詩 うちに寄っていくか?
「うちに寄っていく?」
「え」
帰り道、俺が何気なく言うと、彼女はびっくりしたようだった。
「あの、その、うちの人は…?」
「誰もいないよ。俺んち、親、働いているし」
「そう、なの」
歯切れの悪い彼女。
どうやら緊張しているらしい。
誘うのはまだ早かったかと思ったが、言った手前、ひくわけにはいかなかった。
「どうする?」
「えっと」
彼女が空を見上げる。
陽が長くなってきたので、まだ青空が見える。
まるで水が広がっているところに、温水が重ねられたような色。
時刻を確認すれば、30分くらいは一緒にいられるかなと計算する。
「あの…行ってもいい?」
「おう」
俺は嬉しいそうに答える。
もちろん下心がないわけではないのだが、今は我慢しておく。
「すぐそこだから」
そっと彼女の手を握りしめると、彼女の身体が反応してくる。
何か神聖なものを感じ、じっと見つめながら、固く繋ぐ。
それからさらさらした髪に触れる。
「大丈夫。そんなに緊張するなよ」
「無理!! 緊張するに決まっているじゃん!!」
彼女の本音らしく、俺はあははと声を立てて笑う。
その声は雲が受け取り、横に流れていく。
「嬉しいか、俺んちに来られて?」
「う…。どうだろう? お腹、痛くなってきた」
正直な言葉に。また俺は笑う。
「もう笑い話じゃないのに!!」
「あ、あそこだ」
指差すと、もう間近だと感じたのか、彼女が深呼吸する。
「お邪魔させていただきます」
「おう。帰りはちゃんと送るから」
その言葉に、彼女は安堵したようだった。
「その、近くにコンビニ、ある?」
「何で?」
「手ぶらであがるわけにいかないわよ」
「いいんだよ、お前さえいれば」
髪にキスすると、彼女が身体を押してくる。
「もう!! その、本当に行ってもいいの?」
「ああ。ジュースとかアイスとか、一緒に食べようぜ」
彼女が遠慮がちにうなすくので、良い子だと改めて惚れ直す。
「よし、俺んちまでダッシュだ」
「え? 何で?」
「一緒にいる時間がもったいない。行くぞ!!」
俺と彼女は走り出し、うちを目指すのだった。




