ランバートの覚悟
入ってきたのは、リーディアだった。
「お父様。」
「リーディア…。」
「呼ぶまで待ってもらえと言っただろう。」
クラウス殿下は、リーディアを伴った騎士を軽く咎めた。
「申し訳ございません。話をさせて欲しいと懸命に頭を下げられる姿をみてつい。」
「まったく。」
しかし、そこまで怒ってはいないのかクラウスは軽くため息をついて会話を終わらせた。そしてランバートに抱きつくリーディアに目を向ける。
リーディアは真っ直ぐクラウス殿下を見て言った。
「待てと言われていたのに申し訳ございません。居ても立っても居られず。旧王国側に付いた侯爵家のものが、このようなことを申し上げる権利はないと存じております。父は忠誠心と責任感でのみ旧王国に仕えておりました。覚悟はしていたつもりです。けれど、どうか、命だけは・・・幽閉でも投獄でもかまいません。ただ、せめて生きてさえいてくれれば。」
懇願するリーディアの言葉を、クラウスは微動だにせず受け止めていた。その表情は、先ほどまでの穏やかなものとは異なり、真剣な王子の顔つきに戻っていた。
「・・・リーディア。」
ランバートが娘の名を呼んだ瞬間、クラウスはふっと笑みを漏らした。
「ふふ、本当に相変わらずそっくりな親子だ。」
リーディアは、その笑みを見て目を見開いた。
「まさか、クラウス殿下?」
「ようやく気付いてくださいましたか、姉様。」
「どうして、クラウス殿下が・・・いえ、申し訳ございません。私などがお名前を。」
「クラウスで結構ですよ。お二人とも、いや、この家の方も領民も皆そっくりですね。慈悲深く、忠誠心に厚く、そしてそそっかしい。」
「・・・?どういう・・・。」
リーディアは戸惑いを隠せないまま、その意図を尋ねた。クラウスは懐かしそうに目を細めながらリーディアに言った。
「私は、侯爵を処刑に来たのではなく、宰相への就任を打診しに来たのですがね。」
「えっ!宰相?お父様が?どういう・・・?」
いきなりの展開についていけずリーディアは混乱していた。
父とクラウス殿下の顔を交互にみながら慌てている。
「せっかくですから、まとめて聞いてもらうとしましょう。ここの家に残った家人の方々も連れてきて。」
「はっ。」
そんなリーディアを気にせずクラウスは騎士に指示を出した。未だ全身鎧を着たままの騎士が使用人を迎えに部屋を出て行った。
しぼらくして使用人達が慌てたように入ってきた。
真っ先に飛び込んできたのは侍女長のローザだ。
「旦那様!お嬢様!ご無事でしたか!?騎士様と出ていかれた後なかなか戻られないので心配しておひました。」
「心配かけてしまってごめんなさい、ローザ。この通り無事だわ。マーカスもコルドも怪我はない?」
「ええ、この通りピンピンしとりますよ。旦那様もお嬢様もご無事で何よりです。」
ローザに続いて他の騎士に連れられた使用人2人の姿を見て、リーディアはほっと胸を撫で下ろした。
上司と言われていた人物がクラウス殿下と知って、手荒な真似はされてないだろうと思っていたが、実際に怪我一つなさそうで安心した。使用人と寄り添うリーディアを優しい目で見つめていたクラウス殿下は、ひと段落着いたのをみて声をかけた。
「こほん。感動の再会に水を差して申し訳ございませんが、話をつづけてよろしいですか。ランバート侯爵の宰相就任について。」
「えっ、旦那様が宰相!?」
話についていけたいない使用人達が、先ほどのリーディア同様混乱している。
「旧王国政府の敷いた悪政でも、領民を飢えさせることなく統治したその手腕。領地だけでなく他家の貴族や領民にまで慕われるそのお人柄。自分の身を顧みず旧王国に最後まで尽くした忠誠心。あなたの他に新王国の宰相にふさわしい人間はおりません。ぜひ今度はその忠誠を、新王国に捧げてはいただけないでしょうか。」
ランバートは深く息を吸い込み、決断を下すようにクラウス殿下を見つめ返した。
「・・・私は、この度の革命で、一度絶えたもの。生きながらえたこの命で、今度は新王国になにかできることがあるのならば、尽力したい。」
その言葉に、クラウス殿下は満面の笑みを浮かべ、深く頷いた。




