モンレアーレ伯爵夫人の報復 3
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「イアナ、それはなんだ?」
あと五日で大晦日という日の昼前。
二日ほど雪の日が続いていたが、今朝になってようやく止んで綺麗に晴れた。
三十センチほど積もった雪を見て、イアナがふと、雪だるまを作ろうと思いつき、ころころと雪玉を転がしていると、フェルナンドが玄関前に顔を出した。大きな雪玉を見て不思議そうな顔をしている。
「これは雪だるま……雪人形? を作るんですよ」
ステファーニ公爵邸は、庭も室内も年末の飾りつけで華やかに彩られている。ついでに玄関横に大きな雪だるまを置こうと考えたのだ。
「一つ目はこのくらいの大きさで、二つ目がこのくらい。それを二つ重ねて作るんです」
手袋をはめた手を横に広げて雪玉の大きさを伝える。
フェルナンドが頷いた。
「じゃあ私も手伝おう」
「お仕事はいいんですか?」
「もうほとんど片付いたよ。年末年始は妻とゆっくりしたいからね、早めに片付けるようにしていたんだ」
イアナの赤くなった鼻先にちゅっとキスをしてフェルナンドが笑う。
イアナも笑って、フェルナンドの頬にキスを返した。
「優しくて素敵な旦那様で嬉しいです! それじゃあ、旦那様は上に重ねる雪玉を作ってくださいな。このくらいですよ」
「わかった。任せなさい」
フェルナンドが雪を固めて拳大の雪玉を作る。それをころころと転がして大きくしていく姿が微笑ましい。
二つの雪玉が完成すると、それを壊さないように慎重に重ねた。
そこそこ大きな雪だるまである。雪玉を重ねただけ今の高さでイアナの腰の位置よりも大きい。
「あとはバケツの帽子をかぶせて、目と、手を付けて……」
雪だるまの頭にバケツをかぶせ、目の部分はリース作りで余った松ぼっくりを使用した。手の部分は木の棒を刺して、先端に手袋をはめる。首の部分にマフラーを巻けば完成だ。
「できました!」
「面白い人形だね。だが、愛嬌があっていいと思うよ」
ヴァリーニ国では雪だるまを作る文化はない。祭りなどの余興で精巧な雪像を作ることはあっても、こんなに単純なものは作らないのだ。
「玄関が可愛らしくなりましたね」
「簡単に作れますし、まだまだ雪がありますからもっと増やしてもいいかもしれませんね」
様子を見に来た使用人たちにも雪だるまは好評のようだ。
雪が積もれば使用人たちが雪かきをするが、雪かきついでに雪だるまを作るのもいいかもしれないなんて言っている。
「馬車の邪魔にならない場所ならいくら並べても構わないから、好きなだけ作るといい」
フェルナンドが許可を出したから、この日から手の空いた使用人たちがころころと雪玉を転がす姿を見かけるようになった。
(ルッツィとカーラがいたら喜ぶんでしょうけど)
来年のこの時期は一緒に来られるといいのだが。
「奥様、お届け物ですよ」
可愛いお孫ちゃんを思い浮かべたから神様がご褒美をくれたのだろうか。執事が五十センチくらいの横幅の箱を持ってやってきた。
差出人はアリーチャの名前になっている。
「なにかしら?」
ダイニングテーブルの上に箱を置いてもらい、包装を解いて箱を開けると、中には手紙とリースが二つ入っていた。
「まあ! ルッツィとカーラが作ったリースだわ!」
「わざわざ送ってくれたのか」
イアナと一緒にダイニングにいたフェルナンドが、子供らしい華やかなリースを手に取って笑った。
「部屋の扉には全部飾ってしまいましたから、この二つは寝室の壁に飾りませんか?」
「そうしよう。それにしても、使われている色の数がすごいな」
「隙間なくぎゅうぎゅうに飾り付けられていますね」
イアナとフェルナンドはリースを持って寝室へ向かった。
一番目立つところに二つ並べて飾ると、寝室の中が急に華やいで見える。
「もうすぐ一年が終わるな」
「あっという間ですねえ」
だが、春の終わりにフェルナンドに嫁いでから今日まで、転生してからの二十年間の中で一番幸せだった。そして、きっと、これからも幸せだろう。そんな確信があった。
 









