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廃墟に咲く永遠の蕾  作者: ありぽん
第2章 閉ざされた研究所と崩壊し始める日常

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8話 重苦しい空気の中、元気をくれる蕾

 川島さんは、ぬいぐるみが大好きで、研究所にもたくさんのぬいぐるみを持ち込み、部屋中に並べていたんだ。そしていつも本当に大切そうに、ぬいぐるみたちと過ごしていたの。

 だけど今は、あれほど大切にしていたぬいぐるみが、そこら中に散らばっていて。しかも何個かは、ビリビリに引き裂かれ、ゴミ箱に捨てられていたんだ。


 だから私はすぐに、そのことを警官たちに話したよ。それなのに警官は、私が思っていた通り、


「川島さんは山田さんの彼女で、彼がおかしくなってからも、側にいたのでしょう? 彼が精神を病んでいく姿を間近で見ていて、それにストレスを感じ。それと山奥での閉鎖的な生活も相まって、川島さんもノイローゼ気味になったのでは?」


 なんて、また変なことを言ってきてね。もうね、呆れて何も言えなくなりそうだったよ。だけど、それでもどうにかしなければと思い、私は何度も警官に、おかしいと訴え続けたの。でも……。警官たちは川島さんの部屋の調査も、さっさと終わらせてしまったんだ。


 これにも、山田さんの時同様、やっぱりみんなから文句が出たよ。ただ、警官は相手にせず。そのまま会議室に戻されてしまった私たち、


 そしてこの後は、警官たちは何人か連れて、研究所の周りを調べに行ったものの、何もないとすぐに戻って来てしまい。最終的に、


「一旦署に戻って本部に報告し、改めて捜索隊を編成して戻ってくる。それまでは、ここで待機していてください」


 とだけ言い残し、研究所へ来るまでは、あんなに日数がかかったくせに、帰りはサッサと帰って行ってしまったんだ。


 あまりのことに、怒りしか湧かなかった。私たちの証言も、黒塗りの壁は書き殴られた言葉という明らかな異常も、川島さんのぬいぐるみも、ただのノイローゼで終わらせられてしまうなんて。そんなの絶対におかしいでしょう!


 でも、怒ったところで、私に何かができるわけでもなく。ただただその怒りを、必死に押さえることしかできなかったよ。


 ただ、私はなんとか気持ちを押し殺したけれど、警察のあまりの態度に、研究所内の雰囲気はさらに悪化。


 そのせいで、警察が去った直後、これまで不安を押し殺していた人たちの感情が爆発してしまって。今までよりも多くの研究員たちが、所長の元へと押しかけ、文句を言うことになったんだ。


「いい加減にしろ! 仲間が2人も消えたんだぞ!」


「もう研究どころの話じゃないだろう!」


「あんな警察の言葉を待ってられるか! 今すぐ街へ戻らせろ!」


 必死に詰め寄る研究員たち。その様子を、私と宮本さんは少し離れた場所から見ていたよ。あまりにもみんなの勢いが凄くて、危険な気がしたの。でも、所長がなんて言うか、それも気になっていたから、離れた場所から見ていたんだ。


 そして、その所長だけど。必死に訴える研究員たちを、氷のように冷たい言葉で一蹴したよ。


「研究を中断することはできない。そして戻る必要があるとは思えん。あの警官たちが報告をし、捜索隊が組まれれば、問題はなくなるのだからな。大体、迎えのバスは、すぐここへは来られないのだ。となれば、お前たちのやることは1つ。……各自、持ち場に戻り、研究を続けろ」


 その冷たい言葉と、感情の感じられない表情、そして態度に、私は恐怖を覚えたよ。ただ、それは、他の研究員たちも同じだったんだろう。所長の言葉を聞いた瞬間、あれだけ騒いでいた人たちが怯えた顔をして、一斉に黙り込んだんだから。


 所長が部屋に入り鍵を閉めると、その場に何とも言えない空気が流れる。そして少しすると、1人、また1人と所長室から離れていき、最後に宮本さんと一緒に、私もその場を離れたの。


 そうして、その日はさすがに、研究は中止ということになったけれど。次の日からは、何事もなかったかのように、研究が再開されたんだ。


 と、それとほぼ同時だった。今の私たちに追い討ちをかけるように、これまで以上の、季節外れの猛烈な悪天候が研究所を襲い。私たちは外へ1歩も出られないまま、研究所の中に閉じ込められてしまって。ようやく嵐が落ち着いたのは、数日後だったよ。


 ただ、嵐が過ぎても、研究所を包む沈黙は消えなかった。今までは活気というか、みんな研究に必死で、この仕事に誇りを持って取り組んでいたのに。今はただただ黙々と、何かをこなしているという感じでね。


 そして数日後、ついにその空気に耐えられなくなった私は、研究時間だったにも関わらず、外の空気を吸って気分転換でもするかと1人中庭に向かい。そして外へ出ると、中庭に設置されているベンチに座り、空を眺めながら大きく深呼吸をしたんだ。


 うん。相変わらずの霧で青空は見えず、景色もイマイチだけど。街中と違って森の中だから、空気が美味しい気はする。これだけでも、今の私にとっては大切なこと。あー、落ち着くなぁ。


 それにしても……はぁ。せっかく深呼吸をしたのに、今度は溜め息を吐いてしまう。


 ここにきて、研究に集中できると思ったのに、お兄ちゃんと私の夢を叶えられると思っていたのに、まさかこんなことになるなんて。これからどうなってしまうのか。そんなことを考えながらお守りを握る。


「何か楽しいことが、少しくらいあっても良いのに」


 私は独り言を言いながら、お守りから手を離し、今度は軽くストレッチをした後、周りを見渡す。

 

 と、すぐに、あるものが目に入る。そう、それは、この研究所へ来た日に見た、ポツンと1つだけ咲いていた、まだ蕾のままの花だった。


 私はその花に近づき、ここに来て初めてしっかりと花を見てみる。うーん、あの日から、かなり日が経っているのに、まったく花が咲く様子はない。それに、最初に見た時と、蕾の大きさは変わっていないんじゃ……? 


 どうしたんだろう? なんで咲かないのかな? と、ちょっと心配になってしまう。でも……。


 私たち人間の方では異常なことが起き、みんなが戦々恐々としている中、誰にも気に留められていないだろう花。そんな存在なのに、何度も悪天候に見舞われながら、折れずにしっかり残っているなんて、こんなに小さな花なのに凄いな。


 それに、霧が多いいと聞いてはいたけれど、霧の日と曇りの繰り返しで、天気のいい日なんて全然ないし。というか、あれ? 太陽が出た時ってあったっけ? 


 そんなことを考えながら、さらによく花を見てみれば。花が生えている地面が、カラカラに乾いていることにも気づいた。


「霧で地面が湿っていそうなものなのに、こんなにカラカラって。悪天候に、霧に、太陽なしでよく……」


 私は周りを見渡す。すると、ちょっと向こうに蛇口を見つけて、そこにちょうどジョウロもあったから、急いでそっちへ向かった。そしてジョウロに水を汲むと、すぐに花のところに戻り、たっぷり水をあげたよ。


 地面に水が染み渡り、花にも水がかかって、心なしか元気になってくれた気がする。私はその場にしゃがみ込み、しばらく花の様子を眺めていたんだ。すると、しばらくして、私の心に少し余裕というか、落ち着きが生まれてね。


 どんな状況にあっても花を咲かせようとしているその姿に、なんか力をもらった気がして。それから元気のない私に、蕾が頑張れと言ってくれているようにも感じて。その日から私は、毎日この花に水をやり始めたんだ。


 私に元気をくれる花にも、毎日元気でいて欲しい。


 それに、いつかこの蕾が開く頃には、良くないことが少しは解決できているかな? 山田さんと川島さんが無事に見つかって、また研究がしっかりできるようになっているかな?


 そうだ! 全部が解決して、ここから出る日が来たら、この花を鉢に植え替えて、一緒に持って帰ろう。そんなことを思いながら、私はもう一度、静かに蕾を見つめたんだ……。

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