第1話
崖の上に古城を望む荒野。
傾いた太陽が紅に染め、風が砂塵を巻き上げる大地を、二つの影が王城へと進む。
規則正しく刻まれていた蹄の音が不意に止まり、二つの影も並んで止まる。
一人は鈍色に輝く鎧をまとい、馬に乗る騎士。
もう一人は緋色の長髪が印象的な、長外套をまとった男。
馬上の騎士が傍らを見る。
緋色の男の両手首は背中の後ろで枷に繋がれ、その腕を体幹ごとまとめるように巻き付けられた鎖の一端は、手綱とともに、騎士の右手に握られている。
「カイ」
馬上の騎士が声をかける。
カイと呼ばれた、緋色の男が顔をあげる。
「どうした、グレイヴ。進まないのか」
「カイ、なぜお前は俺に捕らえられた。
俺が追っていたのは『反逆者』だ。
お前が『反逆者』でないのなら、なぜ抵抗しない。そして、なぜ何も語ろうとしない」
「私は『反逆者』だよ、グレイヴ」
「なぜだ!そんなはずがない!」
声を大きくするグレイヴに、カイはいつもと変わらぬ口調で答える。
「私の正義と、この国の正義が食い違ってしまった、ただそれだけの話だ」
「正義だと………、正義どころか、このまま王城へと戻れば、待っているのは厳罰だ!」
「……だろうな」
カイの言葉に迷いはない。
その琥珀の瞳は冷たく澄んで、恐ろしいほどの静けさを保っていた。
「グレイヴ。お前はただ、騎士としての務めを果たせ。それが、俺が求めるお前の全てだ」
「カイ……」
「懐かしいな。お前と背中を預けあったあの戦場の風も、この風景も、いつも、いつまでも変わることはない。お前もそうであり続けろ、グレイヴ」
グレイヴは眉を寄せ、しかし再び馬に合わせるように正面を向く。
「行こう、カイ。王城が待っている」




