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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
第1章 霧の向こうの研究所

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4話 完璧すぎる研究施設と、高鳴る胸の鼓動

 ノイズだらけの所長の挨拶が終わった後は、これといった問題もなく、そのまま課長による研究所の説明が行われた。……まぁ、ノイズを気にしていたのは、私だけだったみたいだけど。


 そして説明が終われば、実際に建物内の案内を受けることになった私たち。案内された研究所内は、私が思っていたよりも、ずっと立派な建物だった。


 まず、1番大切な研究関係。研究室はとても広く、他の研究員を気にせず、悠々と研究ができそうで、それがとても嬉しかったよ。


 なにしろ今までは、狭い研究室で仕事をしていたから、よく誰かとぶつかりそうになったし。というか、実際にぶつかったし。研究自体も、狭い中いろいろやらないといけなくて、そのせいで研究に失敗する、機械に蹴躓いて思い切りこける、なんてことがよくあったからね。


 それから、研究に必要な機材や器具は、高性能、最先端のものが揃えられていて、それだけでも、かなり感激したのに。試薬やサンプルの種類も、聞いていた以上に用意されていてね。

 今までできなかった研究も、いろいろとできそうで、ここに来て本当に良かったと、改めて思ったよ。


 あとは、最初に聞いた会議室。2つの会議室は、まるでおしゃれなオフィスの会議室という感じで、すごく雰囲気がよく。会議も研究同様、ゆっくりしっかりとできそうで、今のところは何の文句もないかな。


 そして、研究以外では、まずは食堂。この研究所を知らない人に写真を見せて、ここが研究所の中だと言われなければ、『この雰囲気のいいレストランはどこにあるの?』と聞かれそうなくらい、広くて清潔な食堂だったよ。


「ここが食堂だ。そして彼女が、とても美味しく、そしてバランスの良い食事を提供してくれる。食堂の責任者で、長年この研究所で料理を作ってくれている、神谷美子さんだ。食堂は24時間、いつでも好きな時に利用していい」


「よろしくね。私のことは神谷のおばちゃんとでも呼んでくれれば良いわよ。それから……」


 神谷さん……神谷のおばちゃんが、簡単に食堂の説明をしてくれる。


「何か食べたい料理があったら、その紙に書いて箱に入れてね。美味しいご飯を、たくさん作っちゃうわよ! ただ、ここは24時間利用できるけど、夜の22時から翌朝の5時までは、私もさすがにここにはいないから。その冷蔵庫から食べたい物を取って、電子レンジで温めて食べて。食べ終わった食器は、そこに置いておいてくれれば良いからね」


 食堂に入る前から、とてもいい匂いがしていたから、食事をするのがとても楽しみ。研究には体力が必要、じゃあ、その体力を付けるには? 美味しいご飯をたくさん食べないと! ……食べすぎには注意だけど。


「それと、何か考えごとや、気になることがある時は、いつでもいいから、私のところに来なさいな。話を聞いてあげるし、できる限りあなたたちの悩みがなくなるように、一緒に考えてあげるから」


「彼女は、ここでは皆の支えのような存在でね。きっと君たちの力になってくれるだろう」


 神谷のおばちゃんは、私の両親より少し年上かな。面倒見の良さそうな、元気で優しいおばちゃんって感じ。もし何かあったら、お言葉に甘えて、相談してみようかなって思ったよ。


 そうして、食堂の後に案内されたのは大浴場。まるで温泉旅館みたいに、広々とした大浴場で。大浴場も基本24時間、誰でも使っていいんだって。


 ただ、みんなが快適に使うには、掃除も大事。これから、いくつかの班に分かれて、仕事をすることになるんだけど。その班が掃除の班にもなっていて、研究所内をローテーションで掃除することになっているんだ。


 専門の清掃の人を頼んでもいいんだけど、ここは深い森の中だから、来てもらうのが大変でしょう? だから清掃の人たちには、年に数回お願いはするけど、それ以外は研究員が掃除をするの。


 この大浴場も、私たちが掃除をするんだ。だから掃除の時間と、お湯を溜めるまでは使用禁止。みんなで使うものだから、しっかり綺麗にしないとね。もちろん他の場所も。


 と、こんな感じで、どんどん案内は進み、最後に案内された場所は……。


「この棟が宿泊棟だ。右が男性、左が女性、それぞれ部屋を用意してある。皆、番号の付いた鍵は受け取ったな。後は部屋でゆっくりくつろいでくれ。明日からのことは、さっき説明した通りだ。それでは、これで解散とする」


 1人ひとりに、個室が用意されている棟へとやって来た私たち。ここで案内は終わりということで、各自、自分の部屋へと向かい始める。


 そんな中、私はさっきの頭痛の話をするために、戻ろうとする課長を急いで呼び止めた。そして私の話を聞いた課長は、


「なるほどな。ここは街中と違い、深い森の中だから。気圧の変化や湿度の高さ、さまざまな要因が重なって、頭痛を引き起こしたのかもしれない。私も時々なるんだ。頭痛薬を医務室でもらうといい。よく効くぞ」


「あ、いえ。私も自分で頭痛薬を持ってきているので大丈夫です。ですが、もしかしたら、ご迷惑をおかけするかもと、一応ご報告をと思いまして」


「そうか。そうやって、しっかり報告してもらえると助かる。急に何かあったら困るからな。もし、何かあれば、今のようにすぐに言ってくれ。研究員の健康を守るのも、我々の務めだからな」


「はい! これからよろしくお願いします!」


 こうして課長への報告を済ませると、私も急いで自分の部屋へ向かう。そうして中へ入れば……。


「わあ……」


 私は思わず、声を漏らしてしまった。


 1人では十分すぎる広さのワンルーム。清潔なベッドに、最新のデスク。そして何より、大浴場もあるのに、綺麗なトイレとお風呂まで付いている。


 これなら、研究で疲れて戻って来ても、ゆっくり体と頭を休められそう。それに、研究で何かあれば、この部屋に戻ってから、落ち着いて考えることもできるよ。


 私は荷物を置き、窓に近づく。外は相変わらず濃い霧が立ち込めていて、さらに、来た時よりも、空気がどんよりしたような気がする。

 だけど、私の心はこの霧とは違い、とても晴れ渡っていた。だって、こんな素晴らしい場所で、研究をすることができるんだよ? 


 ここは研究者にとって、これ以上にないほど最高の場所。必ず、お兄ちゃんと私の夢を叶えるんだ。


 私は、首から下げたお守りをそっと握り締め呟く。


「お兄ちゃん、私、頑張るよ」


 そうしてお守りから手を離し、改めて部屋を眺める。うん、荷物の片付けは、徐々にやっていけば良いかな。明日からの研究生活のためにも、今日はちゃんとご飯を食べて、早く寝ないとね。


 来る時に見た人影、中庭で見かけた男の子、そしてみんなが気にしていない、所長のノイズ放送と頭痛。これはきっと長旅の疲れのせい。だからしっかりと体を休めよう。


 それに、研究が始まったら、きっと不安なんて感じている暇もないくらい、忙しくなるはずだ。


 そう、思った時だった。不意にドアがノックされ声をかけられる。


「高橋さん、宮本だけど、一緒に食事に行かない?」


 宮本さんが、わざわざ食事に誘いに来てくれたらしい。


「はい、行きます!!」


 私は返事をすると、一応、頭痛薬を飲んでおこうと思って。急いでカバンから薬入れを取り出し、その中から頭痛薬の瓶を出す。

 そしてミニキッチンへ行き、コップに水を注ぐと、手に薬を2錠取って口に含み、水で一気に流し込んで、急いで部屋を出たよ。


「お待たせしました!!」


「ご飯楽しみね。あれだけいい匂いだったんだもの。私、いっぱい食べるわよ!!」


「私もです!」


 食堂へ向かう私たち。


 ただ、この時の私は、まだ知らなかったんだ。この完璧な研究所での生活が、少しずつ、音も立てずに崩れ始めようとしていることに。

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