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枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉  作者: 狭山ひびき


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嫁ぎ先はロマンスグレーの老紳士……じゃなかったの⁉ 2

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 フェルナンド・ステファーニ公爵との結婚が決まってからというもの、妹のジョルジアナはその結婚を毎日のように嘲笑った。

 自分のせいで姉が売り飛ばされるも同然の結婚をする羽目になったと言うのに、何の反省もしていないらしい。


 とはいえ、絵姿のフェルナンドに恋に落ちたイアナとしては、ジョルジアナの嘲笑など痛くもかゆくもなかった。

 頭の中は未来のロマンスグレーの旦那様のことでいっぱいだ。


(家のためのそのうちどこかの若い男の子に嫁がされると思っていたけど、まさかこんな奇跡が起きるなんて! 早く会いたいわ、旦那様!)


 フェルナンド・ステファーニ公爵に悪い噂はない。

 フェルナンドは数年前に代替わりした先王の弟だ。つまり、現王の叔父である。

 性格は穏やかだが怒らせると怖いと言う噂もあった。しかし理不尽なことで怒ったりはしないし、身分に関係なく他人に対して礼儀正しい方だと言う。

 生活はあまり派手ではなく、立場上出席しなければならない公的行事や社交以外、華やかな場所には出入りしたがらない。

 今年三十五歳になる息子が一人と、その息子と嫁の間に幼い孫が二人いるそうだ。


 つまり――


(結婚と同時に息子とお嫁さんと孫ゲット!)


 息子の結婚が少し遅かったため、孫は長男が三歳、長女が二歳だそうだ。可愛い盛りの男の子と女の子! 前世では息子一人に孫も男の子二人だったので、女の子という存在にちょっとわくわくする。小さな女の子はどんな感じだろうか。

 あまりに気がはやって、縁談を聞いた次の日には少ない荷物はまとめ終えてしまっていた。何なら今すぐに向かってもいいくらいだが、あちらから迎えの馬車が来ると言うのでその日が来るのを指折り数えて待つしかあるまい。


 ジョルジアナはイアナがもっと凹んでいると思っていたらしく、いつもと変わらない――何ならいつもよりも楽しそうな姉に面白くなさそうな顔をしていた。イアナの心を少しでも折りたいのか、六十をすぎて二十歳の娘と再婚する男なんてろくなものじゃないだの、すぐに寝たきり状態になって介護させられるようになるだの、その年で孫ができるなんて可哀想だのあれこれ言っていたが、もちろんそんな言葉で心が折れるイアナじゃない。


 縁談がフェルナンド本人ではなく彼の息子エラルド・ステファーニが募集をかけていたという点だけ少し引っかかるが、そんなもの些細な問題だ。

 あの素敵紳士に嫁げるのならなんだっていい。未来の息子よ、募集をかけてくれてありがとう。

 ジョルジアナの嫌味をやり過ごし、イアナがうきうきと掃除をしていると、珍しく母が側にやって来た。イアナを気味悪がっている母が自分からイアナに近づいてくるのは珍しい。


 ふと窓を拭く手を止めて振り返ると、母ははらりと扇を広げ、眉を寄せてイアナを見ていた。


「イアナ、嫁ぎ先ではうまくやるのですよ」


 久しぶりに母の声を聞いたなと思いながら、この人にも人並みに娘を心配する気持ちがあったのかとちょっぴり感慨深くなる。

 しかし、どうやらイアナが考えていたのとは、母の用事は違ったようだった。


「支度金でジョルジアナの慰謝料は何とかなります。ですが、我が家が困窮している事実は変わりません。あなたはステファーニ公爵にうまく取り入り、我が家に仕送りするように仕向けなさい。いいですね?」


 なるほど、母はステファーニ公爵に我が家の援助をさせようと考えているようだ。

 娘の婚家が実家の支援をするという話はまったくないわけではない。そういう約束込みの縁談だってある。けれど今回は支度金の支払いは明記されていたが、援助の約束まではなかった。つまりイアナにフェルナンドを篭絡して金を巻き上げろと言っているのだろう。


(え、そんなことしたくないけど?)


 会ったことはないが絵姿ですでにフェルナンドに恋に落ちているイアナである。好きな人から金を巻き上げるなんて絶対に嫌だ。そんなことをして嫌われたらどうしてくれるのだ。


 第一、アントネッラ伯爵家が困窮したのは、父の領地経営が下手くそで、さらには領地の収入が減ったと言うのに浪費を続けた母とジョルジアナのせいである。

 アントネッラ伯爵領はさほど大きくないが、それでも昔はそこまで困窮していなかった。

 主な産業は麦の栽培で、ここヴァリーニ国は主食が麦なため、対策も何もしなくても買い手はいたからだ。


 しかし十二年前。ヴァリーニ国はそれまで止めていた麦の輸入を解禁した。

 理由は十二年前に蝗害が起きて麦の収穫量が激減したためである。

 食糧を賄うためにヴァリーニ国王はこれまで自国の産業を守るために禁止していた麦の輸入を解禁せざるを得なかった。さすがにこの年だけ解禁なんて都合のいいことはできず、近隣諸国との話し合いで永続的な麦の輸入を解禁することが決定し――結果として、他国から安い麦が入ってくるようになった。


 こうなると、自国で作っていた麦は売れなくなる。

 他国に合わせて価格を下げると言う手もあるが、売価を下げればそれだけ収入が落ちる。最悪赤字だ。


 麦の栽培が主な産業だったアントネッラ伯爵領は当然、収入が激減した。

 イアナはこの危機を察し、いち早く父に麦に代わる産業を探すべきだと言ったけれど、父はまったく取り合わず、年々税収が減る上に、母やジョルジアナが贅沢をするために借金をし、使用人を大幅に解雇する羽目に陥ったがそれでも借金を返すめどが立っていないどころか増え続けていると言うのが現状だ。


 この世界には魔術の概念があり、十二年前の蝗害から今日まで、魔術塔や各領地の魔術研究所は、こぞって農業の災害対策に使える魔術具の研究をはじめている。

 アントネッラ伯爵領も、その研究に着手しつつ、麦よりも高値で安定した収入が得られる別の作物の生産をはじめ、ついでに加工品も領内で作るようにしたらどうかとイアナは提案したが、父からは「女が領地経営に口を出すな!」と怒鳴られた。


 領地経営に口を出すなと言ったくせに、嫁ぎ先から家に仕送りをしろというのはどういうことだろうか。他からお金を仕入れるのも領地経営の一環だろう。口を出すなと言われたのだから、イアナは何もするつもりはない。


 しかし、それを母に言えば烈火のごとく怒るだろう。

 イアナは曖昧に返答してやり過ごすことにした。


「ステファーニ公爵様とは仲良くしますわ」


 これは嘘ではない。イアナは可能ならば夫となるフェルナンドと仲睦まじい夫婦になりたいと考えているからだ。

 母はイアナの回答に満足したようで、くるりと踵を返すと去っていく。気味の悪い長女とは長話をしたくないらしい。


 イアナは窓を拭く作業を再開しながら、ふと、庭に咲いているミモザの花を見やった。

 春が過ぎれば夏が来る。

 前世で言うところのクーラーのような古い魔術具が我が家にあったが、去年の夏にとうとう最後の一台が壊れたはずだ。今年の夏、あの人たちはどうやってすごすのだろう。


(また借金をして買うのかしら? でもそろそろ、お金を貸してくれる人も銀行もなくなる気がするのよね)


 何故ならお金を貸してもアントネッラ伯爵家には返す力がないからだ。貸しても返ってこないところに金を貸す馬鹿はいないだろう。そろそろ銀行や各家からの督促が入りはじめると思う。


(これまで返済が滞っていたところに向けてジョルジアナの慰謝料騒ぎだもの。これはまずいと思って、貸したお金を返せって連絡が入るでしょうね)


 父はそこまで想定しているのだろうか。していない気がする。


(そう言えば、半年前にお金を借りる時にとうとう領地まで抵当に入れたみたいだけど……取り上げられないといいわね。お父様)


 この家から出て行くイアナにはもう関係のないことだが。

 イアナは基本的に温厚だが、何十回と言っても聞かないおこちゃまに手を差し伸べるほど慈悲深くもない。


 というか、言って聞かない子供には経験でわからせるしかないと言うのがイアナの前世の教育方針である。

 息子が反抗期だった時も、最終的に怒って息子の食事だけ作らなくなったことがあった。最初はお小遣いでパンやおにぎりを買ってしのいでいた息子も、それが十日続けば音を上げた。頑固だった息子が素直に「ごめんなさい」をしてきたのだ。あの時の息子のしょんぼりした顔を思い出すとついつい笑みがこみ上げる。


(ま、これもいい経験よ)


 イアナは窓をきゅっきゅと磨きながら、ふんふんと鼻歌を歌い出した。





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