-第21話 女神降臨-
カリッサ村を出てノンブリルの町との中間地点に向かうレティシア。
すると遠くにサナトスフォレストに向かうであろう冒険者パーティーを見つける。
このままではまた被害者が増えると思い止めに行くレティシア。
かなり走ってパーティーに追いつくと八人構成の若いパーティーだった。
「お前ら、何処に行くつもりだ?」
と聞くレティシア。
それに対し、リーダーらしき長身の男が答える。
「人喰いの森だよ。黄金の実を取りに行くんだ。」
レティシアが
「止めておけ。お前たちのかなう相手じゃないぞ。」
と引き留めようとするが長身の男は
「あんたに何が分かる?ウチのパーティーは先日、役立たずを一人追放して優秀なメンバーを三人も入れてるんだ!もはやSランクパーティーと言っても過言じゃない戦力を持ってるんだぜ!」
と引かない様子。
レティシアはやれやれといった様子で
「だったら私と勝負しな!私に勝ったら好きにすればいい。でも私ひとりに勝てないようなら森に行っても無駄死にするだけだから止めときな!」
と言うが、それを聞いた長身の男は笑い出し、
「あんた一人で俺たちと勝負するって!?どう考えても痛い目を見るのはそっちだぜ!それこそ止めときなよ!」
と言う。他のメンバーも笑い出す。
レティシアはドラゴンクローを外し、
「どっちが痛い目るかやってみようじゃないか。私は素手で相手してやるよ。全員まとめてかかって来な!!」
と構える。
長身の男は
「なめやがって・・・・・・。だったら痛い目見てもらおうじゃねえか!」
と言って切りかかる。
レティシアは軽くかわし、後頭部に手刀を入れる。
長身の男は
「ぐっ!」
とうめき声をあげて気絶する。
武闘家の男が殴り掛かってくるのを巧みにかわしたレティシアは鳩尾に一発入れると武闘家の男は腹を抱えて動けなくなる。
後ろで魔法を唱えようとする魔術師を百歩神拳で吹き飛ばすと切りかかってきた戦士の男の胸に掌底を突き入れる。戦士の男は衝撃で後ろに転がっていく。
レティシアは女戦士を足払いで転ばせると女神官の尻に蹴りを入れる。女神官は悲鳴を上げて尻を押さえて座り込む。
男の槍術使いが槍で突いてくるが紙一重で躱すと槍を掴んで槍術使いを引き寄せ顔面に肘鉄を喰らわせる。
女召喚士が魔獣を召還すると剛掌波で魔獣を掻き消し、召喚士の首を掴んで押しながら足を引っかけて転ばせる。
長身の男が気が付いたようで立ち上がりながら
「相手はたった一人だ!全員で取り囲め!」
と指示を出すと全員で取り囲んだ。
しかし相手が攻撃を指示しようとした瞬間にレティシアは八連脚で一人ずつ順番に蹴り飛ばしていく。全員のされたところでレティシアが
「どうした?この程度か?私一人に八人がかりで勝てないようならサナトスフォレストから生きて帰っては来れない。大人しく帰りな!」
と言うと長身の男が
「あんた、一体何者だ・・・・・・?」
と問う。
「私はカイル遊撃隊のレティシア・ダラス。」
とレティシアが答えると長身の男は
「あんたもか・・・・・・。」
と言い、レティシアは
「あんた・・・・・・“も”・・・・・・?」
とどういうことか理解できない。
すると武闘家の男が這い寄って来てそのまま土下座し
「僕の師匠になって下さい!」
と、それに対し
「はあっ!?」
とレティシアが困惑していると武闘家の男は続けて
「それがダメなら結婚して下さい!!」
と追い打ちをかける。
レティシアが
「はあああああっ!?」
と困惑しながら
「何だその二択!?」
と言うが武闘家の男は
「お願いします!貴女は僕の女神さまだ!」
と言い出す。
レティシアは
「私は任務があるのでこれで失敬する!」
と言って走り出し、後ろを振り返りながら指を差し
「良いか!お前ら!絶対に森には行くなよ!」
と念を押して走り去る。
グスタフが持ち場へ向かいコスタ村で一人になったプルム。
村の中央広場に着くとそこには女神像が立っていた。
プルムは
(この像・・・・・・何か私に似てるかも・・・・・・。)
と思いながら、女神像を拝んでいる村人に声をかける。
村人は振り返ってプルムの顔を見るなりプルムに対して拝み始める。
「女神様・・・・・・!」
プルムは慌てて、
「いや、私はただの旅の神官で・・・・・・。」
と言うが村人は聞く耳を持たない。
すると近くにいた村人も集まって来て拝み始める。
「女神様だ!」
「女神様が降臨された!」
と。
プルムは必死に否定するが誰も聞いていない。
そんな中、遠くの方から声が聞こえる。
「魔物だ!魔物が村に侵入してきた!」
と叫びながら走ってくる。
プルムがその村人が走って来た方向に目をやると、ピンク色の毒々しい肌のメタボ体系の巨人系の魔物が歩いてくる。
プルムは
「ポイズンジャイアントだ・・・・・・!村人を助けなきゃ!」
と言って駆け出す。
プルムがポイズンジャイアントの前に来ると、おそらくポイズンジャイアントに攻撃されたであろう村人が倒れている。
ポイズンジャイアントはその村人を踏みつぶそうと、ゆっくり足を上げる。
プルムは
(一撃で倒さないと、あの人が危ない!)
と思い僧侶系最強の攻撃魔法を唱える。
「女神の裁き(ゴッデスジャッジメント)!」
ポイズンジャイアントの身体を雷光が貫き、ポイズンジャイアントを倒す。
プルムは倒れている村人に近づく。
見ると瀕死の状態で毒にも侵されれている。
プルムは
(一刻の猶予もない早く完全回復しなければ・・・・・・。)
と思い、僧侶系の回復魔法の中でもHPを全回復しつつ全ての状態異常を消し去る呪文を唱える。
「完全回復!」
すると村人が聖なる光に包まれ毒が消え、傷が癒え、HPが完全回復する。
倒れておいた村人が
「ありがとうございます!助かりました!」
と礼を言う。
プルムが
「良かった。」
と安堵していると村人から次々に声が上がる。
「あんな巨大な魔物を一撃で倒したぞ!」
「まさに女神の裁きだ!」
「重症の男を一瞬で回復させたぞ!」
「まさに女神のお力!」
「女神様が降臨された!」
「女神様!」
「女神様ー!」
プルムは
「違うんです!私は女神じゃなくてただの神官で、旅の冒険者で、あれは魔法で・・・・・・。」
と必死に否定するが皆、プルムを女神だと信じ込んで否定の言葉など聞こえていない。
プルムが
(どうしよう・・・・・・?)
と困惑していると一人の村人が
「こんなところでは何ですから、こちらに・・・・・・。」
と案内されたのは村の集会所の様なところ。
「今、お食事の用意をいたしますから」
と言われ次々と食事出されるが、大勢の村人が注目する中でプルムは
(こんなに皆に注目される状況で食べられない・・・・・・。)
と思い、
「すみませんが、今は食事より村の中を見て回りたいのです。」
と言う。
村人は
「やはり我々下賤の者の食す物などお食べにならないのでしょうか?」
と聞いてくる。
プルムは
「いえ、そういう訳じゃなくて、今は・・・・・・。後ほど頂きます・・・・・・。」
と困惑しながら返し
(せっかく用意してくれたのを食べないのも申し訳ないし、もう少し周りの人が減ったら後で頂きましょう。)
と思っていた。
村の中を行商人がいないか探しながら歩いているが後ろには村人がぞろぞろと大勢ついてくる。
一瞬も気が休まる暇がないプルムは
(早くグスタフさん帰って来て!)
と思っていた。
プルムがなんとか夕方までやり過ごすとグスタフが帰ってきた。
プルムがグスタフに駆け寄っていくと村人は
「これはこれは。女神様のお付の方ですか。」
と言う。
グスタフはそれを聞いて
「女神様?お付の方?」
と戸惑い、プルムに小声で聞く。
「どうなってるんだ?」
プルムは
「村の中央広場に女神像があってそれが私に似てるんです。それで皆、私の事を女神が降臨したと思い込んでいて・・・・・・。」
と答える。
グスタフは大きな声で
「いやあ、バレてしまっては仕方がない!女神様は食事を所望されております。こう見えて肉がお好きなので肉を多めにご用意頂きたい!」
と言う。
村人は
「おお!」
歓声を上げて食事の用意を始める。
プルムとグスタフは村の集会所に案内されて食事を出される。
グスタフは調子よく村人に話を合わせながら肉と酒にがっつく。
プルムはグスタフの陰で恥ずかしそうに食べている。
村人の一人がプルムに
「女神様はしばらくはこの村に滞在していただけるんですか?」
と聞いてくる。
プルムは
「いえ、私たちはやらなければならない事があるので明日には発つ予定です。」
と答える、
村人たちは残念そうに静まり返る。
それを見てプルムは立ち上がり
「でも、私がこの村に祝福を授けましょう!この村が永遠に平和で繫栄できるように!」
と叫ぶ。
村人たちは
「おおおお!」
と歓声を上げて喜び大盛り上がりとなった。
夜も更けて、宿屋に戻りようやく村人から解放された二人。
プルムが
「もう!グスタフさん、調子に乗りすぎですよ!」
と怒って言うと
「いやあ、すまんすまん、腹が減ってたんでつい・・・・・・。それに面白かったからいいじゃねぇか。」
とグスタフが返す。
プルムは
「面白くないですよ!今日一日、どれだけ神経すり減らしたか・・・・・・。」
と言う。
グスタフは
「お前だって『私がこの村に祝福を授けましょう!』とかやってたじゃないか。」
と言うとプルムは
「あれは・・・・・・村の皆さんが落ち込んでたから仕方なく・・・・・・。」
と言うと続けて
「見知らぬ村の人たち大勢に崇められて一人で本当に心細かったんですからね!」
と目を潤ませる。
プルムの泣きそうな顔を見てグスタフは
「すまんすまん。そうか・・・・・・。お前も大変だったんだな。明日、カイルたちが迎えに来たら出発だ。今日はゆっくり休もうぜ。」
と言って二人は眠りにつく。
そのグスタフが昼間何をやっていたかというと---。
「いやあ、暇だな・・・・・・。かといって寝てるわけにもいかねえし・・・・・・。」
とグスタフが暇を持て余していると荷馬車が走ってくる。
グスタフはもしかしたら目当ての行商人かもしれないし、そうじゃなくても、良い暇つぶしになると思って
「おーい!」
と声をかけ近づいて行く。
近くに着いたところでグスタフが御者に声をかける。
「あんた、行商人か?」
御者は
「え、ええ、まぁ・・・・・・。あなたは?」
と聞き返す。
グスタフは
「俺はこの辺を警戒しているもんだ。ところであんた、賢者の石持ってないか?」
と聞く。
御者が
「いえ、持っておりません。それじゃ急ぎますんで・・・・・・。」
と言うとグスタフは暇つぶしをしたくて
「途中まで護衛してやろうか?」
と申し出る。
しかし御者は
「いえいえ、とんでもございません。大丈夫です。」
と手を振って遠慮する。
しかしそれを見てグスタフは
(この男の手・・・・・・。普段から武器を持ってるやつの手だ。こいつ行商人じゃないな。)
と思い
「ちょっと馬車の荷台、見せてもらえるか?他にもほしいアイテムがあってな。」
と言って馬車の後ろへ回る。
御者は
「ちょっと、勝手に見ないでくれ!」
と言うがもう遅い。
グスタフが後ろの幕を開けると武器を持った人相の悪い男が三人と、縄で縛られた高貴そうな女性が乗っている。
グスタフが戦斧で馬車の荷台の真ん中を叩き割ると男たちは一瞬怯む。
その隙に女性を抱えて助け出す。
男たち三人がグスタフに襲い掛かるがグスタフは戦斧で横一閃、三人とも胴体が真っ二つに。
女性は
「きゃあああああ!」
と悲鳴を上げ、目をそむける。
御者が短剣をもって襲ってくるがこれも戦斧で返り討ちにすると、女性を抱えて走るグスタフ。
女性を木陰まで連れて行くと木にもたれさせ座らせる。
グスタフは
「怖い思いさせてすまなかったな。あいつらが見えない所まで来たから目を開けても大丈夫だぜ。」
と語りかける。
女性はゆっくりと目を開ける。
怯えた目でグスタフを見る女性。
それに対してグスタフが
「俺はグスタフ・カールソン。冒険者だ。」
と言うと女性は
「そうですか、冒険者の方でしたか。」
と返す。
グスタフが
「何だと思ってたんだ?」
と聞くと女性は
「私はてっきり、山賊か巨人系の魔物かと・・・・・・。」
と答える。
それを聞いてグスタフは
「ひでえな・・・・・・。よりによって魔物扱いかよ・・・・・・。」
と苦笑い。
女性はフフッと笑うと話し始める。
「私はクリスティーナ・レイモンド。現レイモンド侯爵家当主、ランドルフ・レイモンドの長女です。」
グスタフは
「へぇ~。道理で・・・・・・。で、その侯爵家のご息女がどうしてこんな事に?力になってやれるかもしれねえから詳しく話してくれねえか?」
と聞く。
クリスティーナは
「分かりました。」
と言うと事の仔細を話し始める。
「今回、お父様がノンブリルの町へ出かけるというので私も便乗して付いてきたんです。私は南の海峡が見たくて護衛三人とメイド二人を連れて一先ず、ノトスの町まで行きました。そこで賊に襲われ拉致されてしまったんです。護衛とメイドは皆、殺されてしまいました。すべて私の我が儘のせいです・・・・・・。」
グスタフは
「いや、悪いのはあんたじゃない・・・・・・。悪いのはどう考えても拉致した奴らだ・・・・・・!」
と怒りに震える。
クリスティーナは
「グスタフさん・・・・・・。」
と言ってグスタフの手を握ると
「グスタフさん、優しんですね。」
と語りかける。
グスタフは顔を赤らめ
「い、いや、そんなんじゃねえよ!ただ、悪いやつが許せないだけだ。」
と言うと、少し間をおいて続ける。
「悪い奴なんていうのは、何処にでもいる。昔のパーティーにもいた。俺はこんな風貌だから、怖がられて友達もあまりできなかった。だが、そいつだけは違った。いつも一緒につるんでた。だが幼い頃からずっと一緒にいたから、そいつの悪い部分も、それが当たり前だと思っていたから気付かなかった。今のパーティーのリーダーはすげえ良いやつでさ。優しくて情に厚く、仲間の為なら自らが犠牲になることもいとわない。おそらく俺の事も信頼してくれてると思う。俺もそいつを信頼している。初めて親友って奴ができた感じだ。そいつが教えてくれた・・・・・・いや、思い出させてくれたんだ。悪い奴は許せねえって気持ちを。」
そこまで聞いてクリスティーナが
「グスタフさんは素敵なお友達や仲間がいて良いですね。私は身分のせいもあるし人見知りなところもあって、友達といえるような人はいないんです・・・・・・。」
と言うとグスタフは
「だったら俺の仲間に紹介してやるよ!みんな、あんたの友達になってくれる筈だ!」
と言うがクリスティーナは
「そうでしょうか・・・・・・?」
と消極的。
そんなクリスティーナにグスタフは
「うちのリーダーは懐が広いんだ!絶対大丈夫だ!あんたラミアって魔物知ってるか?」
と聞く。
クリスティーナが
「いえ、知りません。」
と質問の意図が分からず戸惑いながら答えるとグスタフは
「ラミアってのは上半身は人間の女、下半身が巨大な蛇の魔物なんだ。そいつと地下迷宮で対峙した時、うちのリーダー、カイルっていうんだが、カイルがなんていったと思う?『上半身が綺麗な女性だから傷つけたくも殺したくもない』とか言うんだぜ!皆、呆れかえっちまったよ!でもそのお陰でラミアに隠し通路を教えてもらってアイテムを手に入れることができたんだ。魔物でも受け入れる男が、あんたみたいな・・・・・・その・・・・・・素敵な女性をだな・・・・・・受け入れないわけがないから絶対大丈夫だ!」
と言いながら少し顔を赤くしている。
そんなグスタフを見てクリスティーナは
「私、グスタフさんに助けてもらって本当に良かったです。」
と笑顔でグスタフに語り掛ける。
それに対してグスタフは
「俺もあんたを助けられて本当に良かったよ。」
と答える。
クリスティーナが
「そうですね。父か謝礼をはずんでくれると思いますよ。」
と言うとグスタフは
「そんなのいらねえよ!」
と答える。
クリスティーナは
「じゃあ、何で私を助けられてよかったんですか?」
と聞く。
グスタフは
「だってよ・・・・・・あんたみたいな人が酷い目に遭うのは胸糞悪いじゃねえか・・・・・・。」
と返す。
クリスティーナは
「グスタフさんって本当に良い方なんですね。」
と言って微笑みかける。
グスタフは照れながら
「いや・・・・・・それならあんただって・・・・・・。」
と言う。
クリスティーナが
「グスタフさん。」
と言うとグスタフは
「何だ?」
と聞く。
クリスティーナは
「そろそろ、“あんた”じゃなくて名前で呼んでもらえませんか?」
と言う。
グスタフは照れながら
「クリスティーナ・・・・・・さん。」
と呟くように答える。
クリスティーナが
「クリスで良いですよ。」
と言うとグスタフは
「ま、まだ出会ったばかりだし・・・・・・。」
と戸惑う。
クリスティーナは
「私はもうグスタフさんの事を“信頼できる友達”だと思ってます。グスタフさんは違うんですか?」
と聞く。
返答に困ったグスタフは
「わ、分かったよ、クリス。」
とクリスティーナの提案を飲む。
続けてグスタフは
「じゃあ、俺の事もグスタフで・・・・・・。」
と言うがクリスティーナは
「それはダメです。」
と返す。
グスタフは
「何でだ?」
と聞く。
クリスティーナは
「グスタフさん、年齢はおいくつですか?」
と聞く。
グスタフが
「二十六。」
と答えるとクリスティーナは
「ほら!私は二十二歳ですからグスタフさんの方が年上です。だからグスタフさんは『クリス』、私は『グスタフさん』、分かりました?」
と返す。
グスタフは反論できずに
「分かったよ。」
と返す。
しばらくその場で他愛のない話で親交を深めていたが、グスタフが
「そろそろ行こう。」
と立ち上がる。
クリスティーナは
「どうするんです?」
と聞く。
「俺は一仕事残ってるんで夕暮れまでにはコスタ村に還らなきゃならない。だからその前にクリスをカリッサ村の仲間に引き渡す。そこで一晩過ごしてくれ。明日の朝になったら仲間と一緒にノンブリルの町に行くんだ。もしクリスの親父さんがまだノンブリルにいるなら一緒に帰れるだろ。もし、親父さんがもういないなら仲間と一緒にいてくれ。俺も明日の夕暮れまでにはノンブリルの町に戻る予定だから。」
とグスタフが言うとクリスティーナは
「分かりました。私はグスタフさんの事を信じていますから、貴方の言う事に従います。でも、もし父と一緒に帰ることになったら貴方にもう会えなくなってしまうのは寂しいです・・・・・・。」
と俯く。
グスタフは
「大丈夫だ。今受けてる依頼がもう数日で終わる。そうすれば報告もあるし俺たちの本拠地は王都だから、王都に帰る。そうすれば王都でまた会えるさ。」
と返す。
クリスティーナは笑顔で
「はい!」
と返す。
グスタフは
「さっきの連中の馬車を取ってくるから、そこでじっとしていてくれ!」
と言って馬車の方へ走り馬車を取ってくる。
グスタフは
「馬車の荷台は壊しちまったから乗れねえが、御者席に二人で乗れば何とか使えそうだ。」
と言ってクリスティーナと一緒に御者席に乗り手綱を握る。
しばらく馬車を走らせているとフェンリルが五頭、近づいてくる。
グスタフは
「この馬車じゃ逃げ切れない。片付けてくるか。」
と言って馬車を止めて降りると
「クリス、そこを動くなよ!」
と言ってフェンリルの方へ走る。
グスタフは鬼神のごとき戦いぶりであっという間にフェンリルを全て片付ける。
馬車に戻ってきたグスタフにクリスティーナが声をかける。
「グスタフさん、本当にお強いんですね!」
グスタフは照れながら
「なぁに、魔物退治を生業にしてるからこれくらいは・・・・・・。」
と謙遜する。
再び馬車を走らせカリッサ村に到着する。
馬車で宿屋に向かう途中、クレアに会う。
グスタフが馬車を止めて降りるとクレアが走って来て泣きつてくる。
「グスタフさ~ん!怖かったよ~!」
そこへクレメントが来たのでグスタフが訪ねる。
「クレメントさん、何があったんです?」
クレメントが答える。
「実は今朝、バンパイア・ロードの城のグールが十六体、村に襲撃に来たんです。」
グスタフは驚いて
「グール十六体!?それで!?」
と聞くとクレメントは
「それをクレアさん一人で全部倒したんですよ。」
と答える。
グスタフはさらに驚いて
「はあっ!?本当か!?」
と聞くとグスタフにしがみついて泣いていたクレアが顔を上げて
「本当ですよ!」
と答える。
クレメントも
「私たちも遠巻きから見てたんですが本当です。」
と答える。
クレアが泣きならも自慢げに
「すごいでしょう!」
と言うとグスタフは
「お前なぁ、泣くか自慢するかどっちかにしろ。」
とつっこむ。
クレアは
「じゃあ、自慢することにします!」
と言って、グスタフから離れ自慢を始める。
「最初は私一人でグールを十数体も相手にするのは無理かなぁって思ったんですけど、村の人たちを助けなきゃって思って向かっていったんです。何体かは順調に倒したんですけどグールってゾンビと違って連携して来るじゃないですか。それで段々押されてきて、もうダメかなって思った時になんとスキルに目覚めちゃったんですよ!これ、見てください!」
と言うとクレアは剣を構える。
「スキル:刀身延長!」
グスタフはそれを見て
「ほぅ!」
と感嘆の声を上げ
「剣の先の光の部分も刀身として使えるって事か?」
と聞くとクレアは
「そうなんです!」
と答える。
グスタフは
「と、すると刀身が約三倍になってるってことだな。」
と言う。
クレアは
「そうなんですよ!しかも重みが無いのでいつも通りに剣を振れるんです!その上、刀身の根元まで光ってるでしょ?刀身本体も含めて切れ味もちょっと上がってるんですよ!これがバンパイア・ロードの時にあれば近づかなくても倒せたのになぁ。」
と言う。
グスタフは
「バンパイア・ロードはそんなに簡単な相手じゃねえよ。」
と言いながらクレアに近づいて
「でも、よくやったな!皆を助けてくれてありがとうな!」
と心の底から褒めながらクレアの頭を撫でてやる。
照れながらも凄く嬉しそうにしていたクレアが馬車の上の人物に気付く。
「ところで、グスタフさん。あちらの方はどなたですか?」
とクレアが聞く。
グスタフは
「クリス、こっちに来てくれ。」
とクリスティーナを呼ぶ。
グスタフは
「こちらはクリスティーナ・レイモンドさん。王都の侯爵令嬢だ。」
「こちらはクレア・ブライアン。俺たちのパーティメンバーだ。」
とそれぞれ紹介するとクリスティーナもクレアも挨拶する。
グスタフは
「レティシアは?」
とクレアに聞く。
クレアは
「まだ戻ってませんよ。まだ日暮れまで時間あるし。」
と答える。
グスタフは
「クレメントさんも聞いて下さい。彼女は賊に拉致されたところを助けたんですが、もしかしたら賊の仲間がまだ彼女を狙ってるかもしれない。そこで今日一晩、この村で匿って欲しいんです。明日の朝になったらクレアとレティシアは彼女を連れて、この馬車でノンブリルの町に戻ってクインと合流して引き続きノンブリルの町で彼女を匿ってほしい。その際、彼女の父親であるレイモンド侯爵がまだ町に残っていれば引き渡して、もう町を出ていれば彼女の宿をとって警戒してほしんだ。それでクレメントさんにはこの馬車の荷台の修理の手配もお願いしたいんです。」
と説明する。
クレメントは
「分かりました。馬車は今夜中に修理させましょう。こちらでの宿も私に任せてください。」
と了承してくれる。
クレアは
「クリスティーナさんの護衛は私とレティシアお姉さまに任せてください!必ず無事にノンブリルの町の送りますから!」
と頼もしい返事。
クリスティーナは
「お部屋を取って頂いても、私は今お金を持っていません・・・・・・。父と合流できればお支払いできるのですが、そうでないとノンブリルの町の宿代も・・・・・・。」
と気落ちした様子で話すがグスタフは
「そんなのいらねえって!もう『信頼できる友達』なんだろ!そんなこと気にすんな!」
と元気づける。
クレアは
「そうですよ!グスタフさんと友達なら私とももう友達です!それに私たちは魔王も倒したカイル遊撃隊ですよ!お金に困っている喰い詰め冒険者と一緒にしないで下さい!」
とクレアも元気づけようとする。
クリスティーナが
「そうだったんですか?」
と言うとグスタフは
「あれ?言ってなかったっけ?すまんすまん。」
と言うと今度はクレアに向かって
「お前、『私たちは魔王も倒した』とか言ってたが、その時はまだパーティーに入ってなかったじゃねえか!」
と突っ込む。
クレアが
「そうでした。」
と言って舌を出すと皆大笑い。
グスタフは
「俺は一旦コスタ村に行ってプルムと合流するから、後頼んだぞ!クレメントさんもすみませんがよろしくお願いします。!」
と言ってコスタ村に向かう。
クレアはクリスティーナに
「じゃあ、宿屋に行って部屋を取ってもらって一息入れましょ!」
と言ってクレメントも一緒に宿屋に向かう。
クリスティーナ・レイモンド
22歳 163cm 86-58-87 Dカップ
ランドルフ・レイモンド侯爵の長女。兄弟は兄と弟。
編み込みの金髪に青い目、白い肌の美人。スタイルも良く、人当たりも良いが、少々人見知りな性格。侯爵の一人娘ということで甘やかされて育ったのか、我が儘な面があるようだが、傍から見れば気になるほどではない。
賊に拉致されていたところをグスタフに助けられ、グスタフの人の好さを感じ、人見知りながらグスタフとはすぐに打ち解け信頼を寄せるようになる。
箱入り娘なうえに人見知りで友達と呼べる人間が周りにいない為、信頼できる仲間がいるグスタフを羨ましく思う。
グスタフに淡い恋心を抱いている模様。グスタフの方もまんざらではない。というかグスタフの方もクリスティーナに惹かれている。
コスタ村の住人
村の中央広場にある女神像を妄信的に信仰している。
プルムが女神像に似ているためプルムを女神だと思い込み崇め奉る。
妄信しているのでプルムの否定の言葉は耳に入らない。
サナトスフォレストに向かう冒険者パーティー
リーダーの男の戦士、男の戦士、女の戦士、男の格闘家、男の槍術使い、女の神官、女の魔法使い、女の召喚士の八人構成。
誰が新しく入ったメンバーなのかは不明。
リーダーの男は「Sランクパーティーと言っても過言ではない」と言っていたが、素手のレティシア一人に八人がかりで全員倒される。
結局サナトスフォレストどころじゃなくなり、そのまま帰還する。
ポイズンジャイアント
身長4m
毒を持つ巨人。
ピンク色の毒々しい肌のメタボ体型。
単独でコスタ村を襲撃、村人に攻撃を喰らわせ毒に侵して踏み潰そうとしたところをプルムの女神の裁き(ゴッデスジャッジメント)の一撃で倒される。
フェンリル
全長3m
見た目は巨大な狼。
走るのが早く、機敏でHPも高めだが、噛みつきと引っ掻きくらいしかないのでそこそこ強い冒険者なら対処は難しくない魔物。




