-第6話 格闘美姫-
バロン村の宿屋の一階の食堂で食事をしながら、今後の打ち合わせをすることに。
カイルが
「先ず情報を整理しよう。」
と言ってエレオノーラに情報を整理した紙を出してもらう。
そこでレティシアが
「私が王都の行商人から聞いた情報を付け加えてくれ。」
と言って、内容をエレオノーラに伝える。
「そうすると、こうなるな」
と言って、レティシアからの情報を付け加えたものを皆に見せる。
・ドラゴンの牙
北に五日ほどの所にある雪山にフロストドラゴン
南西に三日ほどの岩山の天辺にファイヤードラゴン
南へ十日ほどのところの岩山にグレートドラゴン
・光の護符
・緋の宝珠
・黄金の実
サナトスフォレスト、別名“人喰いの森”の奥に一本だけ黄金の実をつけるリンゴの木があるらしい
・破魔の短剣
・賢者の石
大陸南部を中心に回っている行商人が持っていた
・銀の聖杯
マジーアの町から東へ二日程の所にある、一都市二村のみで成り立つ小さな宗教国家である、“トレスケイア教国”の大司教“ラドミール”が持っている
・ユニコーンの角
ユニコーンはこの大陸には現存してない。しかも希少で遭遇できるかどうかも分からない。商人のつてを辿って、少量、流通しているものを探す方が早そう
・魔除けの指輪
・照魔鏡
以前、マジーアの町に住んでいた“モーリッツ”という魔導士が持っていたが、数年前に町を出て消息不明
それを見てカイルは
「場所がある程度ハッキリしてるのは、ドラゴンの牙、黄金の実、銀の聖杯か・・・・・・。ここから一番近いのはどこだ?」
エレオノーラが答える。
「銀の聖杯だな。トレスケイア教国は教都と二つの村だけで構成されているが、大司教なら間違いなく教都に居る筈だ。」
グスタフが問う。
「ドラゴンは何処にする?」
プルムが答える。
「南端に向かうのに北へ行くのは遠回りですし、トレスケイア教国に行くのでしたら南西に行くのもちょっと遠回りですね。多少後回しになりますし、一番強力で倒しにくいとは思いますがグレートドラゴンを目指すのが良いと思います。」
レティシアが付け足す。
「それに北の山だと、雪山装備も必要になるしな。」
これらの話を聞いてカイルが
「まだまだ情報も足りないし、先ずはトレスケイア教国の教都を目指そう。」
と言うと、皆、了承する。
食事を済ませ、二階の客室へとそれぞれ上がる。
今回は二人部屋を三部屋でカイルとグスタフ、プルムとエレオノーラ、レティシアとクレアという部屋割り。
部屋でベッドに横になったカイルはグスタフに問う。
「なぁ。俺、以前のカイルらしく振舞えてるかな?」
それに対してグスタフが答える。
「まぁ多少はな。でも無理しなくて良いと思うぜ。以前のお前が完璧だったわけじゃないし、俺もレティシアたちも今のお前を受け入れてる。それに今のお前を見て、レティシアたちも良い意味で変わってきている。今のお前は今のお前の考えで行動すれば良いと思うぜ。」
「そうか。ありがとう。」
と言うとカイルは眠りについた。
翌朝、カイル一行が荷物を荷馬車に積み込み、出発の準備をしていると、ブライアンが見送りに来る。
エレオノーラがブライアンに
「ブライアンさん。王都にいる知り合いの薬師宛ての鬼灯を使った堕胎薬の相談の手紙を駐屯兵舎に預けてある。今日中には伝達人が王都へ届けてくれるだろう。返事はブライアンさん宛てに送ってもらうように書いてあるから、あとはブライアンさんがやり取りして、もし上手く薬が出来そうなら受け取って、被害にあった人たちに飲ませてやってくれ。」
と言うとブライアンは
「何から何までありがとうございます。」
と礼を言う。
エレオノーラが
「礼ならカイルに行ってくれ。皆を助けるって決めたのも、鬼灯のアイディアもカイルだからな。」
と言うとブライアンはカイルに向かって
「カイル様、ありがとうございます。娘を宜しくお願い致します。」
と言う。
カイルはそれに対して
「当然の事をしたまでです。クレアの事はお任せ下さい。」
と言うと、トレスケイア教国に向けて出発した。
二人が馬を引き、二人が左右の警戒、一人が荷台の後ろに後ろ向きで座って後方警戒、一人は荷台で休憩。
これをローテーションで馬引き右→左警戒→後方警戒→馬引き左→右警戒→荷台で休憩の順で交代していく。
何事もなく、道程の三分の二ほど歩いたところで、夕暮れになり、グスタフが
「そろそろ夕飯にしようぜ。」
と言ってくる。
それに対しカイルが
「そうだな。ちょっと早い気もするが、今なら日が落ちる前に夕飯を終えられそうだし、今日はだいぶ歩いたから早めに休むか。」
と言い、荷馬車を止めて夕飯と野営の支度を始める。
カイル、グスタフ、レティシア、エレオノーラが二人用テントを二つ設営し、プルムとクレアが夕飯の支度をする。
テントの設営を終えた後、ふと気付くとレティシアの姿が見えない。
カイルはエレオノーラに
「レティシアはどうした?」
と聞くと
「林の方へ行ったよ。」
と答える。
カイルが
「一人じゃ心配だ。探してくる。」
と言って林の方へ行こうとすると、エレオノーラが
「あんたが一人になる方が心配だよ。」
と引き留めようとするがカイルは
「何かあれば逃げてくるか助けを呼ぶから大丈夫だよ。」
と言って走って行ってしまう。
エレオノーラは
「ミイラ取りがミイラにならなきゃ良いけど・・・・・・。」
とあきれ顔。
林の中に入ったカイルは少し奥に入ったところに湖があるのを見つけた。
(水を汲みに行ってるかも)
と思ったカイルは湖の方へ行ってみる。
すると、太ももの中間くらいの深さのところで誰かが水浴びをしている。
近づいてよく見ると・・・・・・。
(あれは?レティシア!?しかも全裸で水浴びしてる!!)
余分な脂肪の付いてない筋肉質な身体ながら、女性らしい滑らかさもあり、エレオノーラより大きくプルムより小さな胸はカップで言えばCカップくらいの適度な大きさで形も良い。
あまりの光景にカイルは思わず声が出る。
「綺麗だ・・・・・・。」
その声に気付いたレティシアは
「カイル!?何でここに!?」
と慌てて胸と股間を隠す。
狼狽えてカイルが何も言えないでいると
「ちょっと見直してたのに覗きなんて最低!!」
と言って駆け寄って飛び蹴りを食らわせる。
カイルは
「ぐあっ!」
と言って気を失う。
どれくらい時間がたったのかカイルが目を覚ます。
「痛たた・・・・・・。」
と言いながら、頭の下が柔らかいことに気付く。
カイルがよく周りを見ると、レティシアが膝枕をしてくれている。
「すまん!」
と言ってカイルが起き上がろうとするが
「痛っ!」
と痛みで上手く起きあがれない。
するとレティシアが、カイルの胸を押して
「しばらくこのまま大人しくしてろ。まだ痛むだろ。」
と言ってカイルを寝かせる。
レティシアが
「やりすぎたな・・・・・・すまない・・・・・・。」
と言うとカイルが
「いや、こちらこそ済まなかった。覗く気なんてなかったし、綺麗さに目を奪われて目を離せなかったんだ。」
と言う。
レティシアが
「もう一発殴るぞ!」
と言って拳を作るとカイルは慌てて
「本当の事なんだから仕方ないだろ!」
と言うとレティシアは
「私なんかが綺麗なわけないだろ!」
と怒ったように言う。
カイルが
「いや、本当に綺麗だよ。」
と言うとレティシアは照れながら
「本当か?」
と聞く。
カイルが
「本当だよ。顔も身体も本当に綺麗だ。」
と言うとレティシアは顔を真っ赤にしながら
「この事は、誰にも言うなよ!」
と凄む。
カイルが慌てながら
「分かったよ。」
と言う。
カイルは前にグスタフに言われたことを思い出し
「なぁレティシア。俺に攻撃のかわし方や体捌きを教えてくれないか?」
と聞いてみる。しかしレティシアは
「すまない。格闘家系の私と剣士系のお前じゃ戦闘スタイルが違い過ぎて、私じゃ教えられないと思う。」
と返す。
少しの沈黙の後、カイルが
「なぁレティシア。お前、どうして格闘家になったんだ?」
と聞く。
それに対してレティシアが口を開く。
「私の生まれ故郷は魔王城の近くにあった村なんだ。それで、魔王が城を造って侵攻してきたときに真っ先に壊滅させられた。その時に両親と大好きだった妹を殺されたんだ。私だけが運よく生き残り必死に逃げた。いつか強くなって魔王軍に一矢報いようと。」
「それで王都まで辿り着き、何の当てもなく、時別な技術や知識も無い十六歳の小娘だった私には、身体を売るか冒険者になるしかなかった。魔王軍に一矢報いたい気持ちがあった私は迷わず冒険者になった。しかし、小娘の私に出来ることは町や用水路の掃除や荷物運びくらいだった。」
「日銭を稼いで何とか生き延びるのが精いっぱいだったんだが、ある時、暴漢に襲われたんだ。そこへ一人の老人が現れて私を助けてくれた。その老人は私を自宅へ連れていき、食事を振舞ってくれた。今考えれば大したものではなかったんだが、毎日ろくなものを食べてなかった当時の私には非常にありがたかった。」
「私が老人に事の経緯を話すと、その老人は『強くなりたいか?』と言ってきた。聞くと老人はかつては冒険者で格闘家だったと言う。武器も防具も買えなかった私にはピッタリだった。」
「私は老人に格闘術を教えてもらえるように懇願し、老人は承諾してくれた。」
「それからは、冒険者ギルドで雑用の依頼をこなしながら、帰ると老師から格闘術の修行という毎日を送った。一年もするとある程度戦えるようになった私は一人で王都周辺の魔物退治の依頼を受けるようになっていた。そんな生活が三年ほど続いた時、老師が『一人では限界があるし、魔王軍に一矢報いたいのなら、そろそろパーティーに入って本格的に冒険者になってはどうか』と言ってきた。そんな時、お前たちと出会って、このパーティーに加入したんだ。」
カイルは話を聞いて
「そんなことがあったのか・・・・・・。大変だったんだな。」
と言いながら
(レティシアがクレアに対して面倒見がいいのは、きっとクレアと亡くなった妹を重ね合わせてるからなんだろうな・・・・・・。)
と思った。
レティシアが
「お前たちのお陰で魔王を倒すことができた。礼を言うよ。失ったものは還ってきはしないが・・・・・・。」
と悲しそうに言う。
その時、少し離れたところで、ガサッっと音がする。
音のする方を見ると、木の陰で寝ていた魔物が目を覚ましたらしい。
「オーガだ!」
とレティシアは言いながら立ち上がる。
カイルも慌てて立ち上がる。
二人とも装備は無い。
しかし、オーガはカイルたちに気づくと突っ込んできて逃げる暇はない。
オーガが巨大なウォーハンマーをカイル目掛けて振り下ろす。
レティシアが
「右だ!」
と叫ぶと同時にカイルが右へ避ける。
ウォーハンマーは地面に突き刺さる。
「なんて威力だ!」
とカイルが言うとオーガは三分の一ほど地面に食い込んだウォーハンマーを軽々と引き上げ振りかざす。
カイルが
「俺が引き付けるから、お前は逃げろ!」
とレティシアに言うと
「そんなことできない!」
と言ってレティシアは構える。
オーガがハンマーを素早く振り回し隙が無い。
カイルが突っ込み、強力なウォーハンマーの一撃を全身で受け止める。
「ぐあっ!」
とカイルが声を上げるが、ハンマーの動きが止まる。
レティシアは近くの木を蹴り、高く飛び上がると二メートル以上はあるオーガの顔面へ蹴りを浴びせ、着地と同時にオーガの腹に拳の連打を浴びせる。
オーガが前かがみになったところで
「スキル:昇竜拳!」
炎をまとった拳のアッパーカットをオーガの顎目掛けて放つ。
レティシアの拳をまともに食らったオーガは断末魔の叫びを上げて倒れる。
倒したと思って安心しかけた時、少し離れた所から二体のオーガが走ってくる。
「さっきの叫び声は、仲間を呼んだのか!」
とカイルが叫ぶとレティシアは
「お前は逃げろ!」
と言って
「スキル:百歩神拳!」
とスキルを発動、オーガの一体を吹っ飛ばし、もう一体へ駆け寄り
「スキル:獄屠蹴!」
とオーガの腹をけ破り、更にもう一体に近づき、両手首を内側で合わせ手のひらをオーガに向けて突き出し
「スキル:剛掌波!」
と強力な気でオーガの肉体を破壊する。
カイルは
「オーガを一撃・・・・・・!」
と驚いていると、レティシアがカイルに駆け寄り
「大丈夫か!?」
と声をかける。
カイルは
「助かったよ、ありがとう。」
と言うとレティシアは
「何を言ってるんだ、最初に助けてくれたのはお前だろ。」
と言う。
カイルが
「え?」
と戸惑っていると
「最初に『逃げろ』と言ってくれたし、攻撃の隙を作ってくれたのもお前だ。こちらこそ、ありがとう。」
とレティシアが言い、カイルは
「そ、そうか?夢中でよく分からなかったよ。」
と照れながら返す。
カイルが
「しかし、凄いな、レティシアは。いろんなスキルが使えて、しかも強力なのを連発できるなんて。」
と感心して言うとレティシアは
「最初から強力なスキルが使えれば、お前に苦労させずに済んだんだが。私の場合、攻撃を食らわせたり、食らったりすることによって体内に気力のようなものが貯まって、それが一定以上にならないと強力なスキルが使えないんだ。その代わり、スキル使用時のHPの消費は少ないんだけどな。お前がハンマーの動きを止めてくれたおかげで、三角飛び蹴りからの拳の連打で気力を貯め、一匹目を倒したことによって一気に気力が上がって一撃必殺のスキルを使えたんだ。本当にお前のおかげだよ、カイル。」
と言ってカイルを抱きしめる。
そこへグスタフたちが走ってくる。
「どうした!?何があった!?」
とグスタフが聞くとレティシアは慌ててカイルから離れ、カイルも慌てながら
「オーガに遭遇しちまって、レティシアに助けられた。」
と言う。
エレオノーラは
「言わんこっちゃない。」
とあきれ顔。
レティシアが
「いや、助けられたのは私の方だよ。」
と言うとエレオノーラは
「一体どういうことだ?」
と困惑する。
グスタフが
「とにかく、無事なら良かった。プルムとクレアが待ってるから、戻って飯にしようぜ。」
と言い、皆で戻って食事にする。
食事が終わるころには空は暗くなり、交代で見張りをしながら休むことにする。
レティシア・ダラス
25歳 173cm 83-58-85 Cカップ
切れ長の目に長い黒髪、細身ながら筋肉質。
職業は格闘家系の最上級職である達人。
現在の武器は“ドラゴンクロー”(鉄甲鈎と呼ばれる手の甲に装備する鈎爪状の武器の系統で最強と言われる武器)
生まれ故郷の村は魔王軍により壊滅、その際に両親と妹を失う。
王都に逃げ延びた後、暴漢に襲われたところを助けてくれた老人に格闘術を習い格闘家になる。
クレアと妹が重なり、クレアの事を妹のように可愛がっている。
バカなわけではないがあまり頭は良い方ではない。少々感情に流され易い傾向がある。男っぽい喋り方のわりに、純粋で乙女チックな面もある。
格闘家は魔法も使えずリーチも短く、攻撃力も低いがその分、スキルが多く、達人になると強力なスキルが使えるようになる。体術技は純粋に技術による技で、スキルと違いHPの消費が無い。
所持スキル:百歩神拳、剛掌波、 獄屠蹴、昇竜拳、 千手龍撃、 昇竜烈破、レーザーアーム
体術技:鉄山靠、 八連脚、旋風脚、三角蹴り、足払い
オーガ
平均身長250cm
頭部に二本の角の生えた筋肉質な人型の魔物。
力が強く、攻撃力も防御力も高い。
武器は大きな棍棒や、人間から奪った大斧やハンマー。
人間の事は餌として見ている。
ゴブリンやオーク、トロール等と比べればマシだが知能は高くはない。