-第23話 大魔導士-
侯爵令嬢を仲間として迎え入れた大宴会の翌日、その侯爵令嬢クリスティーナを残して、モーリッツ・ゲルハルトの砦へ向かう準備をするカイル遊撃隊一行。
そこへドロシーが現れる。
「よう!何処か行くのか?」
とドロシーが聞く。
カイルが
「ああ。最後のアイテムの場所が分かったんでな。」
と答える。
ドロシーが
「何処にあったんだ?」
と聞くとカイルは
「魔物を使役する大魔導士の砦だ。」
と答える。
ドロシーは
「じゃあ私も行くよ!」
と言う。
カイルは
「そうか?それは助かるよ。ドロシーは戦力にもなるし盗賊としてのスキルも役に立つからな。」
と答える。
するとそこにクリスティーナが来て
「カイルさん、やはり私は連れて行ってはもらえないんですか?」
と聞いてくる。
ドロシーが
「このお嬢さんは誰だい?」
と聞くのでカイルが
「王都の侯爵令嬢でクリスティーナ・レイモンドさんだ。」
と答える。
カイルはクリスティーナに
「紹介しておくよ。こちらは、ドロシー・プリチャード。元冒険者で、今は新しく作っている村の村長だ。こいつも俺たちの仲間。すなわちクリスの仲間だ。」
と言うとクリスティーナは
「クリスと呼んで下さい。よろしくお願いしますね。」
と笑顔でドロシーに挨拶する。
ドロシーも
「よろしくな!」
と言って右手を差し出し握手する。
そしてクリスティーナが話を戻す。
「カイルさん。仲間だというなら私も連れて行ってくれませんか?」
そこへグスタフがやって来て
「クリス。我が儘言わねえでくれよ。護衛とメイドの事を思い出せ。」
と言う。
クリスティーナは暗い表情になり俯いて
「そうですよね・・・・・・。私の我が儘で命を落としたんですよね・・・・・・。」
と呟く。
グスタフは説得する為とはいえ悪いことを言ってしまったと後悔して“しまった”という表情になる。
そこへカイルが助け舟を出す。
「クリス。グスタフはそういう意味で言ったんじゃないよ。グスタフに言われたんだろ?護衛とメイドは命を落としたのはクリスのせいじゃなくて悪人のせいだって。」
と言うとクリスは
「はい・・・・・・。でも・・・・・・。」
と言うと続けてカイルが話す。
「護衛は護衛の、メイドはメイドの役割分担がある。護衛の役割はクリスの命を守ること。亡くなってしまったことは非常に残念だが護衛の人たちは自分の役割を全うしたんだ。メイドだってメイドの役割を果たしてただろ?俺たち仲間だって同じだ。適材適所、役割分担がある。近接戦闘が出来る俺やグスタフ、レティシアは魔物との接近戦、魔法が得意なプルムとエレオノーラは魔法による後方支援、ドロシーは鍵開けや潜入、クレアとクインは・・・・・・まぁ戦闘もできる雑用係ってとこかな。そしてクリスの役割は俺たちが疲れて帰っ来たら笑顔で出迎えて俺たちを精神的に癒してくれることだ!その為にここに残って無事でいてもらいたい。頼めるかな?」
それを聞いてクリスティーナは
「はい!分かりました!任せてください!」
と笑顔で言う。
グスタフは片手でカイルを拝み、“すまん、助かった”という顔をしている。
宿屋の前に全員集まって出発するところをクリスティーナが笑顔で見送る。
カイルがクリスティーナに
「笑顔で出迎える為にも余り出歩かず、ここで大人しくしててくれよ!何かあれば宿屋のご主人に相談するんだ。ご主人にはクリスの面倒を見る様に言ってあるから。」
と言うとクリスティーナは
「はい!分かりました!気を付けて行ってらっしゃい!」
と手を振る。
エレオノーラは
「何で宿屋の主人にクリスの事を頼みに行くのが私の役目なんだよ。あのご主人、私の事をやたら褒めちぎるから、そんなのに慣れてない私はどう対処していいのか困るんだよ。」
と愚痴を吐く。
カイルは
「だからこそ、エレオノーラの役目だったんだよ。あのご主人、エレオノーラに一目置いてるからエレオノーラが頼めば何でもいう事聞いてくれそうだろ。」
と言う。
エレオノーラが
「だからと言って・・・・・・。私は人から褒められるのにはあんまり慣れてないから困るんだよ。」
と言うとカイルは
「じゃあ、慣れるために今から皆でエレオノーラを褒めちぎるか!」
と言うと
「エレオノーラ!流石だよ!」
「エレオノーラの魔力に敵うやつはいないよ!」
「エレオノーラさんは本当に頭良いですね!」
「エレオノーラさんは絶世の美女ですね!」
「こんなに美しい人を僕は見た事ありませんよ!」
「エレオノーラはスタイルも良いし肌も綺麗だよな!」
エレオノーラが
「止めてくれぇぇぇぇぇっ!!!」
と叫ぶ。
馬車でノトスの町まで行って馬車を預け、砦までは徒歩で向かう。
近くまで行くと柵で囲われていて、一部城壁の様な壁が建造されている。
「これが魔導士ゲルハルトの砦か。」
とカイルがつぶやく。
砦の周りには多数のゴブリンやオーク、トロールなどの魔物がいて建設作業中の様だ。
カイルたちが近づいて行くとそれに気づいた魔物たちが一斉に向かってくる。
先ずはグスタフがトルネードアックスで先陣をきる。
回転しながら魔物の群れに突っ込み血や肉片を飛び散らせながら触れるものを切り刻んでいく。
続いてカイル、レティシア、クレア、ドロシーが突っ込む。
カイルたちの戦いぶりを見てプルムが言う。
「カイルさんもクレアも大分戦えるようになりましたね。頼もしいです。」
それに対してエレオノーラが
「そうだな。記憶を失ったばかりの時はゴブリンにタコ殴りにされてたからな。それに比べれば随分成長したよ。」
と言うとプルムが
「カイルさんの記憶・・・・・・やっぱりいつかは戻っちゃうんでしょうね・・・・・・。」
と寂しそうにつぶやく。
エレオノーラは
「そうだな・・・・・・。」
と言いながらレイモンドの言葉が引っ掛かっていた。
(人の本質は変わらない・・・・・・。でも今のカイルと以前のカイルは本質からして違うと思う。これが記憶を失ったせいなのか、それとも・・・・・・。)
雑魚が片付くと砦の建物の中から一匹の魔物が姿を現す。
巨大なライオン・・・・・・の背中からヤギの首が生えていて尾は蛇になっていて尾の先に蛇の頭がある。
「キマイラですね。」
「カイルさん!ヤギの頭からファイアーブレスを吐きますから気を付けてください!」
とプルムがカイルに伝える。
カイルは
「分かった!」
と返す。
キマイラはライオンの頭による噛みつき、前肢の爪による引っ掻き、ヤギの頭によるファイアーブレス、蛇の頭による噛みつきと次々と隙のない攻撃を仕掛けてくる。
グスタフは
「死角がねえな!こりゃ面倒だ!」
と嫌そうに言う。
レティシアも
「動きも早いし、HPも高そうだ。」
と言う。
カイルが
「エレオノーラ!魔法で何とかなりそうか!?」
と言うとエレオノーラは
「分かった!やってみる!」
「烈火!」
と唱える。
大きな炎がキマイラに降り注ぐ。
しかし直ぐに掻き消される。
「魔法耐性か!」
と悔しがるエレオノーラに対しカイルが
「効かないのか?」
と聞くと
「効かなくはないんだが、ダメージを減衰させられるから、魔法で倒すのは難しいな。」
と答える。
カイルが
「役立たず。」
と言うとエレオノーラは
「褒めるなって言ったからって貶すな!」
と言うと口をとがらせながら続けて
「お前に貶されると落ち込むんだぞ・・・・・・。」
と言って俯く。
カイルは
「冗談だよ!いつも頼りにしているよ!お前のそういうところ、可愛くて好きだぞ!」
と言う。
エレオノーラは顔を赤らめながら
「だから、そういう事言うの止めろ!」
と怒る。
グスタフが
「随分余裕だな、カイル。」
と言うとカイルは
「ああ。良いこと思いついたんだ。先ずはファイアーブレスを何とかする!グスタフは正面、レティシアは左へ回ってヤツの攻撃を引き付けてくれ!」
と言ってカイルはクレアと右へ回る。
カイルがクレアに耳打ちするとクレアは
「分かりました!やってみます!」
と言う。
カイルはキマイラの後ろへ回って、蛇の攻撃を引き付ける。
クレアは剣を右から左に振りながら
「スキル:刀身延長!」
剣が光って刀身の間合いが伸びると同時にヤギの頭を後ろから切り飛ばす。
キマイラは何故ヤギの首が切られたのか分からず困惑する。
グスタフは斧でヤギの頭を二つに割る。
カイルはそのヤギの頭の一方をキマイラの顔に向かって蹴り飛ばし挑発する。
キマイラは怒ってカイルに狙いを定める。
カイルは走って逃げる。キマイラは全力で追う。
カイルは少し走ると疲れたのか速度が急激に落ちる。
そして少し横に逸れて止まると剣を突き出す。
キマイラは速度が出ているうえに身体が重いので直ぐに止まれない。
その状態でカイルに胴体に剣を突き刺されたので剣は止まっていてもキマイラの身体は前に進んでいるため、それによって切り裂かれる。
キマイラは直ぐに尾の蛇でカイルに攻撃しようとするがカイルは剣を抜いて離れる。
カイルはエレオノーラに
「キマイラの足元の地面を凍らせられるか!?」
と聞く。
エレオノーラは
「任せろ!」
と言って呪文を唱える。
「地面凍結!」
するとキマイラの足元の地面が凍り付く。
カイルはキマイラの方に走っていく。
キマイラはカイルの動きを警戒して逃げようとするが足が滑って思うように動けない。
カイルはそのまま地面を滑ってキマイラの胴体の下に入り込みキマイラの腹に剣を突き立てる。
カイルはキマイラの腹を切り裂きながら滑って反対側へ抜ける。
キマイラの腹から内臓が落ちる。
キマイラが弱ったところでレティシアが正面から鼻にパンチを入れる。
手の甲に着いたドラゴンクローがキマイラの眉間に突き刺さる。
キマイラは前足で鼻を覆って蹲る。
そこをグスタフが横からキマイラの後頭部に戦斧を叩き入れる。
そこでキマイラは息絶えた。
ドロシーは
「やっぱり、あんたら凄いな!それぞれ強い上に連携も取れてるし。私は雑魚しか相手にできなかったよ。」
と言って感心する。
クインが
「僕たちも出番なかったですね、プルムさん。」
と言うと
「私まで一緒にしないで!」
とプルムが言う。
外の魔物が片付いたので建物の中に入っていく一行。
中にはスケルトン、ゾンビ、グールが多数いる。
プルムは
「私はここで活躍するから!」
とクインに対して自慢げに言うと
「不死者回帰!」
と呪文を唱える。
すると大半の魔物が消え、残りはカイル、グスタフ、レティシア、クレア、ドロシーが片付けていく。
クインが
「また僕だけ役立たずだ・・・・・・。」
と落ち込んでいるとエレオノーラが
「今回は私も何もしてないぞ。」
と言う。
プルムは
「クインにはクインの活躍する場所があるよ。それが今ここじゃないってだけ。」
と励ます。
クインが
「でも・・・・・・。」
と言うと、戦闘を終えたカイルが
「俺はお前に戦闘してほしくて仲間に誘ったんじゃないぞ!戦闘力ならグスタフとレティシアだけで充分だからな。戦闘力が高いだけのやつならもういらない。俺はクインの鑑定士としての能力を買って誘ったんだ。お前にもしもの事があったら、誰が未知のアイテムや敵の鑑定をするんだ?他のメンバーじゃ出来ないんだぞ?だからお前の仕事はそういう時の為に無事でいる事だ。それにお前だって戦闘でも役に立ってるじゃないか。クレアを身を挺して庇ったり、松明をもってミノタウロスを引きつけたり。お前がいたからクレアは助かったし、ミノタウロスにも勝てたんだ。充分に活躍してるから気にすんな。これからも頼むぞ!」
と話す。
クインは笑顔で
「はい!」
と元気よく返事する。
奥の扉を開けて中に入ると頭部の左右に角が生えた、炎をまとった魔人がいる。
エレオノーラが
「あれは、イフリートか。」
と言うとカイルは
「みんな、本当に魔物に詳しいな。」
と言う。
エレオノーラが
「魔王を倒すまでにどれだけ魔物を倒したと思ってるんだ。」
と返すと続けてプルムが
「それに、私とエレオノーラさんは本もたくさん読んでますからね。」
と返す。
カイルは
「なるほどね。」
と言うとイフリートに切りかかるがイフリートは手から炎を発して攻撃してくる。
グスタフとレティシアも攻撃しようとするが同じく炎の攻撃に阻まれる。
エレオノーラが呪文を唱える。
「猛吹雪!」
イフリートの纏う炎が弱まる。
カイルは
「よし!いける!」
と言うがイフリートが大きく息を吸って
「ウガアアアアアアアアア!」
と叫び声をあげるとまた炎が大きくなる。
エレオノーラは更に
「絶対零度!」
と唱え、また炎が弱まるがイフリートが叫ぶとまた復活する。
エレオノーラは
「ダメだ!火力が強すぎて氷魔法が効かない!」
と言う。
グスタフが戦斧で切りかかるとイフリートは腕で受け止める。
戦斧は腕に食い込み半分くらいは切断した・・・・・・かに見えたが、戦斧は腕に食い込んでたのは無く、腕に触れた部分の刃を溶解していたのだ。
グスタフは
「鋼鉄製の刃が一瞬で溶かされた・・・・・・!?なんて火力だ。」
と驚愕する。
カイルは
「エレオノーラ!猛吹雪だ!」
と言うがエレオノーラは
「効かないと言ったろ!」
と返す。
カイルが
「良いんだよ、効かなくても。ただ、部屋の温度を下げないと俺たち全員蒸し焼きになるぞ!」
と言うとエレオノーラは
「そうだな・・・・・・分かった!」
と言って猛吹雪を唱える。
グスタフとレティシアが攻撃を引き付けてくれている間に考えるカイル。
しばらくするとグスタフが言う。
「カイル!こっちはそろそろ限界だぞ!」
カイルはそれを聞いて
(ダメで元々、やってみるか!)
と思い、
「エレオノーラ!風魔法であいつの周りを真空にできるか!?」
エレオノーラは
(部屋の天井から床までの竜巻なら補償流{※空気が移動した際にその空間を埋めるために周囲の空気が流れる現象}が生まれないから限りなく真空に近い状態ができるかも・・・・・・。)
と思うが
「相手は魔物だ!そんな事で窒息なんてさせられないぞ!」
と言う。
カイルは
「そんな事狙ってない!出来るならやってくれ!」
と言う。
エレオノーラは
「最大級竜巻!」
(天井から床までの竜巻だ。補償流は入り込めないし、強力な遠心力で中心の空気は竜巻の外に流れ出る。これで中心は限りなく真空に近くなるはずだ。)
と思う。
するとイフリートの身体をまとう炎が完全に消える。
カイルは
「よし!直ぐに絶対零度に切り替えろ!」
と言う。
エレオノーラは
「分かった!」
と言うと直ぐに絶対零度を唱える。
イフリートの身体が気持ち縮み床に膝をつく。
そこでカイルがイフリートの頭に剣を振り下ろす。
イフリートを真っ二つに切ると同時にイフリートの身体が砕けていく。
カイルが
「上手くいったか・・・・・・。」
と言うとグスタフが
「どういうことだ?」
と聞く。
カイルが
「燃焼に必要なものは何だか分かるか?」
と聞く。
レティシアが
「オ、オナラ・・・・・・?」
と呟く。
エレオノーラは
「何でオナラ・・・・・・?」
と困惑する。
プルムは
「もしかして、まだ気にしてるんですか?」
と笑う。
レティシアは
「い、いや、そういう訳では・・・・・・。」
と顔を赤らめる。
プルムは
「可燃物、点火源、酸素ですね。」
と答える。
カイルは
「そう!点火源はそもそも、もう火が付いている状態でこれを消せなかった以上どうにもできない。可燃物はイフリート自身の身体かそこから出る何か。もしかしたらオナラかもしれない。どちらにせよ可燃物がイフリート由来の物ならこれもどうすることもできない。俺たちがどうこうできるとすれば酸素だけだ。だからイフリートの身体の周りを極力真空状態にして酸素を断った。燃焼の三要素の一つを止めれば火は消える。それで火が消えたんだ。」
と答える。
クインは
「イフリートの炎が氷魔法で消えそうになった時、イフリートが叫び声をあげると炎が復活したのは何でですか?」
と聞く。
カイルは
「あれは叫び声を上げたから炎が復活したんじゃない。叫び声を上げる前に大きく息を吸ってただろ。あれは燃焼を加速するために酸素を取り込んでたんだ。」
と答える。
クレアが
「イフリートの身体が、最後に砕けたのは何でですか?」
と聞く。
カイルが
「物質っていうのは高温になると膨張し低温になると収縮する。元々高温で膨張していたイフリートの身体を絶対零度で急激に冷却したことにより、体の表面が急速に収縮したんだ。そのバランスが崩れて脆くなった状態のところに剣で切りつけたから砕け散ったんだ。」
と答える。
ドロシーが
「流石、私が見込んだ男だ!」
と言ってカイルの背中を叩く。
カイルは
「いやあ・・・・・・。」
と照れながら
(トラックのメンテナンスを自分でやる為にエンジンの勉強しといて良かった。イフリートが大きく息を吸う行為、あれエンジンの吸気と一緒なんだよな。それに気付いて、もしかしたらと思ったが倒せて良かった。)
と思っていた。
先に進むことにしてドアを開けるとそこには無数の魔物がいて奥に魔導士らしき男がいる。
カイルが
「お前がモーリッツ・ゲルハルトか?」
と聞くと
「そうだ。わしがゲルハルト国王だ。ノトスの町の手下をやったのはお前らだな?」
とゲルハルトが返す。
カイルが
「だったらどうする?」
と言うとゲルハルトは
「それならあいつらよりお前らの方が役に立ちそうだ。代わりにお前らを手下にしてやる!」
と言って照魔鏡を出す。
カイルが
「見るな!」
と叫ぶと全員が一斉に目をそらす。
その隙に多数のゴブリン、オーク、トロールが襲い掛かる。
ゲルハルトは更に追い打ちをかける。
「暗黒烈火!」
カイルたちの周りを炎が包む。
エレオノーラが
「闇属性魔法か!既に闇落ちしたか!」
プルムが
「魔法障壁」
と唱え防御する。
グスタフは
「しかも自分の手下の魔物まで巻き添えにして!」
と言う。
ゲルハルトは
「ゴブリン、オーク、トロールはこの奥の生産工場で多少時間はかかるが幾らでも生産できるからな。」
と言う。
レティシアが
「こいつ、やりやがったな!」
と言うとクレアが
「どういうことです?」
と聞く。
プルムが
「バロン村の時みたいに女性を攫って苗床にしてるって事よ!」
と答える。
ゲルハルトが
「ノトスの町の連中に借金を負わせ、払えなくなった出産可能な女たちを『娼館に連れて行く』と称して連れて来て孕み袋として使っているのだ。」
と言うのを聞いてドロシーは
「下衆なヤローだ!」
と言う。
エレオノーラが
「落雷!」
と唱えると、雷がゲルハルトの頭上に落ちる。
しかしゲルハルトに当たる寸前に消える。
エレオノーラが
「魔法無効化か!」
と言う。
ゲルハルトは不敵な笑みを浮かべながら
「貴様らの魔法は通用しないぞ。」
と自信満々に言う。
グスタフは
「魔法が効かねえなら接近戦で倒すしかねえが、ヤツの方を向けねえんじゃ近づけもしねえ!」
と愚痴を吐く。
カイルは少し考え、
「一旦引くぞ!」
と言う。
ドロシーは
「本気か!?」
と戸惑うが全員イフリートのいた部屋に戻りドアを閉め、グスタフがドアを押さえる。
レティシアが
「何か作戦を考え付いたんだな?」
と聞くとカイルは
「ああ。」
と答える。
カイルが作戦を伝えると全員がゲルハルトのいる部屋へ戻る。
カイルを中央にしてカイルから見て左にグスタフ、右にレティシアが背中合わせになり、横向きにゲルハルトの方へ雑魚を倒しながらゆっくり向かっていく。それに続いて左側にドロシー、右側にクレアで同じように背中合わせの状態でグスタフ、レティシアに続く。更に左にプルム、右にクインで同じように続く。
グスタフ、レティシアがゲルハルトの近くまで行った時に、全員が少し前進する。
すると、ゲルハルトとカイルの間に通り道ができる。まるで海が両側に割れて道ができるモーゼの海割りの様に。
その通り道に入ってきた魔物はエレオノーラが魔法で始末する。
カイルは剣を目の高さに水平掲げ、右手で柄を持ち、左手で刃の部分を支えて後ろ向きに進んでいく。
カイルはゲルハルトに近づいて行くがゲルハルトは
(バカめ!照魔鏡を見ないためとはいえ、後ろ向きじゃ正確な位置もつかめず攻撃もできまい。)
と思い、右に動く。するとカイルも同じタイミングで右に動く。ゲルハルトは
(まさか?偶然だ!)
と思いながら今度は左に動く。するとカイルも左に動く。
ゲルハルトは
(どういうことだ?あの魔法使いの女か?いや、あそこからではこの手前の男が邪魔で、わしの動きはよく見えないはずだし照魔鏡がある以上まともにこちらを見ることは無い。それに指示を出している様子は無い。じゃあ何故この男はわしの動きが分かる?剣か!?)
そう。カイルの目には剣の刃にぼんやり映ったゲルハルトの姿が見えているのだ。剣を横にしているため高さが無くゲルハルトの頭部と肩くらいが写っていて照魔鏡の部分は見えていない。
そしてゲルハルトが気付いた時にはもう遅かった。
カイルが剣を逆手に握り直し後ろを突くとゲルハルトの脇腹に突き刺さる。
ゲルハルトが
「ぐあっ!」
と声を上げ照魔鏡を落とす。
その音を聞いたカイルは剣を抜くとゲルハルトの方に向き直り袈裟切りにする。
ゲルハルトは断末魔の声を上げ息絶える。
カイルは
(大型トラックの運転手だった時には役に立たなかったバックミラーがここで役に立つとはな・・・・・・。)
と思っていた。
ゲルハルトがいなくなったことにより安心して戦えるようになった皆は雑魚どもを一掃する。
カイルが照魔鏡を裏向きに持ち上げ
「これ、まだ効果あるのかな?」
と疑問を口にする。
プルムが
「私で試してみますか?カイルさんの下僕にならなっても良いですよ。」
と言う。
するとレティシアとエレオノーラが目を吊り上げながら
「おい!」
「抜け駆けはよくないぞ。」
と言いながらプルムの両脇に並ぶ。
すると
「私も!」
といってクレアがプルムとエレオノーラの間くらいにかがみ、ドロシーがプルムとレティシアの間から顔をのぞかせる。
カイルは呆れた感じで
「お前らなぁ・・・・・・記念写真の撮影じゃないんだぞ。」
と突っ込む。
しかし
「キネン?・・・・・・シャシン?・・・・・・サツエイ・・・・・・?」
と皆の頭には疑問符が浮かぶ。
カイルはそんな皆をよそに
「クイン!ちょっと鑑定してみてくれるか?」
とクインに声をかける。
クインが鑑定スキルで見て言う。
「間違いなく照魔鏡です。特に付与された力は無いようです。ただ、鑑定スキルでは見えない何かを施してる可能性がゼロじゃない以上、百パーセント安全とは言い切れません・・・・・・。」
カイルは
「分かった。ありがとう。」
と言うと照魔鏡をその辺に落ちてる布でくるみ
「これはこのまま布でくるんで依頼者に事情を説明して渡すことにしよう。」
と言う。
そしてドアを開けて奥の部屋に入る。
部屋の中には四、五十人の裸の女性がいる。妊娠している者も多い。
グスタフは
「ここが魔物の生産工場って訳か・・・・・・胸糞悪い・・・・・・。」
と呟く。
女性たちは皆、胸と股間を隠し怯えている。
カイルは女性たちに
「我々は皆さんを助けに来ました。悪人は退治しましたからもう安心して下さい。」
と言うと、皆、安堵の表情に変わる。
カイルは
「クレア、クイン、ドロシー。三人はアンデッドの部屋まで戻って、グールやゾンビの着てた服で使えそうなのがあったら剥ぎ取ってこい。気持ち悪いかもしれないが裸で町に戻るよりマシだろう。」
と言う。
ドロシーは
「追剥ぎなら任せとけ!」
と自信満々に言う。
カイルは
「お前、泥棒癖が抜けないようだな。ドロボードロシー。」
と言う。
ドロシーは
「泥棒って言うな!」
と怒る。
カイルは
「ちょっと待て、ドロシー。」
と言う。
ドロシーは
「どうした?何か気に障ったか?もしそうならすまない。」
と謝るがカイルは
「いや、このドア、鍵が掛かってる。お前はこっちを頼む。」
と部屋の奥にあるドアの鍵開けをドロシーに頼む。
部屋に入ると華美な装飾の施された趣味の悪い部屋が広がる。
中には綺麗な女性が数名、カイルたちに駆け寄って来て
「お願いです!助けてください!」
と言ってくる。
レティシアは
「自分好みの女は手元に置いてハーレムにして、そうじゃない女は魔物にくれてやったって訳か。つくづく下衆な男だ。」
と呟く。
カイルは女性たちに
「ゲルハルトは死にましたからもう大丈夫です。皆さん無事にノトスの町まで送り届けますから安心して下さい。」
と言って女性たちを安心させる。
カイルは続けて
「我々は皆さんが安心して帰れるように外の魔物を片付けてきます。この部屋は安全なので、もう少しだけこの部屋でお待ちください。」
と言って、カイルたち一行は全員部屋を出る。
エレオノーラが
「どういうことだ?」
と聞くとカイルは
「ハーレム要員と苗床要員、お互いに合わせない方が良いだろ。」
と答える。
カイルの答えを聞いて皆納得する。
カイルは
「先ず、グスタフ、エレオノーラはクレアとクインと一緒に、苗床にされていた人たちを連れてノトスの町の北側から入ってくれ。残りのメンバーはハーレム要因だった人たちと時間差で戻り町の東側から入る。」
と指示を出す。
皆、指示通り行動し全員無事にノトスの町に帰る。
モーリッツ・ゲルハルト
62歳 身長168cm
自ら大魔導士を名乗る老人。かつてはマジーアの町に住んでいた。
照魔鏡に自ら編み出した魔法で、“照魔鏡に映った自分自身の姿を見たものはゲルハルトの僕になる”という力を付与する。
照魔鏡の力で複数の魔物を使役し、ノトスの町とかつてルシファーのいた魔王城の中間くらいの場所に自らの王国の礎となる砦を築く。
砦の最奥には自らの好みの女性だけを集めたハーレム部屋、その手前にはゴブリン、オーク、トロールを繁殖させるための部屋を作る。
ノトスの町の人間の手下を使い、架空の投資話などで騙し、建国の資金を得るとともに、借金を負わせ、返せなくなった女性たちを“娼館に売る”という名目で連れて来て照魔鏡を使って僕にしている。女性たちはゲルハルトの命令は何でも聞くようになっており、繁殖部屋の女性たちも拘束されることなく繁殖に協力している。
戦闘力は皆無で、接近を許してしまったカイルにあっけなく殺される。
キマイラ
体長5m
巨大なライオンの背中からヤギの首が生えていて、尾が蛇になっている魔物。
ヤギの口からファイアーブレスを吐く。
攻撃力も防御力も敏捷性も高く、強敵の部類に入る。
カイルの機転で倒せたが、普通に戦ったらかなり苦戦させれる。
イフリート
身長4m
頭部に左右に向かって生える角を持ち、真っ黒で目だけ光っている、炎をまとう魔人。
グスタフの鋼鉄の戦斧がイフリート身体に触れた部分だけ溶解するほどの高温。温度にすると1,600℃以上。空気は熱伝導率が低いがそれでも長時間密閉された部屋にいれば蒸し焼きになってしまう。
炎を操り攻撃する。
大きく息を通ことで酸素を大量に取り入れ火力を上げることができる。その為、氷系の最強魔法でも簡単に炎を消すことはできない。
ただ、その炎も燃焼によって生じているので燃焼に必要な要素が欠ければ消える。




