-第4話 魔法学校-
翌朝、それぞれが担当の準備を始める。
昼食後、王都の南門に全員が集まる。
荷馬車を一頭の馬に引かせ、野営道具や食料等は荷馬車に積み込み済み。
グスタフが馬を引き、他の四人は馬車の周りを歩いていく。
門の大きな門扉が開く。
城壁の門をくぐり出ていくカイル一行を衛兵は
「いってらっしゃいませ!」
と声をかけ見送る。
それに対してグスタフが
「お前たちも体に気を付けて、せいぜい警備を怠るなよ!」
衛兵たちは
「ありがとうございます!皆さんもお気をつけて!」
「王都の民を守るため、しっかり警備します!」
と言って手を振る。
カイル遊撃隊も皆、警備兵に手を振って返す。
バロン村へ行く道すがら、カイルは思いを巡らせる。
(異世界へ来て四日目。カイルでいるのも段々慣れてきた。これもグスタフのサポートのお陰だ。感謝しないと。グスタフは信頼できるし機転も利いて本当に頼りになる。本来のカイルにとっても良い親友だったんだろうな。)
(俺がカイルじゃなくて異世界から転移してきた人間だなんて知られたら皆に迷惑がかかるし、知られない様にしなきゃいけないが、ほとんど戦力にならない事も仲間以外には知られない様にしないと。仲間に迷惑がかかる上に、俺自身、何をされるか分からない・・・・・・。その為には、俺がカイルらしく振舞わなきゃな。と言っても、カイルがどんな人物なのかよく分かってないけど・・・・・・。まぁ、パーティー名に“カイル遊撃隊”なんて自分の名前を入れてる時点でかなり自己顕示欲の強い奴だったんだろうけど。少なくとも外部の人間にはパーティーのリーダーらしく振舞うようにしていかなきゃな。)
(元の世界での俺はどうなっているんだろう?死んだのかな?意識不明の植物状態とか・・・・・・?その場合、身寄りのいない俺の治療費とかは誰が払うんだろう?)
(そして俺が引いてしまった少年はどうなったのかな?死んだのかな?無事だと良いな。)
そんな事を考えながら、現世時間にして三時間ほど歩くと頑丈そうな柵に囲まれた集落が見える。
カイルは
「あれがバロン村か?」
と聞くとグスタフが
「そうだ。」
と答える。
こちらもサントールの町と同じく、王都の管理下にあるので、王都から駐屯兵が来て村の警備をしている。
町の入り口に着くと警備兵が声をかけてくる。
「カイル遊撃隊の皆さん、お疲れ様です!」
それに対しカイルが
「俺たちを知ってるのか?」
と言うと警備兵は
「王国の町や村の駐屯兵は王国の兵士が持ち回りで行ってまして、自分は三か月前まで王都に居ましたので、その際にお見掛けいたしましたから。」
それを聞いたカイルはグスタフに
「知ってたか?」
と聞くとグスタフは
「知ってるよ。」
と答える。
(知らなかったのは俺だけか・・・・・・。)
とカイルは思いながら
「警備、ご苦労!」
と言って村に入っていく。
カイルはグスタフに
「少しはカイルらしく振舞えたかな?」
と聞くとグスタフは
「どうだろうなぁ・・・・・・。でも堂々としてた方が戦えなくなったのがバレにくいんじゃないか?」
と言うので、カイルは
「そうか・・・・・・。そうだな。」
と答え、堂々と振舞おうと思った。
宿屋に向かって歩きながらカイルが周りを見渡すと、やはり王都に比べると建物も人もまばらである。
すると、遠くからカイルを呼ぶ声が聞こえる。
「カイル様~!」
見ると少女が走ってくる。
クレアだ。
クレアの後方には父親のブライアンもいる。
息を切らせながらクレアが
「カイル様、どうしたんですか?こんな何もない村に。」
と言うのでカイルが
「何もないことないさ。クレアがいるだろ。それにのどかで良い村じゃないか。」
と言うと、クレアは嬉しそうに
「クレアに会いに来てくれたんですか?」
と聞いてくる。
カイルは
「そうだよ。それに依頼に関する情報収集に来たんだ。」
と言うと、クレアは先ほどの「クレアがいるだろ」が社交辞令だと気づいてちょっと不貞腐れながら、「そういう事ならお父さんは狩人をしながら近隣の町や村へ行くことが多いからお役に立てるかもしれません。」
と言うので、ブライアンに聞いてみることにした。
届け物のリストを見せて
「ブライアンさん、これらのアイテムに関して何か知ってることはないですか?」
と聞くと、ブライアンはちょっと考えて
「ここから北に五日ほどの所にある雪山にフロストドラゴンが生息してるらしいです。あとは南西に三日ほどの岩山の天辺にファイヤードラゴンの巣があるそうです。あとは東のマジーアの町で聞いてみたらどうでしょう?あそこは魔法の町と呼ばれてますから、魔力の宿ったアイテムの情報があるかもしれません。」
と教えてくれた。
「ありがとうございます。」
とカイルたちが去ろうとするとクレアが
「カイル様、お願いがあるんです!」
と何やら深刻そうな表情で言ってくる。
「どうしたんだ?」
とカイルが聞くとクレアが
「私をパーティーに加えて下さい!」
と言って頭を深々と下げる。
それに続いてブライアンも
「私からもお願いします!」
と言って頭を下げてくる。
「いや、しかし、レベル差もあるし・・・・・・。」
(他の四人とは・・・・・・。俺とはあんまりないけどね。)
などどカイルが考えてるとブライアンが
「娘はギルドへの登録は済ませたものの、パーティーの当てもなく、駆け出し同士のパーティーじゃ危なっかしくて・・・・・・。カイルさんのパーティーなら安心してお預けできますのでなんとかお願いできないでしょうか!?」
(困ったな・・・・・・戦えなくなってるとこを見せるわけにはいかないから、同行されるのは不味いんだよな・・・・・・。)
とカイルが困っていると、クレアとブライアンが土下座をし始めた。
「どうかお願いします!」
「娘を連れて行ってやってください!」
人通りが少ないとはいえ、道端で土下座されては流石に通行人の目に留まるし、二人の懇願に根負けしたカイルは仕方なく許可を出す。
「分かりました。分かりましたからお手を上げてください、ブライアンさん。」
ブライアンは立ち上がってカイルの手を両手で握り、
「ありがとうございます!娘を宜しくお願い致します!」
と言い、クレアはカイルに抱き着いて
「ありがとうございます!カイル様!」
と大喜び。
表情を引き締めてカイルが言う。
「クレア。連れては行くけど、俺たち五人は先輩冒険者だ。俺たちの言う事は必ず聞くこと。それから俺たちは魔王を倒した最強の冒険者だ。何かあっても自分で対処できるから、お前は俺たちを見捨ててでも自分の身の安全を最優先にする事。いいな!?」
クレアも表情を引き締めて
「はい!分かりました!」
と元気良く返す。
カイルはメンバーに
「そういうわけだから、すまないが何かの時にはフォローしてやってくれ。」
と言うと皆納得した。
ブライアンとはそこで別れ、クレアも連れて宿屋へ向かう。
バロン村の宿屋は一階が宿泊の受付と飲食店になっていて、二階、三階が客室になっている。
宿屋に到着したカイル遊撃隊は、先ず一階で食事をしながら明日の打ち合わせをする。
先ずはエレオノーラが昨日、王立図書館で調べた事を伝える。
「ユニコーンはこの大陸には現存してなくて、他の大陸まで行かなくてはいけないし、それでも遭遇できるかどうかも分からない状況の様だ。ただ、ユニコーンの角についてはこの大陸でも少量だが流通しているようなので、ユニコーンそのものを探すより、商人のつてを辿って流通しているものを探す方が早そうだ。」
続いてプルムが話す。
「黄金の実はサナトスフォレストの奥に一本だけ黄金の実をつけるリンゴの木があるらしいです。ただ、サナトスフォレストは別名“人喰いの森”と呼ばれ、入った人は誰一人戻ってきていないとか・・・・・・。」
それに対してカイルが言う。
「誰一人戻って来てないなら何で黄金の実をつけるリンゴの木があるって分かるんだ?」
と言うと、グスタフが
「そうだな。それが分かってるってことは誰か戻った者がいるってことだ。まぁ行ってみる価値はあるな。」
と言うとプルムが
「そうですね。ただここからだと結構距離があるので、後回しにした方がいいですね。」
と返したところで再びエレオノーラが口を開く。
「先ずはブライアンさんが言ってたマジーアの町に行ってみましょう。何か手掛かりがつかめるかも。」
それを聞いたカイルが
「そうだな、明日にでも行ってみよう。」
と言うとグスタフが
「もう一つ、早めにやっておかなきゃならないことがあるぜ。」
皆が疑問の表情をグスタフに向けると続いてグスタフが言う。
「クレアの装備を整えてやることと、ギルドに報告しておくことだ。」
するとレティシアが
「それなら私がクレアを連れて、明日王都に行って来よう。そこで装備を整えてギルドに同行の報告をしてくるよ。」
と言うとカイルが
「すまない、頼むな。」
と言う。
レティシアは
「任せておけ。」
と返し、クレアに
「いいな?」
と問う。
クレアは
「はい!よろしくお願いします!」
とレティシアに頭を下げる。
グスタフが
「じゃあ、明日の朝出発で、俺たち四人でマジーア、レティシアとクレアは王都、それぞれ一泊して、明後日の昼にまたここで落ち合おうぜ!」
と言うと皆
「了解!」
と返し、そのまま、クレアの歓迎会になり、夜には皆、床に就いた。
-翌朝-
一行は昨日決まった通りに出発する。
荷馬車は宿屋に預かってもらい、それぞれが徒歩で王都とマジーアの町へ向かう。
-王都では-
ギルドで手続きを済ませたレティシアとクレアが、ギルドを後にして武器屋へ向かう。
「レティシアさんに付いて来てもらって良かったです!」
とクレアが言うとレティシアは
「これからも、困ったことがあったら何でも遠慮なく言って。」
と返す。
クレアは
「レティシアさんみたいなお姉さんが欲しかったなぁ。」
と残念そうに言う。
それに対しレティシアが
「私の事を実の姉だと思ってくれていいよ。」
と返すとクレアは嬉しそうに
「本当ですか!?こんなに綺麗で強くて頼りになるお姉さんが出来て嬉しいです!」
と返す。
レティシアは照れながら
「そんな風に言ってもらえるなんて、こっちも嬉しいよ。」
と顔を赤らめるが、すぐに表情を引き締め、
「よし!武器屋に行ったらお姉ちゃんの私が何でも好きなもの買ってあげる!」
と言うとレティシアのその言葉にクレアは
「やったぁ!ありがとうございます!レティシアお姉様!」
とレティシアに抱き着く。
レティシアはまた顔を赤らめ照れながら
「み、みんな見てるから・・・・・・。」
と恥ずかしそうにしている。
武器屋に着くと店頭に並ぶ多くの武器にクレアが歓喜する。
「すごーい!やっぱり王都の武器屋は品ぞろえが違いますね!」
とはしゃぐクレアにレティシアが
「何でも買ってあげるけど、慎重に、ちゃんと自分に合った武器を選ぶんだよ。」
とたしなめる。
クレアは
「はい!」
と言いながら、目を輝かせて様々な武器を手に取ってみる。
その内一本を手に取ると、レティシアに
「これなんかどうですかね?」
と聞く。
レティシアは
「私はあんまり武器の事は詳しくないんだよなぁ・・・・・・。」
(カイルなら詳しいんだろうけど、今のカイルじゃ武器のアドバイスなんて出来なさそうだし・・・・・・。)
と思いながら、武器屋の主人に声をかける。
「おじさん。この子、新米剣士なんだけど、どういう武器が良いと思う?」
すると武器屋の主人が
「ご予算はいくらくらいだい?」
と聞いてくるのでレティシアが
「私が払うからいくらでも構わないよ。」
と返す。
それを聞いて武器屋の主人はクレアに問う。
「お嬢ちゃん。剣は片て持ちかい?両手持ちかい?」
それに対しクレアは答える。
「基本は片手だけど、力がそんなに強くないから、場合によっては両手持ちかな。」
武器屋の主人は更に問う。
「斬撃と刺突、どっちが得意だい?」
クレアが答える。
「斬撃が多いけど、刺突もするかな。」
すると武器屋の主人は奥から一本の剣を持ってきて、
「それなら、こいつかな。これはバスタード・ソードといって、斬撃もに刺突にも向いてるし、柄が長めで両手持ちができるから、片手じゃ力不足の時は両手で扱えるよ。それに刃も細めだからそんなに重くないし、お嬢ちゃんでも扱えるんじゃないかな。」
と言う。
主人に渡されてクレアが剣を持ってみる。
「うん。良いかも。」
とクレアが言うとレティシアが
「じゃあ、これをもらおうか。いくらだい?」
と聞くと店主が
「金貨四枚だけど大丈夫かい?」
と言う。
それを聞いてレティシアが
「私を誰だと思ってる。カイル遊撃隊のレティシアだぞ。」
と言うと店主は
「おお!貴女がレティシア様ですか。魔王討伐、おめでとうございます。カイル様とグスタフ様にはいつもご贔屓にして頂いてます。」
と言う。
レティシアが
「私は格闘家だからここへはほとんど来たことないからな。」
と言うと店主は
「なるほど。武具は使っておられないんですか?格闘家用の武具もご用意が御座いますが如何でしょう?」
とレティシアにも武器の購入を薦めてくる。
レティシアは
「いや、今は“ドラゴンクロー”を使っている。」
と言うと店主は
「ドラゴンクローと言えば鉄甲鈎系の最上位武器ですな。流石はカイル遊撃隊の方ですね。装備も一流だ。それ以上は望むべくもないですね。」
と言って諦める。
レティシアは店主に金貨四枚を渡すとバスタードソードを手にしたクレアと共に武器屋を後にする。
-一方、マジーアでは-
「ここが、魔法の町“マジーア”か。武器屋も道具屋も魔法使い向けの物が中心みたいだな。エレオノーラは来た事あるのか?」
とカイルが問うと、エレオノーラが答える。
「駆け出しの頃に一度な。随分昔だからあまり覚えてないが。」
「とは言え、そんなに前じゃないだろ」
とカイルが言うとエレオノーラは
「二十四年も前だぞ。」
と答える。
「ええっ!?お前、いったい幾つなんだ?」
とカイルが聞くとエレオノーラは
「女性に年齢を聞くなんて失礼だぞ!」
と言いながらも
「五十二歳。」
と小声で答える。
カイルはまた
「ええっ!?五十二歳!?」
と驚きながら大声を上げる。
「声が大きい!」
とエレオノーラは小声で強めに言うとさらに続けて
「私はハーフエルフだからな。ハーフエルフの寿命は約二百歳。人間の寿命を約百歳として換算すれば、二十六歳だ。」
と言う。
それに対してカイルが
「なるほど。どうりで五十二歳には見えないと思った。」
と言うとエレオノーラは
「何度も五十二歳って言うな!」
と、また小声で強めにたしなめる。
そんな話をしているとグスタフが笑いながら
「五十二歳の話はそのくらいにして担当を決めようぜ。」
と言うとエレオノーラは膨れ面でグスタフを睨みつける。
グスタフは気にも留めずに
「俺とカイルで宿屋、ギルド、武器屋辺りを回ってみるから、エレオノーラとプルムは魔道具屋、魔法学校、図書館辺りを回ってくれ。」
と提案する。
エレオノーラとプルムは
「分かった。」
「分かりました。」
と返事をする。
それぞれ分かれて行動しようとすると
「カイル様とエレオノーラ様ではありませんか?」
と、身なりの整った初老の紳士に声をかけられる。
カイルが
「誰だ?」
と思っていると紳士が名乗る。
「私、この町にある王立魔導学園の学園長で、クリストハルト・フォルスターと申します。」
カイルが
「我々を知ってるんですか?」
と聞くとフォルスターは
「知ってますとも。魔王討伐を果たした“カイル遊撃隊”は有名ですからね。」
「魔王討伐を知ってるなんて、情報が早いですね。」
と言いながらカイルは
(そういやグスタフが前に、王都やギルド等を回って伝達事項や情報を各町村に馬で知らせる郵便屋みたいな商売があるって言ってたな。)
と、グスタフにこの世界の常識を教わった時に聞いた事を思い出す。
続けてカイルが
「その学園長さんが我々に何か御用ですか?」
と聞くと、
「たまたま通りすがりに見かけたんでお声をおかけしたんですが、実は、今日、新入生の入学試験があるので、王国最強の魔法剣士であるカイル様と王国最強の魔法使いであるエレオノーラ様にぜひとも立ち会って頂きたいんです。そうすればわが学園に箔も付きますし、学生たちの士気も上がると思いますので何とかお願いできませんでしょうか?」
と頼んでくる。
エレオノーラが
「カイル、どうする?」
と聞くとカイルは
「うーん。」
と悩む。
そうするとグスタフが
「聞き込みがてら行って来いよ!こっちは俺とプルムで回るから。」
と言うので、カイルとエレオノーラは学園長に付いて行く事にする。
「すまんが、聞き込みの方、頼むな。」
とカイルが言うとグスタフが
「任せろ!」
と親指を立てる。
学園の試験場に着くと、受験者たちが三十名ほど整列し、敷地内の塀の前に丸い的が並んでいる。
試験官が受験者に向けて話す。
「これより“的当て試験”を行う。今回は特別に、魔王討伐を果たした、ミストラル王国最強の魔法剣聖であるカイル様と、同じくミストラル王国最強のハイウィザードであるエレオノーラ様が立ち会って下さる。当学園の学生として恥ずかしくない結果を期待している。試験のやり方だが、各々、得意な攻撃魔法を的に当ててもらう。目的は的の破壊ではなく中心に当てることだ。威力は関係ないので弱い魔法で構わない。先ずは一列目、前に出て位置につけ。」
それを聞いた受験者たちの一列目は前に出てそれぞれ的の正面五十メートルくらいの位置に立つ。
「それでは、はじめ!」
試験官の号令で一斉に魔法を放つ。
それぞれが、ファイアーボールやアイシクルアロー、マジックアロー、エレクトリックニードル等の職魔法を放ち、的へ当てていく。
それを見ながら採点官が点数を記録している。
二列目、三列目と順調に試験は進んでいく中、カイルはエレオノーラに聞く。
「お前もこれ、やったのか?」
エレオノーラが答える。
「私は学校は出ていない。書物と実戦で学んだからな。」
「それで最強になれるんなら、学校の意味あるのか?」
とカイルが聞くと
「基礎や理論を専門家から教わるのは有意義だと思うぞ。人間の寿命は長くないしな。」
とエレオノーラが答え、
「なるほど。」
とカイルが納得する。
いよいよ、最後の列になり、受験者が位置に付く。
「はじめ!」
一斉に魔法が放たれる中、一人の受験者が極大の炎魔法を放つ。
その炎は学校の塀はおろか、町の外壁まで盛大に破壊する。
その場にいたものは一同目が点に。
すると塀の穴から、警備兵が飛び込んでくる。
「何だ!何があった!?」
当の受験生は、周りの様子を見て
「俺、なにかやっちゃいました?」
と、宣う。
エレオノーラはすかさず、警備兵に向かって、
「あの男だ!あいつを捕らえろ!」
と、件の受験生を指さす。
警備兵が捕らえようと向かっていくと件の受験生は警備兵に向かってファイアーミサイルを放つ。
エレオノーラは
「ここからじゃ間に合わない!」
と、警備兵を守るだけの時間がないことに焦りを隠せない。
炎のミサイルは警備兵に当たって大爆発。
--したかに見えたが、警備兵の前に立ちはだかったカイルがミサイルの直撃も爆風も受け止めて警備兵はほとんど無傷。
「カイル・・・・・・!よくやった!」
と驚きながらも笑顔で呟くエレオノーラ。
(流石はカイルの体。動きも早いしこれだけの威力の魔法の直撃にも耐えられる。)
とカイルが思っていると、後ろから警備兵が
「ありがとうございます。助かりました。」
とカイルに礼を言う。
エレオノーラが
「次は私の番だ。」
と言いながら、例の受験生の動きを魔法で封じようと前に出ると例の受験生は
「あんたらを倒さなきゃ、逃げられそうもないから、悪いけど倒させてもらうよ。」
と言い、呪文を唱える。
「雷電嵐!」
電撃の嵐がエレオノーラに襲い掛かる瞬間、エレオノーラ前方に手のひらをかざすと、その倍ほどもある電撃の嵐が受験生の唱えた雷電嵐を打消し、受験生に直撃、受験生は黒焦げに。
黒こげの受験生は
「バカな・・・・・・無詠唱でこれほどの威力の魔法を・・・・・・。」
と言いながら倒れる。
それに対しエレオノーラは
「これは私のスキル、魔法反撃だ。相手の魔法に対して無詠唱で同じ魔法を倍の威力で放ち相手の攻撃を打消し反撃をするものだ。瞬時の反撃を前提としたスキルなんで無詠唱で出せるが、相手の攻撃を打ち消すことによって倍の威力は減衰し通常の威力になる上に、基の魔法の十倍のMPを消費するんで効率が悪いから滅多に使う事はないんだがな。しかし、まだ息があるとは、なかなかしぶといな。」
と言いながら受験生に近づくと
「麻痺、魔法封じ(マジックプレヴェント)」
と唱え、騒ぎに駆け付けた警備兵たちに、
「こいつを捕らえて、魔封じの檻に入れて王都まで護送して地下牢にでも入れておけ。」
と言うと、後から駆け付けてきた警備兵が
「一体何があったんですか?」
と聞くと、エレオノーラは
「こいつは絶大な魔力を持ちながら、その魔力の制御が出来ない上に、これほどの被害を出しながら『何かやっちゃいました?』とかいうサイコパスだ。生かしておいては王国に災いをもたらすだろう。最終的な処分は国王が決めることだと思うが、野放しにはしておけない。一先ず王都の地下牢に幽閉して国王陛下に処分を仰いでくれ。まぁ私としては早々に処刑することをお薦めするが。」
と答える。
警備兵たちは
「分かりました。陛下にはその様にお伝えいたします。」
と言って黒焦げの男を担いで連行する。
-少し時間経過した後の学園長室-
学園長とカイルとエレオノーラの三人がいる。
学園長が口を開く。
「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ない。」
「いえいえ、けが人が出なかったのは幸いです。」
とカイルが返すとエレオノーラが
「約一名を除いてね。」
と言う。
それに対してカイルは
「あいつは自業自得だろ。」
と返す。
学園長が
「町の外壁の修理費用は学園が負担し、修理が終わるまでは学園の教師が持ち回りで魔法障壁を張って町を守るようにします。」
「そうですね。それが良いでしょう。」
とエレオノーラが返す。
学園長が改まって
「それでですね・・・・・・試験の立ち合いの件と、ご迷惑をお掛けしましたお詫びを兼ねて、何かお礼と思いますが如何でしょう?できる限りの事はさせて頂きたいと思いますので、仰って頂ければ・・・・・・。」
と言うが、それに対してカイルが
「いえいえ、お構いなく。それよりお聞きしたいことがあるんですが。」
と言うとエレオノーラの表情が驚きに変わる。
学園長が
「何でしょうか?」
と聞くとカイルは、探してるアイテムの一覧を見せて
「事情があって、これらのアイテムを集めてるんですが、これらのアイテムについて、場所や所有者について何か知っていることがあれば教えて頂きたいんですが如何でしょう?」
と聞く。
学園長は
「うーん・・・・・・。」
と考えた後、
「銀の聖杯は見た事ありますよ。」
と言うと
「本当ですか!?」
「何処でですか!?」
とカイルとエレオノーラが喰い気味に質問する。
学園長が答える。
「ここから東へ二日程の所にある、一都市二村のみで成り立つ小さな宗教国家である、“トレスケイア教国”の大司教“ラドミール様”がお持ちになってました。」
「他に、ドラゴンの牙ですが、種類を問わないのでしたら北へ五日ほどの雪山にフロストドラゴンの巣がありますし、南へ十日ほどのところの岩山にグレートドラゴンが生息している様です。」
「それから照魔鏡ですが、以前、この町に住んでいた“モーリッツ”という魔導士が持っておりましたが、数年前に町を出て、それからは消息不明です。あまりお力になれず、申し訳ない。」
カイルは学園長に
「いえいえ、これだけ教えて頂ければ充分です。ありがとうございます。」
と礼を言うとエレオノーラに
「メモしといてくれ。」
と頼む。
エレオノーラがペンと紙を出してメモをすると二人は改めて情報のお礼を言って学園を出た。
グスタフとプルムに合流するため、宿屋へ向かう道すがら、エレオノーラはカイルに
「変わったな。以前のお前なら、身を挺してまで警備兵を守ったりはしなかっただろう。」
と言う。
カイルは
(そりゃ、中身がまるっと入れ替わってるんだから変わっただろうな。)
と思いながら
「前の事を覚えてないから、何とも言えないが、変わらない方が良かったか?」
と聞くとエレオノーラは
「いや。変わって良かったと思ってるよ。」
と答える。
カイルはそれを聞いて
(あの時は、ほとんど無意識だったが、間違ってなかったか。カイルらしく振舞うのも大事だが、自分の考えで動くのも大事だな。)
と思いながら
「そうか。なら良かった。」
と答える。
クリストハルト・フォルスター
54歳 174cm
マジーアの町にある王立魔導学園の学園長。
細身の紳士。
魔法学園の受験者
黒髪に中肉中背でこれと言って特徴のない“量産型”っていう感じの容姿。
入学試験のただの的当てで極大の炎魔法を使う非常識な男。しかも無自覚。
魔力の制御もできない非常識なサイコパスとしてエレオノーラに捕らえられ、警備兵に引き渡される。
魔法を封じられ、王都に移送され地下牢に幽閉される。
エレオノーラは処刑を進言したが実行されていない。
この事が後々大きな災いを・・・・・・。