帰宅と結婚準備 6
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同時刻。
フェルナンドは馬車に揺られて、王都へと向かっていた。
ステファーニ公爵領から王都まで通常馬車で五日ほどかかるところを無理を言って急がせ、三日ほどで向かう予定にしたので、ほとんど休憩を取らず、道中に通りかかる親族の邸で馬を途中で交代させて、夜通し駆ける行程だ。
馬車は二台で、後続の馬車には縄で拘束したジョルジアナを乗せた。
花嫁の交換など、容認できるはずもない。
ジョルジアナは騒いで暴れて抵抗したが、フェルナンドが、騎士たちに拘束されて罪人用の馬車で王都へ移送されるのとどちらがいいかと問えば大人しくなった。
あのあとジョルジアナからふざけた話を聞かされたフェルナンドが、何故ジョルジアナを邸に入れたのかと執事に問えば、伯爵のサインが入った書類を見せられてフェルナンドも了承済みだと言われたからだと回答があった。ジョルジアナはフェルナンドまで了承していると嘘をついて、妻との思い出の詰まった寝室を汚したのだ。絶対に許せない。
執事もおかしいとは思ったそうだが、今日から自分が女主人だと豪語し、逆らうなら解雇すると騒ぐジョルジアナに手を焼いて、仕方なくフェルナンドの帰宅を待つことにしたのだと言う。
ちなみに、ジョルジアナには客室で待つように言ったそうだが、勝手に邸の中を歩き回り、夫婦の寝室に入り込んで居座ってしまったのだそうだ。
さらに悔しいことに、実はあの隠す気もないほどに透けた夜着は、我が家のメイドが、イアナのために買ったものらしい。イアナ本人も知らないもので、結婚式の夜に本人がよければ着せようと考えていたと聞いたとき、フェルナンドは眩暈を覚えた。メイドにあきれたからではない。ジョルジアナが着れば下品に映ったが、イアナが着ればさぞ美しかっただろうと想像してしまったからだ。
とはいえ、一度ジョルジアナが袖を通したものをイアナに着せたくはないので、今度メイドに言って違うものを購入させておこうと思う。
ジョルジアナはどうやらフェルナンドが二十歳の姿であることをどこかから見聞きして知っていたようだった。
その上でフェルナンドのことを、世間には秘密にされているフェルナンドの隠し子だと認識しているらしく、自分を拒めば秘密をばらすぞと脅して来た。もちろん、馬鹿馬鹿しいと笑ってやったが。
(イアナは大丈夫だろうか……)
ギオーニ男爵は知っている。花嫁を交換すると言われてはいそうですかと頷くような御仁ではないし、コンソラータも認めないだろう。
だからイアナがギオーニ男爵の花嫁になることはない。それはわかっている。わかっているのだが……。
(うっかりギオーニ男爵に惚れないでくれよ、イアナ……)
イアナは若い男性にはこれっぽっちも興味を示さない、俗にいう枯れ専だ。
ギオーニ男爵は六十歳。そして若かりし頃は人当たりの良さと優しく甘い顔立ちで、女性たちからの熱視線を集めていた男である。
今は亡き奥方との大恋愛の末に結婚した話は、ある一定の年齢以上の人間は皆知っているほど有名だった。そして浮気一つせず妻一筋だった誠実な彼は、実はいまだに、年配の女性からはとても人気のある男性だ。
イアナは二十歳だが、男性の好みは年配女性のそれである。コロッといかないともかぎらない。もちろんイアナを信じているが、こればっかりは信頼とは別の問題だ。愛しているがゆえに不安なのである。もしかしたら、と思ってしまうのだ。
(やっぱり一緒に王都に行けばよかった!)
エラルドから嫁を見つけてきたと言われた時は、まさかこんなに大切な存在になるとは思ってもいなかった。
王族であり、幼いころから王族や臣下に下った時の貴族のあり方を叩きこまれて来たフェルナンドは、結婚は政略結婚一択だった。
前妻とも政略結婚だったし、エラルドが見つけてきた縁談は政略結婚とは違うけれど、やはりそこに自分の感情は反映されないものだった。フェルナンドがそういう考え方だからエラルドも相談せずに勝手に見つけてきたのだろう。
前妻とは、お互いに穏やかな愛情で結ばれていたと思う。恋愛感情ではなかったが、夫婦として、家族としての愛情はあった。彼女との結婚生活は短い期間で終わりを告げたが、フェルナンドにとっては大切な時間だったし、彼女と結婚したことに後悔はなかった。
跡継ぎにエラルドもいるし、孫もいる。ゆえにフェルナンドに再婚の意思はなかったし、エラルドが若返りの薬なんてものを作らなければ、このまま一人で一生を終えただろう。
ひょんなことから二十歳に戻って寿命が延びてしまったために、エラルドが罪悪感に駆られて見つけてきた二人目の妻。
イアナが嫁いできたとき、最初に感じたのは安堵だった。
彼女の人柄、そして息子夫婦や孫たち、使用人たちに接する態度。若返ったフェルナンドに戸惑いつつも向き合おうとしてくれる姿勢。
ああ、いい女性が嫁いできてくれたなとフェルナンドは思った。
彼女の実家は厄介だったが、王弟で公爵という高い身分を持つ自分にとっては些細な問題だった。
けれど、イアナと共に過ごすようになり、それほど経たずに自分の中に別の感情が芽生えたのをフェルナンドは知った。
おそらくこの感情を、人は恋と呼ぶのだろう。
おかしなものだ。外見はともかく実年齢は四十二歳も年が離れている若い女性に、フェルナンドは生まれて初めて恋をしてしまったのだ。
イアナは本当に不思議な女性だった。
年が離れているのに、まるで年の近い女性と接しているような安心感がある。
愛おしさで心がざわざわと揺れるのに、長年連れ添ってきた相手を前にするような穏やかな気持ちにもさせる。
嫁いでくる以上、相手を慈しみ大切にすることは夫の義務だと思っていたフェルナンドだったが、それは義務ではなく自分に与えられた権利なのだと思い知らされた。
イアナと共に過ごす権利が与えられたのが、この上なく嬉しく、幸せだと思った。
だから――もう、手放せないのだ。
彼女がいない人生など考えられないほどに、フェルナンドはイアナを愛してしまったから。
フェルナンドはぎゅっと両手を握り締める。
領地から王都まで、どうしてこんなにも距離が離れているのだろうかと、舌打ちしたくなった。
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