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アルベルト侯爵の忠誠  作者: @皐月


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尋問と真実

一方、ランバートは一人、応接間の古びたソファに俯いて座っていた。 以前は領主館にふさわしい豪華な家具や調度品があった部屋だが、現在は最低限のテーブルやソファがあるのみで寒々とした雰囲気が漂っている。 複数の足音が近づいてくる音がしたが、逃げ出す気もなくゆっくりと顔を扉に向けた。


バンッ


鎧を付けた騎士が次々と室内に入ってくる。 一番最初に入ってきた騎士がランバートに声をかけた。


「ランバート・アルベルト侯爵。あなたの身柄を確保しにまいりました。」


わかっているというように頷き、立ち上がったランバートに突入してきた騎士が静かに問うた。


「なぜ、革命軍につかなかったのですか。」


その問いにゆっくりと顔を上げランバートは口を開いた。

そこまで大きな声ではなかったが、静かな室内にはよく響いた。


「・・・私は・・・先代の陛下に頼まれていたんだ。あの事故の少し前にね。この国と、この子たちを頼む、と。陛下は何かを予期していたのかもしれない。なのに私は縁起でもないと流してしまった。きな臭い動きがあったことは知っていたのに。みすみす両陛下を見殺しにしてしまった。そして、陛下の遺言となってしまった言葉さえ守れなかった。責任を取らなければならない。国に対しても、あの子に対しても。」


真っすぐ騎士を見つめながら話し始めたランバートを痛ましそうに見つめる騎士の目には、ランバートに対する敵愾心はなかった。


「そうですか、とても残念です。あなたは思慮深く先代陛下からの信任も厚かった。こちらについてくれればと何度も思いました。・・・何か、思い残すことはございますか。」


「私は、斬首でかまわない。悪政を強いた王を止めることができなかった責任はとらせてもらう。救えなかったあの子とともに最後まであろう。ただ…、いや、なんでもない。」


「・・・何か他にあるのなら聞きましょう。」


途中で言いよどんだ言葉の続きを騎士が促した。


勝手な願いだ。

口に出すことに葛藤はあったが絞り出すように声をだした。


「・・・・・リーディアだけは。親バカと言われるだろうが、妻に似て賢く強い子だ。自分も民のために責任を取るというだろう。…ただ、親の身勝手として聞いてくれ、修道院でも幽閉でもいい。せめて、・・・せめて、生きてほしい。そう、願う。あの子に直接の罪はない。私の勝手な意地で旧王国政府側につくことになった。あの子はそれを尊重してくれた。私の想いを汲んで…。それが何を意味するかもわかっていたはずだ。」


最後は懺悔のようになってしまった。別の場所で身柄を確保されているであろう自分の娘。

どんなに不安だろう。恐ろしく感じているだろう。そのような立場に追い込んでしまったのは自分だ。

申し訳なさに顔を上げていられない。


そうして俯くランバートに騎士は語りかけ始めた。


「・・・ここに来るまでに、旧王国政府側の中心にいた貴族達の領地を回ってきました。農地は荒れ果て、町には人さらいや盗賊がはびこり、領民は皆飢えに苦しみ、暗く沈んだ眼をしておりました。」


ランバートの脳裏にも近隣の領民の苦しむ姿が浮かぶ。 なんとか助けたいと問題の貴族達に直接苦言を呈したが、贅沢に慣れ、王に媚びへつらい甘い蜜を吸うことだけを覚えた彼らには何を言っても響かなかった。 そして、彼らの領地に救いの手を差し伸べられるほどの余裕はすでに侯爵家にもなかった。 自分の領民を守るだけで精一杯の元宰相など・・・とランバートは自嘲した。


「一方で、彼らを捕縛するために突入した旧王国政府側の貴族達の館は高価な調度品にあふれ、領主やその家族が身に着けている物はどれも一級品。肥え太った体をジャラジャラと飾り立ててましたよ。捕縛して刑罰が決まるまで城の地下牢への禁固を言い渡せば、賄賂として溜め込んだ金品を差し出そうとするものもおりました。それを断れば、自分の囲い込んだ愛人、はては妻や娘さえも差し出してきました。外見ばかり飾り立て、醜い心根が瓜二つの女性達をね。」


その姿はランバートにも容易く想像できた。

こぶしに自然と力が入る。

殴ってでも目を覚まさせるべきだったか。

いや、 ノブレス・オブリージュを忘れた貴族達にもはや誇りなどとっくに残っていなかっただろう。


「ところで、ここで働いていた者たちはどこに?」


騎士たちが突入した時、この館はその広さに反して、残っている使用人は3人のみ。 急いで逃がしたにしては、残されたものも少なく、長く使われた形跡のない部屋ばかりだった。


「・・・税がはね上がった段階で、最低限雇える人間を残して屋敷を離れてもらったよ。みな隣国や革命軍についた貴族にツテを使って紹介状を渡した。もともとこの屋敷には私と娘の2人しかいない。あの子も自分のことは自分でできるからといって侍女はつけなかった。残りの者も、旧王国がいよいよ倒れるかという時にこの家を離れてもらうように説得した。しかし、代々我が家に仕えてくれている執事やリーディアの乳母でもある侍女長、料理長は最後まで残ると聞かなかった。彼らはここに来るまでに貴殿達に何か粗相をしたかな。だとしたら・・・だとしても、できれば見逃してくれるとありがたい。彼らは一般の民だ。悪政に苦しめられた者達だ。無礼を働いたかもしれないがそれは私達を思ってくれての事。忠誠心が厚く、立派に働いてくれた有能な者たちだ。きっと、新王国にも懸命に仕えてくれるだろう。だからどうか、彼らには慈悲を・・・。この通りだ。」


低く頭を下げ、懇願しかできない自分を情けなく思いながら膝をつこうとするランバートを、周りの騎士が慌てて静止した。


「頭を上げてください、侯爵殿。彼らを罰するつもりはありません。少し話を聞かせてもらうために、別室にて待機してもらっているだけです。怪我もさせておりません。お嬢様も同じようにお待ちいただいております。」


「・・・・・・そうか。ありがとう。」


娘も使用人も無事と聞いて、ランバートはようやく安心したように顔を上げた。


「あなたやお嬢様に危害を加えるなと抵抗はされましたがね。領民の方々にも。」


特に騎士隊がこの領地に着いた時の領民達の反応は凄まじかった。 老若男女問わず、それぞれ斧や鎌、フライパンや石など武器になりそうなものを手に持ち、こちらを睨みつけてきた。 領主達に何かあれば、ただではおかないとその目が語っているようだった。


「彼らが・・・?」


「もちろん、危害は加えておりませんよ。話し合いに来たのだと説得して通していただきました。」


騎士隊が本気を出せば、ろくな武器も持たない平民など簡単に制圧できただろうに。彼らは穏便に説得を重ねてここまで来たらしい。 旧王国政府の堕落してしまった騎士達とはその心根も違うようだ。


「それにしても、ここの領民はとても元気ですね。多少貧しそうではありましたが、気力を失ってはいない。治安は自警団が見守りきちんと統制がとれている。何なら傭兵たちも自警団に加わっているようでしたよ。農地も耕され、少ないながらも収穫が見込めそうな様子が見受けられました。だから・・・逆にここにきて驚きましたよ。ここは本当に侯爵家の館なのかと。」


「・・・。」


「質は良いものなのでしょうが、古く最低限しかない家具。この部屋も応接室とは思えないほど何もない。他の部屋も同様だ。生活に必要なものしかこの館には残っていないようだ。あなたも、お嬢様の着ているものも実に質素だ。」


見かけだけは大きく歴史を感じさせるような立派な建物だが、内装はあまりにも寂しいものだった。


「私はもう後妻をとる予定もない中年だ。もう表舞台に立つことはないのだからゴテゴテ着飾る必要もない。娘にだけは少しの装飾品だけでも残してやろうと思ったのだが、妻の昔のドレスを引っ張り出してきてね。縫い直せば着られるからと。それに、着飾っては庭仕事が出来なくなるからと言われてね。全て売り払って使用人への退職金に充てたのだ。」


「では、あの庭は・・・。」


かつては見事な庭園があった場所は、いくつもの野菜が植えられた畑に変わっていた。


「ああ、あの子が耕した。食べられず育てるのに費用や手間のかかる花よりも、食物の方が大事だからと。少しではあるが、そこで採れたものを領民にも分けることができるからと。」


泥だらけになりながら畑仕事をする令嬢など聞いたことがないと反対はしたものの、領民達も頑張っているのに部屋で大人しく着飾ってなどいられないと言われてしまえば、年頃の娘にこんな苦労をさせて申し訳ないという気持ちと、領民の事を思える優しい子で誇らしい気持ちがせめぎあい、結局それ以上何も言えなかった。


「なるほど。確かに、聡明で優しいお嬢様ですね。」


騎士も彼女の言葉に感心したようにうなずいた。


「・・・ここに来るまでに、本当に苦労しました。いろんな方々に止められてね。領主様とお嬢様に危害を加えないでくれ、と。いつも自分達のことを優先して考えてくれた心優しい領主様達を、どうか連れて行かないでくれと泣いて懇願されましたよ。」


「な・・・。彼らがそんなことを。いや、結局彼らにも何もしてあげられなかった。私がもっと上手く皆立ち回れていれば・・・。」


怠惰に落ちた国王。それに群がる貴族達。 破滅の足音は確実に近づいているというのに、甘い蜜に酔い先を見通す力を失った者達はそれに気づかず刹那の享楽に耽るのみだった。


何とかしなければ。

そう思い必死に国王に縋ったが、「くだらん」と切り捨てられただけだった。止めようとも止められない流れにいつしか諦念と暗い覚悟だけが残った。 もう王にも上層部にもまともな国政は期待できない。


もう諦めて隣国へ娘と逃げようか。


そう思った時、先代陛下の言葉が浮かんだ。


『・・・この国を、あの子達を頼む。』


先代陛下への責任を果たすために、鬼となろう。 一人残してしまった兄王子。今度は手を離しはしない。 王、政府と共に心中する覚悟を決めた。 娘のリーディアの事だけでも逃がそうとしたが、彼女も覚悟を決めた目で言った。


『最後までお父様と一緒に残ります。』


どう説得しても意思を曲げない娘にとうとう折れた。 あの頑固さは誰に似てしまったのか。 亡くなった妻の強い眼差しを思い出し、そんな場合ではないのに口元に笑みが浮かんだ。


「ああ、アルベルト侯爵。本当に、残念です。」


騎士の落胆の言葉に、いよいよ妻に会いに行くことになるかもしれないと覚悟を決めた。 ランバートは、ただ静かに運命を受け入れようと目を閉じる。 しかし、騎士は腰の剣ではなく頭にかぶった兜に手をかけた。


「裏切られた気分でしたよ、本当に。」


不意に、騎士が先ほどまでの丁重な態度から一転、拗ねたような口調に変わった。その声は、どこか記憶の奥底を刺激するような、懐かしさを秘めていた。


「私を覚えていらっしゃいますか?」

「君は・・・いや貴方は、クラウス殿下?」


兜を外した騎士は鮮やかな金髪に優しげな顔立ちをした青年だった。 先代王妃にも、捕らえられた前国王にも似た面立ち。


ランバートは言葉を失い、目を見開いたまま立ち尽くす。目の前にいるのは、かつて命を賭して国外へ亡命させた幼い弟王子。革命を成した新王その人だった。


18時間に合いませんでした。。。

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