-第3話 秘密特訓-
翌朝、カイルが目を覚ますと、もう外は明るくなっていた。
(時計が無いから分からないが、朝7時か8時ってとこかな?)
とカイルが思っているとグスタフが
「よう、起きたか。」
と言いながら、荷造りをしている。
「すまん、手伝うよ。」
とカイルが言うと、グスタフは
「もう終わったよ。」
と言って荷物を担ぐ。
「行こうぜ!」
とグスタフが言うと、カイルは自分の荷物を持って
「おう!」
と言ってグスタフに付いて行く。
王都の城下町で馬車を依頼し、サントールの町へ向かう。
四輪の幌が付いた車を一頭の馬が引き、車の先頭には御者が乗っていて、キャビンには二人席は前後に2列並んでいる。
馬二頭で引いている天蓋やドアの付いた箱馬車もあるが、料金的には箱馬車の方が割高になっている。
道すがら、カイルはグスタフにこの世界の常識などを色々と聞いて、この世界に馴染めるようにしている。
サントールの町へ着き、馬車から降りるとグスタフが
「ちょっと早いが、飯でも食ってから特訓するか。」
と言うので、カイルは
「ああ、そうしよう。」
と二人で食堂へ。
食事を済ませた二人は町はずれの林の中に入っていく。
少し入ったところでグスタフが
「この辺でいいか。」
と言い立ち止まると、手ごろな木の棒を拾い、戦斧でカイルのエクスカリバーと同じ長さに切断してカイルに渡し、説明する。
「先ずは、俺がこの辺に落ちてる松ぼっくりを拾って投げるから、その木の棒で叩き落とすんだ。それで剣の間合いと狙った位置を切る感覚をつかむんだ。」
カイルは
「よし!」
と言って木の棒を構える。
グスタフは松ぼっくりをポーンと軽く放る。
それに対してカイルは木の棒を振る。
しかし、当たらない。
グスタフは続けて何個かを軽く投げるが、一向に当たらない。
更に何個投げて、ようやく手元に1個当たる。
カイルは
「当たった!」
と思わず声を上げるがグスタフは
「そんな根本じゃだめだ。剣の先三分の一に当てる様に意識しろ。根元に当たるという事は、それだけ敵を懐に入れてしまっているという事だ。実際には剣の先で切りつけたり、剣の真ん中くらいで両断したりと状況によって使い分ける必要があるが、先ずは剣の間合いを感覚で覚えるためにできるだけ剣の先の方に当てるんだ。」
とアドバイスすると、カイルは
「よし!続けてくれ!」
と真剣な顔でもう一度、剣を構える。
しばらく続けていると段々と当てられるようにはなってくる。
当たる場所も最初はバラバラだったが、段々と剣先半分くらいに当てらるようになってくる。
「段々良くなってきてるじゃないか!」
と言うグスタフに対しカイルは
「だがまだまだ空振りも多い。」
と言うが、グスタフは
「細い木の棒で小さな的に当てるんだし、最初からそうは上手くいかんさ。これがある程度の大きさの魔物ならもっと当たってるさ。」
と言って励まし、
「よし、じゃあ次の段階だ。投げるスピードを速めて範囲を広げる。棒で叩き落とせずに自分の体に当たりそうな物は避けて躱せ。」
とグスタフが言うとカイルは
「よし、分かった!やってみる!」
と言って再度、木の棒を構える。
「いくぞ!」
と言ってグスタフは頭の高さから足元くらいの範囲に、先ほどより少し速めに松ぼっくりを続けて投げる。
防御も併せて考えなければならなくなり、難易度が上がったため、なかなか木の棒に当てられなくなり躱しきれずに松ぼっくりの攻撃をいくつも受けてしまう。
特訓は夕暮れまで続けられたが、それほど上達しないままだった。
カイルは息を上げながら
「難しいな、これ。」
と言うとグスタフは
「今日はこれくらいにしよう。もう日が落ちて的も見えにくいしな。」
と言って二人は宿屋へ行くことにした。
途中で夕食を済ませ宿屋へ着くと、グスタフは
「ちょっと酒でも買ってくる。」
と言って再び町へ出かける。
酒屋へ向かう途中、路地から五人の男が飛び出してくる。
その内の一人が
「カイル遊撃隊のグスタフだな。一人になるのを待ってたぜ!」
と言って不気味な笑みを浮かべる。
「何だ、お前らは?」
とグスタフが聞くと男は
「俺たちは“エムズリー盗賊団”だ。」
と言い、それに対してグスタフが
「それが何の用だ?」
と聞くと男は答える。
「魔王を討伐して褒美をかなりもらっただろ。そいつを丸ごと頂こうってわけだ。」
グスタフが
「たった五人で、一人ずつとはいえ俺たち全員を殺せると思うのか?」
「今ここで万が一にも俺を殺したとしても手に入らないぜ。褒美はまだ全部王城の中だ。」
と言うと、男は
「知ってるさ。だから全員殺して“カイル遊撃隊の使いの者”として取りに行くのさ。お前ら全員を殺してしまえば真実を知るものはいなくなるからバレる心配も無いしな。」
「それに俺たちは五人だけじゃないぜ。全員で五十人ほどの大盗賊団だからな。」
と言って合図を送ると三人がグスタフに襲い掛かかる。
グスタフは最初に近づいた男の顔面に右手でパンチを食らわせ、次の男には左手で裏拳を食らわせ吹っ飛ばし、三人目の攻撃を躱し、鳩尾に右ひじを食らわせる。
一瞬で三人を倒された事で残りの二人は焦りを隠せない。
グスタフは残った二人のうち一人の首根っこを掴むと残りの一人に
「おい!お前は早くアジトに返って残りのメンバー全員集めておけ!俺はこいつに案内させて後から行くからよ!どうせ俺たち全員を殺すつもりなら、その方が手っ取り早いし確実だろ?早く行け!」
と言うと、言われた男はアジトへ向かって駆け出す。
グスタフは倒れている三人にとどめを刺し、首根っこを掴んでいる案内役に言う。
「逃げようとしたらお前も殺す!酒屋が閉まる前に酒を買いたいから酒屋へ行った後で、お前にはアジトまでの道案内をしてもらうぞ。アジトまで辿り着ければ、死なずに済むかもしれないぜ。」
すると案内役の男は怯えた表情で、慌てて頷く。
「わ、わかった。」
そしてグスタフは酒屋で酒を一本買い、道案内をさせてアジトへ辿り着く。
「ほれ。」
と言ってグスタフが案内役を解き放つと案内役の男は
「頭領~!」
と言って盗賊のリーダーらしき男の元へ駆け寄るが
「役立たずがっ!」
と頭領のマチェットで頭から縦に切り裂かれる。
グスタフが戦斧を構える。
(女三人はともかく、今のカイルじゃ、この人数には絶対勝てない。最初に接触したのが俺で良かったぜ。仲間に害が及ぶ前に、ここで全員片付ける)
頭領の合図で盗賊が一斉にグスタフに襲い掛かる。
間合いを見定めて、グスタフが戦斧を横なぎにすると、先頭の四人が腰の位置で真っ二つにされた。
盗賊たちは
「い、一撃で四人も・・・・・・。」
と怯む。
すかさずグスタフは戦斧を振り回しながら敵に突っ込むと、盗賊たちは三人、五人、四人と倒れる。
すっかり怖気づいた手下に頭領が、
「ビビるんじゃねぇ!人数は圧倒的にこちらが上だ!周りを取り囲んで一斉に攻撃しろ!」
と命令を下す。
盗賊たちがグスタフを取り囲んで全方向から一斉に襲い掛かる。
グスタフは
「スキル:トルネードアックス!」
と叫ぶと、戦斧を持った手を伸ばして高速回転する。
グスタフに向かっていった盗賊たちは血飛沫を上げながら吹き飛ばされていく。
これで一気に八人を倒す。
グスタフは盗賊の集団に向かって更に突進。
二人は首を飛ばされ、一人は頭から縦に真っ二つ、横なぎで三人を倒す。
頭領は五人に弓で射かける様に指示を出すと五人の盗賊が弓を構える。
残りの盗賊たちは味方の矢に当たらない様に射線を開ける。
するとグスタフは盾を構えて弓隊に特攻。
脇腹や足に矢傷を受けながら戦斧を投げて二人の頭に命中。
更に間合いを詰めて左手で一人を殴り殺すと、ほぼ同時に右手で腰のダガーを抜き、二人の喉を掻き切る。
グスタフは戦斧を拾うと残りの盗賊の方へ振り返り、
「残りは八人・・・・・・全部で四十八人か。これで全部か?まだ仲間がいるなら集める時間をくれてやるぞ!」
と言うがもう残りはいない様で、頭領は残った盗賊たちに一斉攻撃の指示を出す。
しかし、盗賊たちは怯えて動けない。
近づいたグスタフは瞬く間に二人を切り伏せる。
残った盗賊五人が自棄になって一斉に向かっていくがトルネードアックスで一瞬のうちに倒れる。
「あとはお前だけだな。」
とグスタフが頭領を睨みつける。
「俺は雑魚連中の様にはいかんぞ!」
と言ってグスタフに襲い掛かる。
マチェットを振り下ろすが、戦斧で弾かれる。
グスタフが戦斧を振り下ろすと頭領は慌ててマチェットで受け止める。
が、次の瞬間、マチェットは折れて頭領は頭から真っ二つに。
「ふぅ。片付いたか。この程度の傷ならこれ一本で完全回復だな。」
と言って腰につけてるアイテムバッグからヒールポーションを出して飲み干す。
すると矢傷がみるみるうちに回復する。
「さぁて、宿屋へ帰って、カイルと一杯やって寝るか。」
と言って、グスタフは宿屋へ向かって歩き出す。
グスタフが宿屋に着き、部屋に入るとカイルが
「どうした?遅かったな。」
と言うと、グスタフは
「ちょっと、野暮用があってな。」
と返す。
カイルが
「そうか。宿屋の主人が、この辺は夜になると野盗が出るっていうから心配してたんだ。」
と言うとグスタフは笑みを浮かべて
「それなら、もう心配いらねぇよ!そんな事より、飲もうぜ!」
と返すのでカイルも
「おう!」
と言って二人で飲んで深夜ごろに床に就いた。
-翌朝-
外が何やら騒がしく、目を覚ますカイルとグスタフ。
何事かと二人で下へ降りてみると町の警備に来ている王都からの駐屯兵が二人、宿屋の主に事情を話し、何か知ってることはないか聞いてるようだ。
宿屋のほかの宿泊客も降りてきていて不安そうにしている。
グスタフの姿を見た宿屋の主が、
「グスタフさん、あなた昨晩、お出かけになりましたよね?」
と言ってくる。
すると駐屯兵が、
「昨晩出かけたんですか?」
と言うとグスタフは
「ああ、ちょっと酒を買いにな。」
と言う。
駐屯兵はグスタフに近づいてきて状況を説明する。
「今朝、町はずれで五十人近い死体が発見されました。」
「近くにあった建物を調べたところ、盗品やここ最近、近隣で起きていた殺人被害者の持ち物と思われる物が多数発見されて、今回の五十人ほどの被害者はこの辺を荒らしていた盗賊団だと思われるんです。」
「しかし、この町ではここ最近、武装した盗賊団を壊滅できるほどの集団の出入りはないんですが、何か見たり聞いたりしてませんか?」
それに対しグスタフが
「知らねえな。何も見てないし、それらしい音も聞いてないぜ。」
と返すと駐屯兵は
「そうですか・・・・・・。もし何か気付いたことがありましたら警備兵詰め所にお知らせください。」
と言い宿屋を後にする。
「町はずれって・・・・・・。」
とカイルが言うとグスタフは
「俺たちが特訓に使うのは南側の町はずれ、事件があったのは北側だから全然反対方向だから心配するな。」
と安心させようとするが、カイルは
「北側?そんな事言ってたか?」
と聞き怪訝な表情をする。
グスタフは慌てながら
「他の宿泊客が小声で話してるのが聞こえたんだよ。」
と言って取り繕う。
カイルが
「そうなのか。」
と言うとグスタフは
「そんな事より早く行こうぜ!」
と言って、部屋に荷物を取りに戻る。
それに続いてカイルも部屋へ戻り二人は荷物をまとめて宿屋をチェックアウトする。
昨日特訓した場所へ着くと早速特訓を始める。
グスタフは
「今日は実際に剣を使おう。木の棒と剣じゃ重さも違うしな。」
と言い松ぼっくりを拾い集める。
カイルは剣を抜き、
「よし、こい!」
と気合を入れて構える。
-昼過ぎ-
肩で息をするカイルにグスタフが声をかける。
「今日はこのくらいにしておくか。無理したところで一朝一夕にどうにかなるもんじゃないし。」
それに対しカイルは言う。
「そうだな・・・・・・あまり上達してないが仕方ない。」
それを聞いてグスタフは
「それでも、最初よりはマシになってるぜ。」
と励ます。
「でも実戦じゃまだまだ役に立てそうもないな・・・・・・。」
とカイルが言うとグスタフは
「そもそも、俺とお前とじゃ戦い方のスタイルが違うからな。攻撃のかわし方や体捌きなんかは、俺よりレティシアに教わった方が良いかも知れん。俺のはHPと防御力を盾にパワーで粉砕するスタイルで、お前やレティシアは攻撃を上手くかわして懐に踏み込むようなスタイルだからな。」
とレティシアに教わるように提案する。
カイルは
「なるほどな・・・・・・。」
と言いつつ、
(でもレティシアには嫌われてるんだよな・・・・・・。)
と思う。
「取り敢えず、飯でも食って王都に帰ろうぜ。」
とグスタフがカイルに言い、二人は林を後にする。
-夕方-
王都に戻ったカイルとグスタフは、レティシア、プルム、エレオノーラの三人と合流。
酒場で明日以降の打ち合わせをすることに。
依頼の内容は、大陸最南端の村、『ゴルフォ村』の老人『モーリス・リッジウェイ氏』にアイテムを届けるというもの。
報酬は金貨百五十枚。
今の日本の貨幣価値でおよそ七百五十万円ほど。
届けるアイテムは以下、十点。
・ドラゴンの牙
・光の護符
・緋の宝珠
・黄金の実
・破魔の短剣
・賢者の石
・銀の聖杯
・ユニコーンの角
・魔除けの指輪
・照魔鏡
どれも手に入りにくいレア・アイテムである。
報酬は破格だがこれらのアイテムを全て手に入れるのはかなり困難なため誰も受けられなかった依頼である。
グスタフが依頼内容のアイテムの一覧をカイルに見せながら聞く。
「そういやカイル。お前、魔王城に行く時に『凄いアイテムを手に入れた』って言ってたが、あれは何だったんだ?このリストの中にそれはあるか?」
それに対して知るはずもないカイルは答える。
「いや、覚えてないし、それらしいアイテムは持ってないな。」
グスタフは
「そうか・・・・・・覚えてないか・・・・・・そうだよな。しかし、それらしきアイテムを持ってないって事は、その“凄いアイテム”ってのは無くしちまったって事なのか?」
と言うとカイルが
「そうだな。アイテムバッグには治癒ポーションと解毒ポーションくらいだし、身に着けてるのは剣と鎧くらいだからな。」
それに対してグスタフが
「まぁ、急ぐ必要もないし、ゆっくり集めるか。」
と言うと皆、賛成した。
相談の結果、明日の午前中に準備、昼食後、午後から出発し一番近くのバロン村で一泊。
その際に今後の相談をするという事に。
準備はエレオノーラとプルムが王立図書館でアイテムの手がかりを調べ、レティシアが食料やポーションの買い出し、カイルとグスタフが荷馬車のレンタルと二人用、三人用のテント他、野営道具の買い出しとなった。
宿屋でベッドに入ったカイルはグスタフに問う。
「なぁ、俺は女性三人に嫌われてるし、戦力的にも完全に足手まといだ。パーティから追放されてもおかしくないのに、何で追放されないんだろう?」
するとグスタフが答える。
「そりゃあカイル遊撃隊にいることのメリットを考えてだろう。何せ、魔王を倒したパーティだからな。」
それに対してカイルが言う。
「でも、足手まといだぜ。俺がいなくなった方が戦力的には・・・・・・」
と言いかけるとグスタフは
「今の状態なら戦力的にはそうかもしれないが、お前を追放したら、お前が“カイル遊撃隊”で残りのメンバーはカイル遊撃隊ではなくなるんだから。だってそうだろ?“カイル”遊撃隊なんだから。」
グスタフの答えに対しカイルが
(元カイルの自己顕示欲が今のカイルである俺を路頭に迷わせない様にしてるのか。)
と思っているとグスタフが
「ま、足手まといにならない様に頑張ってくれ。」
と笑いながら言う。
カイルは
「できる限り頑張るよ。」
と返すと二人とも眠りについた。
グスタフ・カールソン
26歳 186cm
カイルと同じアルケー村出身でカイルの幼馴染。
スキンヘッドと褐色肌、筋骨隆々な身体が特徴の重戦士。その外見と愛用の巨大な戦斧のお陰で初見の人からは恐れられる。
性格は豪快ながら優しく面倒見がいい。頭も良く気が利くので、カイルがいない時はパーティーのリーダーを代行している。
現在の武器は巨大な戦斧。
所持スキル:トルネードアックス、トマホークブーメラン
ダニエル・エムズリー
51歳
サントールの町に味を持ち、王都周辺を荒らしているエムズリー盗賊団の頭領。
マチェットが武器。
手下が50人近くいたがグスタフ一人に壊滅させられた。