をした汚い色のゲロを撒き散らす大男!!電車内に広がる汚物の臭い!!!!響き渡る乗客の悲鳴!!!だがこの電車は急行電車。どこへも逃げられない!!!


 ゲロを吐き終わった大男は嬉しそうにその場をピョンピョン跳ね回る。一見、微笑ましい光景に見えない事もない。だが大男が跳ね回る度に床に溜まった汚物は音を立てて飛び散っていく!!!!皆、自分の席を捨て、遠くへ逃げていく。


 育男も自分の席を立ち、出来るだけ遠くに避難していた。今まで電車を利用してきて、今日ほど恐怖を覚えた日はない。早く次の駅に着いてくれ!!早く奴から離れたい!!次から次へと車両を移動していく育男。やっと最後尾の電車にたどり着くと、安堵した様子で空いてる席に座った。


 だが、悪夢は終わってはいなかった。再び遠くから聞こえてくる大男の叫び声。それは徐々に近づいてくる。やめてくれ。これ以上こっちにくるな。そんな願いも虚しく、車両間をつなぐ扉は開かれた。運転席に突進してくる大男。頭から窓ガラスに突っ込む!!!だが窓ガラスは割れる事無く、大男は床を転げまわった。 

 再び育男の前に現れた大男。その顔は鼻水とよだれでとてつもなく汚れていたが、その表情はこれ以上ないさわやかな笑顔を浮かべている。もうやめてくれ。私になんの恨みがあるというのだ。


 しばらくすると、なにやらモジモジしだした大男。今度は何を始める気だ。ズボンとパンツを脱ぎ始め、真っ白い尻を突き出す大男。まさか。いや、そんな事をするはずがない。少なくとも、知能を持った人間なら・・・。


 ブビーーーーーーーーー!!!!!!!!ブチャブチャブチャブチャベチェベチャベチャベチャアアアアアアアア!!!!!!!!!

ミサイルのように放たれたゲリウンコ!!!!レーザーのごとく一直線に発進する小便!!!山のように盛り上がる大便に、ダムのように溜まっていく小便!!!今まで経験した事のない強烈な悪臭が育男を襲う!!!!育男は耐え切れず、床に膝をつき、大量のゲロを吐く!!!

オゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!1ビチャビチャビチャビチャビヤアアアアアア!!!!!!!


 こんな人間は見たことがない。公共の場で排泄行為を行う人間を。ごく自然に、当たり前のように、その行為を行う人間を。


 フラフラのまま立ち上がる育男。目の焦点が合わない。息が苦しい。その手足はガクガク震えていた。視線を右に移す。すると大男がこっちを見ている。直立不動でこっちを見ている。何をしようというんだ。もうやめてくれ。これ以上はこちらの体力が持たない。これ以上何かをするというなら、きっと私はお前を殺害してしまう。

 大男は玩具を見つけた子供のような楽しそうな表情で、ゆっくりこちらの方に体を向ける。そして大男の叫びが電車内に響き渡った!!


 「ぴょおおおおおおおおおああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 こっちに突っ込んでくる大男!!!!もうこれ以上後ろには行けない!!!育男は覚悟を決めた。


 突っ込んできた大男の顔面に渾身の右ストレート!!!!大男は鼻血を噴水のように吹き出す!!!!それから左右のボディーブローの連打!!!連打!!!連打!!!大男は育男に大量のゲロを浴びせながら苦しんでいる。そのゲロの臭いに悶絶し、息が出来なくなる育男。だが、彼は屈しない!!!大男に最後の一撃、必殺の左フックをお見舞いする!!!!!ボゴォオオオオ!!!!!!

 吹っ飛んだ大男は、自ら放出した糞の山に顔から突っ込んで絶命していた


 ちょうど次の駅に到着した電車。乗ってきた乗客は騒然とした。

 山のような糞に顔を突っ込み、死んでいる大男。水たまりのようになっている小便。撒き散らされたゲロ。充満している汚物の臭い。そして、ゲロまみれで立っているのがやっとの状態の男が一人。


 今日もどこかで、電車内では壮絶な死闘が繰り広げられているのだろう。そのことを我々は知らずに生きている・・・。



  完





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