社交デビュー 6
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次の日、イアナは国王夫妻に招かれて登城した。
フェルナンドがついているとはいえ、国王夫妻と面会するのは非常に緊張する。
城の侍従がサロンに案内してくれ、フェルナンドとソファに並んで座って待っていると、二人の息子の手を引いた国王と、赤ちゃんを抱っこした王妃がやって来た。王妃の後ろには乳母もついてきている。
「叔父上、この度は結婚おめでとう」
国王が朗らかに笑って、そのあとで王子二人の背中をポンと叩くと、二人が口をそろえて「おじいさま、お久しぶりです」と挨拶をした。フェルナンドは正式には二人にとって大叔父なのだが、祖父と呼ばせているようだ。
フェルナンドに促されてイアナが挨拶をすると、国王夫妻が挨拶を返してくれる。二人とも優しそうな人たちだった。二人の王子も、赤ちゃんの王女もたまらなく可愛い。きゅんきゅんする。
王子たちに大人の話は退屈だろうからと、挨拶が終われば二人はすぐに退出した。王女も乳母が抱っこして部屋を出て行く。ちびっこがいなくなってちょっぴり寂しかったが、今日は国王夫妻に面会するのが目的である。ちびっこと遊びに来たわけではない。
「それにしても、エラルドが二十歳の女性を叔父上の嫁に見つけてきたと聞いたときは驚いたが、うまくいっているようでよかったよ。それに、例の外見問題も何とかなったようで安心した」
「エラルドは今、お前の父上の要望に答えるためにこの指輪と同じ魔術具を作っているよ」
「……あー、父上が本当にすまない」
国王が苦笑して肩をすくめる。
フェルナンドがふっと笑った。
「まあ、結果だけ見れば、兄上がエラルドにおかしな注文を出したおかげでこうしてイアナが嫁いできてくれたことだし、悪くはないけれどな」
「叔父上、堂々とのろけないでほしいのだが」
「のろけるくらいしておかないと、お前は私たちの夫婦関係を心配するだろう?」
「まあ、実際にこの目で見るまでは、上手くいきっこないと思っていたからね」
年の差が四十二歳もあるため、国王はこの結婚を心の底から心配していたようだ。財産目当てとか思われていたのかもしれない。
ここは安心させねばなるまい。イアナは緊張しながら口を開いた。
「わたくしはもともと年上の男性が好きですので、旦那様と縁が結べてとても嬉しく思っております」
「年上好きでも四十二歳は上すぎないか?」
「全然。このくらいがちょうどいいのです」
笑顔で答えると、国王が「ちょうどいい……」とあきれたような顔になった。四十二歳をちょうどいいなんて言う若い令嬢はほかにいなさそうなので、驚かれるのは仕方がないかもしれない。
「まあまあ陛下、仲睦まじくていいではありませんか。わたくしもイアナには会いたかったので嬉しいですわ」
にこりと微笑んだ王妃の笑顔に、どことなく含みがあるような気がして、イアナは「ああ」と合点した。
アントネッラ伯爵家はいろいろ問題なので、国王夫妻の耳にも入っているのだろう。あの家と縁を結んで大丈夫か、と心配されていたに違いない。
「アントネッラ伯爵家の問題が、陛下たちのお心を悩ませていらっしゃるのでしょうか。そうであれば大変申し訳ございません」
「陛下、王妃殿下、イアナはアントネッラ伯爵家の娘だが、彼等とはまるで考え方が違うから安心してくれていい。むしろイアナも被害者だ」
フェルナンドがフォローを入れると、王妃が「なるほど」と頷く。
「フェルナンド様がそうおっしゃるのであれば問題なさそうですが……、このままではアントネッラ伯爵家は存続自体危ぶまれますけどどうなさるおつもりです?」
「どうもしない。没落するのならそれでも構わないだろう。イアナはもう関係ない」
「ステファーニ公爵家がアントネッラ伯爵家の問題を背負うことはないのだな?」
国王はステファーニ公爵家がアントネッラ伯爵家の借金を肩代わりしたり、あれやこれやと不利益をこうむったりするのではないかと懸念していたようだった。フェルナンドとイアナが揃って頷けば、ホッとした顔になる。
(問題児ばかりな家族ですみません)
国王夫妻にまで気を揉ませていたとあって、イアナは申し訳なさでいっぱいになった。
フェルナンドの再婚に反対しなかったあたり、国王夫妻はエラルドの判断を信用していたようではあるが、心配でなかったというのは嘘になるのだろう。イアナも同じ立場なら大いに心配した。あんな家族と縁続きになって大丈夫か、と。実際父は未だに金の無心をしてくるし、ジョルジアナはステファーニ公爵家の名前を出して買い物をしていた。嫁ぐ前には母からステファーニ公爵家がアントネッラ伯爵 家を援助するように頼めとかなんとかふざけたことも言われた。
(そんな家から嫁ぐんだから、まともな女なのかと思われても仕方がないわよね)
エラルドのことだから、父が縁談に飛びついた後、イアナの身辺調査はしていたはずだ。だからこそ迎え入れてくれたのだろうが、国王夫妻と調査結果を共有していたのかどうかは定かではない。
「イアナが実家を庇わないのであれば問題なさそうだな」
「あの、庇うとは? アントネッラ伯爵家が何か……」
「とある銀行から法務省にアントネッラ伯爵家の家財の差し押さえ申請が出されたらしい。相手が伯爵家のため、私まで確認が入ってね。一応君に話しておこうと、まだ許可を出していないのだが、許可を出していいのだろう?」
思ったより、銀行が動くのは早かったようだ。
「もちろん構いません。利子を払おうと思えば払えるのに放置した父たちが悪いんですもの」
「なんだ、利子を払う余力はあったのか」
「母や妹が宝石類を大量に持っております。それを売れば借金全額は返せなくとも、当分は利子の返済ができるはずです。でも、あの二人は頑として売ろうとしませんから」
イアナがばらすと、国王が人の悪い顔で笑った。
「銀行には今の情報をおまけとしてつけておこう。嬉々として宝石類を押収するだろうな。って、こんな話ばかりではつまらないな。すまない。今日の目的は叔父上と君との団欒なんだ。もう小難しい話はやめよう」
お茶とケーキをすすめられて、イアナは微笑んでティーカップに手を伸ばす。
王妃がステファーニ公爵領でどんなふうにすごしていたのかを聞きたがったので、フェルナンドと祭りを楽しんだり、ルクレツィオとカーラのためのおやつを作ったりしていた話をした。
王妃は子供のおやつに興味を示して、作り方を詳しく聞いてきたので今度紙にまとめて持ってくると伝える。どうやら王子二人がニンジン嫌いだそうで、ニンジン入りのケーキを試してみたいと考えているようだった。
帰る頃にはすっかり打ち解けて、王妃からまた遊びに来てほしいと誘われた。
国王夫妻とは、とてもいい親戚付き合いができそうである。
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