エピローグ
王都を揺るがせた大騒乱から、数年に渡る月日が流れた。
宰相は厳しく断罪され、不正に関わった貴族や官僚たちは粛清された。
グレイヴには昇進の打診が、四方八方から寄せられたが、彼は頑なにそれを拒み続けた。
「その席に座るはずだった者は、すでにこの世にはいません」
彼の辞退の言葉は常に、亡き盟友の存在があった。
彼は公的な役職に就かず、常に『真実の守り手』として、影から支えることを選んだ。
彼の周囲には、協力者であるアッシュら、峠の里の民だけでなく、表通り、裏通り問わぬ王都の住民たちや、近衛兵含む城の兵士たち――、常に人の輪が途切れることはなかった。
彼はもう、重厚な鎧をまといはしない。ただ、カイの剣だけは、常に彼のそばにあった。
ある晴れた日、グレイヴは王都の広場にいた。
もはやそこに処刑台は存在しない。
処刑台のあった場所には小さな若木が植えられており、その傍らには白い石碑が輝いている。
「カイ、見えるか」
腰ほどの高さの石碑に対してしゃがみ込むと、グレイヴは周囲をゆっくりと見る。
子供の歓声、女性の談笑、男たちの行き交う声。
「お前が求めていたものが、ここにある。お前が、守った未来だ」
白い石碑の周囲には、花が絶やされることはない。
グレイヴもまた、手にした花をそっと手向ける。
緋色の花弁は、亡き英雄の髪のように、優しく風に揺らめいていた。




