お祭りデート 2
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一方その頃――
「お義母様、これなんてどうですか?」
イアナは明日の夕方に開催予定だという祭りの準備で、着ていくワンピースを選んでいた。
町のお祭りに貴族がよく着るようなドレスで参加すれば町民たちも緊張するので、町娘風のワンピースを着ていくことにしたのだ。
アリーチャがお勧めしてきたのは小さな花柄のワンピースで、確かに可愛い。
(でも、おばあちゃんには派手すぎると思うの)
イアナはこの世界では二十歳だが、ここに来て孫の相手をしていたからか、すっかり前世の頃の意識に戻っていた。六十歳のおばあちゃんには、ひらひらスカートの花柄ワンピースはどうも派手だと思うのだ。
「もうちょっと落ち着いた雰囲気のものの方がいいんじゃないかしら?」
「お義母様ったら。ドレスも落ち着いた雰囲気のものばかり選ばれますし、もっと明るい色の服を着た方がいいですよ。若いんですから!」
「あら、旦那様も落ち着いた色合いの服を好まれていますよ」
「お義父様は見た目が若くても中身は六十二歳じゃないですか」
それを言えばイアナも中身は六十歳のおばあちゃんのつもりなのだが、さすがにそれは言えないので苦笑しておく。
「可愛い格好をしたらお義父様もお義母様に見とれますよ! ここは女を見せる時です。こういうのを世間ではギャップ萌えって言うらしいですよ」
「ギャップ萌え?」
「普段落ち着いた格好をしているお義母様が可愛いワンピース姿で現れたら、きっとお義父様もきゅんきゅんしますって!」
「きゅんきゅん……」
それはちょっといいかもしれない。
フェルナンドはイアナを尊重し、大切にしてくれている。
だが、お互い中身が中身なので、なんというか、新婚のくせに数十年連れ添った熟年夫婦感が漂っていた。
別に熟年夫婦な感じも落ち着くのでいいのだが、イアナも女である。愛しい旦那様がときめいてくれると聞けば俄然やる気にもなるというものだ。
(旦那様はわたしを大切にしてくれるけれど、ときめいてくれているかどうかは怪しいところだし……きゅんきゅんしてもらえるのなら頑張ってみようかしら?)
イアナはアリーチャおすすめの花柄ワンピースをとっくりと眺めた。
上半身は白でスカートの裾に行くにつれて明るめの青のグラデーションが入る。花柄はスカート部分だけで、ウエストはきゅっとリボンで縛るタイプ。
胸元は大きくあいていないが、鎖骨は出るデザインで、袖は半袖のパフスリーブだ。
さあさあ試着しましょうと言われて、イアナは専属メイドのクロエとマーラに手伝ってもらって着替えてみた。
「ウエストはリボンで絞るので調整できますし、胸元も丈も大丈夫そうですね。お義母様、とっても可愛いですわ。お義父様もきゅんきゅんすること間違いなしです」
「そ、そうかしら?」
「そうですとも!」
アリーチャが絶賛し、フェルナンドが間違いなくきゅんきゅんすると言われて、イアナはすっかり乗せられた。
「じゃあこれにしようかしら?」
「ええ、そうしましょう! じゃあ次は髪飾りですね!」
まだ選ぶものがあったのか。
アリーチャが取り出した複数の髪飾りを見て、今日は完全にアリーチャの着せ替え人形になるしかなさそうだなと、イアナは苦笑した。