-第14話 恋愛思想-
地下迷宮の探索から帰った後、次の日を休日にしてその次の日にドラゴン討伐に出かけることにしたカイル遊撃隊一行。
その休日の朝、レティシアがカイルに声をかける。
「カイル、ちょっといいか?」
カイルが
「どうした?」
と聞くとレティシアが
「ゴーレムとの戦いでクレアの剣が折れただろ。それでクレアの剣を買いに行くんだが、お前にも付き合って欲しいんだ。」
と答える。
カイルは
「俺も記憶戻ってないし、剣の事なんてあんまり分からないぞ?」
と言うがレティシアは
「それでも格闘家の私よりは分かってると思う。」
と言うと下を向いて続ける。
「そもそもクレアと一緒に王都に剣を買いに行った時に、私がもっとちゃんと選んであげられればこんなことにはならなかったと思うし・・・・・・。」
それを聞いてカイルは
「レティシアのせいじゃないよ。俺の剣は“エクスカリバー”とかいう聖剣らしいから折れなかったが、グスタフだって『斧が刃こぼれした』って嘆いてたぞ。」
と励ます。
レティシアはうつむいたまま
「ありがとう。」
と返す。
カイルは
「俺で良いなら付き合うから一緒に行こう!」
と言って、一緒に行くことにする。
町の広場に座るカイルとレティシア。
カイルが問う。
「クレアはどうしたんだ?そもそも宿屋から一緒に来ればよかったんじゃないか?」
それに対してレティシアが答える。
「なんでも用事があるとかで、ここで待ってる様に言われたんだ。」
「数日前に始めて来て知り合いも居ないだろうこの町で一人で用事?一体なんだ?」
とカイルが疑問を口にする。
レティシアも
「さぁ・・・・・・?」
と心当たりはない様子。
すると一人の男が近づてくる。
男はレティシアの前に来ると
「これ、貴女に渡してくれって預かったんです。」
と言って紙を渡し、
「それじゃ。」
と言って去って行く。
レティシアが紙を開いてみると
『お姉さまへ カイル様と二人っきりのデート、楽しんで下さいね♡ クレア』
と書いてある。
レティシアが
「クレアのやつ~!」
と言うと、カイルが
「どうした?クレアからか?」
と聞く。
レティシアは慌てて紙を隠し
「そ、そうなんだ!まだ時間がかかりそうだから、先に市場に行って食事したり買い物したりしててくれって。」
と取り繕う。
カイルが
「そうか。クレア大丈夫かなぁ?」
と言うとレティシアは
「大丈夫だろ。小娘とはいえ、あいつももう大人だ。町中なんだしそんなに心配いらないだろ。」
と言う。
カイルは
「まぁ、レティシアがそう言うなら・・・・・・。じゃあ行こうか。」
と言ってカイルとレティシアは市場へ向かう。
「お前も意外とおせっかいなところがあるんだな。」
とグスタフ。
クレアは
「私だってカイル様の事は好きだけど、お姉さまの方が似合ってると思うし、お姉さまには幸せになってほしいし。」
と言う。
グスタフは
「で、俺に剣を買いに行くのを付き合ってほしいってわけか。」
と言う。
クレアが
「そうです!武器の事なら、やっぱり普段から武器を使ってるグスタフさんが一番詳しそうだし、私ひとりじゃ小娘だと侮られて安物を高く売りつけられちゃうかもしれないし。」
と言うとグスタフは
「そうだな。俺も丁度武器屋に行こうと思ってたところだからいいぜ!」
と言って一緒に市場にある武器屋へ向かう。
武器へ着くとグスタフは
「俺は斧の刃こぼれを治せるかどうか聞いてくる。」
と言って店の隣にある鍛冶工房へ行く。
クレアは色々と剣を見ながら店主に武器の説明を聞く。
その内、一本の剣が目に留まって、その剣についても聞いてみる。
店主は
「それは、ドラゴンキラーだね。普通に使っても強いが、ドラゴン系の魔物には攻撃力が倍増する魔力が込められているんだ。」
と説明する。
それを聞いたクレアは
(これなら・・・・・・!)
とほくそ笑む。
そこへグスタフが戻ってくる。
クレアが
「斧、どうでした?」
とグスタフは聞くと
「今日中に何とかしてくれるそうだ。新しいの買っても良いんだが、明日はドラゴンが相手だから使い慣れてる武器の方が良いからな。」
と答える。
クレアは
「良かったですね!」
と答えると続けて
「これにしようと思うんですけど、どう思います?」
と言ってドラゴンキラーを見せる。
グスタフは剣を手に取ってよく見てみる。
「ほう。重過ぎず軽過ぎず、造りも頑丈だし、刃の広さや厚さから考えて斬撃にも刺突にも向いている。こいつは良い剣だな。」
グスタフの評価を聞いてクレアが
「本当ですか!?じゃあこれにします!」
と言うとグスタフが
「サナトスフォレストと地下迷宮と大変な所を連れまわしちまったのに頑張ったからご褒美に俺が買ってやるよ。」
と言うとクレアは
「やったぁ!!」
と大喜び。
武器屋の主人は
「サナトスフォレストと地下迷宮に行ったんですか!?よく無事に帰ってこれましたね。」
と驚く。
グスタフは自慢気に
「どっちもお宝も手に入れたぜ!」
と言うと武器屋の主人は
「へぇ~。」
と心底感心して言葉も出ない。
グスタフが
「で、この剣はいくらだ?」
と言うと武器屋の主人は
「金貨七枚になります。」
と答える。
グスタフは
「結構するな。まぁ物は良さそうだしご褒美だからな!」
と言って金貨七枚を主人に渡す。
その頃、レティシアはすっかりカイルとのデートを楽しんでいた。
「さっきの食堂、旨かったな!」
とレティシアが言うとカイルは
「ああ。まだ何日か滞在することになるだろうから、今度は皆も連れて行こう。」
と言う。
レティシアはせっかく二人きりなのに『皆』という言葉が出てきたのに不服な様子。
レティシアは一軒の店に目を付け、
「カイル、あそこの装飾屋に行こう!」
と言ってカイルの手を取って引っ張る。
カイルは
(装飾屋?ああ、アクセサリーショップみたいなもんか。)
と引っ張られながら付いて行く。
店に着くとレティシアはネックレスやブレスレット等を色々と物色している。
それを見てカイルは
(こうしてみてるとレティシアも普通の女の子だな。)
と思いつつ
(レティシアは俺に好意を持ってくれているみたいだが、それは“佐藤和夫”としての俺ではなく“カイル”に向けての物なんだろうな・・・・・・。あまり深入りしても傷つくことになりそうだし深入りしない様にしておこう。)
と思っていた。
レティシアは青い宝石の付いたネックレスを持ってきて、
「どうだ?似合うかな?」
と聞いてくる。
カイルは
「似合うと思うよ。」
と答えると、レティシアは
「じゃあ、買ってくれないか?」
と恥じらいながら言う。
カイルが
「財布忘れたのか?」
と聞くとレティシアは怒りながら
「違う!」
と言うと今度は恥ずかしそうに小さめの声で
「お前にもっらた物が欲しいんだよ・・・・・・。」
と言う。
カイルは
(ここで俺が買ってやってもレティシアは『カイルが買ってくれた』って思うんだから良いよな・・・・・・?)
と思い
「分かった。俺がプレゼントするから大事にしてくれよ。」
と言って買ってやることにした。
次にレティシアが服を見たいと言って服屋へ向かう。
レティシアが色々と服を取っては宛がって
「どれが似合うかな?カイル。」
とカイルに聞く。
カイルは
「レティシアは美人だから何を着ても似合うよ。」
と言うがレティシアは
「そういう事を聞きたいんじゃない!」
と不貞腐れる。
今のカイルの中身は女性に縁がなかった四十二歳の男である。気の利いた返答などできる筈もない。
レティシアは
「ちょっと試着してくる。」
と言って試着室へ。
中で着替えようと服を脱ぎ、自分の下着姿を鏡越しに眺めながら思った。
(あの時、カイルは私のこんな筋肉質な女性らしくない身体を見て綺麗だと言ってくれた・・・・・・。以前のカイルは私の身体なんて性処理のための肉穴だとしか思っていなかったのに・・・・・・。このままカイルの記憶が戻らなければ良いのに・・・・・・。)
「どうだ?レティシア。」
外からカイルの声が聞こえる。
気が付くとレティシアは涙を流していた。
慌てて涙を拭きながら
「ちょっとまだ決めかねてるんだ。」
と返答する。
ちょっとして試着室を出てきたレティシアは落ち込んだ様子だった。
カイルは
「どうした?何かあったのか?」
と聞くがレティシアは
「いや、何でもない。ちょっと服を買う気が失せちゃって・・・・・・。」
と返す。
店を出た所でカイルが
「何かあるなら何でも相談してくれよ。出来る限り力になるから。」
とレティシアに声をかける。
レティシアは
「何でもない。大丈夫だ。」
と言うと一転して明るい表情で
「そうだ!矢場に行こう!私たち前衛は身体を動かしてなんぼだろ!?」
とカイルの手を引く。
カイルは
(ヤバ?何だヤバい所?)
と思っていた。
店に着くとカイルは
(ああ、時代劇で見た事ある。矢を的に当てて遊ぶ所だ。矢場っていうのか。やっぱり文明が発展してないとこういう遊びになるんだな。)
と思いながら入っていく。
「やった!真ん中に当たった!」
とレティシアが喜ぶ。
弓になじみのないカイルの成績は散々だったが、レティシアは結構上手かった。
「レティシア、結構上手いな。」
とカイルが言うと
「今から弓使いに転職しようかな!」
と冗談で返す。
カイルは
(さっきは落ち込んでたみたいだったが、いつものレティシアに戻ったみたいだし、良かった。)
と思った。
散々遊んで夕方になると二人は宿へ戻った。
夜、皆が宿に屋の部屋に戻って就寝準備をしている時、エレオノーラがレティシアを連れて部屋を出る。
クレアがプルムに話しかける。
「プルムさんは今日は何してたんですか?」
プルムが答える。
「エレオノーラさんと図書館に行ってたよ。」
クレアが
「一日ずっと本読んでたんですか?」
と聞くとプルムは
「そう。」
と答える。
クレアは
「お二人はどんな本を読むんですか?」
と聞く。
プルムが
「色々読むけど、今日は伝記読んだわ。ミストラル王国建国の王、ミストラード一世の伝記ね。エレオノーラさんは魔法学の本を読んでたわね。」
と言うとクレアは
「だからお二人は頭良いんですね!私だったら三ページも読んだら飽きて外に出ちゃいますよ!」
と笑う。
プルムが
「人にはそれぞれ好き嫌い、得手不得手があるからね。得意な部分を伸ばしていけば良いと思うよ。」
と言うとクレアは
「そうですよね!」
と元気に答える。
一方外へ出たレティシアとエレオノーラ。
宿屋の入り口の外へ出た所でエレオノーラが言う。
「レティシア。お前、今日カイルとデートしたんだって?」
レティシアはにやけながら
「そうなんだ。どうした?嫉妬か?」
と言うとエレオノーラは恥ずかしそうに
「そういう気持ちが無いわけじゃないが、そういう事じゃない。」
と言うと真剣な表情で続ける。
「いいか、今のカイルは仮初めの物だ。記憶が戻ってしまえば元の鬼畜男に戻るんだ。それでも愛せるのか?」
とエレオノーラが問うとレティシアは悲しそうな表情をして
「それは・・・・・・。」
と言葉を詰まらせる。
エレオノーラは
「確かに今のカイルには惹かれるものがある。周りの人間に対する気遣いや優しさ。戦闘力頼みじゃない機転やリーダーシップ。以前のカイルには無かったものだ。しかし、それも元のカイルに戻ったら無くなるんだ。深入りするべきじゃない。」
と話す。
レティシアは
「エレオノーラはだから自制してるって事か?」
と聞く。
エレオノーラが
「そうだ。プルムだってそうだ。」
と答えるとレティシアは俯いて
「そうか・・・・・・。」
と呟く。
エレオノーラはレティシアの両肩を掴み
「傷つくのはお前なんだ!お前が傷つくのを見たくはない・・・・・・。」
と泣きそうな顔をする。
レティシアは
「そうだな・・・・・・分かった、ありがとう。」
と言うと二人で部屋に戻った。
翌朝、一行は馬車を引き、南東にあるドラゴンの住む岩山へ向かう。
途中で野営をして出発から二日後の朝に岩山のふもとに着いた。
近くの木に馬車をロープでつなぐとカイルが言う。
「クレアとクインはここで馬車の見張りだ。」
クレアは
「ええーっ!?何でですか?」
とカイルに問う。
カイルが
「まだ二人にはドラゴンの相手は荷が重い。二人のHPじゃドラゴンの一撃で死にかねないからな。」
と答えるとクレアは
「そんな事言わないで連れてって下さい!足手まといにならない様に頑張りますから!」
と言うがカイルは
「ダメだ。それに馬車の見張りも必要な仕事だ。」
と取り合わない。
「そんな・・・・・・。」
と落ち込んでるクレアを尻目にカイルたちは岩山へ登っていく。
クレアはクインに
「私たちも行くよ!」
と言うがクインは
「え?でも・・・・・・。」
と煮え切らない様子。
クレアは
「いつまでも足手まといだと思われてて良いの!?」
とクインを焚きつける。
クインは
「でも僕たちの力じゃドラゴンなんて・・・・・・。」
と消極的。
クレアは
「大丈夫、私にはこれがある!」
と言って剣を見せる。
クインが
「それは?」
と聞くとクレアは
「これは“ドラゴンキラー”。ドラゴンに対して攻撃力が倍増されるの!」
と自信満々に言う。
クインは
「僕の攻撃力アップの魔法とその剣があればドラゴンにも大ダメージを与えられるかも・・・・・・。」
と乗り気になってくる。
クレアは
「でしょ!?だから私たちも戦えるってことを皆に見てもらいましょ!」
と説得する。
クインが
「確かに、サナトスフォレストでも地下迷宮でも良いとこ無しであまり役に立ってませんからね・・・・・・特にクレアさんは。」
と言うとクレアは
「うるさいわね!とにかく行くわよ!あんたが行かないなら私ひとりでも行くから!」
と言って歩き出す。
クインは
「一人でなんて無茶ですよ。僕も行きます!」
と言ってクレアに付いて行く。




