リーディアの覚悟
部屋で亡き母に祈っていると、慌てた様子でメイド長のローザが駆け込んできた。
「お嬢様!ご無事ですか?玄関に新王国軍の騎士が来ております。中に突入してくるのも時間の問題かと…。」
「…そう、ありがとうローザ。」
ローザの切羽詰まった泣きそうな顔を見て、少し冷静になった。
私達には、まだ守らなければならない人がいる。
「お嬢様。…逃げましょう!まだ逃げられるはずです。」
「…ローザ。それはできないわ。」
「お嬢様…。」
「貴方は逃げて。マーカスやラルド達と一緒に。」
最後まで仕えてくれた使用人達。せめて彼らだけでも。
しかし、無情にも足音は、徐々にこちらに近づいてくる。玄関を抜けそのまま真っ直ぐこちらに向かってきているようだ。
使用人達には、抵抗しないように伝えてある。彼らは貴族ではない。旧王国政府の被害者だ。
それなのに最後までこの屋敷に残ってくれた。
私達のために傷つけられることがなければいい。
ガチャ。思ったよりも静かにドアが開けられた。
蹴破られてもおかしくないと思っていたので、その理性的な対応にほっと安堵する。
この様子であれば使用人たちも無事だろう。
入ってきたのは長身の騎士だった。
「リーディア・アルベルト嬢。二人に王命が下っている。ランバート・アルベルト侯爵と一緒に登城を。」
私たちの最後を告げにきたであろう騎士の声は平坦だった。全身鎧に覆われ、兜も被っているため表情は見えないが、罪人を捕らえてやろうという圧は感じない。
死神がいたらこんな感じだろうか。
もっと乱暴に引っ立てられて連れていかれる事も想像していた。こんな最後なら悪くないかもしれない。
しかし、ローザはそうは思わなかったようだ。
こちらに向かって立つ騎士に縋り付くように懇願した。
「騎士様!お願いします。お嬢様を、お嬢様を連れて行かないでください。…どうか!この身はどうなっても…」
「ローザ。」
取り乱すローザの肩に手を置いて何とかなだめる。
「ローザ。落ち着いて。騎士様を困らせてはいけないわ。」
「お嬢様…ですが…。」
「私たちなら大丈夫よ。マーカスとラルドにもよろしく伝えてね。騎士様、行きましょう。他の使用人も同様、手出し無用でお願いします。」
「お嬢様!私達も一緒に…。」
ついて来ようとするローザを視線で止め、騎士に向き直る。
騎士はじっと黙ってこちらのやり取りを見ていたようだった。その様子からはこちらに対しての敵意は感じない。まぁ、こんな小娘に警戒を向けるほどでもない。ということだろうか。
「さぁ、騎士様。参りましょう。」
「その前に、私上司がランバート侯爵に話があるようです。それが終わるまでこの部屋で待機を。私も一緒にここで待たせていただきます。」
「…あなたの上司が?」
一体どのような話だろう。父に乱暴なことをされてなければいいけれど。
「はい、直接お話したいことがあると。ああ、ご安心を。私も上司も、もちろん同行した騎士たちも手荒な真似はしないと誓います。」
「…ええ。」
そう返事はするものの、いつ腰に下げられた剣が抜かれるかわからない。逃げる気はないが、極力おとなしくしている方が賢明だろう。
リーディアは父への話というのが終わるまで、静かに待つためソファに腰を落とした。




