誓い
クラウスに隣国への亡命を打診した晩、ランバートはエドワードを自室に呼び出した。
「エドワード。君に頼みがある。」
ランバートは、クラウス殿下の亡命が極秘に進んでいることを伝えた上で、エドワードに隣国への同行を求めた。
「クラウス殿下は幼く、護衛はつけるけれど、見知らぬ土地での不安は大きいだろう。そして、君はうちの騎士とも渡り合えるくらいの剣の腕もある。」
エドワードは、その重大な任務に息を呑んだ。
「私は正式な騎士ではありませんがよろしいのでしょうか。」
「君の剣の腕は私も信頼している。うちの騎士団長のお墨付きもあるしね。何より、君は殿下にも信頼されている。」
しばらく考える様子を見せた後、エドワードは覚悟を決めたようにうなずいた。
「承知いたしました。この身に変えても殿下をお守りいたします。」
「危険な任務を任せてしまってすまないね。もちろん殿下の身は大事だが、私は君も無事に戻ってこれることを信じているよ。」
侯爵と従者の息子という立場だ。
単純に命令をすればいいものを、丁寧に頭をさげるこの方をエドワードは主としてとても尊敬していた。
その主にこんな風に頼まれて否はない。
しかし彼の視線は無意識に、扉の向こう、リーディアがいるはずの方向へ向けられた。
ランバートはその葛藤を察したように言った。
「リーディアのことは心配しなくていい。あの子は強い子だし、私が守る。君が殿下に忠誠を尽くし、隣国で力をつけておいで。君の為にも、あの子の為にも。」
エドワードはランバートの真意を理解し、深く頭を下げた。
「・・・必ず戻ってまいります。」
リーディアに直接伝えることのできない想いは胸にしまい、エドワードは誓った。
自室に戻ったエドワードは、ベッドの上に横たわりながら過去を思い出していた。
母がリーディアの乳母も務めていた関係で、エドワードとリーディアはほぼ毎日一緒にいた。
リーディアが生まれた時のことも覚えている。
小さくてかわいいお姫様。その姿を見た時から自分が守るのだと心に決めた。
母を亡くして泣いているリーディアをなんとか慰めようと奮闘もした。
立ち直りそこから美しく成長していく姿もずっとずっと見守ってきた。
いつしか一人の女性として、彼女を意識するようになった。
きっかけはクラウス殿下である。
弱かった彼が元気になり、リーディアを守りたいと言い出した時、
将来、彼女の隣に立つのが自分ではなくなるころを想像した。
父からも母からもさんざん言われてはいたが、実感が伴ったのはその時が初めてだった。
圧倒的な身分差を今まで感じなかったのは、子供だったこともあるが、何より侯爵様やリーディアがそれを許してくれていたからだった。
ただ、大人になってもそれが許されるとは考えられず、仮に近くにいられたとしても隣には立てない。
そう悟った瞬間だった。
諦めようと何度も思ったが、どうしても諦めきれなかった。
やるせない気持ちをぶつけるように剣に打ち込み、いつしか侯爵家の騎士団に混じり鍛錬をするようになった。そしてランバートは騎士団に混じるエドワードを咎めたことはなかった。
直接何か言われたことはなかったが、なんとなくランバートはエドワードの気持ちを察し、見守ってくれていたように思う。普通の貴族であったなら家族まとめて追い出されていてもおかしくない。
リーディアが慕ってくれているからというのもあっただろうが、ランバートはエドワードを評価してくれているようだった。
そして今、リーディアの隣に立てるチャンスを与えようとしてくれている。
その期待に必ず応えてみせるとエドワードはこぶしを握り締め目を閉じた。
パパはママと恋愛結婚でした。
リーディアにも政略結婚させる気はない。
あと、エドワードを嫁に貰えばずっと家にいてくれるという打算も。




