表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話

 現れた男に、広場は水を打ったように静かになる。


 やがて鎖の音と共にグレイヴが、片膝をついた礼を行い、周囲の者がそれに倣う。

 礼は伝播し、広場にはただ、断頭台だけが高く輝く。


「こ、国王陛下――」

 静寂の中、宰相の声だけが震えて響く。


「こ、これは誤解です。亡き『反逆者』カイと、騎士グレイヴが結託し、市民を先導し、このような――」

「黙れ、アルガス」

 宰相の弁明を国王の声が一蹴する。


「貴公の醜行、すでに全て、我が耳へと届いている」

 グレイヴが顔を上げ、王の後ろの近衛隊長を見る。

 老いた隊長と視線が合い、彼はグレイヴへとわずかに、口の端を上げてみせる。


――通じていた!


 全ての証拠は宰相の手に渡る前に、老練の隊長を通じ、王のもとへと届けられていた。

 宰相が掠め取ったのは、情報が羽化し王のもとへと飛び立った、その抜け殻に過ぎなかった。

 再び下を向いたグレイヴの心臓が熱を帯びる。

 全身が、熱い奔流へと飲み込まれていく。


 静寂が支配し、宰相が足元で震える中、清廉な衣装に身を包む王は、宰相を、その背後の足に鎖を佩いた男を、そして自身の臣民を、その威厳ある目で順に見据えた。


 そして短い吐息の後、剣先のような声が響いた。

「宰相アルガス。貴様は長きにわたり、戦略を通じて私腹を肥やし、国民の忠誠心を金に替えた。

 そして己の私腹と保身のため、余の友であり、『英雄』でもあった男を、卑劣な手段で殺害した。

 さらには盟友グレイヴさえをも、ありもしない謀反の名をもって、その生を奪い去ろうとした」


 宰相の顔は、蝋のように色を失う。


「貴様に与えた権力は、民を守るためのものだ。

 貴様の欲のためだけに、国の基盤を支配させるものではない!」

 宰相を見下ろしたまま、王は告げる。

 その言葉は、長年、自国の腐敗に気づくことなく、あるいは気づこうとさえしなかった、王自身の過ちに対する、自己断罪の響きすらも含んでいた。


「貴様の罪は、もはや反逆などという言葉でも足りぬ。すでに国体に対する裏切りであり、追って厳しき沙汰が下されると思え」


 王は左右を見て、周囲の近衛兵らに命じる。

 王命を受けた近衛兵らが宰相を押さえ、惨めな悲鳴とともに、彼の姿は引きずられていく。


 そして声は全く聞こえなくなり、ひざまずいたままのグレイヴに、王は静かに歩み寄った。


「騎士グレイヴ。いや、『英雄グレイヴ』」

 国王は、片膝をつくグレイヴの、その両足を繋ぐ鎖を静かに見る。


「貴公の苦衷は、そして貴公が守った真実の種は、余がたしかに受け取った。

 貴公は、亡き友カイとともに騎士の誓いを、最も正しい形で守り抜いた」


 その声は、グレイヴへの直接の、赦しと労いの言葉となり、彼の張り詰めた心は雪のようにとけていった。

 その表情は柔らかくなり、目元には熱を帯びた波が生まれた。


 そして国王は歓迎するように、空へと右手を高く掲げた。

「国民よ!汝らの勇気を、そして意志をここに称える。

 貴公らこそが未来であり、 英雄カイの無実と、盟友グレイヴの忠誠は今、我によって証明される!」


 その瞬間、市民の間から、これまで抑えつけられていた全ての感情が、渦となって溢れ出した。

 大地をふるわせ、天を揺るがす大歓声は、ただの勝利の叫びではない。

 不正に打ち勝ち、真実と正義を選び取った自分たちを、新たなる『樹』の誕生を、共に称える叫びだった。


 グレイヴは喧騒の中で、天を仰いで両目を閉じた。


――見たか、カイ!


 黎明の中に緋色の友の、穏やかな笑顔がよみがえった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ