-第12話 地下迷宮-
ノンブリルの町の宿屋の一階にある食堂で次の行動を打ち合わせるカイル遊撃隊一行。
カイルが皆に問う。
「次はどうする?」
・ドラゴンの牙
南の岩山にグレートドラゴン
・光の護符
・緋の宝珠
・黄金の実
・破魔の短剣
ノンブリルの町の北西にある地下迷宮の最奥にあるらしい
・賢者の石
大陸南部を中心に回っている行商人が持っていた
・銀の聖杯
・ユニコーンの角
・魔除けの指輪
・照魔鏡
以前、マジーアの町に住んでいた“モーリッツ”という魔導士が持っていたが、数年前に町を出て消息不明
グスタフが
「先に地下迷宮だな。」
と言うと皆納得する。
カイルが
「じゃあ、次は地下迷宮の破魔の短剣を取りに行こう。プルムのホーリーライトがあるが、念の為に松明を一人一本持っていこう。」
と言うと、クインが
「プルムさんにもしもの事があったらって事ですか?」
と聞く。
それに対してレティシアが
「そうじゃないよ。プルムだって攻撃魔法も使えるし充分強い。パーティーが分断されたりはぐれてしまったりした時って事だよ。」
と言うと、続けてエレオノーラが
「転移の罠が仕掛けてあったり、壁や床が崩れたりするかもしれないからな。」
と言う。
それを聞いてクインもクレアも納得する。
カイルが
「それじゃ、今日中に準備を整えて、明日の朝一で迷宮へ向かおう。」
と言うと皆それぞれ地下迷宮探索の準備を始める。
翌朝、宿屋の前に皆が集合し地下迷宮へ向かう。
遠目からでは分かりにくいが、岩で囲まれた中に地下へ向かう階段がある。
カイルは
「よし、行くぞ!」
と言って階段を降りていく。
プルムが聖なる光を唱えるとパーティーの周囲を光が照らす。
壁も床も天井もしっかりしている。
エレオノーラが
「これは天然の洞窟じゃなく、魔物が作った人工の迷宮だな。まぁ“人”ではないが。」
と言うと、プルムが
「じゃあ、罠とかしかけられる可能性も充分あるってことですよね。」
と警戒する。
グスタフが
「そうだな。慎重に行かないとな。」
と言う。
カイルが
「前衛はグスタフとレティシア、頼む。」
と言うと
「任せとけ!」
「分かった!」
とグスタフとレティシアが前に出る。
続けてカイルが
「プルムとエレオノーラは後衛を頼む。俺とクレアとクインは中衛だ。」
と言うとクインは
「僕は戦闘向きじゃないし後衛の方が・・・・・・。」
と言いかけるが、カイルは
「後ろから敵に襲われることだってあるかもしれないんだぞ。中衛が一番安全なんだ。」
と言う。
それを聞いてクインも納得する。
カイルは更にクインに
「あとクインにはマッパーを頼む。」
と言う。
クインは
「わ、分かりました。迷宮の地図を書いていけばいいんですよね・・・・・・。」
と言いながら
(責任重大だな・・・・・・。)
と思って戸惑っていた。
そんな様子を見ていたカイルが
「どうした?不満か?」
と聞くと、クインは慌てて
「い、いえ、大丈夫です。新人の仕事ですよね。」
と言う。
それに対してカイルが
「そうじゃない。信頼してるから頼んでるんだ。」
と言うとクインは表情を変え真剣な表情で
「はい!分かりました!」
と答える。
その様子を見ていたエレオノーラがカイルにだけ聞こえる様に近づいてこっそり話す。
「カイル、人の使い方、上手くなったな。」
カイルは
「そうか?でも信頼してるのは本当の事だし・・・・・・。」
と言う。
エレオノーラは
「だとしてもだ。記憶を失う前とは雲泥の差だよ。」
と言って、後衛に戻る。
カイルは
(元のカイルってやつはどんな奴だったんだ?まぁ今の俺を評価してくれてるみたいだし良いか・・・・・・。)
と思っていた。
しばらく進んでいくと敵が現れる。
レティシアが
「アンデッドコボルトだ!」
と言うと続けてグスタフが
「俺たち二人で片づけるからお前たちは下がってろ!」
と言って、二人でアンデッドコボルト五体を一瞬で倒す。
プルムが
「おそらく、サナトスフォレストのコボルトの死体を流用したんですね。」
と言うとクレアが
「こういうのを効率が良いっていうのかもしれないけど、何か気分悪いですね!」
と死体の流用に憤りを見せる。
その後もゴブリン、オーク、スケルトン等と遭遇するも難なく突破。
そこでクインが言う。
「これで地下一階は全部踏破しました。」
それを聞いてカイルは
「よし!じゃあ二階へ降りよう。」
地下二階への階段を降りる一行。
階段を降りきった所にドアがある。
中へ入ると後ろからガーゴイルが三匹、襲い掛かってきた。
後衛の二人が先制攻撃を受けるも二人とも見事にかわす。
それを見たクレアとクインは
「凄い!」
と感嘆する。
プルムはフレイルでガーゴイル一匹を殴りつけ、エレオノーラは炎の波で一斉に焼き払う。
あっという間にガーゴイル三匹を倒した二人にクインは
「プルムさんもエレオノーラさんも強いんですね・・・・・・。」
とクレアと一緒に驚きと感嘆の表情。
プルムは
「私たちだって魔王を倒したカイル遊撃隊のメンバーなんだからね!」
と笑顔で答え、エレオノーラは
「私たちが弱かったら魔王の元まで辿り着くこともできなかったさ。」
と自慢気な表情。
カイルが
「クレアとクインも精進するんだな。」
と言っていると、後ろからレティシアの声がする。
「こっちに宝箱があるぞ!」
見ると部屋にポツンと宝箱が置いてある。
グスタフが
「ミミック(宝箱に化ける魔物)じゃ無いのか?」
と言うとカイルが
「クイン、鑑定してくれ。」
と言う。
クインは鑑定スキルで宝箱を鑑定する。
「ミミックじゃないです。普通の宝箱です。ただ、僕の鑑定スキルじゃ罠は見破れないんです・・・・・・。」
とクインは申し訳なさそうにしている。
カイルは
「仕方ない。目的は破魔の短剣だし、最奥にあるってことだからこんな浅い階層にあるとは思えない。どんな罠かも分からないに開けるわけにもいかないから、このまま先へ進もう。」
と言って先へ進む。
クレアはしばらく勿体なさそうに見ているがカイルに促されて諦める。
地下二階ではゴブリンの上位種であるホブゴブリンやヘルハウンド、さまよう炎の様なウィル・オー・ウィスプ難なく突破。地下三階も遭遇したトロール、オーガ、アンデッドの魔法使いであるリッチ、リザードマン、ミイラの魔物であるマミーを蹴散らしながら難なく進んでいく。
すると通路の途中に下へ降りる階段がある。
グスタフが
「どうする?」
とカイルに聞く。
「この先何があるか分からないし、無駄な消耗を避けて下へ降りよう。」
とカイルが言うと皆了承して地下四階へ降りていく。
階段を降りたところでクインが言う。
「噂ではここが最下層のようです。これより下の階に降りたという話は聞かないですし、ノンブリルの町の冒険者ギルドに所属する冒険者パーティーではこの階を探索する力はなく、この階を踏破した者はいないという事です。」
それを聞いてカイルは
「なるほど。下の階に降りる毎に魔物も強くなっているし、普通の冒険者じゃこの階は荷が重いって事か・・・・・・。」
とつぶやく。
グスタフは
「なぁに!俺たちは並みの冒険者じゃないからな!とっとと目的のお宝を頂いて帰ろうぜ!」
と意気揚々。
カイルも
「よし!行くぞ!」
と気合を入れる。
しばらく歩くと魔物に遭遇する。
グスタフが
「グール三匹と・・・・・・後ろにレイスが二匹いるぞ!」
と言うと、クレアは
「グール?レイス?」
と困惑する。
エレオノーラが
「プルム!」
と言うとプルムは
「聖なる流星群」
と呪文を唱える。
無数の光弾がグールとレイスに降り注ぐ。
グールは倒れて動かなくなりレイスは消え去った。
そこでエレオノーラがクレアに説明する。
「グールってのは・・・・・・そうだな・・・・・・厳密には違うが、ゾンビの上位種、レイスってのは死霊だ。プルムの使う僧侶系の光属性魔法は別名神聖属性魔法と言われていて、アンデッドに効果覿面なんだ。それでプルムに一掃してもらったってわけだ。」
「なるほど!そうなんですね!」
とクレアは感心している。
と同時にカイルも
(そうなんだ。分かりやすい説明をありがとう、エレオノーラ。)
と思っていた。
更に奥へ進んでいくとドアがある。
クインが
「地図を見る限り、おそらくですがここが最奥だと思われます。ドアの向こうが通路になってれば別ですが・・・・・・。」
と言う。
カイルは
「どちらにしても行くしかない!」
と言ってドアを開ける。
中へ入ると一匹の魔物が待ち構えていた。
頭は大きな角の生えた牛、上半身は人間、下半身は牛の様な足の二足歩行、ミノタウロスだ。
「我はミノタウロスのガンザス。人間どもよ、よくここまで辿り着いたな。」
カイルは
(如何にも魔物とはいえ、人の言葉を話す、人型の魔物を攻撃しなきゃいけないのか・・・・・・。)
と思いながら
「俺はカイル。破魔の短剣を頂きに来た。直に渡してくれれば危害は加えない。」
と言うがガンザスは
「欲しければ力ずくで奪うがいい!」
と言って巨大な斧を振り下ろす。
間一髪、剣で受けたカイルだが、あまりの威力に壁まで吹き飛ばされる。
「ぐあっ!」
「カイル!」
「カイルさん!」
「大丈夫か!?」
パーティーメンバーから一斉に声がかかる。
カイルは
「何とか大丈夫だが、凄い威力だ・・・・・・。クレアとクインは下がってろ。お前たちのHPじゃ一撃で殺されるぞ。」
とクレアとクインを戦闘から外す。
クレアとクインは恐ろしさのあまり素直に下がる。
グスタフが
「よし!斧同士、俺が相手だ!」
とガンザスに攻撃を仕掛ける。
しかしグスタフの攻撃は全てガンザスの斧で弾かれる。
ガン、ガン、ガンと重い金属同士がぶつかる音が響く。
すると突然ガンザスが斧で後方を薙ぎ払う。
後ろから近づいていたレティシアがジャンプで斧を躱す。
「ダメだ!隙が無い!」
レティシアは一旦離れる。
「ならば魔法で!」
とエレオノーラが呪文を唱える。
「炎の槍!」
炎の槍が一直線にガンザス目掛けて飛んでいくがガンザスは斧の刃の側面を盾にして防ぐ。
エレオノーラは
「くっ!これならどうだ!」
と次の呪文を唱える。
「炎の嵐!」
ガンザスの足元から炎の渦が巻き上がる。
しかし、ガンザスはこれも瞬時に後ろへ飛び退き躱す。
レティシアが
「攻撃力といい防御力といい、桁外れだな。」
と焦っているとカイルが
「グスタフ、レティシア、エレオノーラ、一分時間を稼いでくれ!」
と叫ぶ。
グスタフは
「何か考えがあるんだな!よぉし、一分くらい何とかしてやるぜ!」
と猛攻撃をかける。
それに呼応してレティシアとエレオノーラも間髪入れずに攻撃をかける。
そして約一分後・・・・・・
「聖なる光・最大出力!」
プルムが呪文を唱えると聖なる光の光が部屋中を真っ白にするほど強烈に光る。
更に三十秒もすると光が一気に消え真っ暗になる。
目をくらますほどの光から急激に暗闇になり部屋の中の全員の視力を奪う。
二人を除いて・・・・・・。
ガンザスはわずかな光へ向かって攻撃を仕掛けようと近づく。
しかし、胸と脚に激痛を感じ跪く。
暗闇に目が慣れて、皆が段々と視力を取り戻す。
ガンザスの胸にはカイルの剣が深々と刺さり、脚は後ろから、横に切り裂かれ後ろには剣を構えたクレアが立っている。
ガンザスは
「一体・・・・・・何が起こった・・・・・・?」
と状況が呑み込めていない。
それはグスタフたちも同じで、カイルが説明する。
「一分時間を稼いでいる間に先ず部屋の明かりの松明を消して回った。その後、俺とクレアは目を瞑って更に腕で目を覆って暗闇に目を慣らしていた。一分経ったところでプルムに聖なる光の明るさを最大にしてもらって目をくらませた。更にそれを一気に消して、明るい状態に慣れ始めた状態から暗闇にすることで更に目をくらませ暗闇に慣れる時間を遅らせたんだ。何も見えずに闇雲に斧を振り回されては近づけないからクインに松明を持たせておいた。ガンザスは少し目が慣れ始めたところで松明の明かりに向かって攻撃しようと近づいた。そこへ暗闇に目を慣らしておいた俺が胸へ剣を突き刺し、クレアが後ろへ回って脚を切り裂いた。もうまともに動けまい。」
と言うとカイルはプルムにもう一度、普通に聖なる光をつけるように言った。
ガンザスは
「小賢しい真似を・・・・・・しかし俺の負けだ・・・・・・だが、破魔の短剣は簡単には手に入らんぞ・・・・・・。」
と言うとカイルは
「どういうことだ?」
と問う。
しかしガンザスは
「自分で確かめてみるんだな・・・・・・。」
と言って、倒れてこと切れた。
部屋の奥を見ると宝箱がある。
カイルは
「上の階で見たやつと違うな・・・・・・。これに破魔の短剣が入っているって事か・・・・・・?」
と言ってクインに鑑定を頼む。
クインは
「ミミックじゃないです。どうやら魔王の宝箱という特別に魔王が作ったものの様です。」
と言う。
エレオノーラは
「特別ってことはやはりこれに破魔の短剣が入っている様だな。」
と言い、グスタフは
「さっきミノタウロスの野郎が簡単には手に入らんと言っていたが、やはり罠が・・・・・・?」
と言う。
カイルは
「一旦部屋を出て考えよう。」
と言って皆を部屋の外に出し、ドアを閉める。
しかし、そこにカイルはいない。
グスタフはそれに気づくと
「あいつ!」
と言ってドアを開ける。
中に入るとカイルが宝箱の前で蹲っている。
グスタフが
「やっぱり俺たちを部屋の外に出して罠の被害を自分だけで済ませようとしたな!」
と言うと、カイルは
「かかってる・・・・・・。」
と言う。
グスタフが
「どうした!?罠にかかってるのか!?」
と言うとカイルは
「違う・・・・・・。鍵が掛かってる。開かないんだ・・・・・・。」
と言う。
レティシアがガンザスの死体を探り、他のメンバーは部屋の中を探すが鍵らしきものは見当たらない。
カイルは
「これが“簡単には手に入らない”という言葉の真意か・・・・・・。」
とつぶやく。
グスタフは巨大な戦斧で叩き割ろうとするがびくともしない。
カイルは
(どうする・・・・・・?)
と考える。
アンデッドコボルト
コボルトの死体を利用したアンデッドの魔物。
能力的には通常のコボルトと大差ない。
ガーゴイル
平均身長150cm。
背中に蝙蝠の様な翼の生えた小悪魔。
翼を除けば少し大きめ肌の色がグレーのゴブリンといった感じだが攻撃力とHPが高く飛べる事と知能がゴブリンより高いのでその点でゴブリンより数段格上。
ミミック
宝箱に擬態した魔物。
宝箱だと思って近づいた人間を捕食する。
手足は無いので噛みつきか体当たりしかできない。
しかし攻撃力はそこそこあるので油断はできない。
グール
ゾンビと同じく生きる死体。
その為身長は人間と同じ。
ゾンビとの違いは男女が区別されていて、男はグール、女はグーラー。
知性もあり言葉も話せる。
グールは如何にも魔物だが、グーラーは美女が多く、男を誘惑して油断した隙に食べる。
毒と麻痺の特殊攻撃ができる。
レイス
マントを纏った人の姿をした白い霧のような姿。
見た目に反して一応、物理攻撃も通用するが浮遊しているので攻撃は当てにくい。
ガンザス
ミノタウロス。
身長は約2m。
「ガンザス」は固有名詞、ミノタウロスは種族名。
頭と下半身が牛、でそれ以外は人間という姿をしている。
魔王ルシファーの配下で破魔の短剣を守っている。
武器は両刃の大斧。




