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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
第2章 閉ざされた研究所と崩壊し始める日常

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1話 おかしいほどに完璧で不気味な所長

 研究所へ来てから、早いものでもう1ヶ月が過ぎた。そう、もうだよもう。

 

 最初は、どんなに環境が整っている研究所でも、慣れていない山奥での生活もあいまって、やっぱり戸惑うこともあったし。やっと始まった研究でも、ドタバタすることが多く、本当にこの1ヶ月はあっという間に過ぎていったって感じかな。


 でも今は、ここでの生活リズムに体がようやく馴染み、研究の方も慌てず、落ち着いてできるようになったからね。私は毎日しっかりと、研究に打ち込めるようになって、充実した日々を過ごしているよ。


 そう、だからね、基本的には不満なんてないし、本当に理想的な職場で良かったと思う。ただ……。


 この1ヶ月で、まだどうしても慣れない事。いや、どうしても慣れない人物がいるのと。これは、私の精神的なものが、関係しているのかもしれないけれど。私の身の回りで、いくつか不思議な事が起こっているんだ。


 まず、慣れない人物というのは……この研究所のトップ、霧島恒一所長のこと。


 霧島所長の指示は、基本的にはモニター越しか、あの耳障りなノイズの多い放送で出されて。私たちの前に来て、直接指示を出したのは、今のところ数回だけかな。


 だから、ノイズ放送の時なんて、指示を書き留めるのが大変で。研究をしている時よりも、神経を尖らせ、集中しているんじゃないか、と思う時もあるよ。


 しかも、私はそういう状態なのに、なぜか他の研究員たちはみんな、しっかりと指示を書き留められているという、どうにもおかしな状況で。

 ただ、それでも、みんなは書き留められているんだからと。放送が終わったあとはみんなに、指示の確認をさせてもらっているの。


 あっ、ノイズについては、数回目の時にまた、それとなくみんなに聞いてみたんだけど、やっぱり誰も気にしていなくてね。逆に、ノイズって? と聞かれてしまって。


 みんなが気にしていないことを、しつこく何度も聞いたら、私自身がおかしな人間と思われそうで、もう聞かないことにしたよ。


 そして、そんな、何とも言えない放送をしてくる、霧島恒一所長はといえば……。


 歳は50代くらい。それから、分厚いレンズの眼鏡をかけていて。なんていうか、見た目だけだと、いかにも『研究一筋』という感じの人かな。


 ただ、研究をしているんだから、少しは白衣が汚れたり、よれたりするはずなのに。毎日、というか24時間? 今、洗濯を終えました!! という感じの、糊のきいた、ピシッとした真っ白な白衣を着ていてね。これがどうにも、おかしな感じがするんだ。


 ただ単に、1週間分の研究服を用意してあって、1日ごと変えているだけかもしれないけど。それでもね……。


 ここでの洗濯は、自分たちですることになっていて、それは一般研究員だけじゃなく、課長や他の上の人たち、所長も同じらしいんだけど。夜中まで研究していると言われている所長が、毎日洗濯をしているとは思えないんだよね。


 あとは休みの日に、まとめて洗濯しているのかもしれないけど、それもね。


 研究所の休みは、これが嬉しいことに、週5勤務だけど、自分で好きな日に休みを取れるようになっていて。研究で疲れたと思ったら、次の日、急に休んでも良いし、午後休も好きに取って良いんだ。だからみんな、休みはバラバラなの。


 だけど、所長だけは、ほぼ休みを取らずに研究をしていると、以前課長から聞いていて。それはさすがにと思ったけれど、必ず誰かが、所長の姿を見ていることから、今では本当にそうかもとみんな言っているよ。


 だから、もしそれが本当なら、やっぱり洗濯なんてしている暇はないと思うんだよね。だから私だけじゃなく、みんながおかしいって言っているの。

 

 そして、さっき言った、研究の指示ではめったに私たちの前に出てこない所長だけどれど。研究の成果を確認する時だけは必ずやってきて、私たちの背後からじっと手元を覗き込んでくるんだ。


 その時の、凍りつくような視線と言ったら。それに、感情の読み取れない冷たい声で話しかけてくるし。


 その感じが、外の冷たい霧みたいで苦手というか……。だから、1ヶ月経っても、所長関係のことでは、まだまだ慣れないことばかりなんだ。


 ただ、所長が苦手なのは私だけじゃなく、他の研究員たちも、近寄りがたいし、話しづらいよねって言っているから。私の感覚は、間違っていないんだと思うよ。


 ということで、どうにも慣れない所長が私たちの所へ来て、嫌な気分になった時の対処法として。私は楽しいことを考えたりしたり、仕事以外のことで、何かに集中するということを始めたんだ。


 例えば、おばちゃんの美味しいご飯をいっぱい食べたあと、そのまま部屋で思う存分ゴロゴロするとか。部屋や、割り当ての場所の掃除を、丁寧に細かくやるとかね。それだけで、どれだけ気分転換になるか。でも……。


 そんな気分転換の行為の中や、所長と関わらない仕事の時に。さっき言った、不思議な事が起こり始めたんだ。


 まず、楽しいはずの、食堂での出来事なんだけど。


 この前も、宮本さんと食堂に行った帰りに、


「今日のご飯も美味しかったわね。神谷のおばちゃんの味付けって、本当に最高だわ」


 そう、宮本さんに話しかけられて、私はそれに答えようとしたの。だけど、


「本当ですね。……ええと、今日のおかずって……何でしたっけ? ああっ、そうそう、お魚でしたよね。……あれ? 煮物だったかな?」


「もう、何をボケているのよ。煮魚だったでしょう」


 と、なぜか食べたものを忘れてしまって。


 他の日には、食べた物は覚えているけれど、今度はどんな味だったかを、思い出せないこともあったし。


 もう1ヶ月も食堂に通っているんだから、神谷さんのおばちゃんの料理が、見た目も味も素晴らしいことは分かっているよ。それに、食べた直後は大満足で食堂を出るしね。なのに、食堂を出てすぐに、たまに忘れてしまうことがあるんだ。


 もちろん、言われれば、ちゃんと思い出すよ? ただ、今まではこんなこと、なかったから、ちょっとね……。


 それに、私の身の回りで起こっている不思議なことは、これだけじゃないんだ。

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