帰宅と結婚準備 7
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イアナが事情を説明すると、コンソラータ・モンレアーレは大きく息を吐き出した。
「あの女の非常識さと愚かさを舐めていましたわ」
吐き捨てるように言ったコンソラータに、イアナは心の中で「確かに」と同意する。イアナもまさかジョルジアナと母がここまで愚かだとは思っていなかったからだ。
「コンソラータ様、申し訳ございません。重ね重ね、妹がご迷惑を」
「イアナ夫人が謝罪される必要はございませんわ。身内と言えど、イアナ夫人に責任を取っていただこうとも思っておりません。ですが、このまま何事もなかったことにはできませんわね」
それはもちろんである。
イアナはフェルナンドから連絡が来る前に、コンソラータとギオーニ男爵の考えを確認しておこうと背筋を正した。
「ギオーニ男爵にもお伝えしましたが、今回の縁談を白紙にし相応の慰謝料をお支払いする形でまとめるのが通常の対応となるかと思われます。ですが、今回の縁談はコンソラータ様のご意向もあってまとめられたものですので、まずはお二人のご意見をお伺いさせてくださいませ」
「あら、それでは今回の件の話し合いの窓口はイアナ夫人ですの? アントネッラ伯爵ではなく?」
「父を出すと言い訳ばかりして話し合いが進まない気がいたしますので」
「確かに、イアナ夫人の方が話し合いはスムーズにまとまりそうですわね。それにイアナ夫人も被害者ですから、ご意見もおありでしょう」
コンソラータは少し機嫌を直したのか、口端をきゅっと持ち上げて笑った。彼女はギオーニ男爵に視線を向けた。
「おじ様には悪いのですが、わたくし、この縁談は白紙にしたくありませんの。おじ様だって、もともとこの話をお受けくださったのは、おば様に似たジョルジアナさんが社交界で笑いものにされるのを見ていられなかったからでしたわよね? でしたら、縁談はこのまま進めさせていただいてもよろしいかしら?」
イアナは知らなかったのだが、ギオーニ男爵はジョルジアナの外見に一目ぼれしたとはいえ、ジョルジアナを名実ともに妻にするつもりはなかったらしい。
というのも、いくらジョルジアナが亡き妻の若かりし頃に似ているとはいえ、中身はまったく違う。ギオーニ男爵は亡き妻に操を立てているため、ジョルジアナと肉体関係を持つつもりはこれっぽっちもなかったそうだ。
けれども亡き妻によく似たジョルジアナが社交界で笑いものにされるのが忍びなく、また、あまりに非常識で好き勝手している彼女を見ていると、まるで亡き妻の名誉が汚されていくような気がして落ち着かなかったらしい。
ゆえにコンソラータの提案を受け、ジョルジアナを後妻として娶ったあとは、教育者をつけてその根性を叩き直してやろうと考えたそうだ。
コンソラータも、イアナに相談に来たときはギオーニ男爵の考えのすべてを知っていたわけではなかったようで、前妻によく似たジョルジアナを側に置きたいと考えていると思ったそうだが、縁談をまとめる際に詳しく聞いてみたところ彼の考えを知ったと言う。
「おじ様がジョルジアナさんと子作りするつもりがないのならアントネッラ伯爵家の跡取り問題が出てしまいますが、まあ、それは追い追い考えればよろしいかと」
「三人も息子がいるのにもうこれ以上子供はいらないよ。私もいい年だからね。新たに子供が生まれたら、その子が成人する前に他界することになるかもしれないし、なにより私は亡き妻だけを愛している」
「はいはい。のろけは結構ですわよおじ様」
つまり、二人の意見では、ジョルジアナとギオーニ男爵との縁談はこのまま進めるということでまとまっているようだ。
その上で落としどころをどうするか、だが。
「あの、一つご提案なのですがよろしいですか?」
「うん? 何ですかな?」
「アントネッラ伯爵家のことです。借金まみれの領地なので、このようなご提案をするのは忍びないのですが……。今回の件で慰謝料を請求されても、アントネッラ伯爵家にはお支払いするものがございません。ですのでいっそ、伯爵領をギオーニ男爵家に譲渡し、例えばですがギオーニ男爵の息子さんのどなたかを次期伯爵にする形としてはいかがでしょう? もちろん借金までかぶっていただく必要はございませんし、伯爵領を抵当に入れて借りているお金については、タウンハウスを売ったお金と母とジョルジアナがまだ抱え持っている宝石類を売り払って支払えば何とかなると思います。他の借金まで返す余力はないでしょうが、それは父と母を働かせるなりなんなりして支払わせれば、と」
イアナの意見を聞いて、ギオーニ男爵が顎を撫でながら考え込む。
「ふむ。悪い意見ではないと思うが、少々難しいかもしれませんね。タウンハウスや宝石類を売って、伯爵領を抵当に入れて借りている借金は返せたとしても、他の借金をイアナ夫人の両親の働きだけで返済するのは難しかろう。もしその意見ですすめるのならば調整が必要です」
「どうなさいますの、おじ様。わたくしとしても、イアナさんがおっしゃった以上の賠償をアントネッラ伯爵家から受け取るのは不可能だと思いますけど」
その通りである。アントネッラ伯爵家には、ほかに払うものが何もない。
「そうだなあ……。ではこうしよう。伯爵領についてはイアナ夫人がおっしゃったとおりの形で嬢として戴こう。領地の譲渡については国王陛下の判断も絡むが、恐らく通るだろう」
「わたしも、譲渡許可が下りるようにフェルナンド様から口添えいただくようにお願いいたしますわ」
「ステファーニ公爵の口添えがあれば間違いなく通るでしょうね」
ギオーニ男爵は薄く笑って続けた。
「その上で、アントネッラ伯爵家の他の借金だが、私が肩代わりしようと思います。そしてイアナ夫人の両親を私が経営している会社で働かせて、その給料から少しずつ借金の返済分を天引きする。まあ、彼らが生きているうちに全部は返せないだろうが、その分の補填についてはアントネッラ伯爵領をうまく運営して回収してみせるさ。領地があればいろいろできることもあるからね、私としてもありがたい」
ギオーニ男爵は宮廷貴族なので領地を持っていない。領地を得ることは彼の長年の夢だったそうで、あんな領地でも得られるのが嬉しいと言う。
「今のところ、アントネッラ伯爵領の主な産業は麦の栽培ですが、逆に他には何もしていないので、いくらでも手の付けようがあると思います」
「私もそう思いますよ。手始めにどんな産業が向いているのか調べるところからでしょうね」
「立地的には貿易路を引いてもいいかもしれませんね。アントネッラ伯爵領にある山にトンネルを掘れば、隣国からの輸送路の短縮になりますから」
「ほう? そうなると町も活性化しそうですね。採算が取れそうなら、その方向でも考えてみましょう」
ギオーニ伯爵がほくほく顔で頷く。すでに彼の頭の中にはいろいろな構想がありそうだ。
領地を奪われタウンハウスも売却する羽目になると知ると父と母が騒ぎそうだが、ギオーニ男爵、コンソラータ、そしてフェルナンドの三人に逆らえると思えない。それだけのことをしたのだ。こちらの方に正義がある。世間的にも非難されることはないだろう。
「あとは、ステファーニ公爵が何を要求されるかでしょうが……」
「それについては、夫に確認して見ます。おそらく近々連絡があると思いますので」
「コンソラータはそれでいいかね?」
「ええ、と言いたいところですが、おじ様に一つお願いがあります」
「なにかね?」
「ジョルジアナさんがこちらに引っ越してからしばらくの間、わたくしもここで生活させてくださいませ。……わたくしがびしばしと性根を叩き直してやりますわ」
なるほど、ジョルジアナに直接鬱憤をぶつけるつもりらしい。
ギオーニ男爵は困った顔で笑った。
「別に構わないが、君はそれよりも次の夫を探す方が優先ではないかな。跡取り娘がいつまでも遊んでいたら、君のご両親が頭を抱えるよ?」
これは、コンソラータに誰か良縁を見つけてあげた方がいいのだろうか。
コンソラータが望むなら、フェルナンドに相談してみようとイアナは思った。
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