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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
第2章 閉ざされた研究所と崩壊し始める日常

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3話 子供の幽霊の目撃情報と、怖い話好きの山田さんの調査

 体を休めて、これからの研究を頑張る! そう気合を入れ直した私の、それからの生活は……。


 なるべく徹夜をしないようにし、休みの日はしっかり休む。そんな生活を心がけるようにしたことで、体が疲れることはかなり減って。そのおかげか、研究も以前より捗るようになったんだ。そうして、なんだかんだと、課長に相談してから半月ほどが過ぎたよ。


 ただ、それでもあいかわらず、時々不思議な感覚に襲われるのは治らなくて。だけど言った通り、研究自体は前よりも捗っているから、違和感のことは課長には言わずに、そのまま過ごしているんだ。


 ところがここに来て、私にじゃなく、今度はこの研究所で生活している人たちの周りで、不思議なことが起き始めてしまったの。


 いや、私はこの研究所へ来た時に体験していて。でも、その後はそれを経験することなく過ごしていたから、そのことについて忘れかけていたんだけど……。


 ここ数日、研究所内は、ある話題でもちきりになっている。もちろん、大きな声でそれを口にする人はいなかったけどね。

 ほら、余計なことを言っているのを上の人たちに聞かれて、注意でもされたら面倒じゃない? だからみんな、そうならない程度に、声を潜めて話している感じかな。


 でも、まぁ、ここまでくると、課長たちも気づいている可能性が高いけどね。ほら、今日も……。


 ようやく休憩できると、休憩室へ来てみれば、先に休憩に来ていた研究員たちが、声を潜めながら『あれ』の話をしているよ。


「……また、出たらしいよ」


「私も見たのよ」


「え? 本当!? どんなだった!? やっぱり男の子なの!?」


「そう。中庭の端っこに、小さな男の子が立っていてね。声をかけようとしたら、霧の中に消えちゃって。もう、ビックリしたし怖いしで、慌てて部屋に戻ったわよ」


「僕もだよ」


「え? あなたもなの!?」


「夜、資料室で作業をしていたら、廊下をトタトタと走る足音が聞こえたんだ。それで確認したんだけど、誰もいなくてさ。あの足音、子供っぽかったんだよな」


「姿を見たわけじゃないの? 音だけ?」


「ああ」


「じゃあ、違うかもしれないじゃない」


「でも、本当にあの足音は、大人の足音じゃなかったんだよ」


 私は最初、この話を聞いた時、山奥の研究所によくある、ただの退屈しのぎの怪談だと思っていたんだ。そう、それこそ、暇を持て余した怪談好きの山田さんが、面白がって噂を流したんじゃないかってね。


 研究時間以外は各自自由に過ごせるから、自分の部屋や大浴場、食堂でゆっくりするのもいいし。プレイルームで卓球やゲームをしたり、読書をしたり、いろいろ好きに過ごせるけれど。何せ、ここは深い森の奥の研究所でしょう?


 ほぼ同じ日の繰り返しで、少し飽きてしまったのか。最近、山田さんが、もう少し何か面白いことはないかなぁ、なんてブツブツ言っていてね。会うたびにそれを言ってきたから、私はこの前、山田さんにあるアドバイスしたの。


 研究所の中ばかりにいないで、外にでも行ってみたら? キノコとか木の実とか、神谷のおばちゃんたちが採りに行ってるみたいだし、頼めばいつでも連れて行ってくれるって言ってたよ、ってね。


 研究所には2台、軽トラックがあって。使いたい時は、使いたい目的とどこへ行くのかを申請し、許可が降りれば、誰でも軽トラックを使えるの。


 それで、神谷のおばちゃんたちは気分転換もかねて時々、この閉鎖的な研究所から出て、軽トラックで研究所周りを回りながら、キノコや木の実採りをしているんだ。


 だからそれに、山田さんも同行させてもらえば、神谷のおばちゃんたちみたいに、少しは気分転換できるかと思ったんだよ。


 ちなみに、いちいち申請が必要なのは、ガソリンが貴重な物だから。何しろこんな森の奥にガソリンスタンドがあるわけもなく、何かあってもすぐに、街へ入れに行くことができないからね。研究所ではガソリンを、ちゃんと備蓄してあるんだよ。


 でも、そう。いくら用意してあると言っても、ガソリンの質が悪くならないように、必要最低限しか用意していないから。もしもみんなが、何も気にせずに、ガバガバガソリンを使ったら? すぐになくなって、本当に必要な時に使えなくなってしまうでしょう?


 それで、申請して許可が降りないと、使えないようになっているんだ。神谷のおばちゃんたちは、食材を採りに行くから、必ず許可が降りるみたい。


 だから山田さんに、神谷のおばちゃんたちのことを話したのに、それはなんか違うんだよなぁとか、なんだかんだ言って、結局行かないままで。その後も、暇だ暇だと言っていたから、ついに『あの』噂を流したんじゃないかと思ったの。


 でも、それは違ったんだ。なにしろ今回のことで、1番食いついたのは、山田さんだったからね。自分で噂を流しておいて、あんなに食いつくとは思えないもん。


 実は今、研究所内では、男の子の幽霊が出るっていう話でもちきりなんだ。最初にどこからそんな噂が流れ始めたのかは分からない。でも、その噂は日が経つにつれて、単なる噂じゃなくなってきてね。


 そして、誰かが本当に男の子の幽霊を見たと言い出してからは、どんどん目撃情報が増えて。今では私たちの班だけでも、3人の研究員が見たって言っているくらいなんだ。


 あまりに目撃情報が多いから、まさかみんなで口裏を合わせて、話を大きくしている? なんて、宮本さんと一緒に疑ったよね。

 でも、みんな真面目な研究員だし、実際に話を聞いてみても、とても嘘をついているようには思えなくて。


 それに、みんなが目撃した男の子の姿が、私がここに来た日に見かけた子にそっくりだったの。


 まさかの展開に、思わずちょっとホッとしてしまった私。これまでいろいろと違和感を感じていたけれど、それがようやく、自分の見間違いじゃないものがあったんだから、ホッともするでしょう?


 でも、そうなると今度は……。みんなの言っていることが正しいなら、私は幽霊を見たってことで、それはそれでまた問題だと、何とも言えない気持ちにもなったよね。だって、日常生活の違和感を解決できていないのに、今度は男の子の幽霊なんだから。


 ただ、みんなが気味悪がっている、男の子の幽霊の話に、誰よりも目を輝かせたのが、怖い話好きの山田さんだった。暇を持て余していた山田さんは、待ってましたとばかりに、


「これだよこれ! これこそ俺の求めていたものだし、俺にしかできないことができたよ! 里奈、瞳ちゃん、俺がこの幽霊の正体を突き止めてみせるよ。未知の現象を解明するのは、研究者としての義務だからね!」


 なんて、いい笑顔で宣言してきて。


 それからの山田さんは、研究よりも力が入っているんじゃない? と思うくらい張り切りまくり。仕事の合間を縫って、研究所の古い記録を調べたり、夜な夜なカメラを持って歩き回ったりするようになったんだ。


「今日も彼は、幽霊探し?」


「お疲れ様です。たぶん、そうだと思いますよ」


「はぁ、これでもう5日目? 彼もよくやるわよね」


 そう言いながら、遅めの昼食のサンドイッチを手に、宮本さんが私のところへやって来た。


 山田さんが子供の幽霊を調べ始めて5日目。今日も彼はきっと、お昼休みもそこそこに調査をしているはずだ。


「あ、でも、今日は私、まだ会ってないんですよ」


 そう口を挟んできたのは、山田さんと付き合い始めた川島さん。ここへ来る時から、イチャついていた2人は、1週間もしないうちに本格的に付き合い始めたらしい。研究時間以外はいつも2人で、あいかわらずイチャイチャしているよ。


 ただ、今回の調査に関しては、慣れていない川島さんには危ないとか何とか言って。山田さんは1人で調査をしているんだ。


「ああ、山田なら、今日は休みだぜ。課長に具合が悪いって連絡が来たってさ」


 と、今度は山田さんと同じ班の人が会話に入ってくる。


「え? そうなの!? どうしてそれを早く言ってくれないんですか! ご飯を持って行ってあげた方が良いですよね! あとは医務室へ行って、薬も持って行ってあげなくちゃ!」


「病状を知らないで、何の薬を持って行くのよ。大体、もう課長が、何かしら対処してるんじゃないかしら。あの人、みんなの健康管理にはうるさいもの」


 と言う宮本さんの言葉に、


「でも、彼女の私がついていてあげなくちゃ! それが1番、元気になれると思うんですよ!」


 と、何とも言えない返事を返す川島さん。それに対し、私も周りの人たちも、思わず苦笑いしてしまう。


 ただ、その時だった。休憩室のドアが開き、誰かが入ってきたんだけど。その瞬間、休憩室の中が一瞬だけざわめくと、その後しーんと静まり返ったんだ。


 何が起こったのか分からず、みんなの方を見る。すると、全員が驚いた表情をしたまま、同じ方向を向いて固まっていてね。

 不思議に思いながらも、釣られるように私も視線を向ける……と、次の瞬間。私もみんなと同じように、息を呑み固まってしまったんだ。


 私たちが見ているのは、休憩室の入り口。そしてそこには、今ドアを開けて入ってきたであろう、ある人物が立っている。


 休憩室へ入ってきたのは山田さんだった。ただ、山田さんではあったんだけど、その姿が……。あまりに異様な様子の山田さんが、突っ立っていたんだ。

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