表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

-第19話 悪徳商人-

 魔除けの指輪を手に入れ、ノンブリルの町に戻ってきたカイル遊撃隊一行。

翌日、カイルはプルムとクインを連れて、光の護符を持ってるという商人バジム・カバエフを訪ねる。

屋敷に入るとメイドが対応してくれる。

「只今、来客中ですので、こちらで少々お待ちください。」

と、エントランスの隅にあるソファで待たされる。

すると近くの部屋から言い争うような声が聞こえる。

男の声で

「頼む!もう少しだけ待ってくれ!」

それに対して別の男の声で

「こっちも慈善事業でやってるわけじゃないんだ。もうその言葉は聞き飽きた。これ以上は待てない。」

女の声もする。

「本当にもう数日だけで良いんです!何とかお願いします!」

「いいや、これ以上は無理だね。もう話す事は無い。おい!摘まみ出せ!」

という声が響くと部屋から厳つい男数人に夫婦と思しき男女が摘まみ出される。

男女は

「頼む!待ってくれ!」

「お願いします!」

と叫んでいるが返事は無い。

男女が屋敷の外まで連れ出されると、メイドがカイルたちに声をかける。

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」

と先ほど男女がいた部屋に通される。

部屋の中には恰幅のいいちょび髭の男と厳つい男が数人いる。

ちょび髭の男が口を開く。

「私がバジム・カバエフだが、何の用だね?」

カイルが答える。

「私はカイル・スタンフォードという者で、冒険者なんですが、ギルドの依頼でアイテムを集めてまして・・・・・・率直に申し上げます。貴方のお持ちの光の護符を譲って頂きたい。」

バジムは少し考えて

「あれは我が家の家宝みたいなもんでねぇ・・・・・・金貨千枚ならお譲りしよう。」

と言うとカイルは驚いて

「金貨千枚とは、あまりにも法外じゃありませんか?」

と言う。

それに対してバジムは

「それがお嫌でしたら無理ですね。お引き取り下さい。私は忙しいんでね。」

と言って部屋を出る。

カイルは

「分かりました。検討させていただきます。」

と言ってプルムとクインと共に屋敷を出る。

 カイルはクインに

「どう思う?」

と聞くとクインは

「実物を見たわけじゃないから何とも言えませんが、カイルさんたちが集めたアイテムを全部鑑定してみましたが、どれも品物の価値そのものは金貨十枚前後です。それが十個で金貨百枚。それに手に入れにくいアイテムばかりだという事で金貨五十枚を上乗せして報酬が金貨百五十枚っていうのは妥当だと思います。とすると光の護符だけが異様に高いとは思えませんから他と同じく金貨十枚くらいが品物そのものの価値だと思うので、どう考えても金貨千枚はおかしいですね。」

と答える。

カイルは

「そうだよな・・・・・・。仕方ない。」

と言うとプルムの方を見て

「あの作戦で行くぞ!」

と言う。

プルムはハッと閃いて

「あの作戦ですね!わかりました!」

と笑顔で答える。


「---と言うわけで皆にはバジム・カバエフについての情報を集めてもらいたい。」

とカイルが言う。

グスタフが

「なるほど。弱みを握って脅し獲ろうって訳か。」

と言うとカイルは

「まぁ言い方は悪いがそういう事だ。直接脅しに使えるようなネタじゃなくても何か利用できるかもしれないんで、とにかく何でもいいから情報を集めてきてくれ。」

と指示を出す。

カイルはプルムとレティシアと三人で、グスタフとクイン、エレオノーラとクレアの三組に分かれて行動することにした。

 カイルたちがしばらく歩いていると見覚えのある男を見つける。

「あんた・・・・・・バジム・カバエフの屋敷にいた・・・・・・。」

と言うと男は

「見られてたんですか・・・・・・。これはお恥ずかしい・・・・・・。」

と俯く。

カイルが

「私はカイルという者で、冒険者です。何かお力になれるかもしれません。バジムと何があったのか詳しくお話をお聞かせ願えませんか?」

と言うと男は

「分かりました・・・・・・。お恥ずかしい話ですが・・・・・・。」

と前置きして話し出す。

「私はセザール・オードランという者で、この町の大通りで酒場を営んでました。父から譲り受けた店で立地も良く、常連のお客様も多く、経営は順調でした。しかし一年ほど前、火事で店が全焼してしまったんです。火気には十分注意していたつもりなんですが油断があったんでしょう。途方に暮れている時に声をかけてきたのがバジム・カバエフでした。『店を再建するための金を貸してやろう』と言ってきたので貸してもらう事にしたんです。店が再開すれば常連のお客様も戻って来てくれるし借金なんかすぐに返せると思ったんです。一か月ほどで再建出来て順調に売り上げを上げてたんですが、それから一週間後、再び火事が起こったんです。一回目は私の油断だったのかもしれません・・・・・・。でも二回目は絶対に違う!同じことが起こらない様にと妻と二人で厳重に管理してました!あれは方かだとしか考えられません!!」

と語気を強めたが直ぐに下を向いて

「すみません・・・・・・。感情的になってしまい・・・・・・。」

と落ち込み、話を続ける。

「それで利息が利息を呼び雪だるま式に謝金が増え、借金の返済が滞り、店の有った土地の権利をバジム・カバエフに奪われてしまったんです。それでも足りずに妻が娼館へ売り飛ばされてしまったんです・・・・・・。」

と泣きそうな顔で語る。

それを聞いたカイルが

「臭いな・・・・・・。臭うぞ。」

と言うとレティシアが

「わ、私じゃないぞっ!」

と叫ぶ。

カイルは呆れた顔で

「何を言ってるんだお前は?」

と返す。

レティシアはハッとして

「そ、そうだよな・・・・・・。そっちの話だよな・・・・・・。」

と顔を赤らめる。

プルムが

「レティシアさん、大丈夫ですか?」

と聞くとレティシアは

「は、恥ずかしすぎて死ぬ・・・・・・。」

と答える。

プルムは

「大丈夫ですよ、カイルさんは気付いてないみたいだし。」

と小声で伝える。

レティシアは恥ずかしそうに

「臭った・・・・・・?」

と聞くとプルムは

「いいえ。だから何も言わなかったら気付きませんでしたよ。レティシアさんって時々そういう事やっちゃいますよね。レティシアさんのそういうところ、可愛らしくて私は好きですよ。」

と笑顔で言う。

レティシア赤い顔をしながら

「あ、ありがと・・・・・・。」

と恥ずかしそうに答える。

そんなマヌケな会話をよそにカイルは真剣な顔で聞く。

「オードランさん。その火事、警備兵はちゃんと調べてくれましたか?」

オードランは答える。

「いや、ろくに調べもせずに“失火”で片付けられてしまいました。」

カイルがそれを聞いて

「もしかしたら一回目の火事も放火かもしれませんね。」

と言うとオードランは

「そんな・・・・・・まさか・・・・・・!?」

と驚く。

カイルが

「今の話だけじゃ何とも言えませんが、可能性はあると思います。今、我々はバジム・カバエフについて調べているんです。もしかしたらお力になれるかもしれません。奥さんの娼館への入館を二、三日引き延ばせませんか?」

と言うとオードランは

「分かりました。ダメかもしれませんが何とかやってみます。」

と力なく答える。

カイルが

「我々はこの町の宿屋に泊まっています。明日の夜にでも一度いらしてください。」

「分かりました。」

と言ってオードランが去ろうとする。

カイルがそれを引き留めて

「これを持っていって下さい。」

と言って金貨を一枚渡す。

オードランが

「これは・・・・・・?」

と戸惑っていると、カイルが

「今の話の情報料だとでも思って下さい。それがあれば娼館への入館を遅らせることができるでしょう。」

こ答える。

オードランは

「あ、ありがとうございます!」

と言って走って娼館へ向かう。

カイルはレティシアとプルムに

「よし、もう少し聞き込みしたら宿へ戻ろう。」

と言って聞き込みを続ける。

 しばらくして宿に戻ると皆集まっていて、ドロシーとゲオルクも来ていた。

カイルが

「ドロシー、どうした?」

と聞くとドロシーは

「あんたに会いたくて・・・・・・いや、村建設の進捗を報告にだな・・・・・・。」

と慌てて言い直す。

それに対してドロシーは

「あんたに会いたかっ・・・・・・いや、こういうのは村長が率先して行わないと!」

とまた言い直す。

ゲオルクが隣りで

「心の声が駄々洩れですよ、村長・・・・・・。」

と呆れて言うと

「うるさい!」

とドロシーが赤い顔で恥ずかしそうに怒る。

またカイルがそんなマヌケな会話をよそに

「それで情報は集まったか?」

と皆に聞く。

グスタフが

「聞くには聞けたが『あくどいことをやってる』って事だけで具体的な話は何も・・・・・・。しかも表立った悪事は手下の疾風愚連隊とかいうゴロツキ集団に実行させて何かあってもゴロツキの下っ端に金を渡して罪をおっ被せてるらしくて尻尾を掴めないらしいぜ。」

と言うとエレオノーラが

「バジム・カバエフという男、結構権力を持ってるらしくてな。皆、口が重いんだ。しかも警備兵と癒着があってちょっとしたことなら賄賂を渡してもみ消してるらしいんだ。」

と補足する。

カイルがドロシーに

「お前、以前この町にいたんだよな?何か知らないか?」

と聞くとドロシーは

「知ってるさ。でもバジムの事に関してならゲオルクの詳しいよ。なぁ?」

とゲオルクに振る。

するとゲオルクが語りだす。

「実は私、一年位前までこの町の中央通り沿いの一等地で食料品店を営んでたんですよ。ある時仕入れの荷を運んでくる荷馬車が賊に襲われて商品が入ってこなくなってしまったんですよ。仕方なく次の入荷を待って在庫だけで営業してたんですが、また荷馬車が襲われて、入荷が止まってしまったんです。それからもうちの店への仕入れの荷馬車だけが次々と襲われて、商品がほとんど無くなってしまったんです。当然売り上げもほとんど無くなってしまったんです。その時にバジム・カバエフが声をかけてきたんです。『金を貸してやるからウチから商品を仕入れろ』と。商品がなくちゃ商売もできないし、そんなことしてたらお客さんが離れて行ってしまうと思って仕方なくバジム・カバエフから金を借りてバジムの店から商品を仕入れることにしたんですが、その仕入れ値が通常の販売価格の倍ほどで、それに儲けを乗せれば高すぎて結局客離れするし、通常の値段で売れば、するほど赤字になるという状況に。結局借金が返せなくなって店をたたんで取りの権利をバジムに売却したんです。それでも足りなくて借金の返済に追われ、そんな生活に嫌気のさした女房は子供連れて出て行きました。それで自暴自棄になって盗賊になったんです。同じ時期に近くの酒場のやられてましたが、あれは二回とも放火ですね。近くで現場を見ましたがあんな短時間で全勝するのはおかしいし、周りに油をまいたような跡があったんですよ。」

その話を聞いたカイルは

「バジムの野郎!」

と怒り心頭。

「こうなったら・・・・・・ドロシー、力を貸してくれ!」

とカイルが言うとドロシーは

「任せな!何を盗むんだい!?」

と聞いてくる。

カイルは

「お前に力を貸してくれって言っただけで“盗み”って・・・・・・。それじゃなんか俺がいつも盗みを働いてるみたいじゃないか。お前の力って言ったら開錠とか罠の解除とか他にもあるだろ・・・・・・?」

と落ち込む。

しかしドロシーは

「でも、盗むんだろ?何を盗めばいい?」

と聞いてくる。

カイルは

「確かにそうなんだけどな・・・・・・。」

と落ち込んでいたものの、直ぐに気を取り直して

「バジム・カバエフの持っている“光の護符”だ。目には目を歯には歯を、悪には悪を、だ。やってくれるか?」

と聞くとドロシーは

「あんたの頼みなら何でも聞くよ!任せな!在り処や警備の状況なんかを調べたいから一日くれ。」

と返す。

カイルは

「分かった。頼んだぞ。じゃあ決行は明後日の夜だ。」


 そして決行の夜。

カイルが

「それじゃあ、作戦を伝える。」

「先ず、クイン。お前は町はずれで待機。次にドロシー。お前は光の護符を盗んだら誰とも接触せずにクインのもとに走れ。クインに光の護符を鑑定してもらって本物ならそのままアジトへ・・・・・・いやウンディーネに預けて誰にも分からない場所へ隠してもらってくれ。」

と言うとクインは

「分かりました!」

ドロシーは

「分かった!」

と返事をする。

カイルは続けて

「プルムとクレアはゴロツキ集団のアジトを襲撃、一人たりとも生きて返すな!」

プルムとクレアは

「分かりました!」

と返す。

続けて、グスタフとエレオノーラにはこそっと支持を伝え、

「レティシアは俺と一緒に来てくれ!」

と言うと

レティシアは

「了解!」

と返す。

カイルの

「作戦開始!」

という合図とともにみな持ち場へ散っていく。


 ―数時間後―

ドロシーは首尾よく光の護符を盗み出してクインと接触、鑑定の結果本物だったのでそのままウンディーネの湖に向かう。

 プルムとクレアは疾風愚連隊のアジトへ侵入、プルムが天罰ディバインパニッシュメントの呪文でゴロツキどもを皆殺し。運よく生き残った者はクレアが件で仕留めて一人残らず片づけた。

 カイルとレティシアはバジム・カバエフの屋敷に押しかけ、光の護符を格安で譲れとゴネまくる。

バジムが帰れと言っても帰らず、警備の手下を呼んでもレティシアが返り討ちにして朝まで粘る。

朝になるとバジムの手下が二人、慌てて報告に来る。報告の内容はもちろん、光の護符の盗難とアジトの襲撃。

バジムは怒りくるってカイルに

「貴様らだな!?」

と問い詰める。

カイルは

「何を証拠に?」

と聞き返す。

バジムは手下に警備兵を呼んでくるように命令する。

 警備兵が到着するとバジムは警備兵に光の護符が盗まれ、お抱えの武闘派集団が全員殺され、それがカイルたちの仕業と騒ぎ立てる。

警備兵は

「何か根拠や証拠が御有りで?」

と聞く。

バジムは

「こいつらが光の護符が欲しいと着た途端にこれだ!こいつら以外考えられん!」

と言うが警備兵は

「それだけでは・・・・・・。しかも疾風愚連隊の殺害とは関係ありませんよね?」

と返す。

カイルの方も

「我々は今、光の護符が欲しいから譲ってくれとお願いするために来てるんですよ?我々が盗んだのならそんな必要ないですよね?」

と返す。

バジムは

「そんなのはカムフラージュだ!こいつらしかいない!」

の一点張り。

警備兵は

「分かりました。とにかく現場を調べてみて、関係者に話を聞いてからです。」

と言って他の警備兵に現場を調べるとともに関係者を集めるように指示を出す。

 しばらくして、カイルの仲間と、現場を調べていた警備兵たちがバジムの屋敷に集まる。

警備兵の中でも一番格上と思われる年長の警備兵が取り仕切る。

「先ずはバジムさんのご意見を聞かせてください。」

バジムが

「こいつらが光の護符を欲しいと言ってきたんだ。そうしたら盗まれたんだ。こいつらしかいないだろう!」

と言うと年頭の警備兵は

「それだけじゃ根拠が薄いですね。疾風愚連隊の殺害に関してはどうですか?」

と聞くとバジムは

(屈強な男が三十人はいたんだ並の人間には無理だ。とすればこの大男が加担してるに違いない。)

と思い

「この大男だ!こいつが現場にいるのを手下が見ている!これだけ特徴があれば見間違えるはずがない!犯人はこいつらだ!」

とカマを掛けて喚く。

グスタフが

「俺がいたって?おかしいなぁ。」

と言うと近くにいた若い警備兵が

「そんなはずないですよ。グスタフさんは我々の宿舎に手土産に大量の酒を持ってきてくれて一晩中、武勇伝を聞かせてくれてたんですから。しかも殺された人たちのほとんどが魔法で殺されてました。残りの何人かは剣の様な武器で殺されてましたから、斧が武器で魔法が使えなくてずっと我々と一緒にいたグスタフさんには無理ですよ。」

と証言する。

バジムは

「な・・・・・・!」

と言葉が詰まるが直ぐに

「じゃあ、このエルフの魔法使いの仕業だ!」

とエレオノーラを指さす。

すると証言の為に呼ばれていた宿屋の主が口を開く。

「いや、エレオノーラさんには無理ですよ。私と一緒にずっと戦騎(将棋やチェスの様な盤上のゲーム)をやってたんですから。いやあ、流石に当代屈指の魔術師の方ですよ。頭脳明晰で非常にお強くて一晩中やってましたが一勝もできませんでしたよ。」

エレオノーラは

「いやいや、昨晩はたまたま運が良かっただけですよ。」

と謙遜して返す。

バジムは

(バカな・・・・・・。魔法と剣?・・・・・・剣?)

と思ってカイルを見る。

カイルが

「俺はあんたと一晩中いただろ?」

と言うとバジムはレティシアの方を見ながら

(この女も一緒にいた・・・・・・。ということは・・・・・・。)

と残ったプルムとクレアとクインの方を見る。

(いや、こんな小娘たちに三十人の屈強な男たちを殺せるはずがない・・・・・・。こいつらじゃないのか・・・・・・?)

と思ったバジムは

「万が一、愚連隊の殺害がこいつらじゃなかったとしても光の護符の盗難はこいつらに決まってる!こいつらの部屋と荷物を全部調べろ!」

と喚く。

 数時間後。

年長の警備兵が

「全部調べましたが出てきませんよ。しかもほとんどの方が確固たるアリバイがあり、残りの三人は年端も行かない女の子たちですよ。そんな子たちに盗みに入られるような緩い警備なんですか?」

と話す。

プルムは

(私は年端もいかないってほど若くは無いですけど・・・・・・。)

と思いクインは

(僕は男なのに・・・・・・。)

と思っていた。

バジムは反論できなくなり、手下を数名、カイルたちの見張りに着けて一旦解散することになった。

バジムは手下に命じてカイルたちの事を調べさせる。

 しばらくすると手下の一人がカイルたちとドロシーの繋がりをバジムに報告する。

バジムはにやりと笑って警備兵にドロシーのアジトと周辺、ドロシーの手下たちを調べさせる。

しかし何も出てこない。

それでもカイルたちが犯人だと確信しているバジムは凶行に出る。

 深夜皆が寝静まったころ、町の宿屋にバジムと手下三人が近づく。

バジムが手下に合図をすると手下たちは宿屋の周りに油を撒き始める。

油が撒き終わるとバジムは手に持っていた松明の火を近づけて油に火を放つ。

すると油から炎が上がり一気に燃え出す。

猛吹雪ブリザード!」

宿屋の周りを猛吹雪が包み込み火が消える。

バジムが声のした方を見るとエレオノーラが立っている。

バジムが

「何故・・・・・・?」

と問うと、物陰から次々と人影が現れる。

カイル遊撃隊、ドロシー、ゲオルク、オードラン夫妻、警備兵たち、その他のバジムの被害者たち・・・・・・。

年長の警備兵が言う。

「バジムさん、見ましたよ。これはれっきとした放火です。言い逃れはできませんよ。」

「何で・・・・・・。」

と問うバジムに年長の警備兵が答える。

「カイルさんたちが教えてくれたんですよ。バジムさんが今夜襲撃に来るって。」

セザール・オードランが言う。

「こうやって俺の酒場にも火をつけやがったんだな!?」

バジムは

「知らん!」

と白を切るが警備兵の一人が言う。

「当時の上司が賄賂をもらっていたようで『調べるな』と命令されたんで調べなかったんですが、建物の外周に油を撒くやり方はあの時の手口と全く一緒なんですよ。実はこんなこともあろうかと当時の油の中れた土を少しだけこっそり持ち帰ってるんです。今回撒かれた油と成分が一致すれば当時の罪も立証できるかもしれませんね。」

バジムはそれでも白を切り逃げようとする。

年長の警備兵が、

「無駄ですよ。放火は重罪です。あんたは罪を洗いざらい吐いて楽に死ぬか、拷問を受けて苦しんで死ぬかのどちらかしか選択肢は無いんだ。まぁ洗いざらい吐いて罪を償うなら多少の減刑はあるかもしれませんがね。」

と言うと配下の警備兵に指示を出してバジムを捕らえさせる。

年長の警備兵がカイルに話しかける。

「カイルさん、ありがとうございました。警備兵の中にも賄賂を受け取ってバジムの罪を見逃していた者がいるなんてお恥ずかしい限りです。」

カイルは

「過ぎた事は仕方ないです。それよりも今後同じことが無い様にするのと、被害者の方々に出来るだけ以前の生活を取り戻せるようにしてやって下さい。」

と答える。

年長の警備兵は

「分かりました。最善を尽くします。」

と言ってバジムを連行していった。

カイルは宿屋の主人に

「すみません。火を着けたという決定的な証拠を得るために実際に火をつけさせてしまって・・・・・・。」

と謝る。

宿屋の主人は

「まぁエレオノーラさんが直ぐに消してくれたから外側がほんのちょっと焦げただけですから大丈夫ですよ。これで町が平和になるんなら安いもんですよ。それより流石はエレオノーラさんだ。宿の外周の火を一瞬で消してめてくれたんだから。流石は当代随一の大魔導士だ。魔力も高く頭も良くてその上絶世の美女と言うんだから人類史上最高の人物だ。」

と褒めちぎる。

エレオノーラは

「ご主人、褒め過ぎですよ・・・・・・。」

と流石のエレオノーラも珍しく照れている。

ドロシーはゲオルクに寂しそうに語りかける。

「良かったな。これで元の食料品店の店主に戻れるぞ。」

ゲオルクは首を横に振る。

「私は今、カイル村の建設に生きがいを感じてるんです。これからもカイルさんと村長の為に頑張りますからお側に置いて下さい。」

とドロシーに頼む。

ドロシーは

「ありがとう。頼りにしているよ。」

と答える。

 翌日、バジムが罪を洗いざらい白状し、バジムから没収した資産を換金して被害者たちに支払いが行われた。

オードラン夫妻は元の場所でまた酒場を始めるという事だった。

バジム・カバエフ

48歳 身長165cm

恰幅の良いちょび髭のおっさん。ノンブリルの町の豪商。色々な店舗をいくつも持っている。

商人ギルドのギルド長も務めるが、これは自分が儲け易いように自分の店舗や協力的な店舗に便宜を図る為に金で買った地位。欲が深く自分の利益しか考えていない。

疾風愚連隊というゴロツキ集団を手下にして悪事の実行犯として利用する。

一年ほど前からノンブリルの町の中央通りの一等地に一大商業施設を造ろうと画策。

その為に邪魔な店舗は強引に、時には犯罪を犯しながら権利を奪っていく。

結局カイルの策にはまり逮捕。計画は頓挫、地位も私財も全部失う。


セザール・オードラン

36歳 身長171cm

ノンブリルの町の中央通りで奥さんと一緒に父から継いだ酒場を営んでいたが、バジムの策によって店も土地の権利も失い借金を負わされる。

カイルたちの活躍で店を取り戻すことができた。


宿屋の主人

53歳 身長164cm

ノンブリルの町の宿屋の主人。

エレオノーラのアリバイ作りに協力して一晩中、戦騎(将棋やチェスの様な盤上のゲーム)を打っていた。戦績は零勝全敗。エレオノーラの戦騎の強さに惚れ込んでか、やたらとエレオノーラを褒めちぎって持ち上げる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ